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11.その顔に初めて気付いた
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陛下に言われたことを団長に報告する。
「おまえは甘いな。惑わされるな」
「どういう意味でしょうか」
「あの方は馬鹿じゃない。お前が俺に報告することくらい分かりきっているし、王妃様や公爵が動くことだって予想済みだ。俺達が様子見していることもな」
「はい」
それはそうだ。多くの貴族が陛下の動向を日々注視している。それに合わせて自分達の立ち位置を見定めるためだ。
ここ数年、安定していた陛下の今までにない変化。それによって何が起こるかと、貴族達はこれまで以上に注目している。
「この状況で一番に動くのはハイメス公爵の派閥だ。なんせあそこはまだ王位を諦めていない。だから揺さぶりに行ったんだ。
そして陛下もそれは理解している。それが形だけだとな」
「形だけなんですか」
「お前ね、ハイメス公爵が本当に実力者ならもっと協力者も多いんだよ。だが、あの方では少し足りない。ベレニス様という足枷もあるし。あの女は欲深いからなぁ。
ただ、国王にはそちらを意識して今以上に国政に力を入れて貰いたいんだ。片手間じゃなくな。
あとは、その間に王子殿下に育っていただく。陛下の第二の脅威になれるといいが、優秀な方とはいえ、まだまだ経験が足りない。
だけどね、以前と違って父親からその地位を奪おうという覚悟が出来た。
お前の読みが当たっているなら、陛下は王子殿下をしっかりと育てるだろう。自分を倒せるようにな。
だってそうしたら退屈じゃなくなるだろ?」
自分を倒す人間を自ら育てる。それはただ、このままではつまらないから。
「やることが増えれば愛妾ばかり構ってもいられない。と、なるといいがそこまではな。
悪いが俺達が考えているのはお前の妻を助けるためじゃない。国を守る為だ」
「……もしかしてそれが分かっているから俺は揶揄われたんですか」
「どうやら少しは楽しくなっているみたいだな。こちらがスパイを疑って仲間割れをすれば良し。しなくてもお前の慌てた顔が見れたからそれだけでちょっと笑えるから良し。そんな感じだろ」
なんて性格が悪いんだ……
「お前も副団長を狙うなら、剣技だけじゃなく、情勢を上手く読めるようになれ。今のままじゃライバルにもなれん」
「……はい」
陛下にとって俺なんて足元でチョロチョロしているダンゴ虫程度の存在だろう。指先でコロコロ丸めて飛ばせてしまう、どうでもいい存在。
「ライバルって、どうやったら俺なんかが陛下の視界に入れますかね」
「一番は愛妾とラブラブになるとか?だけど、刺激し過ぎると彼女が傷付くことになる。その辺間違えるなよ」
「いや、その前にラブラブなんて無理です」
だって彼女との会話なんて1日5分くらいで、触れることも出来ないのに。
「お前はそのままでいい。彼女の為に何かしたいって思いながら頑張っとけ。裏工作なんて出来ないんだからな」
裏工作……恋の裏工作って何だ?
「確かに無理ですね」
最近は本当に自分の力不足に悲しくなる毎日だよ。
「お前の武器はそれだよ」
「どれっすか」
「馬鹿みたいに、大好きな奥さんを守りたいって真っ直ぐな気持ちで行動すること。陛下には絶対に真似出来ないから」
馬鹿って言ったよ。酷いなぁ。
「そうですね、それしか出来ないから」
セレスティーヌのことを大切にしたい気持ちだけは負けない。だからこれは俺の武器だ。
「セレスティーヌ、これから少し忙しくなるんだ。寂しいかい?」
「…………」
「最近ね、少し面白いことがあったんだよ。何故かアンヌや子供達が変わったんだ。どうしてだろうね?」
「…………」
いや、アンタが愛妾を持ったからだろう?
本当に分からないのか。
「あれ、この話はつまらない?それとも不快?そうか、それは嫉妬だよ。私も最近知ったんだ」
「…………」
とうとう無表情を貫けなかったらしい。眉間にシワが寄っている。
「じゃあ、アンヌじゃなくてビニシオ──あ、一番上の子の話だけしよう。
最近何故か必死に向かってくるんだよ。まだ全然だけど、意外と頭はまわるみたいだ。色々質問してくるのが少し楽しいよ。こんな顔だったんだなって再発見した」
「…………」
「この話も駄目か。セレスティーヌは難しいな」
子供の顔に今頃気付いた発言に不愉快にならない人はいないって。
でも、団長の言ったことが当たった。本当に王子殿下の行動を楽しんでる。
そうやって家族の話をしながら、セレスティーヌの髪を弄っている。指にクルクル巻いて離して、またクルクルと。
「でも、駄目だね。セレスティーヌほど惹かれるものがないな。どうしようね」
穏やかだった陛下が少し揺らいでいる。
「でも、君の無言も少し飽きて来たし。そろそろ他の事をしようか?」
「おまえは甘いな。惑わされるな」
「どういう意味でしょうか」
「あの方は馬鹿じゃない。お前が俺に報告することくらい分かりきっているし、王妃様や公爵が動くことだって予想済みだ。俺達が様子見していることもな」
「はい」
それはそうだ。多くの貴族が陛下の動向を日々注視している。それに合わせて自分達の立ち位置を見定めるためだ。
ここ数年、安定していた陛下の今までにない変化。それによって何が起こるかと、貴族達はこれまで以上に注目している。
「この状況で一番に動くのはハイメス公爵の派閥だ。なんせあそこはまだ王位を諦めていない。だから揺さぶりに行ったんだ。
そして陛下もそれは理解している。それが形だけだとな」
「形だけなんですか」
「お前ね、ハイメス公爵が本当に実力者ならもっと協力者も多いんだよ。だが、あの方では少し足りない。ベレニス様という足枷もあるし。あの女は欲深いからなぁ。
ただ、国王にはそちらを意識して今以上に国政に力を入れて貰いたいんだ。片手間じゃなくな。
あとは、その間に王子殿下に育っていただく。陛下の第二の脅威になれるといいが、優秀な方とはいえ、まだまだ経験が足りない。
だけどね、以前と違って父親からその地位を奪おうという覚悟が出来た。
お前の読みが当たっているなら、陛下は王子殿下をしっかりと育てるだろう。自分を倒せるようにな。
だってそうしたら退屈じゃなくなるだろ?」
自分を倒す人間を自ら育てる。それはただ、このままではつまらないから。
「やることが増えれば愛妾ばかり構ってもいられない。と、なるといいがそこまではな。
悪いが俺達が考えているのはお前の妻を助けるためじゃない。国を守る為だ」
「……もしかしてそれが分かっているから俺は揶揄われたんですか」
「どうやら少しは楽しくなっているみたいだな。こちらがスパイを疑って仲間割れをすれば良し。しなくてもお前の慌てた顔が見れたからそれだけでちょっと笑えるから良し。そんな感じだろ」
なんて性格が悪いんだ……
「お前も副団長を狙うなら、剣技だけじゃなく、情勢を上手く読めるようになれ。今のままじゃライバルにもなれん」
「……はい」
陛下にとって俺なんて足元でチョロチョロしているダンゴ虫程度の存在だろう。指先でコロコロ丸めて飛ばせてしまう、どうでもいい存在。
「ライバルって、どうやったら俺なんかが陛下の視界に入れますかね」
「一番は愛妾とラブラブになるとか?だけど、刺激し過ぎると彼女が傷付くことになる。その辺間違えるなよ」
「いや、その前にラブラブなんて無理です」
だって彼女との会話なんて1日5分くらいで、触れることも出来ないのに。
「お前はそのままでいい。彼女の為に何かしたいって思いながら頑張っとけ。裏工作なんて出来ないんだからな」
裏工作……恋の裏工作って何だ?
「確かに無理ですね」
最近は本当に自分の力不足に悲しくなる毎日だよ。
「お前の武器はそれだよ」
「どれっすか」
「馬鹿みたいに、大好きな奥さんを守りたいって真っ直ぐな気持ちで行動すること。陛下には絶対に真似出来ないから」
馬鹿って言ったよ。酷いなぁ。
「そうですね、それしか出来ないから」
セレスティーヌのことを大切にしたい気持ちだけは負けない。だからこれは俺の武器だ。
「セレスティーヌ、これから少し忙しくなるんだ。寂しいかい?」
「…………」
「最近ね、少し面白いことがあったんだよ。何故かアンヌや子供達が変わったんだ。どうしてだろうね?」
「…………」
いや、アンタが愛妾を持ったからだろう?
本当に分からないのか。
「あれ、この話はつまらない?それとも不快?そうか、それは嫉妬だよ。私も最近知ったんだ」
「…………」
とうとう無表情を貫けなかったらしい。眉間にシワが寄っている。
「じゃあ、アンヌじゃなくてビニシオ──あ、一番上の子の話だけしよう。
最近何故か必死に向かってくるんだよ。まだ全然だけど、意外と頭はまわるみたいだ。色々質問してくるのが少し楽しいよ。こんな顔だったんだなって再発見した」
「…………」
「この話も駄目か。セレスティーヌは難しいな」
子供の顔に今頃気付いた発言に不愉快にならない人はいないって。
でも、団長の言ったことが当たった。本当に王子殿下の行動を楽しんでる。
そうやって家族の話をしながら、セレスティーヌの髪を弄っている。指にクルクル巻いて離して、またクルクルと。
「でも、駄目だね。セレスティーヌほど惹かれるものがないな。どうしようね」
穏やかだった陛下が少し揺らいでいる。
「でも、君の無言も少し飽きて来たし。そろそろ他の事をしようか?」
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