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第三章
王子殿下がやってくる!(ちゃら魔導学生も来るよ) 当日編(2)
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「今日は、急なお願いをきいて頂き、ありがとうございました」
気を取り直して、笑顔で頭を下げ、お二人にお礼を言う。
「いえ……」
「いえいえ。かまいませんよ?ローズさんのお願いなら、いくらでも聞いちゃいますよ!ね?レン先輩!」
レンさんの返事とラルフさんの返事が重なったので、レンさんは一旦口を閉じたのだけど、引き続き話を振られて、一瞬沈黙の後、
「……それが職務ですから」
と、なんとなく歯切れ悪く応えた。
そう……よね。
上から押し付けられたお仕事だもの。
なんだか本当に申し訳なくなってきて、わたしは、もう一度深く頭を下げる。
やっぱりちょっと気まずい。
「先輩……。なんか、もう少し言い方……」
ラルフさんは困惑したように何か言いかけた。
でも、レンさんがいつもの無表情に戻っていたので、その後の言葉は飲み込んだようだった。
彼は、場の雰囲気を変えるように、笑顔でわたしに向き直った。
「今日いらっしゃるのは、どういったお友だちなんですか?」
!!
ラルフさんにふられた質問に、なんと返答するべきか悩むわたし。
今回は一般人としての来訪だけど、正門勤務の二人には、ジェフ様の情報は伝えられていないのかしら?
それなら、侯爵家のご令息である件は伏せるべき?
「ええと。魔導士専門学校で、偶然お会いして……その、彼とは以前からの知り合いでしたので、『聖堂を見学なさりたい』というお話になりまして……」
考えながら話したので、返答はしどろもどろ。
でも、変な誤解を与えてはいけないし、かと言って、ジェフ様とは今後仲良くさせて頂かなければならないので、こう言った機会は増えそうだし。
「……彼?お友だちって男?」
ラルフさんが小さく呟いた声に、肩がぴくりと震えた。
顔が一気に熱くなる。
「あ!いえ!はい。ええと」
男性だって情報、入ってなかったんだ。
いや。
来るのはの男性で、間違って無いわけで。
あーでも!
違うんです!
お友達というよりは、まだお知り合いに近い間柄で‼︎
ややパニックになって、何か答えようとするけど、口がぱくぱく動くだけ。
わー!
余計、変な誤解与えちゃうよ!
「簡単に事情は伺っています。聖堂内は、私が付き従いますので、ご安心ください」
レンさんの静かな声で、少しだけ場が落ち着いた。
「あ。えっと。その。宜しくお願いします」
ええと?
レンさんには、情報が入っていたの?
「なんで先輩だけ知ってるんです?オレにも教えてくれたっていいのにー。」
ふてくされるラルフさん。
「私も、直前の休憩中に、ミゲル神官長補佐から聞いたところだ」
「あー。先輩も、今戻ってきたばっかですもんね」
「あぁ。連絡できず悪かった」
「いえ。そういうことなら、仕方ないですけど」
なるほど。
ミゲルさんと正門警護二人の間に、若干の連絡不備があって、伝わっていなかったのかな?
時間を考えてみると、確かに休憩交代の時刻……よりはやや早いけど、レンさんは性格的に早めに戻って来そう。
レンさんが勤務に戻ったのは、多分わたしが来る直前だ。
聖女候補として聖堂に来てからしばらくして、聖騎士さんの仕事の体系をラルフさんから聞く機会があったので、知っているのだけど、聖騎士さんは日中、三人一組、交替で二つのポジションを守っているらしい。
半時毎に守るポジションが変わる。
ポジションは二つなので、残った一人は休憩。
1時間警護すると半時休憩する、と言った具合。
レンさんが聖堂内の警護に当たることが決まっていたのなら、そのこともあって、更に早めに戻ってきてくれたのかもしれない。
納得して二人を見る。
丁度そのタイミングで、レンさんが小声でラルフさんに付け加えていた。
「客人は、侯爵家御令息とのこと。失礼のないように」
「へ?……こうしゃくけ?ごれいそくっっ⁇⁈は!はい!!」
緊張した表情で、姿勢を正すラルフさん。
「あ、いえ。お忍びですし、とても気さくな方なので、あまり緊張なさらなくて大丈夫です」
お忍び訪問だし、あまり仰々しくされては悪目立ちしてしまう。
平日で、聖堂に訪れる人も多くないとはいえ、一定数はいる。
「すごい方とお友達なんですね!え?まさか婚約者とか、そういった?」
「ラルフ」
あっけらかんと質問してくるラルフさんを、即座に制止するレンさん。
「詮索は失礼だ」
「えー。でも気になりませんか?先輩だって、ホントは気になってるでしょ~?!」
「……いや。私は」
何故かむくれるラルフさんと、視線を外すレンさん。
でも、この質問は正直ありがたい。
おかげで、ジェフ様との関係を二人に説明する機会を得た。
「あの!聞いて頂いて、大丈夫です!」
少し声をはって言うと、二人はこちらを向いてくれた。
「実は、成人の儀で初めてお会いして、お話しをさせていただく機会あったんです。先日、王立魔導専門学校に行ったときに、たまたま再会して、見学をかねて聖堂へ来訪頂けるというお話しになりまして。なので、お友達といわせていただくには、まだ少しおこがましい気もしているんですが……」
「そんな他人行儀にならなくても。僕はお友達だと思っているよ?ローズちゃん」
「っっっ⁈⁈」
前方から、突然笑い含みに声をかけられて、慌ててそちらを見るけど、入口周辺には数人の男性の姿しか見えない。
いや、いた!
守るように前後に並んだ数人の男性の中央。
そこから、まばゆいばかりの美少年が顔を出した。
「ジェフ様?歩いていらっしゃったのですか?」
慌ててそちらに歩を踏み出す。
当然、馬車でやってくると想像していた。
だって曲がりなりにも侯爵令息様だもの。
だから、わたしも聖騎士のお二人も、馬車の降り口に目線を置いて会話をしていたのだ。
まさか突然目の前に現れるなんて、考えもしなかった。
「いやいや。まさか。やってみたいけど、さすがにメイドから注意されそうだし?」
彼が茶目っ気たっぷりに微笑むと、後方からいつもジェフ様に付き従っている女性の使用人が進み出た。
彼女の手には、大ぶりな花束が携えられている。
「君にこれを届けたかったから、聖堂の近くにある花屋を手配しておいたんだ。で、そこから歩いてきたわけさ」
ジェフ様は、わたしのもとへ進み出ると、うっとりするほど美しいボウ アンド スクレープ、つまり貴族の男性のするお辞儀をした。
「この度は、僕の聖堂見学を快く出迎えていただきありがとう。レディー・ローズマリー?」
「ようこそおいでくださいました。こちらこそ来ていただき光栄でございます。ジェファーソン様」
わたしもまた、その場でカーテシーをする。
ジェフ様は花束を女性の使用人の方から受け取ると、私の目の前に差し出した。
淡いピンクと深紅の薔薇をメインにした、とても豪華な花束。でもところどころに添えられた淡い色のスイートピーのおかげか、どこか可愛くて乙女心をくすぐる。
遠慮するのは、この場合失礼よね?
わたしは可能な限りの笑顔で受け取った。
「君に似合いそうだと思って」
「ありがとうございます!とても綺麗ですね。嬉しい!」
「うん。やっぱり君によく似合う」
……やっぱり、何処かチャラくていらっしゃる。
最後、少しだけ苦笑いになってしまったのは、仕方ないよね?
「今日はお世話になります。よろしく」
ジェフ様は、今度はわたしの後方、聖騎士のお二人に声をかけた。
聖騎士のお二人は、その場で同時にきっちりした角度で頭を下げている。
侯爵令息であるジェフ様と、平民であるお二人。
階級差は歴然だけれど、職務上『聖騎士』が膝をついて頭を下げるのは、聖女様と王族のみ。
それ以外の人には、立礼で良いとされている。
もちろん、制服を着ている間だけだけど。
顔をあげた二人を仰ぎ見て、ジェフ様は一瞬目を細めた。
「なるほど。聖騎士さんて、若い方も結構いるんですね?……これは心配だなぁ」
え?
最後の方は、小声でよく聴き取れなかった。
「背も高いし、強そうですね!羨ましいなぁ」
「恐縮です」
静かに答えたのはレンさん。
相変わらず無表情で、その対応は、一切の焦りを感じさせない。
むしろ余裕すら感じる。
逆に、ラルフさんは少し緊張の面持ちだ。
しかし、ジェフ様。
なんとなく、らしくない対応じゃない?
まるで、身長が低いことが悔しいような言い方だわ。
それはまぁ、ジェフ様は三人の中では現状一番背が低いけど、それでも、わたしよりは随分高い。
そもそも、これから伸びるのでは?
ジェフ様にしては珍しい反応に 少し驚く。
コンプレックスなんて、無さそうに見えたけど。
「では、行こうか?ローズちゃん」
「あ!はい!」
気づけば、ジェフ様は、いつもの少し軽薄な感じのする笑みに戻っていた。
わたしが聖堂の入り口へ先導し、ジェフ様、従者の方三人、少し遅れてレンさんの順で中に入る。
「ステンドグラスがすごく綺麗だ!」
「ええ。本当に綺麗ですね」
昼でもやや薄暗く感じられる聖堂内で、神話の順に描かれたステンドグラスはとても鮮やか。
カタリナさんから最近の講義で説明を受けたので、神話のどのシーンを描いたものかを、ジェフ様に簡単にお話ししていく。
ジェフ様は、相槌を打ちながら興味深そうに聴いてくださったので、正直とても話しやすかった。
やがて、教壇の前にたどり着き、盾の女神様の彫刻を全員で眺めていると、事務局側の扉がノックされた。
レンさんを見ると、小さく頷く。
聖堂の関係者で間違いなさそうね。
「失礼。確認して参りますね?」
そろそろ、王子殿下がこちらへ来られる頃かしら?
わたしは、扉に近づき返事をした。
中から出て来たのはミゲルさん。
「ローズマリーさん。王子殿下ご一行は、間もなくこちらに入られます。くれぐれも」
「はい。ご心配頂きありがとうございます。粗相のないよう、気を付けます」
「ローズさんのことは、心配していませんけどね。……ドウェイン公爵令息様に、私からもご挨拶させて頂いても?」
「よろしくお願いします」
ミゲルさんと一緒にジェフ様の元へ戻ると、先ほどと少し、立つ位置が変わっていた。
アレ?
何かあったのかな?
何故か、ジェフ様とレンさんが向き合っている。
従者の三人は、ジェフ様の後方に控えている。
ええと。
何か、お話しをしていたのかしら?
ジェフ様は、にこにこ微笑んでいるけれど、醸し出される雰囲気が、いつもと少し違う。
レンさんの方は、特に変わった様子は無いけれど。
ミゲルさんが近づくと、レンさんは一歩下がり、ジェフ様も人好きのする笑顔に戻られた。
ちょっとだけ、ピリッとした雰囲気だった気がしたけど、気のせいだったのかな?
「初めまして。神官長補佐ミゲルでございます」
「初めまして。今日はありがとうございます。ジェファーソン=ドウェインです」
「お会いできて光栄です」
「こちらこそ」
二人は定型文の見本のような挨拶を交わし、やがて握手をした。
丁度そんなタイミングで、事務局側がにわかに騒がしくなる。
嬉しそうなリリアさんの笑い声と、まだ少年らしいトーンの高い声が響き、聖堂内にいた全員が襟元を正した。
いよいよ、王子殿下がやってきた!
気を取り直して、笑顔で頭を下げ、お二人にお礼を言う。
「いえ……」
「いえいえ。かまいませんよ?ローズさんのお願いなら、いくらでも聞いちゃいますよ!ね?レン先輩!」
レンさんの返事とラルフさんの返事が重なったので、レンさんは一旦口を閉じたのだけど、引き続き話を振られて、一瞬沈黙の後、
「……それが職務ですから」
と、なんとなく歯切れ悪く応えた。
そう……よね。
上から押し付けられたお仕事だもの。
なんだか本当に申し訳なくなってきて、わたしは、もう一度深く頭を下げる。
やっぱりちょっと気まずい。
「先輩……。なんか、もう少し言い方……」
ラルフさんは困惑したように何か言いかけた。
でも、レンさんがいつもの無表情に戻っていたので、その後の言葉は飲み込んだようだった。
彼は、場の雰囲気を変えるように、笑顔でわたしに向き直った。
「今日いらっしゃるのは、どういったお友だちなんですか?」
!!
ラルフさんにふられた質問に、なんと返答するべきか悩むわたし。
今回は一般人としての来訪だけど、正門勤務の二人には、ジェフ様の情報は伝えられていないのかしら?
それなら、侯爵家のご令息である件は伏せるべき?
「ええと。魔導士専門学校で、偶然お会いして……その、彼とは以前からの知り合いでしたので、『聖堂を見学なさりたい』というお話になりまして……」
考えながら話したので、返答はしどろもどろ。
でも、変な誤解を与えてはいけないし、かと言って、ジェフ様とは今後仲良くさせて頂かなければならないので、こう言った機会は増えそうだし。
「……彼?お友だちって男?」
ラルフさんが小さく呟いた声に、肩がぴくりと震えた。
顔が一気に熱くなる。
「あ!いえ!はい。ええと」
男性だって情報、入ってなかったんだ。
いや。
来るのはの男性で、間違って無いわけで。
あーでも!
違うんです!
お友達というよりは、まだお知り合いに近い間柄で‼︎
ややパニックになって、何か答えようとするけど、口がぱくぱく動くだけ。
わー!
余計、変な誤解与えちゃうよ!
「簡単に事情は伺っています。聖堂内は、私が付き従いますので、ご安心ください」
レンさんの静かな声で、少しだけ場が落ち着いた。
「あ。えっと。その。宜しくお願いします」
ええと?
レンさんには、情報が入っていたの?
「なんで先輩だけ知ってるんです?オレにも教えてくれたっていいのにー。」
ふてくされるラルフさん。
「私も、直前の休憩中に、ミゲル神官長補佐から聞いたところだ」
「あー。先輩も、今戻ってきたばっかですもんね」
「あぁ。連絡できず悪かった」
「いえ。そういうことなら、仕方ないですけど」
なるほど。
ミゲルさんと正門警護二人の間に、若干の連絡不備があって、伝わっていなかったのかな?
時間を考えてみると、確かに休憩交代の時刻……よりはやや早いけど、レンさんは性格的に早めに戻って来そう。
レンさんが勤務に戻ったのは、多分わたしが来る直前だ。
聖女候補として聖堂に来てからしばらくして、聖騎士さんの仕事の体系をラルフさんから聞く機会があったので、知っているのだけど、聖騎士さんは日中、三人一組、交替で二つのポジションを守っているらしい。
半時毎に守るポジションが変わる。
ポジションは二つなので、残った一人は休憩。
1時間警護すると半時休憩する、と言った具合。
レンさんが聖堂内の警護に当たることが決まっていたのなら、そのこともあって、更に早めに戻ってきてくれたのかもしれない。
納得して二人を見る。
丁度そのタイミングで、レンさんが小声でラルフさんに付け加えていた。
「客人は、侯爵家御令息とのこと。失礼のないように」
「へ?……こうしゃくけ?ごれいそくっっ⁇⁈は!はい!!」
緊張した表情で、姿勢を正すラルフさん。
「あ、いえ。お忍びですし、とても気さくな方なので、あまり緊張なさらなくて大丈夫です」
お忍び訪問だし、あまり仰々しくされては悪目立ちしてしまう。
平日で、聖堂に訪れる人も多くないとはいえ、一定数はいる。
「すごい方とお友達なんですね!え?まさか婚約者とか、そういった?」
「ラルフ」
あっけらかんと質問してくるラルフさんを、即座に制止するレンさん。
「詮索は失礼だ」
「えー。でも気になりませんか?先輩だって、ホントは気になってるでしょ~?!」
「……いや。私は」
何故かむくれるラルフさんと、視線を外すレンさん。
でも、この質問は正直ありがたい。
おかげで、ジェフ様との関係を二人に説明する機会を得た。
「あの!聞いて頂いて、大丈夫です!」
少し声をはって言うと、二人はこちらを向いてくれた。
「実は、成人の儀で初めてお会いして、お話しをさせていただく機会あったんです。先日、王立魔導専門学校に行ったときに、たまたま再会して、見学をかねて聖堂へ来訪頂けるというお話しになりまして。なので、お友達といわせていただくには、まだ少しおこがましい気もしているんですが……」
「そんな他人行儀にならなくても。僕はお友達だと思っているよ?ローズちゃん」
「っっっ⁈⁈」
前方から、突然笑い含みに声をかけられて、慌ててそちらを見るけど、入口周辺には数人の男性の姿しか見えない。
いや、いた!
守るように前後に並んだ数人の男性の中央。
そこから、まばゆいばかりの美少年が顔を出した。
「ジェフ様?歩いていらっしゃったのですか?」
慌ててそちらに歩を踏み出す。
当然、馬車でやってくると想像していた。
だって曲がりなりにも侯爵令息様だもの。
だから、わたしも聖騎士のお二人も、馬車の降り口に目線を置いて会話をしていたのだ。
まさか突然目の前に現れるなんて、考えもしなかった。
「いやいや。まさか。やってみたいけど、さすがにメイドから注意されそうだし?」
彼が茶目っ気たっぷりに微笑むと、後方からいつもジェフ様に付き従っている女性の使用人が進み出た。
彼女の手には、大ぶりな花束が携えられている。
「君にこれを届けたかったから、聖堂の近くにある花屋を手配しておいたんだ。で、そこから歩いてきたわけさ」
ジェフ様は、わたしのもとへ進み出ると、うっとりするほど美しいボウ アンド スクレープ、つまり貴族の男性のするお辞儀をした。
「この度は、僕の聖堂見学を快く出迎えていただきありがとう。レディー・ローズマリー?」
「ようこそおいでくださいました。こちらこそ来ていただき光栄でございます。ジェファーソン様」
わたしもまた、その場でカーテシーをする。
ジェフ様は花束を女性の使用人の方から受け取ると、私の目の前に差し出した。
淡いピンクと深紅の薔薇をメインにした、とても豪華な花束。でもところどころに添えられた淡い色のスイートピーのおかげか、どこか可愛くて乙女心をくすぐる。
遠慮するのは、この場合失礼よね?
わたしは可能な限りの笑顔で受け取った。
「君に似合いそうだと思って」
「ありがとうございます!とても綺麗ですね。嬉しい!」
「うん。やっぱり君によく似合う」
……やっぱり、何処かチャラくていらっしゃる。
最後、少しだけ苦笑いになってしまったのは、仕方ないよね?
「今日はお世話になります。よろしく」
ジェフ様は、今度はわたしの後方、聖騎士のお二人に声をかけた。
聖騎士のお二人は、その場で同時にきっちりした角度で頭を下げている。
侯爵令息であるジェフ様と、平民であるお二人。
階級差は歴然だけれど、職務上『聖騎士』が膝をついて頭を下げるのは、聖女様と王族のみ。
それ以外の人には、立礼で良いとされている。
もちろん、制服を着ている間だけだけど。
顔をあげた二人を仰ぎ見て、ジェフ様は一瞬目を細めた。
「なるほど。聖騎士さんて、若い方も結構いるんですね?……これは心配だなぁ」
え?
最後の方は、小声でよく聴き取れなかった。
「背も高いし、強そうですね!羨ましいなぁ」
「恐縮です」
静かに答えたのはレンさん。
相変わらず無表情で、その対応は、一切の焦りを感じさせない。
むしろ余裕すら感じる。
逆に、ラルフさんは少し緊張の面持ちだ。
しかし、ジェフ様。
なんとなく、らしくない対応じゃない?
まるで、身長が低いことが悔しいような言い方だわ。
それはまぁ、ジェフ様は三人の中では現状一番背が低いけど、それでも、わたしよりは随分高い。
そもそも、これから伸びるのでは?
ジェフ様にしては珍しい反応に 少し驚く。
コンプレックスなんて、無さそうに見えたけど。
「では、行こうか?ローズちゃん」
「あ!はい!」
気づけば、ジェフ様は、いつもの少し軽薄な感じのする笑みに戻っていた。
わたしが聖堂の入り口へ先導し、ジェフ様、従者の方三人、少し遅れてレンさんの順で中に入る。
「ステンドグラスがすごく綺麗だ!」
「ええ。本当に綺麗ですね」
昼でもやや薄暗く感じられる聖堂内で、神話の順に描かれたステンドグラスはとても鮮やか。
カタリナさんから最近の講義で説明を受けたので、神話のどのシーンを描いたものかを、ジェフ様に簡単にお話ししていく。
ジェフ様は、相槌を打ちながら興味深そうに聴いてくださったので、正直とても話しやすかった。
やがて、教壇の前にたどり着き、盾の女神様の彫刻を全員で眺めていると、事務局側の扉がノックされた。
レンさんを見ると、小さく頷く。
聖堂の関係者で間違いなさそうね。
「失礼。確認して参りますね?」
そろそろ、王子殿下がこちらへ来られる頃かしら?
わたしは、扉に近づき返事をした。
中から出て来たのはミゲルさん。
「ローズマリーさん。王子殿下ご一行は、間もなくこちらに入られます。くれぐれも」
「はい。ご心配頂きありがとうございます。粗相のないよう、気を付けます」
「ローズさんのことは、心配していませんけどね。……ドウェイン公爵令息様に、私からもご挨拶させて頂いても?」
「よろしくお願いします」
ミゲルさんと一緒にジェフ様の元へ戻ると、先ほどと少し、立つ位置が変わっていた。
アレ?
何かあったのかな?
何故か、ジェフ様とレンさんが向き合っている。
従者の三人は、ジェフ様の後方に控えている。
ええと。
何か、お話しをしていたのかしら?
ジェフ様は、にこにこ微笑んでいるけれど、醸し出される雰囲気が、いつもと少し違う。
レンさんの方は、特に変わった様子は無いけれど。
ミゲルさんが近づくと、レンさんは一歩下がり、ジェフ様も人好きのする笑顔に戻られた。
ちょっとだけ、ピリッとした雰囲気だった気がしたけど、気のせいだったのかな?
「初めまして。神官長補佐ミゲルでございます」
「初めまして。今日はありがとうございます。ジェファーソン=ドウェインです」
「お会いできて光栄です」
「こちらこそ」
二人は定型文の見本のような挨拶を交わし、やがて握手をした。
丁度そんなタイミングで、事務局側がにわかに騒がしくなる。
嬉しそうなリリアさんの笑い声と、まだ少年らしいトーンの高い声が響き、聖堂内にいた全員が襟元を正した。
いよいよ、王子殿下がやってきた!
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