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第三章
王国中央聖堂へ
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昨晩の夜食は豪華だった。
もちろん、御祝いという意味あいではあったと思う。
実際のところは、お披露目パーティーでは食べる余裕は無いだろうと、マーティンがフルコースを用意してくれていたのだ。
流石!
『ああいった場所で大食するのは下品。食べずに帰るくらいで良いのですわ』とは、お母様の言。
それに関しては同意する。
食品ロスとか考えると勿体無いけれど。
『食品は、終宴後、当日配置した騎士や従業員が持ち帰ったりするし、残ったものは、近郊の農家の豚やヤギの餌になる』とは、お父様の言。
なかなかエコに回しているのね!と、感心しきりだ。
しかし贅沢な豚さんヤギさんだわ。
さぞや美味しく成長するのでしょうね。
『聖女』候補の件は、なんと二人とも全く驚かなかったそう。
なんなら、その為に成人の儀の後二日、余裕を持って帰ることになっていたほど。
『俺もそうだったしな』と、苦笑いするお父様。
いや、危うく吹き出しそうになりましたよ⁈
あぶない危ない。
でも、次に続いた『オレガノも候補なのよ』というお母様の発言で、もうダメだった。
激しくむせました。
聖女様姿の二人を思い浮かべてしまったから。
お父様の説明によると、魔導師候補が男女関係なく現れるのと同様、数は少ないけど、聖女候補も男女同数くらいいるのだそう。
ただ、『聖女』という名の通り、聖女候補にされるのは女性だけ。
不公平かと思えば、そうでもない。
どうやら、聖女の基準に当てはまる男性は、王国の騎士として働くことを義務付けられているらしいのだ。
しかも秘匿の度合いは、聖女候補の比ではないとか。
お父様は地方の農村出身。
貴族は、成人の儀の際に王宮で適性検査を受けるけど、平民も十五歳の誕生月に、各地方にある役所で適性検査を受ける。
同様の検査を受け、魔力が一定より高い者は王立魔導士専門学校へ。
程々魔力がある者は地方の魔導師学校へ。
聖女候補の女性は王国中央聖堂へ、男性は王国の騎士に配属されるそう。
あぁ。
それでお兄様は騎士団にいるのね。
普通に考えれば、嫡男だから、領地経営見習いで領地にいてもおかしくないもの。
お父様に憧れて騎士になったのかと思っていたし、そういう側面もあったと思うけど、義務付けられているなら仕方ないものね。
平民だったお父様が王国の騎士になったきっかけが、『聖女』候補って言うのも微妙なんだけど、などと頭を悩ませていたら、「公には伏せられているが、正式には『聖槍の使い手』候補なんだ」と、笑いながら教えてくれた。
ここで初めて合点がいくわたし。
お父様が英雄と呼ばれ、爵位を賜った理由が、そこにある。
今から四半世紀ほど前、魔物が大量に沸いた時期があったそう。
わたしが生まれる前の話だ。
王国北東の海岸沿いが、数日で壊滅状態となり、王国から騎士団が派遣された。
そこで英雄的に活躍したのが、彗星の如く現れた『聖槍の使い手』であるお父様。
国宝である『聖槍』は、使い手を選ぶと伝承されていて、過去何人かの英雄が、その槍を持って魔物と闘った。
あくまで伝説の中のお話。
それが、お父様の出現により、現実となった。
そんなわけで、お父様は国王陛下に認められ、男爵位を賜った。
その際、好きな領地をくれると言うので、当時も一番最初に攻撃を受け、完全に壊滅していたマグダレーンを乞うて領地に賜った。
復旧の目処も立っていなかった為、その辺り一帯を治める子爵が、二つ返事で譲ってくれたそうだ。
マグダレーンは、周辺の海岸線から突出し、北東方面へ長く伸びる半島。
海岸線には狭い湾がいくつもあり、入り組んだ形状をしている。
地理で習ったよね。
前世の記憶で言えば、リアス(式)海岸といわれる地形。
こっちでは地形学とか進んでないから、なんて呼ばれてるか知らないけれど。
周辺海域には大小様々な島も点在し、入江内は波が穏やかで水深が深い。
とにかく大量の船がつけやすいのだ。
恐らくそれが、マグダレーンが魔王軍から狙われやすい原因の一つだと考えられる。
まず獣型(海棲生物)の魔物に襲わせ、港をとりたいと言うことよね?
人形の魔物や魔族の多くは船で上陸する、と言うことなのかな?
リアルに考えると結構怖い。
それからもう一つ、わたしはこんなことも考えた。
つまり、球状の星ならば、実は魔界も大陸みたいな物なのでは?
で、多分マグダレーンが一番近い港なのではないかしら?距離的に。
地球儀無いからわからないのだけど。
そもそも地球じゃ無いし。
ともあれ、魔物の進行から約二十五年。
マグダレーンは、漁や貝類の養殖で、現在なんとか復興を遂げている。
次の襲撃に備える意味合いもあり、お父様は、国王陛下から許可を受け、聖槍を所持したまま領地に在住している。
専属で騎士団も保有しており、その運営資金は、国から何割か助成されているらしい。
お父様が伝説級の『聖槍の使い手』なのだから、息子や娘がそういった候補になるのも有る話なのかな?
ぼんやりと、そんなことを考える。
『一家族に集中し過ぎ!』とも思うけど。
その後も色々お話ししたけれど、とりあえず、わたしは翌日、聖堂に行くことになった。
◆
そんなわけで、やって来ました!
王都の繁華街!
こんな風に出歩けることになるなんて、王都に出てきた当初は、思ってもみなかったから、テンションが上がる!
わたしが唯一街に出たのは、お父様に連れられていった、例の会場だけだったしね。
いや、忘れよう。
慌てて脳内から、嫌なイメージを追い払う。
王都は三つの城壁で囲われている。
第一の城壁は王宮を囲む。
ここは王族、政治を行う官吏、王宮を守る騎士、招かれた賓客、あと使用人くらいしか立ち入ることはできない。
王族の住まう宮殿部分にも内壁があるそうだけど、それに関しては除外して考えられている。
門は正(南)門と裏(北)門の二つがあり、要所につながる為、南北の道路は広く整備されている。
第二の城壁。
今わたしは、その北門から馬車で外へ出てきたところ。
第二の城壁の内側は、貴族の領館が建ち並んでいる。
貴族専用の宿が有るのもこのスペース。
貴族御用達のブティックや高級料理店、高級菓子店、高級娯楽施設も、第二の城壁の正(南)門の周辺に集まっており、前世風に言うと高級大型ショッピングモールの様相ね。
出入り可能な門は、東西南北の四つが設けられている。
第三の城壁。
その内部は商業地帯。
平民のみなさんは、ここに住んでいる。
各役所や公共施設もこちらに有る。
城門は東西南北と、その中間、計八箇所に設けられ、その外は大小多数の農地が広がっている。
大雑把に言うと、王都は、王宮を中心に円形に三つの城壁に囲まれた構造となっている。
地形の影響で第二、第三の城壁は南方面が広い、いびつな円では有るけれど。
各門では、騎士たちによる検問が行なわれている。
わたしもつい今しがた、身分証明になる男爵家の紋章のピンブローチを提示してきたところ。
今日はポーラが一緒に来てくれているので、彼女にもピンブローチが渡されている。
主従がわかるよう材質が多少違うけど、形は同じものだ。
王国中央聖堂は王宮の真北、第三の城壁の中にある。
聖堂の背後は、即城壁になっており、北門を出ると、その先は海。
狭い湾になっていて、船をつけられるちょっとした港があるらしい。
……有事の時の王族の逃走経路かな?
わたしたちは中央聖堂前で馬車を降りた。
再検査が終わるであろう正午には、再度迎えに来てくれることになっている。
目の前には中央聖堂……の手前にある、長方形の広場。
面白いくらい直線的で如何にも人が整え整備した空間。
広場の横にはオープンカフェのような店舗があり、広場内までテーブルが置かれている。
そこでは、これから仕事に行くだろう人たちが、朝刊を読みながらお茶や軽食を食べている。
皆、小綺麗でテキパキしていて、どこかお洒落!
朝も早い時間なので、わたしたちもここに立ち寄ることにした。
今日のわたしは小綺麗な庶民風。
髪は、リボンをカチューシャ状にしてのダウンスタイル。
服はシンプルなミモレ丈のワンピース。
色合いは茶色系で、シックにまとめた。
いつも領地でしている格好だ。
イベントでも無ければ、ドレスを着て行くような場所では無いし、両親と別行動なので、護衛がポーラだけと言うこともあり、安全面を考えて、目立たない格好にした。
ポーラも普段着なので、一見すると友だちのように見えると思う。
まぁ、行く場所も限られているし、王都内は治安も良いので、あまり心配はしていないのだけど。
お店に入ると、先に購入してから席に座る形式のようだ。
ポーラに二人分の紅茶をオーダーしてもらい、それを受け取ると、店舗内のテーブルに腰を落ち着けた。
カフェとか言ったけど、コーヒーは無い。
わたしは別に飲むことも無かったので、気にならないけど。
ふと、コーヒー中毒者だった前世の母を、懐かしく思い出す。
コーヒーも無いけど、わたしが今、欲しいのはチョコレート!
お菓子類は結構ある中で、チョコだけは無いのよね。
カカオがあっても、作り方知らないし。
本当にわたしチート無いわ。
勉強が足りなかったわ。
妙に反省する。
勉強どころじゃ無かったから、とか言い訳してみる。
…………違うよね。
興味持たなかったのが悪いのよ。
今生は色々な事に興味持って学ぼう。
無事に王国を守り切れたら、だけど。
お茶も半ば飲み終わるころ、どうやら聖堂も開いたようで、店舗の従業員が、外にはみ出している椅子やテーブルを片付けている。
「ねぇ、聞いた?この間、夜中に聖堂の前をさ~」
偶々となりで軽食をとっていた女性2人の会話が耳に飛び込んでくる。
「あ~。なんか言ってたね。女の子の話?」
「そうそう。金の長い髪を振り乱して、ネグリジェ姿に、裸足で歩いてたって。怖いよね~」
「やっぱ幽霊かな~」
「又聞きだからわかんないけど、見た人いるって」
怖いわっ!
朝からなんて話してるのよ。
これからその聖堂に行くんですけど?
「あと他にもさぁ、死体が歩いてたって話は?」
「ナニソレ知らない!こわ~い!」
わたしは、お茶を一気に飲み干し、立ち上がった。
むりムリ無理!!
わたし、本当にオカルト苦手なの!!
あ、全身にとり肌が。
ポーラもわたしに合わせて席を立ってくれたので、一緒に店から出て聖堂へ向かった。
いやなタイミングで、嫌な話聞いちゃったな。
怖いから、深く考えないようにしよう。
目の前に聳え立つ、絢爛な彫刻が施された聖堂が、何だかおどろおどろしいものに見えてしまう。
完全に、出鼻を挫かれた感が半端ない。
う~嫌だな。
でも、行かないわけには行かないし。
覚悟を決めて一歩を踏み出す。
いざ!行くわよ!
王国中央聖堂へ。
もちろん、御祝いという意味あいではあったと思う。
実際のところは、お披露目パーティーでは食べる余裕は無いだろうと、マーティンがフルコースを用意してくれていたのだ。
流石!
『ああいった場所で大食するのは下品。食べずに帰るくらいで良いのですわ』とは、お母様の言。
それに関しては同意する。
食品ロスとか考えると勿体無いけれど。
『食品は、終宴後、当日配置した騎士や従業員が持ち帰ったりするし、残ったものは、近郊の農家の豚やヤギの餌になる』とは、お父様の言。
なかなかエコに回しているのね!と、感心しきりだ。
しかし贅沢な豚さんヤギさんだわ。
さぞや美味しく成長するのでしょうね。
『聖女』候補の件は、なんと二人とも全く驚かなかったそう。
なんなら、その為に成人の儀の後二日、余裕を持って帰ることになっていたほど。
『俺もそうだったしな』と、苦笑いするお父様。
いや、危うく吹き出しそうになりましたよ⁈
あぶない危ない。
でも、次に続いた『オレガノも候補なのよ』というお母様の発言で、もうダメだった。
激しくむせました。
聖女様姿の二人を思い浮かべてしまったから。
お父様の説明によると、魔導師候補が男女関係なく現れるのと同様、数は少ないけど、聖女候補も男女同数くらいいるのだそう。
ただ、『聖女』という名の通り、聖女候補にされるのは女性だけ。
不公平かと思えば、そうでもない。
どうやら、聖女の基準に当てはまる男性は、王国の騎士として働くことを義務付けられているらしいのだ。
しかも秘匿の度合いは、聖女候補の比ではないとか。
お父様は地方の農村出身。
貴族は、成人の儀の際に王宮で適性検査を受けるけど、平民も十五歳の誕生月に、各地方にある役所で適性検査を受ける。
同様の検査を受け、魔力が一定より高い者は王立魔導士専門学校へ。
程々魔力がある者は地方の魔導師学校へ。
聖女候補の女性は王国中央聖堂へ、男性は王国の騎士に配属されるそう。
あぁ。
それでお兄様は騎士団にいるのね。
普通に考えれば、嫡男だから、領地経営見習いで領地にいてもおかしくないもの。
お父様に憧れて騎士になったのかと思っていたし、そういう側面もあったと思うけど、義務付けられているなら仕方ないものね。
平民だったお父様が王国の騎士になったきっかけが、『聖女』候補って言うのも微妙なんだけど、などと頭を悩ませていたら、「公には伏せられているが、正式には『聖槍の使い手』候補なんだ」と、笑いながら教えてくれた。
ここで初めて合点がいくわたし。
お父様が英雄と呼ばれ、爵位を賜った理由が、そこにある。
今から四半世紀ほど前、魔物が大量に沸いた時期があったそう。
わたしが生まれる前の話だ。
王国北東の海岸沿いが、数日で壊滅状態となり、王国から騎士団が派遣された。
そこで英雄的に活躍したのが、彗星の如く現れた『聖槍の使い手』であるお父様。
国宝である『聖槍』は、使い手を選ぶと伝承されていて、過去何人かの英雄が、その槍を持って魔物と闘った。
あくまで伝説の中のお話。
それが、お父様の出現により、現実となった。
そんなわけで、お父様は国王陛下に認められ、男爵位を賜った。
その際、好きな領地をくれると言うので、当時も一番最初に攻撃を受け、完全に壊滅していたマグダレーンを乞うて領地に賜った。
復旧の目処も立っていなかった為、その辺り一帯を治める子爵が、二つ返事で譲ってくれたそうだ。
マグダレーンは、周辺の海岸線から突出し、北東方面へ長く伸びる半島。
海岸線には狭い湾がいくつもあり、入り組んだ形状をしている。
地理で習ったよね。
前世の記憶で言えば、リアス(式)海岸といわれる地形。
こっちでは地形学とか進んでないから、なんて呼ばれてるか知らないけれど。
周辺海域には大小様々な島も点在し、入江内は波が穏やかで水深が深い。
とにかく大量の船がつけやすいのだ。
恐らくそれが、マグダレーンが魔王軍から狙われやすい原因の一つだと考えられる。
まず獣型(海棲生物)の魔物に襲わせ、港をとりたいと言うことよね?
人形の魔物や魔族の多くは船で上陸する、と言うことなのかな?
リアルに考えると結構怖い。
それからもう一つ、わたしはこんなことも考えた。
つまり、球状の星ならば、実は魔界も大陸みたいな物なのでは?
で、多分マグダレーンが一番近い港なのではないかしら?距離的に。
地球儀無いからわからないのだけど。
そもそも地球じゃ無いし。
ともあれ、魔物の進行から約二十五年。
マグダレーンは、漁や貝類の養殖で、現在なんとか復興を遂げている。
次の襲撃に備える意味合いもあり、お父様は、国王陛下から許可を受け、聖槍を所持したまま領地に在住している。
専属で騎士団も保有しており、その運営資金は、国から何割か助成されているらしい。
お父様が伝説級の『聖槍の使い手』なのだから、息子や娘がそういった候補になるのも有る話なのかな?
ぼんやりと、そんなことを考える。
『一家族に集中し過ぎ!』とも思うけど。
その後も色々お話ししたけれど、とりあえず、わたしは翌日、聖堂に行くことになった。
◆
そんなわけで、やって来ました!
王都の繁華街!
こんな風に出歩けることになるなんて、王都に出てきた当初は、思ってもみなかったから、テンションが上がる!
わたしが唯一街に出たのは、お父様に連れられていった、例の会場だけだったしね。
いや、忘れよう。
慌てて脳内から、嫌なイメージを追い払う。
王都は三つの城壁で囲われている。
第一の城壁は王宮を囲む。
ここは王族、政治を行う官吏、王宮を守る騎士、招かれた賓客、あと使用人くらいしか立ち入ることはできない。
王族の住まう宮殿部分にも内壁があるそうだけど、それに関しては除外して考えられている。
門は正(南)門と裏(北)門の二つがあり、要所につながる為、南北の道路は広く整備されている。
第二の城壁。
今わたしは、その北門から馬車で外へ出てきたところ。
第二の城壁の内側は、貴族の領館が建ち並んでいる。
貴族専用の宿が有るのもこのスペース。
貴族御用達のブティックや高級料理店、高級菓子店、高級娯楽施設も、第二の城壁の正(南)門の周辺に集まっており、前世風に言うと高級大型ショッピングモールの様相ね。
出入り可能な門は、東西南北の四つが設けられている。
第三の城壁。
その内部は商業地帯。
平民のみなさんは、ここに住んでいる。
各役所や公共施設もこちらに有る。
城門は東西南北と、その中間、計八箇所に設けられ、その外は大小多数の農地が広がっている。
大雑把に言うと、王都は、王宮を中心に円形に三つの城壁に囲まれた構造となっている。
地形の影響で第二、第三の城壁は南方面が広い、いびつな円では有るけれど。
各門では、騎士たちによる検問が行なわれている。
わたしもつい今しがた、身分証明になる男爵家の紋章のピンブローチを提示してきたところ。
今日はポーラが一緒に来てくれているので、彼女にもピンブローチが渡されている。
主従がわかるよう材質が多少違うけど、形は同じものだ。
王国中央聖堂は王宮の真北、第三の城壁の中にある。
聖堂の背後は、即城壁になっており、北門を出ると、その先は海。
狭い湾になっていて、船をつけられるちょっとした港があるらしい。
……有事の時の王族の逃走経路かな?
わたしたちは中央聖堂前で馬車を降りた。
再検査が終わるであろう正午には、再度迎えに来てくれることになっている。
目の前には中央聖堂……の手前にある、長方形の広場。
面白いくらい直線的で如何にも人が整え整備した空間。
広場の横にはオープンカフェのような店舗があり、広場内までテーブルが置かれている。
そこでは、これから仕事に行くだろう人たちが、朝刊を読みながらお茶や軽食を食べている。
皆、小綺麗でテキパキしていて、どこかお洒落!
朝も早い時間なので、わたしたちもここに立ち寄ることにした。
今日のわたしは小綺麗な庶民風。
髪は、リボンをカチューシャ状にしてのダウンスタイル。
服はシンプルなミモレ丈のワンピース。
色合いは茶色系で、シックにまとめた。
いつも領地でしている格好だ。
イベントでも無ければ、ドレスを着て行くような場所では無いし、両親と別行動なので、護衛がポーラだけと言うこともあり、安全面を考えて、目立たない格好にした。
ポーラも普段着なので、一見すると友だちのように見えると思う。
まぁ、行く場所も限られているし、王都内は治安も良いので、あまり心配はしていないのだけど。
お店に入ると、先に購入してから席に座る形式のようだ。
ポーラに二人分の紅茶をオーダーしてもらい、それを受け取ると、店舗内のテーブルに腰を落ち着けた。
カフェとか言ったけど、コーヒーは無い。
わたしは別に飲むことも無かったので、気にならないけど。
ふと、コーヒー中毒者だった前世の母を、懐かしく思い出す。
コーヒーも無いけど、わたしが今、欲しいのはチョコレート!
お菓子類は結構ある中で、チョコだけは無いのよね。
カカオがあっても、作り方知らないし。
本当にわたしチート無いわ。
勉強が足りなかったわ。
妙に反省する。
勉強どころじゃ無かったから、とか言い訳してみる。
…………違うよね。
興味持たなかったのが悪いのよ。
今生は色々な事に興味持って学ぼう。
無事に王国を守り切れたら、だけど。
お茶も半ば飲み終わるころ、どうやら聖堂も開いたようで、店舗の従業員が、外にはみ出している椅子やテーブルを片付けている。
「ねぇ、聞いた?この間、夜中に聖堂の前をさ~」
偶々となりで軽食をとっていた女性2人の会話が耳に飛び込んでくる。
「あ~。なんか言ってたね。女の子の話?」
「そうそう。金の長い髪を振り乱して、ネグリジェ姿に、裸足で歩いてたって。怖いよね~」
「やっぱ幽霊かな~」
「又聞きだからわかんないけど、見た人いるって」
怖いわっ!
朝からなんて話してるのよ。
これからその聖堂に行くんですけど?
「あと他にもさぁ、死体が歩いてたって話は?」
「ナニソレ知らない!こわ~い!」
わたしは、お茶を一気に飲み干し、立ち上がった。
むりムリ無理!!
わたし、本当にオカルト苦手なの!!
あ、全身にとり肌が。
ポーラもわたしに合わせて席を立ってくれたので、一緒に店から出て聖堂へ向かった。
いやなタイミングで、嫌な話聞いちゃったな。
怖いから、深く考えないようにしよう。
目の前に聳え立つ、絢爛な彫刻が施された聖堂が、何だかおどろおどろしいものに見えてしまう。
完全に、出鼻を挫かれた感が半端ない。
う~嫌だな。
でも、行かないわけには行かないし。
覚悟を決めて一歩を踏み出す。
いざ!行くわよ!
王国中央聖堂へ。
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