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3.おあずけは長めに
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「なんだ、これは」
「貴方の愛妾となるセレスティーヌの契約書よ」
「どうして愛する女性との間に契約書が必要なんだ!」
先にセレスティーヌの父親と契約を交わしたのは陛下ですが。
「アロイス。あの子は男爵令嬢よ。側妃に出来ないのは分かっているでしょう。そして王族に愛人は作れない。だから貴方だってデュメリー男爵に愛妾としての契約書を書かせたのよね?
だから、愛妾という職務に就いてもらう為の契約書が必要になるの。これをもとに彼女の為の費用なども計算されるのよ。貴族令嬢を正当な理由も無く手元に置くことは、たとえ国王陛下でも無理だわ」
「職務だなんて。私はただ恋人として」
「無理です駄目です諦めなさい」
要するに男爵には愛妾だと言ったけど、本当はただ自分の恋人として囲いたかったと。でも、普通の人間は恋人を強姦したりはしないよ?
よく分からないよな。抱いたら自分の物だって考え。だって彼女は絶対に嫌がったはずだ。とても痛がったはずだ。たくさん泣いたはずなんだ。それを全部無視して欲望のまま抱く行為のどこに愛があるんだよ。
駄目だな。すっかり陛下への尊敬の念が消えてしまった。この人のこと守れるかな。つい、様を見ろ!と殺られるのを見守ってしまいそうだ。
「……なぜこんなにもトリスタンの名前が書いてあるんだ」
「夫だもの」
「それが許せないんだ!なぜ結婚なんか」
「決まりだからよ!」
だんだん王妃様がブチ切れてきた。この人本当にどうしたんだろうね。
「愛妾は既婚者!秘密を守れる者として彼が相応しく、セレスティーヌも彼ならばと認めたの。分かった?!」
「……すまない。こんなことになって」
おっそい謝罪だな。もっと早くに謝ろうよ。
「そうね。38歳の男の初恋がこんなにも酷いとは思わなかったわ。最悪な権力者の見本みたい。王子達もきっと貴方を軽蔑するわよ」
だよねぇ。強姦は隠せても愛妾を持つことは隠せないもんな。自分達と年の変わらない女性を囲う父親って……複雑だろうな。
「……許しては貰えないかな。でも、本当に愛しているんだ」
いや、妻に他の女への愛を語るな。
駄目だ。陛下へのツッコミが止まらないぞ。
「そんなにも好きならどうして大切にしないのよ。意味が分からないわ」
「……好きだと言ったさ。でも国王と恋愛なんて無理だし、家の為になる結婚をすると言うから。
……それでも……どうしても手に入れたかったんだ」
国王陛下に思いを告げられて、喜んで!と受ける令嬢は中々いないと思う。とりあえず断るのは当たり前じゃない?それも諜報部の胡散臭いのが大金抱えてやって来て拉致られたんだし。
アレか。陛下は今まで女性に断られたことが無かったのか?
「分かった。契約書は彼女の望むままにしてくれ。これからゆっくりと気持ちを伝えていくよ」
いや、そんな顔で微笑まれても。心の広い俺って素敵!とでも思っているのだろうか。王妃様もドン引きじゃん。なんで気持ちが届く自信があるんだろうな。
『最初はアレだったけど、これからはちゃんと大切にするから。愛してるよ、セレスティーヌ♡』
『嬉しい!大好きよ、アロイス様♡』
みたいな脳内劇場が繰り広げられてる気がする。想像して鳥肌がたった。
でも良かった。契約書に陛下がサインをした。これで少しは彼女の生活が楽になるといいけど。
契約書には後から俺が言った項目も追加されている。
契約終了まで内容の変更はできないことと、絶対に公務に支障を来さないこと。今まで陛下がやっていた仕事を他に割り振って仕事を減らしたりしないことが追加されている。
だから朝までとか、一日中とかは無い。はず。
「セレスティーヌはどこだ?」
もうウキウキしてるオッサンがいる。
「ひと月は会えないわよ」
「何故?!」
「どこかの強姦魔のせいで体の中も外も傷付いているの。性交が出来るのはひと月後だと医師に言われてるわ。
それにトリスタンと結婚して即日愛妾ではさすがに良くないでしょう。だから1ヶ月は貴方に会わせないから」
ギンッ!!
と、血走った目で睨み付けられる。
「……まさか妻だからと触れるつもりか?」
「とんでもございません。セレスティーヌ様は」
「なぜ名前で呼ぶ?誰が許したんだ」
本人だよ!声を大にして言いたい!
「ですが、陛下には今から1ヶ月は愛妾がいないことになっておりますので、ご愛妾様とお呼びすることは出来ません」
「では何も呼ぶな」
暴君……暴君がいるよ。賢王は卒業しちゃったのかよ。
「……かしこまりました。件の女性ですが、男性を酷く恐がっております。ですから間違っても触れたり等は致しませんのでご安心下さい」
陛下がピクリと反応する。
勝手に男性恐怖症にしてしまったが、絶対に陛下のことは怖いと思う。だからいきなり抱こうとするなよ?!
あ、後で口裏合わせの為に報告しなきゃ。
王妃様も二週間をひと月にのばしてくれたし、そのことも。
まぁ、先延ばししても変わらないかもしれないけれどな。
セレスティーヌはこれからの1ヶ月を王妃様の側で過ごすことになった。なぜならそこが一番安全だから。
陛下に物申せるのは王妃様しかいない。
俺は契約書を守って毎日会いに行っている。
と言っても5分くらい話して終わり。リハビリのようなものだ。
「トリスタン、いらっしゃい」
「今日はなんだか嬉しそうだな」
「ええ、弟から手紙が届いたの!学園に通えるようになったのですって」
それって君を売ったお金でだよね。
でもそうか。学園に通うお金もなかったんだ。
お金で売った父親を酷いとは思ったが、その場を見たわけじゃない。憶測で責めるのは止めよう。だって彼女自身が父親を憎んでいないのだから。
「よかったな。セレスティーヌが一番上かい?」
「ええ。あとは、弟が一人と妹が一人。あら、ダメね、夫婦なのにお互いの家族構成すら知らないわ」
今日のセレスティーヌはよっぽど嬉しいのかおしゃべりだ。久しぶりに笑顔が見れてこっちまで嬉しくなる。
「俺は兄が一人と弟が一人だ。弟は文官として王宮に勤めているよ」
「まあ、羨ましいわ。私もいつか文官になりたかったの」
彼女の、手に入れられなくなった未来の夢を聞くと少し悲しくなる。
「凄いな、セレスティーヌは頭がいいんだ。俺は体を動かす方が好きでさ」
この日は話が弾んでついつい長居してしまった。
どうやらそれがバレたようだ。
最近弛んでるからと、今日は団長に扱かれ捲っている。まあ、これくらい頑張るよ。セレスティーヌがようやく笑うようになって来たんだ。その対価だと思えば安いものだ。
……やすいもの
くっっっそキツイけどな!!
「おつかれ。よくやり切ったな」
「……だんちょうの……おに……」
もう立てない。これ以上は無理。
「陛下に何したんだよ」
「……だんちょーから見て、今日の陛下はどうでした?」
地面に転がったままですみません。マジ立てないッス。
「そうだな。一見いつもと変わらない穏やかな陛下だった。だが、お前憎まれてるだろ」
「ははは……」
もう呆れるしかない。
結婚したのはアンタが愛妾にしたかったからだろ。会えないのはアンタが傷付けたからだろ。彼女が俺に笑ったから?やっと笑える様になったんだから泣いて喜べよ!!
「俺がとっても綺麗な妻を手に入れちゃったんです。だからですかね」
「……本気?」
「ガチ恋です。本人の中では」
どうせ妻が愛妾になるのはもうすぐバレる。その前に団長には報告が必要だ。
「どんな女性だ」
実はさっきからヒソヒソ話です。口もと隠してます。訓練場のど真ん中だから、小声での会話は拾えないはずだけど、口を読まれると面倒なんだよ。
「16歳でデビュタントしたばかり。貧乏男爵の令嬢です」
「……ふん。最悪だな」
「はい」
「あの時か。……諜報部を使ったな」
団長格好いい。すぐに状況が掴めたらしい。
「王妃様の指示で動いているんだな?」
「はい。今は怪我してるのもあって王妃様に匿われています」
「……無理矢理か」
「嫌になっちゃいますよね。守る自信が無くなりました」
「とりあえずはまだ必要だ。……出来るだけ引き延ばせ」
え、俺?俺がやるの?!
「無理ですよ~~。ただの護衛騎士にそんな駆け引きを求めないで下さい。俺は脳筋ですよ」
「愛する妻を守る為だ。努力しろ」
酷い。でも確かにね。妻を守るのは夫の勤め。
精一杯頑張りますよ。
「貴方の愛妾となるセレスティーヌの契約書よ」
「どうして愛する女性との間に契約書が必要なんだ!」
先にセレスティーヌの父親と契約を交わしたのは陛下ですが。
「アロイス。あの子は男爵令嬢よ。側妃に出来ないのは分かっているでしょう。そして王族に愛人は作れない。だから貴方だってデュメリー男爵に愛妾としての契約書を書かせたのよね?
だから、愛妾という職務に就いてもらう為の契約書が必要になるの。これをもとに彼女の為の費用なども計算されるのよ。貴族令嬢を正当な理由も無く手元に置くことは、たとえ国王陛下でも無理だわ」
「職務だなんて。私はただ恋人として」
「無理です駄目です諦めなさい」
要するに男爵には愛妾だと言ったけど、本当はただ自分の恋人として囲いたかったと。でも、普通の人間は恋人を強姦したりはしないよ?
よく分からないよな。抱いたら自分の物だって考え。だって彼女は絶対に嫌がったはずだ。とても痛がったはずだ。たくさん泣いたはずなんだ。それを全部無視して欲望のまま抱く行為のどこに愛があるんだよ。
駄目だな。すっかり陛下への尊敬の念が消えてしまった。この人のこと守れるかな。つい、様を見ろ!と殺られるのを見守ってしまいそうだ。
「……なぜこんなにもトリスタンの名前が書いてあるんだ」
「夫だもの」
「それが許せないんだ!なぜ結婚なんか」
「決まりだからよ!」
だんだん王妃様がブチ切れてきた。この人本当にどうしたんだろうね。
「愛妾は既婚者!秘密を守れる者として彼が相応しく、セレスティーヌも彼ならばと認めたの。分かった?!」
「……すまない。こんなことになって」
おっそい謝罪だな。もっと早くに謝ろうよ。
「そうね。38歳の男の初恋がこんなにも酷いとは思わなかったわ。最悪な権力者の見本みたい。王子達もきっと貴方を軽蔑するわよ」
だよねぇ。強姦は隠せても愛妾を持つことは隠せないもんな。自分達と年の変わらない女性を囲う父親って……複雑だろうな。
「……許しては貰えないかな。でも、本当に愛しているんだ」
いや、妻に他の女への愛を語るな。
駄目だ。陛下へのツッコミが止まらないぞ。
「そんなにも好きならどうして大切にしないのよ。意味が分からないわ」
「……好きだと言ったさ。でも国王と恋愛なんて無理だし、家の為になる結婚をすると言うから。
……それでも……どうしても手に入れたかったんだ」
国王陛下に思いを告げられて、喜んで!と受ける令嬢は中々いないと思う。とりあえず断るのは当たり前じゃない?それも諜報部の胡散臭いのが大金抱えてやって来て拉致られたんだし。
アレか。陛下は今まで女性に断られたことが無かったのか?
「分かった。契約書は彼女の望むままにしてくれ。これからゆっくりと気持ちを伝えていくよ」
いや、そんな顔で微笑まれても。心の広い俺って素敵!とでも思っているのだろうか。王妃様もドン引きじゃん。なんで気持ちが届く自信があるんだろうな。
『最初はアレだったけど、これからはちゃんと大切にするから。愛してるよ、セレスティーヌ♡』
『嬉しい!大好きよ、アロイス様♡』
みたいな脳内劇場が繰り広げられてる気がする。想像して鳥肌がたった。
でも良かった。契約書に陛下がサインをした。これで少しは彼女の生活が楽になるといいけど。
契約書には後から俺が言った項目も追加されている。
契約終了まで内容の変更はできないことと、絶対に公務に支障を来さないこと。今まで陛下がやっていた仕事を他に割り振って仕事を減らしたりしないことが追加されている。
だから朝までとか、一日中とかは無い。はず。
「セレスティーヌはどこだ?」
もうウキウキしてるオッサンがいる。
「ひと月は会えないわよ」
「何故?!」
「どこかの強姦魔のせいで体の中も外も傷付いているの。性交が出来るのはひと月後だと医師に言われてるわ。
それにトリスタンと結婚して即日愛妾ではさすがに良くないでしょう。だから1ヶ月は貴方に会わせないから」
ギンッ!!
と、血走った目で睨み付けられる。
「……まさか妻だからと触れるつもりか?」
「とんでもございません。セレスティーヌ様は」
「なぜ名前で呼ぶ?誰が許したんだ」
本人だよ!声を大にして言いたい!
「ですが、陛下には今から1ヶ月は愛妾がいないことになっておりますので、ご愛妾様とお呼びすることは出来ません」
「では何も呼ぶな」
暴君……暴君がいるよ。賢王は卒業しちゃったのかよ。
「……かしこまりました。件の女性ですが、男性を酷く恐がっております。ですから間違っても触れたり等は致しませんのでご安心下さい」
陛下がピクリと反応する。
勝手に男性恐怖症にしてしまったが、絶対に陛下のことは怖いと思う。だからいきなり抱こうとするなよ?!
あ、後で口裏合わせの為に報告しなきゃ。
王妃様も二週間をひと月にのばしてくれたし、そのことも。
まぁ、先延ばししても変わらないかもしれないけれどな。
セレスティーヌはこれからの1ヶ月を王妃様の側で過ごすことになった。なぜならそこが一番安全だから。
陛下に物申せるのは王妃様しかいない。
俺は契約書を守って毎日会いに行っている。
と言っても5分くらい話して終わり。リハビリのようなものだ。
「トリスタン、いらっしゃい」
「今日はなんだか嬉しそうだな」
「ええ、弟から手紙が届いたの!学園に通えるようになったのですって」
それって君を売ったお金でだよね。
でもそうか。学園に通うお金もなかったんだ。
お金で売った父親を酷いとは思ったが、その場を見たわけじゃない。憶測で責めるのは止めよう。だって彼女自身が父親を憎んでいないのだから。
「よかったな。セレスティーヌが一番上かい?」
「ええ。あとは、弟が一人と妹が一人。あら、ダメね、夫婦なのにお互いの家族構成すら知らないわ」
今日のセレスティーヌはよっぽど嬉しいのかおしゃべりだ。久しぶりに笑顔が見れてこっちまで嬉しくなる。
「俺は兄が一人と弟が一人だ。弟は文官として王宮に勤めているよ」
「まあ、羨ましいわ。私もいつか文官になりたかったの」
彼女の、手に入れられなくなった未来の夢を聞くと少し悲しくなる。
「凄いな、セレスティーヌは頭がいいんだ。俺は体を動かす方が好きでさ」
この日は話が弾んでついつい長居してしまった。
どうやらそれがバレたようだ。
最近弛んでるからと、今日は団長に扱かれ捲っている。まあ、これくらい頑張るよ。セレスティーヌがようやく笑うようになって来たんだ。その対価だと思えば安いものだ。
……やすいもの
くっっっそキツイけどな!!
「おつかれ。よくやり切ったな」
「……だんちょうの……おに……」
もう立てない。これ以上は無理。
「陛下に何したんだよ」
「……だんちょーから見て、今日の陛下はどうでした?」
地面に転がったままですみません。マジ立てないッス。
「そうだな。一見いつもと変わらない穏やかな陛下だった。だが、お前憎まれてるだろ」
「ははは……」
もう呆れるしかない。
結婚したのはアンタが愛妾にしたかったからだろ。会えないのはアンタが傷付けたからだろ。彼女が俺に笑ったから?やっと笑える様になったんだから泣いて喜べよ!!
「俺がとっても綺麗な妻を手に入れちゃったんです。だからですかね」
「……本気?」
「ガチ恋です。本人の中では」
どうせ妻が愛妾になるのはもうすぐバレる。その前に団長には報告が必要だ。
「どんな女性だ」
実はさっきからヒソヒソ話です。口もと隠してます。訓練場のど真ん中だから、小声での会話は拾えないはずだけど、口を読まれると面倒なんだよ。
「16歳でデビュタントしたばかり。貧乏男爵の令嬢です」
「……ふん。最悪だな」
「はい」
「あの時か。……諜報部を使ったな」
団長格好いい。すぐに状況が掴めたらしい。
「王妃様の指示で動いているんだな?」
「はい。今は怪我してるのもあって王妃様に匿われています」
「……無理矢理か」
「嫌になっちゃいますよね。守る自信が無くなりました」
「とりあえずはまだ必要だ。……出来るだけ引き延ばせ」
え、俺?俺がやるの?!
「無理ですよ~~。ただの護衛騎士にそんな駆け引きを求めないで下さい。俺は脳筋ですよ」
「愛する妻を守る為だ。努力しろ」
酷い。でも確かにね。妻を守るのは夫の勤め。
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