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14.変わっていく(J)
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「踊れるようになったと豪語していたのはどなただったかしら」
「こんなはずでは……」
おかしいです。3度目の練習では、かなり踊れるようになったはずでしたのに!
「…どうやらユリシーズ様が見せて下さった夢だったみたいです」
「よっぽど騎士様のリードが上手いのか、貴方が安心して自分を任せられているのかってことね」
「それって……ユリシーズ様となら踊れるということ?」
「だって踊れたのでしょう?」
なんだ。それならば何も困らないではありませんか!
「いえ、困ると思うわよ?ダンスの授業の度に足を痛める男子生徒が増えるのだもの」
「ユリシーズ様みたいに避けて下さるとありがたいのですけど」
「貴方って実は男性が苦手よね」
「……苦手というか、すぐに大きな声を出したりするから得意ではないの」
「皆が皆大声ではないわよ?」
でも、男性は少し怖いわ。怒鳴られると如何していいか分からなくなるから。
大きな体も、低い声も、威圧的な態度も。
……私を女だからと馬鹿にするし。
「もしかして誰かに虐められたの?」
「…ううん。もう昔のことだから」
大した話では無い。私の質問が気に入らなかった男の子に怒鳴られた。ただ、それだけ。
でもその時に分かったの。私は変なんだって。
だから本当は結婚したくなかった。
だけど、それは無理だって分かっていたから、お父様にお願いしたわ。
怖い顔で怒ると更に怖くなりそうだから、出来れば普通くらいのお顔の方で。
お馬鹿な方はすぐに怒りそうだから程々の知性のある方だとありがたい。
権力を持つと威張りそうだから、高位貴族の嫡男は嫌。
それなのに。お父様が選んだのは、やたらとお顔と運動神経の良い、ちょっと女性が苦手だけれど、誠実でお優しいユリシーズ様だった。
「……ユリシーズ様に振られちゃったら、誰とも踊れなくなるわね」
それは少し寂しいと思いました。
♢♢♢
「お嬢様、プレゼントが届きましたよ」
これは……例のドレスですよね?
箱を開けるのがドキドキします。
「わっ、綺麗っ!」
ドレスは海のような少し緑がかった青で、まるでユリシーズ様の瞳のようです。
繊細な真珠のアクセサリーに、淡い薄紅の花飾り。靴すらも美しいだなんて、如何したらいいのでしょう。
「まあ、素敵なドレス。あらあら、これは彼の瞳のお色ね。アクセサリーのプラチナは髪色だし。意外にも独占欲が強いのかしら」
「なっ!?」
ど、ど、ど、独占欲?誰が……誰を!?
「ない。ないないないないないっ、無いから!」
…でも、私の特別が嬉しいって言ってくれたわ。
う~~っ、違うからっ!初めての夜会に浮かれ過ぎだわ。こんなの違う、私じゃないよぉっ!
「真っ赤で可愛いこと。初々しいわねぇ」
「やめて、お母様!変に意識しちゃうから!」
「婚約者よ?意識していいじゃない」
「……婚約者と恋人は違うでしょう?」
「知ってる?結婚式には誓いのキスがあるわよ?その後は体を重ねるの。義務として行うよりも、愛があった方が幸せよ。特に女性はね」
どうして今そんなことを言うの?
「ふふっ、泣きそうにしても駄目よ。ただ仲良くしているだけなのは、何も傷付かなくて楽しいだろうけど。
貴方達は婚約したの。結婚が決まっているのよ。
だから目を逸らさないで。ちゃんと結婚を意識してお付き合いしなさい。
彼のことが嫌いではない、では無く、好きになってきているのではないの?」
……すき。ちゃんと好きよ?
「ユリシーズ様は優しいの」
「そう」
「私の話をね、馬鹿にしない、怒らない。呆れはするけどちゃんと聞いてくれる」
「そうなのね」
「……ユリシーズ様の手は、安心出来るわ」
「貴方は彼を信頼しているのね」
「もちろんよ。でも、恋って何?どうしたら恋なの?友愛との違いってどこ?」
本を読んでも、お芝居を見ても、いろんな形があってどれが正解か分からない。
「貴方なりの愛が見つけられるといいわね」
「……お母様はどうやって見つけたの?」
「そうねぇ。あの人の、少し気が弱くて、お人好しで。そんな姿が愛しいと思ったわ」
「あんまり格好良くないよ」
「あら。そんな少し駄目な所が、私にとっては愛すべきところよ」
駄目な所が愛しいの?
「だって、お互いに自然な姿が見せられるっていいじゃない?
強いだけじゃなくて、綺麗なだけじゃなくて。弱かったり、みっともなかったりする姿だって自分よ。
貴方の好奇心だってそうでしょう?」
私の好奇心。そうね、きっと美しいものではないわ。
そんな私をユリシーズ様は認めてくれた。
「私もそんなふうになれるかしら」
「逃げなければね?貴方は時折傷付きたくなくて逃げてしまうから。でも、もうすぐ貴方は私達の庇護下から抜けてしまう。騎士の妻になるの。そろそろ子供の時間は終わりだわ」
「……寂しい」
「何を言ってるの?こ~んなに素敵なドレスを手に入れた淑女が!」
この綺麗な、彼の瞳の色のドレスを纏えることは嬉しい。彼と手を繋ぐのは私であってほしい。
これは、友愛?憧れ?
───それとも、恋なの?
「こんなはずでは……」
おかしいです。3度目の練習では、かなり踊れるようになったはずでしたのに!
「…どうやらユリシーズ様が見せて下さった夢だったみたいです」
「よっぽど騎士様のリードが上手いのか、貴方が安心して自分を任せられているのかってことね」
「それって……ユリシーズ様となら踊れるということ?」
「だって踊れたのでしょう?」
なんだ。それならば何も困らないではありませんか!
「いえ、困ると思うわよ?ダンスの授業の度に足を痛める男子生徒が増えるのだもの」
「ユリシーズ様みたいに避けて下さるとありがたいのですけど」
「貴方って実は男性が苦手よね」
「……苦手というか、すぐに大きな声を出したりするから得意ではないの」
「皆が皆大声ではないわよ?」
でも、男性は少し怖いわ。怒鳴られると如何していいか分からなくなるから。
大きな体も、低い声も、威圧的な態度も。
……私を女だからと馬鹿にするし。
「もしかして誰かに虐められたの?」
「…ううん。もう昔のことだから」
大した話では無い。私の質問が気に入らなかった男の子に怒鳴られた。ただ、それだけ。
でもその時に分かったの。私は変なんだって。
だから本当は結婚したくなかった。
だけど、それは無理だって分かっていたから、お父様にお願いしたわ。
怖い顔で怒ると更に怖くなりそうだから、出来れば普通くらいのお顔の方で。
お馬鹿な方はすぐに怒りそうだから程々の知性のある方だとありがたい。
権力を持つと威張りそうだから、高位貴族の嫡男は嫌。
それなのに。お父様が選んだのは、やたらとお顔と運動神経の良い、ちょっと女性が苦手だけれど、誠実でお優しいユリシーズ様だった。
「……ユリシーズ様に振られちゃったら、誰とも踊れなくなるわね」
それは少し寂しいと思いました。
♢♢♢
「お嬢様、プレゼントが届きましたよ」
これは……例のドレスですよね?
箱を開けるのがドキドキします。
「わっ、綺麗っ!」
ドレスは海のような少し緑がかった青で、まるでユリシーズ様の瞳のようです。
繊細な真珠のアクセサリーに、淡い薄紅の花飾り。靴すらも美しいだなんて、如何したらいいのでしょう。
「まあ、素敵なドレス。あらあら、これは彼の瞳のお色ね。アクセサリーのプラチナは髪色だし。意外にも独占欲が強いのかしら」
「なっ!?」
ど、ど、ど、独占欲?誰が……誰を!?
「ない。ないないないないないっ、無いから!」
…でも、私の特別が嬉しいって言ってくれたわ。
う~~っ、違うからっ!初めての夜会に浮かれ過ぎだわ。こんなの違う、私じゃないよぉっ!
「真っ赤で可愛いこと。初々しいわねぇ」
「やめて、お母様!変に意識しちゃうから!」
「婚約者よ?意識していいじゃない」
「……婚約者と恋人は違うでしょう?」
「知ってる?結婚式には誓いのキスがあるわよ?その後は体を重ねるの。義務として行うよりも、愛があった方が幸せよ。特に女性はね」
どうして今そんなことを言うの?
「ふふっ、泣きそうにしても駄目よ。ただ仲良くしているだけなのは、何も傷付かなくて楽しいだろうけど。
貴方達は婚約したの。結婚が決まっているのよ。
だから目を逸らさないで。ちゃんと結婚を意識してお付き合いしなさい。
彼のことが嫌いではない、では無く、好きになってきているのではないの?」
……すき。ちゃんと好きよ?
「ユリシーズ様は優しいの」
「そう」
「私の話をね、馬鹿にしない、怒らない。呆れはするけどちゃんと聞いてくれる」
「そうなのね」
「……ユリシーズ様の手は、安心出来るわ」
「貴方は彼を信頼しているのね」
「もちろんよ。でも、恋って何?どうしたら恋なの?友愛との違いってどこ?」
本を読んでも、お芝居を見ても、いろんな形があってどれが正解か分からない。
「貴方なりの愛が見つけられるといいわね」
「……お母様はどうやって見つけたの?」
「そうねぇ。あの人の、少し気が弱くて、お人好しで。そんな姿が愛しいと思ったわ」
「あんまり格好良くないよ」
「あら。そんな少し駄目な所が、私にとっては愛すべきところよ」
駄目な所が愛しいの?
「だって、お互いに自然な姿が見せられるっていいじゃない?
強いだけじゃなくて、綺麗なだけじゃなくて。弱かったり、みっともなかったりする姿だって自分よ。
貴方の好奇心だってそうでしょう?」
私の好奇心。そうね、きっと美しいものではないわ。
そんな私をユリシーズ様は認めてくれた。
「私もそんなふうになれるかしら」
「逃げなければね?貴方は時折傷付きたくなくて逃げてしまうから。でも、もうすぐ貴方は私達の庇護下から抜けてしまう。騎士の妻になるの。そろそろ子供の時間は終わりだわ」
「……寂しい」
「何を言ってるの?こ~んなに素敵なドレスを手に入れた淑女が!」
この綺麗な、彼の瞳の色のドレスを纏えることは嬉しい。彼と手を繋ぐのは私であってほしい。
これは、友愛?憧れ?
───それとも、恋なの?
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