3 / 278
第一章
状況整理
しおりを挟む
気づいた時には、前世の記憶があらかた戻っていた。
かつて、こことは違う世界の、日本という国で暮らしていたこと。
生まれた時から心臓を患い、十八で旅立つまで、ほとんど病院の住人だったこと。
活字中毒で、母が買ってくれたリンゴマークのタブレット端末が手放せなかったこと。
狭い世界で生活していたからか、ファンタジーの世界に憧れて、投稿小説サイトの存在を知ってからは、時間の許す限り、色々な作品を読み漁った。
プロ、アマ様々だけど、そこにいる作家さんの作品はとても自由で情熱が溢れていて、文の上手下手に関わらず面白かった。
その中にあった作品『取り戻す物語~神に力を授けられし聖女』は、その時代にはあまり見かけなくなっていた、聖女の王国救済物語という、良く言えば古典的な?……正直に言わせて頂くと、ありふれた使い古されたストーリーだった。
それでも思わず最後まで読んでしまったのは、作家の熱量に絆されたからなのか。画面が真っ黒になるくらい文字がびっしり書いてあって、なんか、とにかく圧が凄かったの。
そして、今わたしがいるこの世界は、その物語によく似ている。
主人公の名前は『男爵令嬢 ローズマリー・マグダレーン』。
うん、わたしよね。
現世のお母さまはハーブがお好きで、なかでも響きが可愛いと、わたしにその名をつけてくれた。
……前世のわたしは「香草か!」と、ツッコみを入れていた訳だけど、由来があれば素敵な名前に思えてくるから不思議。
因みに、お兄様の名前はオレガノだ。……香草兄妹。
枕元のローテーブルにしまわれている手鏡を取り出して顔を映すと、見慣れた顔がいつもと違って新鮮に見えた。
肩より下でパツンと切り揃えられたサラサラな髪。
色はチェリーレッドだと母に教えられた。
いわゆる赤毛なのだけど、日に焼けた部分の色素が抜けてピンクがかるのでそんな言われ方をするらしい。
この世界でも珍しい色で人に紛れていてもよく目立つ。
肌は色白で、頬に薄くそばかすがある。
唇はコーラルピンク。
まるい瞳はくっきりとした二重で、虹彩の色は一見グレーっぽく見えるけど、太陽の下で見ると深い紫色をしている。
体は小柄で華奢ながら、胸だけはEカップとボリュームもそこそこあり、それでいて重力には負けないボール型。
腰は細くくびれていて、それなのにお尻はしっかり丸みがある。
これらの特徴もまた、小説のヒロインそのままだった。
今のところ、立場、名前、外見は完全に一致している。
ところで、小説で描かれているヒロインの性格だけど、一言で言えば天真爛漫。
詳しく言うと、細かいことは気にしないおおらかな性格で、それでいて行動的。
淑女教育より人と接することを好み、貴族から庶民まで多くの人と親交を深める庶民派令嬢。
うん。
どこから突っ込んだら良いのかわからない。
わたしの性格が真逆過ぎて、天真爛漫なひとって、どう云う思考回路しているんだろう?って、正直疑問に思ってしまう。
性格は完全に不一致。
これが小説とは違う点ね。
そういえば、家族から『顔と性格が合ってない』と、よく言われていたけれど、これが原因だったのね。
妙に納得。
愛称だって、小説ではマリーだった。
今、わたしはローズと呼ばれている。
キャラの違いがよくわかる。
わたしは状況を整理しながら深くため息をついた。
小説のヒロインに転生するなんて、本来とてもラッキーなことだと思うのよ。
悲恋の物語でもない限り、ストーリー通り進めば、それなりのハッピーエンドは約束されているのだから。
それでもわたしはもやもやしていた。
このもやもやには原因がある。
かつて、こことは違う世界の、日本という国で暮らしていたこと。
生まれた時から心臓を患い、十八で旅立つまで、ほとんど病院の住人だったこと。
活字中毒で、母が買ってくれたリンゴマークのタブレット端末が手放せなかったこと。
狭い世界で生活していたからか、ファンタジーの世界に憧れて、投稿小説サイトの存在を知ってからは、時間の許す限り、色々な作品を読み漁った。
プロ、アマ様々だけど、そこにいる作家さんの作品はとても自由で情熱が溢れていて、文の上手下手に関わらず面白かった。
その中にあった作品『取り戻す物語~神に力を授けられし聖女』は、その時代にはあまり見かけなくなっていた、聖女の王国救済物語という、良く言えば古典的な?……正直に言わせて頂くと、ありふれた使い古されたストーリーだった。
それでも思わず最後まで読んでしまったのは、作家の熱量に絆されたからなのか。画面が真っ黒になるくらい文字がびっしり書いてあって、なんか、とにかく圧が凄かったの。
そして、今わたしがいるこの世界は、その物語によく似ている。
主人公の名前は『男爵令嬢 ローズマリー・マグダレーン』。
うん、わたしよね。
現世のお母さまはハーブがお好きで、なかでも響きが可愛いと、わたしにその名をつけてくれた。
……前世のわたしは「香草か!」と、ツッコみを入れていた訳だけど、由来があれば素敵な名前に思えてくるから不思議。
因みに、お兄様の名前はオレガノだ。……香草兄妹。
枕元のローテーブルにしまわれている手鏡を取り出して顔を映すと、見慣れた顔がいつもと違って新鮮に見えた。
肩より下でパツンと切り揃えられたサラサラな髪。
色はチェリーレッドだと母に教えられた。
いわゆる赤毛なのだけど、日に焼けた部分の色素が抜けてピンクがかるのでそんな言われ方をするらしい。
この世界でも珍しい色で人に紛れていてもよく目立つ。
肌は色白で、頬に薄くそばかすがある。
唇はコーラルピンク。
まるい瞳はくっきりとした二重で、虹彩の色は一見グレーっぽく見えるけど、太陽の下で見ると深い紫色をしている。
体は小柄で華奢ながら、胸だけはEカップとボリュームもそこそこあり、それでいて重力には負けないボール型。
腰は細くくびれていて、それなのにお尻はしっかり丸みがある。
これらの特徴もまた、小説のヒロインそのままだった。
今のところ、立場、名前、外見は完全に一致している。
ところで、小説で描かれているヒロインの性格だけど、一言で言えば天真爛漫。
詳しく言うと、細かいことは気にしないおおらかな性格で、それでいて行動的。
淑女教育より人と接することを好み、貴族から庶民まで多くの人と親交を深める庶民派令嬢。
うん。
どこから突っ込んだら良いのかわからない。
わたしの性格が真逆過ぎて、天真爛漫なひとって、どう云う思考回路しているんだろう?って、正直疑問に思ってしまう。
性格は完全に不一致。
これが小説とは違う点ね。
そういえば、家族から『顔と性格が合ってない』と、よく言われていたけれど、これが原因だったのね。
妙に納得。
愛称だって、小説ではマリーだった。
今、わたしはローズと呼ばれている。
キャラの違いがよくわかる。
わたしは状況を整理しながら深くため息をついた。
小説のヒロインに転生するなんて、本来とてもラッキーなことだと思うのよ。
悲恋の物語でもない限り、ストーリー通り進めば、それなりのハッピーエンドは約束されているのだから。
それでもわたしはもやもやしていた。
このもやもやには原因がある。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる