ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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46.変わりゆくもの

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「俺は何か悪い事をしてしまったのでしょうか」
「しているな。職務怠慢という罪だ。さっさと整列しろ」

団長は手厳しい。でもだってセレスティーヌに門前払いされたんだよ?!
会いたくないってどうして?やっぱり陛下のことが好きになってしまった?それとも、もともと惹かれていたとか?
……イケメン、滅びろ。

「それでも、俺のことを好きって言ってくれたのに」
「おや、言われただけで、言ってあげなかったのかい?」
「副隊長!いや、でもだって」

まだ愛妾のままだったし。全部終わってから伝えようと、

「彼女の噂を聞いていないのかな」
「……噂?いえ、何か言われているんですか」
「『国王陛下を堕落させた女』だってさ」

……………は?

「何ですか、それ!」
「おい、整列だって言ったよな?」
「いだだだだだっ、耳が取れちゃいますっ!」

団長が俺の耳を思いっきり引っ張った。

「でもだって俺は本当なら休みですよっ!」

もう一度セレスティーヌのところに行こうと思っていたのに!

「仕方がないだろう。色々と担当替えになるんだ。そこにお前も含まれているんだぞ?」
「……本当に陛下は退位されるんですか」
「その説明を今からするんだ。真面目に聞きやがれ」
「……申し訳ありません」

それから、団長は議会での決定事項を発表した。

陛下は病を理由に退位し、王太子殿下が即位される。
正式な発表は1ヶ月後。その発表をもって王太子殿下は国王となられる。
戴冠式は半年後。ご結婚は2年後の予定だったものを1年後に早める。
現王妃陛下は国王陛下の退位に合わせて王太后となられ、引き続き王妃の職務と、新国王陛下のサポートをされる。

何だかあまりにも性急過ぎて気持ちがついていかない。
まるで、陛下はもういないかのように、ドンドンと話が進んでいく。

「陛下からは王太子殿下の護衛にトリスタンが推薦されている」
「え」
「何か問題はあるか」
「……陛下の護衛はどうなるのですか」
「まだ何方で療養されるかが決まっていない。だが、退位されれば、今までのような警護対象ではなくなる。近衛騎士団から警護を回すことは無いだろう」

……なんだそれ。目が見えないから?そうしたら、こんなにアッサリと捨てられてしまうのか。

「ただ、王宮内に留まって下さるなら、多少の警護は必要になる。これは陛下次第だ」

そうか。陛下は捨てられるんじゃない。捨てて行こうとしているのか。

その後も担当の変更などの発表があり、報告会は終了した。



「トリスタン、お前は残れ」
「はい」

団長に連れられ、団長室に入る。

「王太子殿下の護衛は不服か」

座るなり図星をさされる。

「……俺は、陛下が残られるのなら、そのまま担当したいです」
「陛下の意向は無視か?」
「はい」

だって俺は陛下の護衛に決まった時に誓ったんだ。一生この方をお守りすると。
セレスティーヌのことがあって、裏切られた守る気が無くなったと嘆いたけれど、結局はどうしたって守るのを止められなかった。
だって、あの頃の敬愛していた陛下はちゃんと残っているから。

「その辺りは奥さんとよく相談しろ。給金に差が出るぞ」
「!」

それは!現実問題が見えていなかった!!

「はい、ありがとうございます!」

夢だけでは生きていけないんだよなぁ。

「ただな、すでに貴族達は陛下から離れ、王太子殿下を支持している。意味は分かるな?」
「……だからセレスティーヌの悪評が広まっているのですか」
「最近、殿下が陛下を避けていたのは分かりやすかったからな。いつまでも陛下を慕っているとよろしくないと考える奴も多い。
お前もその辺りを踏まえて今後の身の振り方を考えろよ。害は自分だけで無く、家族まで及ぶぞ」
「……嫌な世の中ですね」
「本当にな。ブラスみたいに好きかどうかだけで生きられる奴が羨ましいよ」

あ~。あの、何かヤバい人。

「でも、王妃様に目を付けられてますよね。大丈夫なんですか?」
「アロイスの友人だからな。何もないと信じたいが」

『あの駄犬を処分して』

あの時の言葉が忘れられない。彼の立場はかなり危うい。陛下の言葉がなければ処刑されて当然だった。

「あの人って、駄目な人だけど陛下には必要不可欠。そんな感じですよね。それって王妃様に伝わってますかね?」

「あー。確かにな」


突然ドアが開けられた。

「おう、入るぞ」

噂をすれば!まさかの張本人が勝手に入って来て心臓がバクバクした。

「ノック位しろよ」
「ああ、そこの小僧に用があってな。いや、ブルーノにもか」

なんてマイペースな人なのだろう。団長の苦言はスルーだ。

「王女がアロイスの所に来た」
「は?」
「すべてを知った上で、アロイスと王妃を愛しているし、共に罪を償いたいそうだ」
「……まだ幼いと思っていたのに、ご立派になられたな」

え?いや、陛下の罪は分かるけど、王妃様の罪って?
おっさんは俺の疑問に気付いたのか、呆れ顔で教えてくれた。

「愛妾にならないことも出来た。お前も巻き込まれない道があった。あの契約書には不備があったからな。無効にすることは可能だった。それに王女は気付いたんだ。
まあ、お前は好きな女が妻になってラッキーだったんだろうがな」
「は………?」

なんだそれ。

「ついでに、王女はじゃじゃ馬の後ろ盾になるつもりだ。だから噂も少しはマシになるんじゃないか?」

………なんだそれっ!!

「不満そうだな。もっと早く話し合えばいいものを。仕事を理由にしていると振られるぞ」

この人嫌いだっ!

「こら、うちの団員を虐めるな。アロイスが振られたのはこいつのせいじゃないだろう」
「……小指の先くらいはコイツのせいだ」

少なっ!ていうか陛下は振られたの?

「え、じゃあなんで俺は会ってもらえなかったんですかね?!」
「雑魚だから?」

本当に嫌いだ。陛下至上主義のいじめっ子め!

「アロイスから伝言。爵位をやるから早く取りに来いだとさ」
「は?」
「あと領地と屋敷と金」
「は?!」
「今日は離宮は王女が会いに行っているから、行くなら夕方以降な」
「……ありがとうございます……貴方は背後に気を付けてくださいね。そのうち刺されますよ」
「王妃にか?」
「ちょっと。どっちも陛下を大切に思ってるんだから喧嘩しないの!ある意味同士でしょうが。
貴方に何かあったら陛下が悲しみます。あんまり敵を作らないでくださいよ!」

どうしてこんなに王妃様に喧嘩を売るんだ。
つい、そこまで言うと、少し驚いた顔をされる。

「本当にお人好しなんだな」
「……俺の長所ですよ」
「ふ~ん」
「トリスタンはな、このままアロイスの護衛を続けたいって希望する貴重な人材だぞ」

今度は本当に驚いたようだ。え、そんなに?

「さすがに心配になるな、コイツ」
「だからついつい鍛えてしまうんだ」
「…毒の扱いも教えてやろうか?」

え、何これ。

「よし、今からアロイスの所に行こう」

え、何これ?!

「いいぞ、ソイツは今日は休みだから」

団長の裏切り者!
毒の扱いは騎士団に必要なくない?
俺はセレスティーヌの所に行きたいのに!







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