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20.約束(J)
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キラキラしている。
ユリシーズ様はキラッキラだわ。
殿下と踊るユリシーズ様は、女性パートを踊っていらっしゃるのにカッコいい。彼は今、私との約束を守る為に戦って下さっている。
だからきっと彼の胸に羞恥など無く、堂々と王太子殿下と渡り合っているのだ。
なんと潔く美しい。孤高の百合とは本当ね。
でも彼はただ崖に咲く花では無く、どれ程泥にまみれようとも凛と咲き続ける、そんな美しさだわ。
踊り終えたユリシーズ様と手を取り合ってテラスに向かう。まるで逃避行のようです。
「約束を守れた褒美をいただけますか?」
ユリシーズ様からそんなお願いをされました。
「もちろんですわ。何かお望みのものでも?」
「はい。…そうですね、今、ジャスミン嬢が私に与えても良いと思うものを下さいますか」
「……私が決めていいの?」
「もちろん。私は物ではなく、貴方からの心が欲しいのですから」
…とくん。
心臓が跳ねたわ。
私からユリシーズ様への心?そんなものが欲しいと言われるなんて。
今日のご褒美よね?
約束を守って下さって、白百合の会から守っても下さった。ユリシーズ様のおかげでダンスも上手く踊れたし、何よりも彼のお色のドレスを纏わせてくれた。
どうしよう、何を贈っても足りない気がする。
どうしたらこの思いを伝えられるのかしら。
「…あの、少し屈んで頂けますか」
ユリシーズ様のように、然りげ無く格好良いことが出来たらいいけど、私には色々足りませんの。だから少しだけ協力してくださいな。
「これでいいですか?」
ユリシーズ様は何故かその場に跪いてしまわれました。
「えっ、え?そこまでしなくても」
「中腰よりこちらの方が楽なんです」
なるほど。確かにそうね。中腰は腰を痛めてしまうわ。
では、あらためて。
「ユリシーズ様。私は貴方の婚約者になれて本当に感謝しております」
「うん。私も何と運が良かったのかと」
「この様な縁を繋いで下さった両親にも感謝をしておりますわ」
「そうだな、私もだ」
ああ、ドキドキする。でも、この気持ちを過たずに伝えたい。
「あの。嫌だったら殴って下さいね?」
「……君を殴るはずないだろう」
「いいのですか?私、本気ですわよ?」
「もちろん。貴方の本気なら何でも嬉しい」
うぅ~っ、この素敵男子めっ!
がんばれ、負けるな私っ!
「ではっ、お覚悟をっ!!」
ちゅっ
…………………っぷはっ
ふぅっ、息を止めてしまいましたわ……。
「すみません、大丈夫そうですか?」
してしまいました。ちゅって、ちゅってしてしまいました!
「あの?ユリシーズ様?」
「…抱き締めさせて」
「え、」
おもむろに立ち上がったかと思うと、力いっぱい抱き締められました。
「きゃあっ!」
「も、本っっっ当に読めないな!君はっ!!」
「苦しいですぅ~~っ」
「私の胸も苦しいっ!もう駄目、好き、可愛い、持って帰りたいっ!!」
ん?……もしかして、ポッケに入れたかったのは私ですか?
「怒ってません?」
「なぜ?…あ~確かに理性との戦いだけどな。あと何ヶ月待たないといけないんだっけ?もう、明日結婚してもいいんじゃないかな」
ああ、ちっさい可愛いやらかいいい匂いがする、と恥ずかしい呪文が耳元に注がれて、私はもう限界です!
いい匂いはユリシーズ様ですから!!
ぺしぺしとタップをして、限界を訴えます。
「私を殺す気ですか!」
「先に私の息の根を止めかけたのは君だろう!」
ぐぬぬっ、と睨み合いながら、はて、何を争っているのかしら。と我に返りました。
「あぁ、まさかジャスミン嬢に私のファーストキスを奪われるとは思わなかった」
「はっ!?」
ふぁーすと……初めてですと!?
「何だよ、その顔は。女嫌いだったのに誰とキスするんだ?……あ、ウソ。アイヴィーとは何度かキスしたわ。何ならデイジーとも」
「……猫ちゃんは許します。なんなら私もしましたよ」
アイヴィーとデイジーはオーウェル家の美猫姉妹です。
「私の初キッスを捧げたつもりでしたのに」
「……うそ。すっげぇ嬉しくて死にそう。
大好きだよ、ジャスミン」
優しく頬を包み込み、そっと口付けられました。
「…わたしのこと、すき?」
「好きだよ。いつの間にか大好きになってた。
ジャスミン。始まりは政略だったけど、貴方のことが本当に愛おしいと思うよ」
「……勇気を出してよかった」
「頑張ってくれてありがとうな」
そう言って、今度は優しく抱き締めながら、額に、頬にと口付けてくれる。
「ユリシーズ様が頑張ってくれたから。
さっきは本当に素敵だった。一等格好いい私のユリシーズ様。大好きですっ」
彼の首に手を回し、ギュッと抱き着く。
この思いが伝わって欲しくて、この喜びを分け与えたくて。
「……がんばれ、おれの理性」
ユリシーズ様がまた呪文を呟いています。
あら?どうしましょう。どのタイミングで手を離したらいいの?
えと、えっとえっと、と焦っていると、クククッ、とユリシーズ様が笑っています。
「全部全部初めてなんです。…笑わないで?」
「……俺にトドメを刺そうとするなっ!」
勇気を出してお願いしたのに、何故か叱られてしまいました。
ユリシーズ様はキラッキラだわ。
殿下と踊るユリシーズ様は、女性パートを踊っていらっしゃるのにカッコいい。彼は今、私との約束を守る為に戦って下さっている。
だからきっと彼の胸に羞恥など無く、堂々と王太子殿下と渡り合っているのだ。
なんと潔く美しい。孤高の百合とは本当ね。
でも彼はただ崖に咲く花では無く、どれ程泥にまみれようとも凛と咲き続ける、そんな美しさだわ。
踊り終えたユリシーズ様と手を取り合ってテラスに向かう。まるで逃避行のようです。
「約束を守れた褒美をいただけますか?」
ユリシーズ様からそんなお願いをされました。
「もちろんですわ。何かお望みのものでも?」
「はい。…そうですね、今、ジャスミン嬢が私に与えても良いと思うものを下さいますか」
「……私が決めていいの?」
「もちろん。私は物ではなく、貴方からの心が欲しいのですから」
…とくん。
心臓が跳ねたわ。
私からユリシーズ様への心?そんなものが欲しいと言われるなんて。
今日のご褒美よね?
約束を守って下さって、白百合の会から守っても下さった。ユリシーズ様のおかげでダンスも上手く踊れたし、何よりも彼のお色のドレスを纏わせてくれた。
どうしよう、何を贈っても足りない気がする。
どうしたらこの思いを伝えられるのかしら。
「…あの、少し屈んで頂けますか」
ユリシーズ様のように、然りげ無く格好良いことが出来たらいいけど、私には色々足りませんの。だから少しだけ協力してくださいな。
「これでいいですか?」
ユリシーズ様は何故かその場に跪いてしまわれました。
「えっ、え?そこまでしなくても」
「中腰よりこちらの方が楽なんです」
なるほど。確かにそうね。中腰は腰を痛めてしまうわ。
では、あらためて。
「ユリシーズ様。私は貴方の婚約者になれて本当に感謝しております」
「うん。私も何と運が良かったのかと」
「この様な縁を繋いで下さった両親にも感謝をしておりますわ」
「そうだな、私もだ」
ああ、ドキドキする。でも、この気持ちを過たずに伝えたい。
「あの。嫌だったら殴って下さいね?」
「……君を殴るはずないだろう」
「いいのですか?私、本気ですわよ?」
「もちろん。貴方の本気なら何でも嬉しい」
うぅ~っ、この素敵男子めっ!
がんばれ、負けるな私っ!
「ではっ、お覚悟をっ!!」
ちゅっ
…………………っぷはっ
ふぅっ、息を止めてしまいましたわ……。
「すみません、大丈夫そうですか?」
してしまいました。ちゅって、ちゅってしてしまいました!
「あの?ユリシーズ様?」
「…抱き締めさせて」
「え、」
おもむろに立ち上がったかと思うと、力いっぱい抱き締められました。
「きゃあっ!」
「も、本っっっ当に読めないな!君はっ!!」
「苦しいですぅ~~っ」
「私の胸も苦しいっ!もう駄目、好き、可愛い、持って帰りたいっ!!」
ん?……もしかして、ポッケに入れたかったのは私ですか?
「怒ってません?」
「なぜ?…あ~確かに理性との戦いだけどな。あと何ヶ月待たないといけないんだっけ?もう、明日結婚してもいいんじゃないかな」
ああ、ちっさい可愛いやらかいいい匂いがする、と恥ずかしい呪文が耳元に注がれて、私はもう限界です!
いい匂いはユリシーズ様ですから!!
ぺしぺしとタップをして、限界を訴えます。
「私を殺す気ですか!」
「先に私の息の根を止めかけたのは君だろう!」
ぐぬぬっ、と睨み合いながら、はて、何を争っているのかしら。と我に返りました。
「あぁ、まさかジャスミン嬢に私のファーストキスを奪われるとは思わなかった」
「はっ!?」
ふぁーすと……初めてですと!?
「何だよ、その顔は。女嫌いだったのに誰とキスするんだ?……あ、ウソ。アイヴィーとは何度かキスしたわ。何ならデイジーとも」
「……猫ちゃんは許します。なんなら私もしましたよ」
アイヴィーとデイジーはオーウェル家の美猫姉妹です。
「私の初キッスを捧げたつもりでしたのに」
「……うそ。すっげぇ嬉しくて死にそう。
大好きだよ、ジャスミン」
優しく頬を包み込み、そっと口付けられました。
「…わたしのこと、すき?」
「好きだよ。いつの間にか大好きになってた。
ジャスミン。始まりは政略だったけど、貴方のことが本当に愛おしいと思うよ」
「……勇気を出してよかった」
「頑張ってくれてありがとうな」
そう言って、今度は優しく抱き締めながら、額に、頬にと口付けてくれる。
「ユリシーズ様が頑張ってくれたから。
さっきは本当に素敵だった。一等格好いい私のユリシーズ様。大好きですっ」
彼の首に手を回し、ギュッと抱き着く。
この思いが伝わって欲しくて、この喜びを分け与えたくて。
「……がんばれ、おれの理性」
ユリシーズ様がまた呪文を呟いています。
あら?どうしましょう。どのタイミングで手を離したらいいの?
えと、えっとえっと、と焦っていると、クククッ、とユリシーズ様が笑っています。
「全部全部初めてなんです。…笑わないで?」
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