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第五章

王宮への道中が、さながらパレードなんですが……

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(side ローズ)


 晩餐会当日。


 わたしたち聖女候補は、早朝から事務局の聖女様控え室に集合して、王宮お抱えのヘアメイクさんたちに、支度を整えて頂いていた。

 いつもより、鮮やかな色合いのかっちりメイクを施され、結い上げられた髪には、ドレスに合わせた白い薔薇の髪飾り。

 派手な髪色故に、普段はナチュラルメイクを心がけているわたしだけど、本日ばかりは、しっかりメイク。

 プロの手で、幾重にもファンデやパウダーを重ねられれば、気にしていたソバカスは、隠れるものらしい!
 髪に合わせられた赤い紅も、見せられた時、『キツイ印象になるかも?』と不安になったけど、ひいた瞬間パッと顔が華やいで、グッと高貴な印象になった。

 鏡に映る自分は、もはや別人だわ。
 メイクの力って凄い!

 それにしても、候補一人につき三人がかりで支度を整え、そのうち一人は専属で、晩餐会からその後のパーティーまでついてくれるというのだから、贅沢だ。

 一気に上位貴族の仲間入りしたようで、田舎出身下位貴族のわたしなどは、気後れしてしまうわけだけど、他の候補の皆さんの反応は様々。

 プリシラさんやマデリーンさんは、流石三回目。
 落ち着いた雰囲気で、出発の合図を待っている。

 目を輝かせて、ドレス姿を鏡に写し、うっとりしているのは、リリアさん。
 ふんわりとしたオーガンジーが重ねられたドレスは、華奢な彼女の儚げで愛らしい魅力を引き立てていた。

 落ち着かない様子で、そわそわと、部屋の隅で小さくなっているタチアナさんは、相変わらず小動物のようで可愛らしい。
 
 全員の準備が済んだ頃、部屋にミゲル補佐がやってきて、いよいよ出発になるみたい。

 因みに、ミゲル補佐は見送りだけで、本日は聖堂でお留守番なのですって。
 神官長より、ミゲル補佐がついてきてくれた方が、はっきり言って心強いんだけど、あの神官長にお留守番が務まるわけが無いから、仕方ないんだろうな。

 部屋の外では、数人の聖騎士さんが配置についていた。

 本日、聖女候補を担当してくれるのは、ライアンさんを筆頭に、全部で五名。
 聖女候補が、パーティーの間、バラけてしまっても、最低一人は配置されてるようになっているみたい。

 いわゆる貴族出身組の皆さんで、通常勤務では外している肩章を取り付け、勲章持ちの人は左胸に誇らしく飾り、儀礼用の宝玉をあしらった大剣を備えた姿は、うっとりするほどかっこいい。

 因みに、一際目を引いているのは、ジャンカルロさんで、正門に向かって通る道すがら、遠巻きに見守っている女性神官さんや見習いの女の子たちから、ため息やら悲鳴やらが聞こえてきた。

 正門に着くと、広場には大勢の観衆が詰めかけていた。

 これは……緊張するっ‼︎

 聖女様のご公務に随行して慣れていらっしゃる、三年目のお二人は、余裕の表情で進んでいくけれど、タチアナさん、リリアさん、わたしの三人は、カチコチだ。

 出来るだけ柔和に見えそうな笑みを唇に浮かべて、前進を始めた時、広場の警護をしていた聖騎士の中に、ラルフさんとニコさんの姿を見つけた。

 二人は、聖堂でお留守番組ね。

 ニコさんは、にっこり微笑んでくれて、ラルフさんに至っては、チャーミングなウィンクの後、何か口を動かしている。

 ええと?
 き、れ、い、です?

 っ…………‼︎

 うぁぁ!
 凄く照れる。

 頬が熱くなるけど、きっと厚く塗られたファンデのおかげで、外からは分からないよね?
 やや焦りながら笑みを返しつつ、そそくさと馬車の前へ進んだ。


 辿り着いた先は、聖女様が公務で使用されている真っ白な馬車。
 今日は、わたしを含めた候補三人が、乗り込むことになっている。

 候補たちが、それぞれ配置についたところで、一際大きな歓声が広場全体に響き渡った。
 周囲を六人の選ばれた聖騎士たちに守られ、麗しい笑顔を浮かべた聖女様が、こちらに向かって歩いてくる。

 なんというか、内情を知ってしまったせいで、憧れとか尊敬とか、若干薄れていたのだけど、こういった時の聖女様は、本当に神々しい。

 ゆったりとした足取りで進みながら、集まった観衆たちに向かって、慈愛に満ちた表情で手を振り、わたしたちの前を通過して、馬車に乗り込んだ。

 因みに、聖女様が本日乗車なさるのは、屋根のないタイプの真っ白な馬車で、紫系に統一された季節の花々と金のリボンで飾られた、儀礼用の特別仕様。

 プリシラさんとマデリーンさんは、聖女様の左右に掛け、花を添える。

 はぁ~。
 本当に綺麗!
 うっとりしちゃって、言葉も出ないです。


 聖女様が座席に座ったところで、わたしたちも馬車に乗り込んだ。
 

 聖女様の馬車の周囲には、いつものごとく、白馬に乗った六人の聖騎士。
 その前を、王国騎士の歩兵大隊が、隊列を組んで進んでいく。

 ……因みに、先頭には、王宮の楽器隊がいるらしいです。
 とっくに城壁を抜けて、先に進んでいるので、音楽とか全く聞こえないけれど。

 ついでに言うと、聖女様の馬車とわたしたちの馬車の間には、レンさんとライアンさんが騎乗して並んでいて、わたしたちの馬車の後ろには、ジャンカルロさんを含む候補付きの聖騎士が二列に並んで四人。
 その後ろに神官長の乗る馬車があり、更にその後ろに数人の聖騎士……ちょっと人数までは確認できなかったけど。

 そして、殿しんがりを、王国騎士の騎馬隊が守る。

 凄い大行列だわ。
 先頭が王宮についても、最後尾は、まだ第二の城壁を抜けてないみたいな事が、実際に起こりそう。

 テーマパークのパレードみたいなのを想像してもらうと、近いのかな?
 メインは聖女様で、着ぐるみではないけれど。


 聖堂から城壁北口までの短い区画しか、平民が聖女様のパレードを見られる場所がないので、沿道はたくさんの人が溢れて、大混雑の様相。

 汗だくで沿道警備している王国騎士さんたちには、頭が下がる思いね。

 馬車は、人が歩く速さよりもゆったりとした速度で第二の城壁へ向かい、大通りを進んでいく。

 前をいく聖女様は、オープンの馬車の上から、観衆に向かって手を振っている。

 わたしたちの馬車の窓も、当然のように大きく開け放たれていて、お手振りはしないけれど、わたしたちも沿道に向かって笑顔をふりまいている。
 三人とも、相変わらずガチガチだけど。


 ところで、先程さらりと触れたけど、進行方向を向いているわたしの視界には、先程から、栗毛の馬を駆るライアンさんと、漆黒の馬、カザハヤ君を駆って進むレンさんが収まっている。

 ライアンさんは、いかにも威厳のある風体で、聖女候補(わたしたち)の乗る馬車を、堂々と先導してくれている。
 その、逞しい体格からも、強そうなのは伝わってくるけれど、その上、胸元には勲章が幾つも飾られているから、存在感が凄い。

 では、レンさんは、と言うと、彼は聖女様警護の最後尾で、丁度配置人数が合うから、ライアンさんと横並びになったという格好のようだ。

 彼は、元々、スラリとしてかっこいい人だけど、今日は聖女様付き聖騎士の式典用の制服に身を包んでいるからか、普段にも増して素敵だわ。
 
 なんとなく日本人風だからなのかな?

 しっかりと男性的で逞しいのに、何処か楚々とした美しさがある。
 守るべき人の為なら、自分はあっさり散ってしまいそうな潔さというか、儚げな危うさを感じるような……と、これは、わたしの過去生が日本人だから、そう感じるだけかもしれないけれど。

 彼の胸には、勲章が一つだけ。
 しかも、形状からして、どうも聖堂から授かった物では無さそう。
 聖堂の勲章は、盾をかたどっているから、見た目でわかるのよね。
 レンさんの勲章の色は、山吹色だけど、山吹って、確か、現国王陛下のお色?

 まさか王宮からかな?謎だけど。

 でも、本日の彼の売りは、そこでは無いのよね。
 彼は、皆と同様、儀礼用の大剣を帯剣しているんだけど、それ意外にもう一本、カザハヤ君に剣をさげている。

 普段持っている特殊な形状の剣ではなくて、エミリオ様から授かった、赤い宝玉があしらわれた大剣だ。

 剣を授かるなんて、騎士としては最高の誉れだから、ある意味勲章よりずっと、価値があるとも言える。

 レンさんは、そういうの、ひけらかすタイプじゃ無いけど、持っていかないのは、逆に、エミリオ様に対して無礼になるものね。

 いつも控えめすぎるから、もっとやっちゃえばいいよ!などと心の中で声援をおくりつつ、王宮に着くまでの間、その勇姿をじっくり堪能させて頂いた。
 
 お陰様で、王宮に着く頃には大分緊張がほぐれたので、わたしは密かに、彼に感謝したのだった。

 イケメンの癒し効果って、半端無いわぁ。


 成人の儀以来、ニ度目になる王宮は、やっぱり荘厳で大きくて、結局、中に入った途端、緊張が、ぶり返してしまったんだけどね。
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