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第三章
お忍びで聖堂へ(王子殿下編)
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(side エミリオ)
今日は、お忍び訪問当日だ。
早めに昼食を食べ終え、王宮を出発した俺は、現在馬車に揺られている。
お忍びって言っても、もちろん勝手に出かけるわけじゃない。
……さすがの俺も、城から勝手に抜け出すほど馬鹿じゃ無い。
そりゃぁ、一般人みたいに、勝手気ままに王都の中を歩いてみたい願望はある。
冒険みたいで面白そうだ。
でも、今日向かう聖堂は第二の城壁の外。
そこは庶民が暮らす街。
絶対の安全は確保できないことくらい、さすがの俺も理解している。
王都は比較的治安が良く、特に第二の城壁の中までは、所々に王国騎士団が配置されている上、巡回も行われているから安全だ、と先日来た教師が言っていた。
今までは教師が来るたびに逃げ出していたから、自分が住んでいる国どころか、この王都のことすら、何も知らなかった。
恥ずかしい話、興味がなかったから、頭に入れようとも思わなかったわけだ。
だけど、いざ話を聞いてみると、これがどうして、なかなか面白い。
もっと早く気づけば良かったな。
俺は第二子だし、側妃の子。
だから、知識や武術なんて身につけたって、最後はどうせ政治のコマにされるだけ。
そんなことばかり考えていたから、何となく毎日がつまらなかった。
母様はいつも忙しそうにしていて、俺のことなど興味も無さそうだったし。
『常識や多少の剣術くらい学んでおこう』と、思わせてくれたマリーには、感謝しないといけないな。
ゆっくり流れる風景を眺めながら、俺は顔を緩ませた。
夏には、少しは成長した俺を見てもらえるだろうか?
最近では、貴族の平均的な教養に加え、社交界のルールの学習や、剣術の実技まで、教師を招いている。
まだまだ学んでおくべき事柄は多い。
ここのところ真面目に生活していたからか、今回、聖堂にお忍びで遊びに行きたいことをハロルドに相談すると、今まで見たことがないほど親身になって協力してくれた。
ちょっと気味が悪いくらいだ。
母様は、最初難色を示していたが、ハロルドの説得と教師たちの話を聞いて、最終的には許可してくれた。
父である国王陛下に至っては、『良い社会勉強になるから行ってきなさい』と、二つ返事で許してくれたらしい。
そんなわけで、今日のお忍び訪問が実現した。
王宮の外に一人で出るのは、初めての経験なので、俺はこの訪問を結構楽しみにしていた。
ハロルドや、護衛の騎士がついてくるのは仕方がないとして。
基本的に王宮外に出るイベントは、必ず国王陛下や母様と一緒のものばかりだったから。
王宮の中は、かなり広いとはいえ、生活のすべてをそこで終えるわけだから、目新しさはない。
外に出るにしても、きらびやかな馬車に箱詰め状態でゆられ、肩が凝りそうなほど重い衣装を着せられる。
目的地に着いたかと思えば、やれ式典だ、ダンスパーティーだ。
俺である必要があるのか?と、うんざりするようなイベントばかり。
それに比べて今回は、行き先が聖堂とはいえ、堅苦しい式典があるわけではない。
聖女候補のリリアに、聖堂内を案内してもらってお茶をする、というだけの短いものではあるが、自由に聖堂内を歩き回るのは初めてだし、何よりリリアと話をするのは面白そうだ。
リリアは庶民出身だけあってか、実にフランクに俺に接してくる。
貴族の子女であのような対応をする人間に、俺はあったことがない。
そもそも、俺のことを殴りつけた女はアイツしかいないし、それにあのダンス!
「ぷぷっ」
思わず吹き出してしまい、慌てて口を押える。
静かにしてはいるが、馬車には俺直属の騎士団の団長とハロルドが乗っている。
思い出し笑いなどをしていると思われるのは、なんか悔しい。
二人は、特に何も言うことなく座っているが、ハロルドの眉がピクリと動いたから、多分しっかり聞いていたんだろうな。
気を付けよう。
ところで、今乗っているこの馬車。
一見すると、ちょっとした金持ちの庶民なら借りられる程度の外見をした、よく有る黒塗りの馬車だ。
ハロルドが言うには、王族がお忍びで使う、それ専用の馬車で、外見に反して内装は一般の馬車とは全く違うらしい。
安馬車など乗ったこともないので、どこが違うのかはさっぱりだが、安全面に配慮されているそうだ。
外に目を向けると、馬車は止まることなく第二の城壁北門を抜けるところだった。
ま、それも当然だな。
事前に連絡もされているんだろうし、周りを走っている王宮配置の騎士団は、制服こそ他の王国騎士と同じだが、全員赤い腕章をつけている。
俺専属で有ることは、騎士なら当然知っているだろう。
そういえば、訪問の日程が決まった頃、教師が王都の地図を持ってきて、見せてくれたことがある。
王宮と聖堂は、一本の直線道路で結ばれていて、実は距離的にはかなり近いそうだ。特に今日のように王宮の裏門から出た場合は、普通に歩いて行ける距離らしい。
ただ、コレは聖堂の正面入り口から入る場合で、今回のように裏門から入る場合は、聖堂の敷地を半周することになるので、まぁ、それなりに距離はあるわけだ。
馬車は滑るように聖堂へと進む。
北門を抜けると直ぐ、正面に巨大な聖堂の建物が見えた。
建物の前には広い長四角の広場。
そこを横目に通り過ぎ、聖堂の敷地を横に見ながら裏門を目指す。
一年に何度かは聖堂に行っているのに、案外ちっとも覚えていない。
昨年の冬も式典で出向いたはずなんだが……なんだか初めてしっかり建物を見た気がする。
派手さは無いが、壁を飾る彫刻などをみると、豪華で、なんというか……どっしりとした感じだ。
……もう少しなんか当てはまる言葉があるんだろうけど、どう表現すれば良いのかわからない。
まだまだ勉強が必要だ。
「エミリオ様。間も無く到着となります」
ハロルドが声をかけてきたので、頷く。
馬車が聖堂の裏門へ近づくと、門の左右に立つ騎士らしき男たちが、静かに門を開けた。
王国騎士とは違う深い紺色の制服。
みたことはあるはずなのに、記憶に無い。
今までどれほど興味が無かったんだと、笑ってしまうが、彼奴らがいわゆる聖騎士ってやつだな。
二人のおっさん聖騎士たちは、どちらも背が高くムキムキで、とても強そうに見えた。
それと、あの剣。
思わず、団長の腰にさされた剣と見比べてしまう。
見るからに全くの別物だ。
「剣が全然違うんだな」
団長に尋ねると、団長は静かに口を開いた。
「王国騎士は実践が多いため、こまわりのきく長さの剣を使用しています。具体的に言うと短めでよくしなる剣です」
「ふぅん」
言われて、聖騎士の剣を見る。
確かに王国騎士の持つ剣に比べて、幅が広く、かなり長めだ。
「聖騎士は、式典等での見映えが重視されているとききます。固く、しならず、長く、重い。実際に振り回せるのかどうか」
「なるほど」
それは武器としてどうなんだろうな。
ただ、見映え重視というだけあって、確かにかっこいいのだ。
「振り回せたら、かなりかっこいいな」
「難しいかと思います」
「そうか」
「はい」
まぁ、腰に刺して歩くだけでも、結構大変そうだ。
そもそも、それなりの背丈が無ければ引きずるだろう。
庶民も貴族も、この国の少年たちの憧れの職業は『騎士』だという。
近くにいつも王国騎士がいたせいか、何に憧れるのかさっぱりわからなかったが、今回少し分かった気がした。
やがて馬車は門を抜け、ロータリーをゆっくり進むと、正面の建物の前で止まった。
そこには、ぴょんぴょんと跳ねながらこちらに手を振るツインテールの少女、リリアと、どこか陰湿な雰囲気の男が立っていた。
「エミリオさまーっ!!」
馬車の中にまで聞こえる声に思わず苦笑いしつつ、立ち上がると外から扉があけられる。
扉を開けた背の高い王国騎士。
いつも生真面目な表情をしている男だが、なぜだか今日は重苦しい雰囲気を漂わせている。
機嫌が悪い……というわけではないんだよな。
どちらかというと、そうだな。
緊張しているって感じか?
なんとなく顔色が悪い。
まぁ、俺の知ったことではないわけだが。
「ようこそ、いらっしゃいました!」
馬車を降りると満面の笑みで俺を迎えてくれるリリア。
こういうのは、正直悪い気はしない。
その横で恭しくお辞儀をするブロンドの男。
紺色に金の刺繍の入った神官服を着ている。
笑顔が何となく陰湿な雰囲気だ。
「お初にお目にかかります。私は王国中央聖堂の神官長を務めておりますマヌエルと申します。エミリオ王子殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅう……」
「歓迎ご苦労。マヌエル神官長。忙しいところ大儀であった。もう仕事に戻っていいぞ?」
なんとなく話が長くなるの気がしたので、俺は早々に切り上げた。
マヌエルとやらは、一瞬固まっていたが、愛想笑いをしながら一礼した。
「ご案内は、私もご同行した方がよろしいかと思ったのですが?」
「忙しい神官長の手をわずらわせるわけにはいかないですよ!私!頑張ります!!」
横で気合十分にいうリリア。
面倒くさそうなので、俺も便乗することにした。
「今回はあくまでお忍びだ。気を使う必要はない。神官長ともなれば、さぞ忙しいんだろう?俺のことは気にしなくていいぞ?」
「そうですか。さすが王子殿下。下々のことまでお気遣いいただき、誠にありがとうございます。ですが……」
「こちらも万全の態勢で警備いたしますので、神官長様に置かれましては、どうぞお気遣いなく」
俺の横から王国騎士が一人進み出て、マヌエル神官長にくぎを刺した。
「かしこまりました。では、何かお困りのことがございましたらお呼びください」
神官長は、すごすごと建物の中に戻っていく。
どうにも面倒くさそうな男だ。
俺の横から前に出た騎士は若い女性。
名前はジュリー。
王国騎士は、ほとんど男性で構成されており、女性は希少らしい。
彼女は中でも優秀らしく、俺に護衛の騎士が付くことになった当初から配属されている古株だ。
女性ということで話しやすいだろうと、今回リリアとのつなぎ役を担ってもらった。
「ジュリー様!ナイスアシスト!」
リリアが親しげにお礼を言うと、ジュリーは一礼だけして後ろに下がった。
騎士って堅物が多いよな?
俺の後方で、どんよりしたオーラを出しまくっている香草兄なんかがいい例だ。
「では、早速ですが、まず聖堂からご案内しますね?」
うきうきとした様子で先導するリリアに案内されて、俺は聖堂へ向かう通路を歩きだした。
「来てくださって嬉しいですー!今日は、お菓子も作ったんですよ?楽しみにしていてくださいね?」
「あぁ」
「聖堂はステンドグラスが、とってもきれいなんです!あ、さすがに見たことありますよね?」
「そうだな」
道すがら、楽しそうに話すリリアの言葉に、適当に相槌を打ちながら歩を進める。
多分、ここも通ったことがあるんだろうな。
全く記憶にないんだが。
聖堂内部はなんとなく覚えているが、神官たちが働いているこちら側は、なんとも飾り気のない印象だ。
まぁ、こてこてに装飾されているのもどうかとは思うが。
「さぁ。着きましたよ!ここが聖堂です!!」
通路の行き止まり、リリアが手を広げて示した先には、装飾が施された扉があった。
「私が」
ジュリーが前に立つ。
右手は、腰にさした剣の柄に置かれている。
扉を開けた先に警戒しているんだろう。
ここから先はパブリックスペースだ。
危険はそうはないだろうが、観光客なんかはいるかもしれない。
俺を守るようにもう一人前方にやってきたのは、香草兄だ。
なんだかんだで、結局生真面目なやつ。
ジュリーが呼吸を一つ付き、扉を一気に開けた。
その時俺の目に飛び込んできたのは、想像もしていない光景だった!!
今日は、お忍び訪問当日だ。
早めに昼食を食べ終え、王宮を出発した俺は、現在馬車に揺られている。
お忍びって言っても、もちろん勝手に出かけるわけじゃない。
……さすがの俺も、城から勝手に抜け出すほど馬鹿じゃ無い。
そりゃぁ、一般人みたいに、勝手気ままに王都の中を歩いてみたい願望はある。
冒険みたいで面白そうだ。
でも、今日向かう聖堂は第二の城壁の外。
そこは庶民が暮らす街。
絶対の安全は確保できないことくらい、さすがの俺も理解している。
王都は比較的治安が良く、特に第二の城壁の中までは、所々に王国騎士団が配置されている上、巡回も行われているから安全だ、と先日来た教師が言っていた。
今までは教師が来るたびに逃げ出していたから、自分が住んでいる国どころか、この王都のことすら、何も知らなかった。
恥ずかしい話、興味がなかったから、頭に入れようとも思わなかったわけだ。
だけど、いざ話を聞いてみると、これがどうして、なかなか面白い。
もっと早く気づけば良かったな。
俺は第二子だし、側妃の子。
だから、知識や武術なんて身につけたって、最後はどうせ政治のコマにされるだけ。
そんなことばかり考えていたから、何となく毎日がつまらなかった。
母様はいつも忙しそうにしていて、俺のことなど興味も無さそうだったし。
『常識や多少の剣術くらい学んでおこう』と、思わせてくれたマリーには、感謝しないといけないな。
ゆっくり流れる風景を眺めながら、俺は顔を緩ませた。
夏には、少しは成長した俺を見てもらえるだろうか?
最近では、貴族の平均的な教養に加え、社交界のルールの学習や、剣術の実技まで、教師を招いている。
まだまだ学んでおくべき事柄は多い。
ここのところ真面目に生活していたからか、今回、聖堂にお忍びで遊びに行きたいことをハロルドに相談すると、今まで見たことがないほど親身になって協力してくれた。
ちょっと気味が悪いくらいだ。
母様は、最初難色を示していたが、ハロルドの説得と教師たちの話を聞いて、最終的には許可してくれた。
父である国王陛下に至っては、『良い社会勉強になるから行ってきなさい』と、二つ返事で許してくれたらしい。
そんなわけで、今日のお忍び訪問が実現した。
王宮の外に一人で出るのは、初めての経験なので、俺はこの訪問を結構楽しみにしていた。
ハロルドや、護衛の騎士がついてくるのは仕方がないとして。
基本的に王宮外に出るイベントは、必ず国王陛下や母様と一緒のものばかりだったから。
王宮の中は、かなり広いとはいえ、生活のすべてをそこで終えるわけだから、目新しさはない。
外に出るにしても、きらびやかな馬車に箱詰め状態でゆられ、肩が凝りそうなほど重い衣装を着せられる。
目的地に着いたかと思えば、やれ式典だ、ダンスパーティーだ。
俺である必要があるのか?と、うんざりするようなイベントばかり。
それに比べて今回は、行き先が聖堂とはいえ、堅苦しい式典があるわけではない。
聖女候補のリリアに、聖堂内を案内してもらってお茶をする、というだけの短いものではあるが、自由に聖堂内を歩き回るのは初めてだし、何よりリリアと話をするのは面白そうだ。
リリアは庶民出身だけあってか、実にフランクに俺に接してくる。
貴族の子女であのような対応をする人間に、俺はあったことがない。
そもそも、俺のことを殴りつけた女はアイツしかいないし、それにあのダンス!
「ぷぷっ」
思わず吹き出してしまい、慌てて口を押える。
静かにしてはいるが、馬車には俺直属の騎士団の団長とハロルドが乗っている。
思い出し笑いなどをしていると思われるのは、なんか悔しい。
二人は、特に何も言うことなく座っているが、ハロルドの眉がピクリと動いたから、多分しっかり聞いていたんだろうな。
気を付けよう。
ところで、今乗っているこの馬車。
一見すると、ちょっとした金持ちの庶民なら借りられる程度の外見をした、よく有る黒塗りの馬車だ。
ハロルドが言うには、王族がお忍びで使う、それ専用の馬車で、外見に反して内装は一般の馬車とは全く違うらしい。
安馬車など乗ったこともないので、どこが違うのかはさっぱりだが、安全面に配慮されているそうだ。
外に目を向けると、馬車は止まることなく第二の城壁北門を抜けるところだった。
ま、それも当然だな。
事前に連絡もされているんだろうし、周りを走っている王宮配置の騎士団は、制服こそ他の王国騎士と同じだが、全員赤い腕章をつけている。
俺専属で有ることは、騎士なら当然知っているだろう。
そういえば、訪問の日程が決まった頃、教師が王都の地図を持ってきて、見せてくれたことがある。
王宮と聖堂は、一本の直線道路で結ばれていて、実は距離的にはかなり近いそうだ。特に今日のように王宮の裏門から出た場合は、普通に歩いて行ける距離らしい。
ただ、コレは聖堂の正面入り口から入る場合で、今回のように裏門から入る場合は、聖堂の敷地を半周することになるので、まぁ、それなりに距離はあるわけだ。
馬車は滑るように聖堂へと進む。
北門を抜けると直ぐ、正面に巨大な聖堂の建物が見えた。
建物の前には広い長四角の広場。
そこを横目に通り過ぎ、聖堂の敷地を横に見ながら裏門を目指す。
一年に何度かは聖堂に行っているのに、案外ちっとも覚えていない。
昨年の冬も式典で出向いたはずなんだが……なんだか初めてしっかり建物を見た気がする。
派手さは無いが、壁を飾る彫刻などをみると、豪華で、なんというか……どっしりとした感じだ。
……もう少しなんか当てはまる言葉があるんだろうけど、どう表現すれば良いのかわからない。
まだまだ勉強が必要だ。
「エミリオ様。間も無く到着となります」
ハロルドが声をかけてきたので、頷く。
馬車が聖堂の裏門へ近づくと、門の左右に立つ騎士らしき男たちが、静かに門を開けた。
王国騎士とは違う深い紺色の制服。
みたことはあるはずなのに、記憶に無い。
今までどれほど興味が無かったんだと、笑ってしまうが、彼奴らがいわゆる聖騎士ってやつだな。
二人のおっさん聖騎士たちは、どちらも背が高くムキムキで、とても強そうに見えた。
それと、あの剣。
思わず、団長の腰にさされた剣と見比べてしまう。
見るからに全くの別物だ。
「剣が全然違うんだな」
団長に尋ねると、団長は静かに口を開いた。
「王国騎士は実践が多いため、こまわりのきく長さの剣を使用しています。具体的に言うと短めでよくしなる剣です」
「ふぅん」
言われて、聖騎士の剣を見る。
確かに王国騎士の持つ剣に比べて、幅が広く、かなり長めだ。
「聖騎士は、式典等での見映えが重視されているとききます。固く、しならず、長く、重い。実際に振り回せるのかどうか」
「なるほど」
それは武器としてどうなんだろうな。
ただ、見映え重視というだけあって、確かにかっこいいのだ。
「振り回せたら、かなりかっこいいな」
「難しいかと思います」
「そうか」
「はい」
まぁ、腰に刺して歩くだけでも、結構大変そうだ。
そもそも、それなりの背丈が無ければ引きずるだろう。
庶民も貴族も、この国の少年たちの憧れの職業は『騎士』だという。
近くにいつも王国騎士がいたせいか、何に憧れるのかさっぱりわからなかったが、今回少し分かった気がした。
やがて馬車は門を抜け、ロータリーをゆっくり進むと、正面の建物の前で止まった。
そこには、ぴょんぴょんと跳ねながらこちらに手を振るツインテールの少女、リリアと、どこか陰湿な雰囲気の男が立っていた。
「エミリオさまーっ!!」
馬車の中にまで聞こえる声に思わず苦笑いしつつ、立ち上がると外から扉があけられる。
扉を開けた背の高い王国騎士。
いつも生真面目な表情をしている男だが、なぜだか今日は重苦しい雰囲気を漂わせている。
機嫌が悪い……というわけではないんだよな。
どちらかというと、そうだな。
緊張しているって感じか?
なんとなく顔色が悪い。
まぁ、俺の知ったことではないわけだが。
「ようこそ、いらっしゃいました!」
馬車を降りると満面の笑みで俺を迎えてくれるリリア。
こういうのは、正直悪い気はしない。
その横で恭しくお辞儀をするブロンドの男。
紺色に金の刺繍の入った神官服を着ている。
笑顔が何となく陰湿な雰囲気だ。
「お初にお目にかかります。私は王国中央聖堂の神官長を務めておりますマヌエルと申します。エミリオ王子殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅう……」
「歓迎ご苦労。マヌエル神官長。忙しいところ大儀であった。もう仕事に戻っていいぞ?」
なんとなく話が長くなるの気がしたので、俺は早々に切り上げた。
マヌエルとやらは、一瞬固まっていたが、愛想笑いをしながら一礼した。
「ご案内は、私もご同行した方がよろしいかと思ったのですが?」
「忙しい神官長の手をわずらわせるわけにはいかないですよ!私!頑張ります!!」
横で気合十分にいうリリア。
面倒くさそうなので、俺も便乗することにした。
「今回はあくまでお忍びだ。気を使う必要はない。神官長ともなれば、さぞ忙しいんだろう?俺のことは気にしなくていいぞ?」
「そうですか。さすが王子殿下。下々のことまでお気遣いいただき、誠にありがとうございます。ですが……」
「こちらも万全の態勢で警備いたしますので、神官長様に置かれましては、どうぞお気遣いなく」
俺の横から王国騎士が一人進み出て、マヌエル神官長にくぎを刺した。
「かしこまりました。では、何かお困りのことがございましたらお呼びください」
神官長は、すごすごと建物の中に戻っていく。
どうにも面倒くさそうな男だ。
俺の横から前に出た騎士は若い女性。
名前はジュリー。
王国騎士は、ほとんど男性で構成されており、女性は希少らしい。
彼女は中でも優秀らしく、俺に護衛の騎士が付くことになった当初から配属されている古株だ。
女性ということで話しやすいだろうと、今回リリアとのつなぎ役を担ってもらった。
「ジュリー様!ナイスアシスト!」
リリアが親しげにお礼を言うと、ジュリーは一礼だけして後ろに下がった。
騎士って堅物が多いよな?
俺の後方で、どんよりしたオーラを出しまくっている香草兄なんかがいい例だ。
「では、早速ですが、まず聖堂からご案内しますね?」
うきうきとした様子で先導するリリアに案内されて、俺は聖堂へ向かう通路を歩きだした。
「来てくださって嬉しいですー!今日は、お菓子も作ったんですよ?楽しみにしていてくださいね?」
「あぁ」
「聖堂はステンドグラスが、とってもきれいなんです!あ、さすがに見たことありますよね?」
「そうだな」
道すがら、楽しそうに話すリリアの言葉に、適当に相槌を打ちながら歩を進める。
多分、ここも通ったことがあるんだろうな。
全く記憶にないんだが。
聖堂内部はなんとなく覚えているが、神官たちが働いているこちら側は、なんとも飾り気のない印象だ。
まぁ、こてこてに装飾されているのもどうかとは思うが。
「さぁ。着きましたよ!ここが聖堂です!!」
通路の行き止まり、リリアが手を広げて示した先には、装飾が施された扉があった。
「私が」
ジュリーが前に立つ。
右手は、腰にさした剣の柄に置かれている。
扉を開けた先に警戒しているんだろう。
ここから先はパブリックスペースだ。
危険はそうはないだろうが、観光客なんかはいるかもしれない。
俺を守るようにもう一人前方にやってきたのは、香草兄だ。
なんだかんだで、結局生真面目なやつ。
ジュリーが呼吸を一つ付き、扉を一気に開けた。
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