ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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4.例えば貴方が

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陛下の我慢は2週間が限界だった。

「セレスティーヌを渡せ」
「まだ2週間ですわ。約束をお忘れで?」
「抱けないだけで、側にいるのはいいはずだ」
「駄目です。ひと月後と決めたはずです」
「……私を怨んでいるのか?」
「は?」

また不思議なことを言い出した。セレスティーヌに出会って恋を覚えた陛下は、ちょっとネジが飛んでしまったようだ。やたらと恋愛脳になってしまった。
どうやら王妃様がセレスティーヌに嫉妬していて、だから二人を会わせないようにしていると思っているようだ。

「私を侮辱するおつもり?」
「違う。ただ、君という素晴らしい妻がいるのに……どうして私は」
「はいはいはいはいっ!聞きたくないから止めて。さっさと仕事に戻りなさい!」

手を叩きながら陛下を追い立てる。本当に不快だったようだ。

「せめてあの時の謝罪をさせてくれ。今はそれ以上望まないから」
「国王に謝罪されたらあの娘は許さざるを得ないでしょう。それは卑怯というものです」

本当に王妃様はお強い。そうなんだよな。上の立場の人間が悪かった、許せ、と言ったら嫌ですなんて言えないんだよ。陛下だって本当は知っている癖に本当に狡い。

「いや、だが!」
「分かりました。では、貴方が話すのではなく、あの娘に語らせましょう。あの時のことを。彼女がどう感じたのかを。それを聞いても許しを乞うならしかたがありません。いかがですか?」

え、ここにも鬼がいるよ。強姦魔にその強姦っぷりの感想を言えって?

「分かった」

いや、分からないで!アンタが理解するべき事はそれじゃない!

「なら一筆書いて。例えどんな暴言を吐かれようとも、怒鳴ったり暴力をふるったりなどはしませんって」
「もちろんだ」

あー、それがあるなら。このまま陛下のひとり勝ちを見てるのも腹立つし、文句を言えるチャンスか?





「セレスティーヌ!」

2週間ぶりに会えて本当に嬉しいのだろう。今にも抱きしめに行きそうで警戒する。今日の護衛対象は絶対にセレスティーヌ一択だ。

「……国王陛下にお会い出来て光栄にございます」

かたい表情のままカーテシーで挨拶する。

「非公式な場だ。その様な挨拶は止めてくれ」
「かしこまりました」

そのままセレスティーヌは視線を上げず、黙ってしまった。

「その、あの時は本当に悪かった。体の方は大丈夫か?」
「……本日は、あの時に私がどう感じたのかを聞いていただけると伺いました」
「もちろんだ。私を詰ってくれていい。どんな非難も全て受け止めるつもりだ」

何だかなぁ。これで吐き出させたら終わりって思ってそう。負けるな、セレスティーヌ。頑張れ!
心の中で応援しながらセレスティーヌを見つめる。
そんな俺に気付いたセレスティーヌが本当に微かに表情を緩めた。俺も本当に少しだけ頷く。見守っているからという気持ちを込めて。

「例えば。突然陛下の前にオークが現れたらどうしますか?」
「……オークとはあの、空想上のモンスターのことか?」
「はい。体がとても大きくて力も強い。逆らえば人間などアッサリと殺せてしまう力がある存在です」
「それは…、本当にいたら恐ろしいだろうな」

それってもしかして……

「オークは言います。貴方を愛していると」
「おい、一体なにを」
「アロイス。まずは最後まで聞きましょう」
「あ、ああ。分かった。続けてくれ」

王妃様、ありがとうございます。

「貴方を大切に思っている王妃様は、何とか貴方を守ろうとしますが、断るなら国を滅ぼすと言われ、泣く泣く諦めました。
ですが貴方はそれでも抵抗します。自分には愛する妻がいるし、守りたい国もあるからと」

やっぱりこれはあの時の例え話か。
陛下がセレスティーヌ。王妃は父親。国民は家族。そしてオークは陛下だ。
ブフッ、よりによって不細工なオークをチョイスするあたりが素晴らしい!

「ですが、オークは聞きません。だって愛しているからと金塊を置いて貴方を連れ去りました。
そして……愛していると何度も言いながら、貴方の服を切り裂き、のしかかり、貴方の体に鉄杭を突き刺すのです。
余りの激痛にやめてほしいと懇願しても、愛している、私を受け入れてくれと何度も何度も何度も……
泣き叫ぶ貴方を本当に愛おしそうに微笑みながら鉄杭を突き刺して、ああ、これで私の物だとうっとりと微笑むのです。
貴方の心はズタズタに引き裂かれて死にそうなのに」

……違う。ごめん、笑ってごめん!
セレスティーヌにとって、あの時の陛下は比喩でも何でもなく、本当にとてつもなく恐ろしくて醜い怪物だったんだ。
王妃様も青褪めている。

「いかがですか?貴方はその愛を乞うオークを許せますか?愛することが出来ますか?」

陛下の表情が消えている。

これは──反省や後悔の顔じゃない!

「……お前は、私が醜い怪物だと言うのか。この心が、下等な生き物が抱く悍ましいものと同じだと?」

まるで部屋の温度が下がったかのような殺気を放っている。あと一歩でも彼女に近付いたら切るしか……

「まぁいい。お前が私のもとに来れば、私の愛がどの様なものか理解出来るだろう。……楽しみだ」

……殺気は消えたけどさ。開けちゃいけない扉を開いちゃった感じ?更にヤバくない?

「はい、そこまでよ。貴方はもう仕事に戻って。満足したでしょう?セレスティーヌもまだ体調が万全ではないのだから下がっていいわ」
「分かったよ。素敵な場を設けてくれたことに感謝する。ではな、セレスティーヌ。次に会う日を楽しみにしているよ」





何とか無事に終わってよかったけど。
あんまり良くない終わり方だったな。

「トリスタン、私に殺気を向けたな?」

げ、バレた。

「申し訳ございません。陛下の殺気に咄嗟に反応してしまいました」

ここは素直に謝るしかないな。

「まさか夫だからと?何度でも言うが、それは形だけだ。勘違いすることは許さん」
「……承知しております」

ここで逆らってもいいことは1つもない。
俺なんか陛下の一存でいつでもクビにできる。

さっきの会話で分かった。陛下は自分を特別で高貴な存在だと認識している。間違ってはいない。国王とは国のトップであり、象徴だ。一番優れていると自負しても仕方がない。

「ですが」

でもさ、ムカつくんだよ!

「形だけとはいえ妻は妻。その身を守るのは私の勤めです。それが陛下をお守りする事にも通じることでしょう」

わー、言っちゃったよ。陛下に喧嘩売っちゃった!

「……なるほどな。では、やって見せよ。触れることすら許されぬ妻を守るとは夫の鑑だな」

たかだか護衛騎士ごときが同じ舞台に立てると思うなってことね。

「かしこまりました。お許し下さり感謝申し上げます」

まぁいいさ。馬鹿にされようが守る権利を手に入れた。それで十分だ。

「ならば本日も其方の団長に伝えておこう。私の物を守れる様にお前の腕を上げろとな」


やられた!また訓練かよ~~っ!!




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