投稿小説のヒロインに転生したけど、両手をあげて喜べません

丸山 令

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第三章

倦怠感がすごい時、ぎり食べれそうなものを考えてみる

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 しばらく惚けたまま馬車に揺られて、何故だか止まらない涙を、借りたハンカチで拭っていたのだけど、宿泊予定の都市が見えて来る頃には、なんとか頭が正常に働き出した。


 考えるのは、先程の熊との遭遇のこと。
 
 思い返してみると、いくつかわたしの考えが間違っていたと思う点があった。

 まず、馬車馬の目隠しと、騎乗用の馬を進行方向逆向きに配置した件。

 レンさんは衝突が避けられない場合、最初から火魔法を使うつもりだったのかもしれない。
 そして、ラルフさんはおそらくそのことを知っていた。
 馬を降りた時に、意思の疎通があったのかも?

 つまりあの配置は、強烈な火炎放射に、馬が驚くのを避けるのが目的だった?

 勿論、身を挺して守ってくれたことに変わりは無い。
 けど、彼らにとっては『対象を守る為に自分が犠牲になる』ほど、悲観的な状況では無かったのかもしれない。

 次に、何故レンさんは魔力切れ覚悟で、派手な魔法を使ったのか。

 普通に考えれば『剣では倒せないから魔法を使った』のよね?

 ただ、小説で描かれる彼の最大の強みは、卓越した剣技と、補助的な魔法。
 それから、見た目に反して強靭な体だ。

 つまり、本来魔法メインの人では無い。

 熊の生死を問わないならば、案外剣でもいけてしまったのでは無いだろうか?

 もしかしたら、熊の親子を大きな怪我なく逃すことが目的だった?
 ……レンさん優しすぎない?
 
 更に、それでも熊が逃げなかった場合、まだ戦えるだけの余力もあった。
 若しくは、ラルフさんが加勢すれば、確実な勝機があったのかもしれない。

 落ち着いて考えてみると、聖騎士二人はかなりの実力者で、対応にも十分な余裕があったことになる。

 うぁ~っ!
 大泣きしちゃって恥ずかしい!!

 護衛の聖騎士さんたちの実力を過小評価した上、狼狽えまくるとか、本当にごめんなさい。穴があったら入りたいって言うのは、こう言う状態なのね?

 わたしが恥ずかしさに身悶えているうちに、馬車は今日の宿に到着した。


 宿は一般の旅人が使用するもので、前回泊まったような貴族専用のものではない。
 というか、貴族専用の宿は大都市にしか無い。

 今回の宿は、個人経営で、小さいけれど綺麗なオーベルジュを貸し切っていた。
 『聖女』候補の待遇良すぎ!
 嬉しいけど。

 ラルフさんがチェックインを済ませ、鍵を手渡してくれる。

 わたしは一番奥の一人部屋。
 隣の部屋に聖騎士のお二人。
 その隣に、御者さんたちが泊まるらしい。

 荷物は宿のご主人が運んでくれて、無事に部屋に落ち着いた。

 食事は、宿の一階の食堂で全員一緒にとるようなので、後で、もう一度お礼を言うことにしよう。

 お気に入りのルームウェアや下着類、明日の着替えを準備しながら、身の回りをざっくり整える。


———ガタンッ


 隣から、突然大きな音がしてびっくりした。

 その後は、何ごともなく静かになる。
 聖騎士さんたちの部屋の方だわ。
 何かあったのかしら?

 宿についた時も、まだ顔色の悪かったレンさんのことが心配になる。
 そうはいっても、男性の部屋に駆けつけるのも躊躇われるし、ラルフさんも同室だから大丈夫かな?

 とりあえず、わたしは大人しく部屋で休むことにした。


 夕刻、決められた時間に一階に降りると、食堂にはラルフさんと御者さんたちが集まっていた。

「えぇと。レンせんぱ……じゃなくて、クルスですが、ちょっとガス欠だそうで、夕食はこのメンバーでいただく事になりました」

 開口一番、ラルフさんから説明がある。
 あまりにあっけらかんというものだから、一瞬何も言えなくなってしまう。

 ガス欠ってやっぱり魔力切れのことよね?
 じゃ、さっきの音って……。

 え?
 まさか倒れた?


「大丈夫なんですか?」

「大丈夫らしいですよ?明日には良くなる程度のものらしいです。よくわからないですけど」


 ラルフさん、ゆるいなぁ。

 にこにこ笑顔で『ご飯にしましょ~』とか言うものだから、イマイチ緊張感が無いんだけど、本当に大丈夫なのかしら?





 ディナーは定食のような感じだった。
 スープ、サラダ、メイン、パン、果物。
 スープは優しいコンソメスープ。
 海老と海藻入りのサラダ。
 メインは山鳥の肉汁あふれるソテー。

 とっても美味しくて、わたしには十分すぎる量だったけど、お隣に座っているラルフさんには足りなかったらしく、女将さんにお願いして全部お代わりしてました。

 成長期なんだなぁ。
 身長まだまだ伸びるのかなぁ?
 既にお兄様と同じくらいあるんだけど。

 食事中、前に並んで座った御者さんたちから、何故か丁寧にお礼を言われた。

 曰く、『当然のように馬車に入れてくれて、ありがたかった』と。


「いぇ、当然のことなので、お気になさらないでください。みんなが無事で嬉しいです!」


 と答えると、それ以降は、終始なんとも優しい笑みを浮かべてくれるようになった。
 まるで、娘を見守る父親のような雰囲気。
 ……仲良くなれて良かったです!

 食後の苺を頂きながら、わたしは考える。

 魔力切れの倦怠感って、どんな感じかしら?
 二日酔いみたいな感じ?
 そもそも、二日酔いってどんな感じなの?
 そういえばわたし、前世も今世も二日酔いとは無縁だったわ。
 お酒飲んだことないし。

 熱が出て、食べ物受け付けない感じかしら?
 熱なら水分多めにとって……って、熱が出るわけじゃなのよね?

 前世の、マックス死にかけてたときみたいな感じとか?
 そんな時のことは、いっぱいっぱい過ぎて、ほとんど覚えてないけれど、食べる気も失せてたし点滴だったわね……そういえば。

 と、するとお腹空いたどころじゃないのかな?
 でも、一日中騎乗していたわけだし、魔力も使っているなら、お腹は空きそうな気もするのよね?

 レンさんくらいの年齢で、何も食べずに朝までって、もつのかしら?

 結局、悩んでいても始まらないので、何か作って持っていって、レンさんが食べれそうなら食べて貰えれば良いか、というところに落ち着いた。





 食事が終わり、三人と別れると、早速女将さんにお願いして、厨房を少し拝借する。

 食後に事情を話すと、女将さんは、すんなりオッケーしてくれた。
 何故だか、わたしをみる目が温かい。
 その上、協力してくれるようです!


 さて、倦怠感マックスの時に、ギリギリ食べられそうなものって何かしら?

 お粥とか良いんだろうけど、この辺は、あまり稲作をやっていない。
 お米を作るのは、手間がかかると倦厭されがちで、大陸南の小国でしか作ってないと思う。
 稀に輸入されることもあるけど、高級品だ。

 やっぱり強さと、二期作が出来ることで、小麦農家が多いのよね。
 結果、パン食。
 パンは色々種類があるけれど、この宿のものはバケットのような硬めのパンだった。
 と、すると噛むのも億劫だし、消化に悪いかな?

 小麦粉でニョッキのようなのを作ってもいいけど、粉物の塊って、結局しんどい時には重たいよね。

 噛まなくてよくて、胃に負担がなくて、さらさら食べれるものってなると、やっぱりスープ系?
 ミルク系は、吐きっぽかったりした場合、匂いでダメだったりするかな?
 それと、脂分は胃にくるから、出汁は野菜出汁……でも、それだと時間がかかっちゃうか。

 で、決まったのは『刻み野菜のコンソメスープ(薄味)カリカリに焼いたバケット添え』。
 焼いたバケットは、スープに付けパンして食べれば顎使わないし。

 コンソメスープは、宿のスープで使われていたものを、少し薄めてそのまま使用。
 野菜出汁と鳥のブイヨンだそうなので、浮いていた油は丁寧にとった。
 具材の野菜は、根菜やネギ類をみじん切りして、スープでクタクタになるまでよく煮こむ。
 女将さんが、瓶詰めのホールトマトを出してくれたので、少し拝借して酸味をプラス。
 多少さっぱりするかしら?

 パンは薄く切り、女将さんにお願いして、直火オーブンでカリカリになるまで焼いて貰った。

 家で、ちょっとだけど、料理を習っておいて良かった。
 わたしは跡取りでは無いので、平民の家に嫁いでも大丈夫なように、家事は侍女からそれなりに習ってある。

 出来上がったので、器に盛って、パンと、ついでにデザートの苺も添えた。
 協力してくれた女将さんにお礼を言うと、嬉しそうに笑ってくれた。
 優しい!

 食器類はそのまま部屋に置いておいておけば、明日片付けてくれるそう。
 何から何までありがたい。


 結局、凄く簡単なものになってしまったけど、完成した料理をトレーに乗せて、聖騎士二人が泊まる部屋へ持っていった。


 扉の前に立って、一つ深呼吸。
 ドアをノックすると、ラルフさんの声で返事があった。


「あの、遅くにすみません。ローズマリーです」


 直ぐに扉が開き、ラルフさんが出てくる。

 って、あの……ちょっと、服装がラフすぎませんかね?
 ラルフさんは、下はズボン履いているけど、上はランニングシャツしか着ていないのですけど⁈

 男子ってそんな感じなの?
 お兄様そうだったかしら?
 

「何か御用ですか?」


 不思議そうに聞いてくるので、慌ててトレーを差し出した。


「あの!もし、レンさんが食べれそうだったらと思って。……その、お加減如何でしょうか?」

「あぁ。心配させちゃいましたかね?ありがとうございます」


 ラルフさんは笑顔で答えた。
 そして部屋の中、ベッドで休むレンさんを示しながら言う。


「レン先輩、まだ寝てるんですが……聞いてみますね。うわ~旨そうっ!もし先輩が食べれなかったら、オレが頂いても良いですか?」


 無邪気にそう言ってくれるので、笑顔で答えた。


「その時は、お願いします」

「むぅ~。先輩、食べれないって、言ってくれないかなぁ?」


 ラルフさんは、可愛い人だなぁ。
 ん~。
 後輩系?仔犬系?
 わたしよりも、年上かもしれないけど。


「こんなもので良ければ、いつでも振る舞いますよ」

「本当ですか?本気にしますよ?楽しみだなぁ」

「はい。機会があったら。では、すみませんが、コレよろしくお願いします」

「はい。ありがとうございます」


 よし!
 あとはラルフさんにお任せしよう。
 トレーをラルフさんに手渡し、部屋に戻った。


 さぁ!
 明日も早いし、寝る準備!

 この宿の客室には、お風呂場が付いていて、桶の中にお湯がはってある。
 お湯は魔法具で温めてあり、温度は調節可能。
 シャワーは存在しないので、風呂桶のお湯を使って体を清めるスタイル。

 やっぱりシャワー欲しいな。
 追々考えよう。

 すっきりして、ルームウェアに着替えると、ベッドに潜り込んだ。


 今日は本当に色々あったな。
 頭が疲れた。
 直ぐ眠れそう。

 明日には、レンさんが元気になっていますように。
 おやすみなさい!
 

 ◆


 翌朝朝食の時、レンさんはすっかり回復していて、夜食のお礼を言ってくれました。

 相変わらず無表情だったけど、心なしか目元が柔らかかった気がする。

 感情が表に出にくい人なのかな?
 ちょっと可愛いな。
 などと、年上の男性には失礼なことを考えた。

 とにかく元気になってよかったです!


 因みに、ラルフさんは、食べ逃して悔しかった、とそれは悔しそうに報告してくれた。

 聖堂で食事を作る機会があるかしらね?
 ちゃんとしたものを振る舞いたいし、もう少し料理も勉強した方が良いかな?

 さておき、聖騎士さんとは心なしか打ち解けられたし、御者さんがわたしを見る目は優しい。
 同行するみなさんと仲良くなれて、ピンチもプラスに働いたかな?

 では、大変だけど参りましょう。一路王都へ!


      ◆     ◆     ◆     ◆     ◆


 お読み頂きありがとうございます(感謝)!

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 甘いものから厳しいものまで、ご感想もお待ちしております(moreやる気スイ○チ)。

 あ!まって!閉じないで。もう少しだけ。

 登場人物紹介、アップしました!
 一人称ではなかなか書きにくい年齢など、更に細かい設定も載せてあります。
 分かり易く箇条書きに纏めた筈なのに衝撃のボリュームです。気が向いたら御覧ください。
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