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8.色鮮やかな世界
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なぜ、彼女から目が離せないのだろう。
こんなことは初めてだった。
物心ついた頃から、自分は違うのだなと理解した。学園に通う様になってからは更に。
彼等の一喜一憂する姿が理解出来ない。
なぜ、人との関わりに重きを置くのか。愛情ほど不確かな物は無いというのに。
そんなにも人の心を気にする癖に、私が穏やかで優秀な王子を演じれば、愚かにもそれを信じ、褒め称え媚を売ってくる愚かな者達。
それでもそんな彼等が不快なわけではない。不思議なことを一生懸命行いながらも必死に生きる姿は、どことなく蟻の行列に似ている。
あんなにも頑張っているのだ。ならば少しくらい手を貸してもいいだろうと、他にやりたい事も無いから国王になることにした。国の運営は暇潰しくらいにはなる。
必要だと言われたから妻も娶ったし子供も作った。
だが、少し飽きて来たのだろうか。このぬるま湯の様な世界に。
そんな頃だった。
セレスティーヌを見つけた。
彼女の笑顔だけが色鮮やかに見えた。
なぜ彼女だったのかは今でも分からない。
アレが欲しい。
この気持ちはなんだ。
これが皆が必死に求める恋なのか?
──手に入れなくては。
諜報部に調べさせ、貧乏男爵の令嬢だとすぐに分かった。それならば簡単だ。
金と契約書を用意する。本当は愛妾などではなく恋人として側に置きたいが、国王という地位が邪魔をする。
だが、退位の手続きをしている間に結婚されたら面倒だ。
まあ、形に拘る必要もないか。
早く来い──
こんなに気持ちが浮き立つのは初めてだ。
「あの、帰らせて下さい」
不思議なことに、セレスティーヌは真っ青になって私の愛を拒絶した。
「なぜ?」
「なぜって!貴方様には王妃様達ご家族がいらっしゃるではありませんか!それなのに私を…、たった一度見かけただけの私を愛するなんてありえません!」
怒っている顔も可愛らしいな。彼女のすべてが魅力的に見える。なるほど、これが一目惚れというものか。
「私の気持ちは私が一番分かっている。だから安心して愛されるがいい」
本当はゆっくりと時間を掛けて愛を伝えたいが時間が無い。まずはしっかりと私の物だと印をつけなくては。
何かを察したのか、逃げようとするセレスティーヌを捕まえる。逃げられると余計に追いたくなるのを知らないのかい?
「駄目な子だね。私を酷い男にさせないでくれ」
ドレスはプレゼントのラッピングの様だ。やっと見つけた宝物。
さて、どうしよう。
怯えて泣く姿がいじらしい。
そうだ。こんな姿を見られるのは今日だけか。
セレスティーヌのすべてが見たい。すべてが欲しい。
愛欲に溺れる姿はいずれ見ることが出来る。
それならば、初めての行為に怯え、自分の痴態に恥じらい、破瓜の痛みに涙する、そんな今しか見られない姿を堪能しよう。
それからは至福の時だった。
疲れきった彼女を少しだけ不憫に思うけれど、あまりの幸福感に手放す事が出来ない。
あの護衛にセレスティーヌを見られたのは許せないが。後で何かしらの罪を──
セレスティーヌに口づけを送りながらトリスタンを排除する方法を何通りか考えていると、信じられない事にアンヌに扇で殴られた。
……凄いな。これも初めての経験だ。
アンヌがこんな性格だと初めて知った。
排除しようと思っていたトリスタンが信じられないことにセレスティーヌの夫になってしまった。
確かに仮初でも婚姻は必要だが、これではコイツを殺せない。
……なるほど。これが殺意と嫉妬か。
凄いな。セレスティーヌを手に入れてから、様々な感情が芽生えていく。
懸命に知恵を絞って私から逃げようと画策するところも可愛らしい。だけどね、私はこれでも最高権力者なんだ。契約書だけでは敵わないよ?
まるで人形の様に横たわっているセレスティーヌは分かっていない。その抵抗すらも愛おしいのに。さて、どこまで我慢出来るかな。
こんなに女性に奉仕したのは初めてだ。あ、また初めての経験だね。なんて楽しいのだろう。
だが、セレスティーヌがトリスタンを意識しているのが少し癇に障る。次からは部屋に置くのを止めよう。
38歳の初恋がこんなに酷いとは思わなかった。だったか?
残念だがアンヌ。私は今が一番楽しいよ。
だってあのままだったら暇潰しに戦争でもおこしていたかもしれないよ?
本当にね、ずっとつまらなかったんだ。
セレスティーヌ。私の宝物。
早く私に愛を囁いてくれ。
私に溺れて。
私がいないと生きていけないと縋ってくれ。
そうして身も心も全て手に入れることが出来たら……
もしかしたら、手放してあげるかもしれないね。
こんなことは初めてだった。
物心ついた頃から、自分は違うのだなと理解した。学園に通う様になってからは更に。
彼等の一喜一憂する姿が理解出来ない。
なぜ、人との関わりに重きを置くのか。愛情ほど不確かな物は無いというのに。
そんなにも人の心を気にする癖に、私が穏やかで優秀な王子を演じれば、愚かにもそれを信じ、褒め称え媚を売ってくる愚かな者達。
それでもそんな彼等が不快なわけではない。不思議なことを一生懸命行いながらも必死に生きる姿は、どことなく蟻の行列に似ている。
あんなにも頑張っているのだ。ならば少しくらい手を貸してもいいだろうと、他にやりたい事も無いから国王になることにした。国の運営は暇潰しくらいにはなる。
必要だと言われたから妻も娶ったし子供も作った。
だが、少し飽きて来たのだろうか。このぬるま湯の様な世界に。
そんな頃だった。
セレスティーヌを見つけた。
彼女の笑顔だけが色鮮やかに見えた。
なぜ彼女だったのかは今でも分からない。
アレが欲しい。
この気持ちはなんだ。
これが皆が必死に求める恋なのか?
──手に入れなくては。
諜報部に調べさせ、貧乏男爵の令嬢だとすぐに分かった。それならば簡単だ。
金と契約書を用意する。本当は愛妾などではなく恋人として側に置きたいが、国王という地位が邪魔をする。
だが、退位の手続きをしている間に結婚されたら面倒だ。
まあ、形に拘る必要もないか。
早く来い──
こんなに気持ちが浮き立つのは初めてだ。
「あの、帰らせて下さい」
不思議なことに、セレスティーヌは真っ青になって私の愛を拒絶した。
「なぜ?」
「なぜって!貴方様には王妃様達ご家族がいらっしゃるではありませんか!それなのに私を…、たった一度見かけただけの私を愛するなんてありえません!」
怒っている顔も可愛らしいな。彼女のすべてが魅力的に見える。なるほど、これが一目惚れというものか。
「私の気持ちは私が一番分かっている。だから安心して愛されるがいい」
本当はゆっくりと時間を掛けて愛を伝えたいが時間が無い。まずはしっかりと私の物だと印をつけなくては。
何かを察したのか、逃げようとするセレスティーヌを捕まえる。逃げられると余計に追いたくなるのを知らないのかい?
「駄目な子だね。私を酷い男にさせないでくれ」
ドレスはプレゼントのラッピングの様だ。やっと見つけた宝物。
さて、どうしよう。
怯えて泣く姿がいじらしい。
そうだ。こんな姿を見られるのは今日だけか。
セレスティーヌのすべてが見たい。すべてが欲しい。
愛欲に溺れる姿はいずれ見ることが出来る。
それならば、初めての行為に怯え、自分の痴態に恥じらい、破瓜の痛みに涙する、そんな今しか見られない姿を堪能しよう。
それからは至福の時だった。
疲れきった彼女を少しだけ不憫に思うけれど、あまりの幸福感に手放す事が出来ない。
あの護衛にセレスティーヌを見られたのは許せないが。後で何かしらの罪を──
セレスティーヌに口づけを送りながらトリスタンを排除する方法を何通りか考えていると、信じられない事にアンヌに扇で殴られた。
……凄いな。これも初めての経験だ。
アンヌがこんな性格だと初めて知った。
排除しようと思っていたトリスタンが信じられないことにセレスティーヌの夫になってしまった。
確かに仮初でも婚姻は必要だが、これではコイツを殺せない。
……なるほど。これが殺意と嫉妬か。
凄いな。セレスティーヌを手に入れてから、様々な感情が芽生えていく。
懸命に知恵を絞って私から逃げようと画策するところも可愛らしい。だけどね、私はこれでも最高権力者なんだ。契約書だけでは敵わないよ?
まるで人形の様に横たわっているセレスティーヌは分かっていない。その抵抗すらも愛おしいのに。さて、どこまで我慢出来るかな。
こんなに女性に奉仕したのは初めてだ。あ、また初めての経験だね。なんて楽しいのだろう。
だが、セレスティーヌがトリスタンを意識しているのが少し癇に障る。次からは部屋に置くのを止めよう。
38歳の初恋がこんなに酷いとは思わなかった。だったか?
残念だがアンヌ。私は今が一番楽しいよ。
だってあのままだったら暇潰しに戦争でもおこしていたかもしれないよ?
本当にね、ずっとつまらなかったんだ。
セレスティーヌ。私の宝物。
早く私に愛を囁いてくれ。
私に溺れて。
私がいないと生きていけないと縋ってくれ。
そうして身も心も全て手に入れることが出来たら……
もしかしたら、手放してあげるかもしれないね。
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