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第一章

状況整理

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 気づいた時には、前世の記憶があらかた戻っていた。


 かつて、こことは違う世界の、日本という国で暮らしていたこと。

 生まれた時から心臓を患い、十八で旅立つまで、ほとんど病院の住人だったこと。
 活字中毒で、母が買ってくれたリンゴマークのタブレット端末が手放せなかったこと。

 狭い世界で生活していたからか、ファンタジーの世界に憧れて、投稿小説サイトの存在を知ってからは、時間の許す限り、色々な作品を読み漁った。

 プロ、アマ様々だけど、そこにいる作家さんの作品はとても自由で情熱が溢れていて、文の上手下手に関わらず面白かった。


 その中にあった作品『取り戻す物語~神に力を授けられし聖女』は、その時代にはあまり見かけなくなっていた、聖女の王国救済物語という、良く言えば古典的な?……正直に言わせて頂くと、ありふれた使い古されたストーリーだった。

 それでも思わず最後まで読んでしまったのは、作家の熱量に絆されたからなのか。画面が真っ黒になるくらい文字がびっしり書いてあって、なんか、とにかく圧が凄かったの。

 そして、今わたしがいるこの世界は、その物語によく似ている。


 主人公の名前は『男爵令嬢 ローズマリー・マグダレーン』。 

 うん、わたしよね。

 現世のお母さまはハーブがお好きで、なかでも響きが可愛いと、わたしにその名をつけてくれた。
 ……前世のわたしは「香草か!」と、ツッコみを入れていた訳だけど、由来があれば素敵な名前に思えてくるから不思議。

 因みに、お兄様の名前はオレガノだ。……香草兄妹きょうだい

 枕元のローテーブルにしまわれている手鏡を取り出して顔を映すと、見慣れた顔がいつもと違って新鮮に見えた。

 肩より下でパツンと切り揃えられたサラサラな髪。
 色はチェリーレッドだと母に教えられた。
 いわゆる赤毛なのだけど、日に焼けた部分の色素が抜けてピンクがかるのでそんな言われ方をするらしい。
 この世界でも珍しい色で人に紛れていてもよく目立つ。

 肌は色白で、頬に薄くそばかすがある。

 唇はコーラルピンク。
 まるい瞳はくっきりとした二重で、虹彩の色は一見グレーっぽく見えるけど、太陽の下で見ると深い紫色をしている。

 体は小柄で華奢ながら、胸だけはEカップとボリュームもそこそこあり、それでいて重力には負けないボール型。
 腰は細くくびれていて、それなのにお尻はしっかり丸みがある。

 これらの特徴もまた、小説のヒロインそのままだった。


 今のところ、立場、名前、外見は完全に一致している。

 ところで、小説で描かれているヒロインの性格だけど、一言で言えば天真爛漫。

 詳しく言うと、細かいことは気にしないおおらかな性格で、それでいて行動的。
 淑女教育より人と接することを好み、貴族から庶民まで多くの人と親交を深める庶民派令嬢。


 うん。
 どこから突っ込んだら良いのかわからない。

 わたしの性格が真逆過ぎて、天真爛漫なひとって、どう云う思考回路しているんだろう?って、正直疑問に思ってしまう。

 性格は完全に不一致。
 これが小説とは違う点ね。

 そういえば、家族から『顔と性格が合ってない』と、よく言われていたけれど、これが原因だったのね。
 妙に納得。

 愛称だって、小説ではマリーだった。

 今、わたしはローズと呼ばれている。
 キャラの違いがよくわかる。

 わたしは状況を整理しながら深くため息をついた。


 小説のヒロインに転生するなんて、本来とてもラッキーなことだと思うのよ。
 悲恋の物語でもない限り、ストーリー通り進めば、それなりのハッピーエンドは約束されているのだから。


 それでもわたしはもやもやしていた。   
 
 このもやもやには原因がある。
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