56 / 65
55.ちゃんと見てる(2)
しおりを挟む
『ちゃんと見てるからね』
ウィリアムの言葉。あれは、頑張る姿を見ているのではない。私がこれ以上愚行を侵さないように見張っているということだろう。
アシュ…、マクレガー夫人が諭してくれたおかげで、何とか首の皮一枚で繋がっている状況だ。
「何とも情けない……」
はぁあぁぁ…、と大きなため息が漏れた。
あんなにも小さな子供にすら分かってしまう、許されたいと足掻く醜さが本当に恥ずかしいと……そう。ようやっと、本当の本当に恥ずかしいと気付かされたのだ。
今まで、何度となく反省したつもりだった。
だから許されるはずだと、5年も経ったのだから、もう終わってもいいだろうと思っていた。
それを見透かされていたのだろう。
マクレガー氏が夫人からの手紙を届けに来たのは、そんな本当の反省も後悔もしていない私を表に引きずり出すためだったのだ。
案の定、新たに甘える先を求めて私はアシュリーを探し回った。そしてようやく会えて謝罪をして……許しの言葉を求めてしまった。
──よりにもよってウィリアムの前で。
「あの子の方がよっぽどしっかりしている」
おかげで私のもう一つの罪にも気付くことが出来た。
別館に来るのは久しぶりだ。
5年前、コーデリアと再婚してからは、本館に私達が、別館には母上が住むようになった。
母上を執務から外す為と、子供達と距離を置く為だった。だけど……
「母上、ご無沙汰しております。お加減はいかがですか?」
あれから母上とはあまり会わないようにしていた。すべては母のせいだと……罪を擦り付けたのだ。
「……珍しいわね。貴方が来るなんて」
久しぶりに会う母はすっかりと小さくなってしまっていた。幼い頃からずっと逆らうことは許されないと、そう思っていたのに。
「体調を崩されていると聞きました」
「……もう年ですもの。ガタがくるのは仕方のないことですよ」
だが、母上はまだ50を越えたばかりなのに。
「…母上、ずっと甘えてばかりで申し訳ありませんでした」
痩せ細った姿に胸が痛んだ。
ここまで追い詰めたのは間違いなく私だ。
自分の愛する子供に断罪される痛みを、私はようやく理解した。
「自分の至らなさを、すべては母上が悪いのだと逃げていました。……選んだのは私だったのに」
だって、学園に通わず、アシュリーと共に仕事を学ぶ事だって出来た。
卒業してすぐに商会の仕事に参加することだって出来た。
あの医師との仲を嫉妬するから距離を置いてくれと素直に相談することも出来た。
アシュリーを妬まず、仕事を教えて欲しいと言うことだって出来た。
媚薬を飲まされて不貞を犯したことを謝罪することだって……
「……どうしてお前も悪いくせにと言わなかったのですか」
母上を執務から外すと告げた時、母上は信じられないものを見たかのように目を見開き………その後は何も弁明はせず、粛々と裁きを受けた。
「もうねえ、分からなかったの」
「……何がです?」
「私が何を守りたかったのか。
あの人を喪って、大切な我が子を喪って。
悲しくて如何しようもないのに債権者からの取り立てやなんやと大騒ぎで。何とかこの家を……貴方を守らなくてはと……ずっとそう思っていたはずなのに。
私はどこで道を過ってしまったの?
守りたかったはずの貴方に憎まれて……
……あの人が死んだ時、私も儚くなってしまえばよかったのかしら」
私はなんということをっ!
「母上はちゃんと私を守って下さいました。
アシュリーを娶らせて下さってありがとうございます。彼女は本当に素晴らしい女性でした。
ただ、私が子供過ぎて大切に出来なかっただけです。
それでも、ウィリアムという可愛い息子を得ることが出来ました。
コーデリアだって。こんな碌でもない男に嫁いでくれて、自分の子供でもないウィリアムを誰よりも大切に育ててくれましたし、フェリックスとエリサという宝物も増えました。
まあ、そちらも私のせいで怒らせてしまったのですが」
「……ふふ、貴方は本当に困った子ねぇ」
はい。本当にそうなのです。
どこまでも馬鹿で甘えたで鈍い。救いようの無い駄目男なのですよ。
「それでも、今度は私が母上を守りますから」
こんなにもみっともないのに、それでも見ていてくれるとウィリアムが言ってくれたのだ。
今度こそ本当に変わってみせるから。
「だから母上はもう心配しないで下さい」
「……コーデリアを怒らせたと聞いた時点でまったく安心できないけれど?」
あ、あれ?そこは嬉しいと言う所では!?
「いや、本当です!これ以上馬鹿なことをするとマクレガー氏に子供達を奪われてしまいますから本気で頑張ります!」
「ああ、マクギニス侯爵の弟君ね」
「え!?」
「あらやだ。知らないで怯えていたの?」
どうりで威圧的だと……
「とにかく!本当に頑張りますから!」
ああ、まったく格好が悪くて仕方がない。でも、これが私なのだから。
母上はあまり信じていないようだ。
もうすぐ父上達に会えるのを一番の楽しみにしていると言われてしまった。
期待されるのが辛い思っていたはずなのに、期待されないことはもっと辛いのだと、これもようやく分かったことだ。
ここまで堕ちてしまったのだと笑うしかないが、まだすべてを失ってはいない。
「ここで頑張らなかったら正真正銘のど阿呆だ」
ウィリアムが見ていてくれる。
諦めるな。前を向け!
「出来る、頑張れる」
言霊というものが本当にあるのなら。
「今度こそ家族を守る」
ウィリアムの言葉。あれは、頑張る姿を見ているのではない。私がこれ以上愚行を侵さないように見張っているということだろう。
アシュ…、マクレガー夫人が諭してくれたおかげで、何とか首の皮一枚で繋がっている状況だ。
「何とも情けない……」
はぁあぁぁ…、と大きなため息が漏れた。
あんなにも小さな子供にすら分かってしまう、許されたいと足掻く醜さが本当に恥ずかしいと……そう。ようやっと、本当の本当に恥ずかしいと気付かされたのだ。
今まで、何度となく反省したつもりだった。
だから許されるはずだと、5年も経ったのだから、もう終わってもいいだろうと思っていた。
それを見透かされていたのだろう。
マクレガー氏が夫人からの手紙を届けに来たのは、そんな本当の反省も後悔もしていない私を表に引きずり出すためだったのだ。
案の定、新たに甘える先を求めて私はアシュリーを探し回った。そしてようやく会えて謝罪をして……許しの言葉を求めてしまった。
──よりにもよってウィリアムの前で。
「あの子の方がよっぽどしっかりしている」
おかげで私のもう一つの罪にも気付くことが出来た。
別館に来るのは久しぶりだ。
5年前、コーデリアと再婚してからは、本館に私達が、別館には母上が住むようになった。
母上を執務から外す為と、子供達と距離を置く為だった。だけど……
「母上、ご無沙汰しております。お加減はいかがですか?」
あれから母上とはあまり会わないようにしていた。すべては母のせいだと……罪を擦り付けたのだ。
「……珍しいわね。貴方が来るなんて」
久しぶりに会う母はすっかりと小さくなってしまっていた。幼い頃からずっと逆らうことは許されないと、そう思っていたのに。
「体調を崩されていると聞きました」
「……もう年ですもの。ガタがくるのは仕方のないことですよ」
だが、母上はまだ50を越えたばかりなのに。
「…母上、ずっと甘えてばかりで申し訳ありませんでした」
痩せ細った姿に胸が痛んだ。
ここまで追い詰めたのは間違いなく私だ。
自分の愛する子供に断罪される痛みを、私はようやく理解した。
「自分の至らなさを、すべては母上が悪いのだと逃げていました。……選んだのは私だったのに」
だって、学園に通わず、アシュリーと共に仕事を学ぶ事だって出来た。
卒業してすぐに商会の仕事に参加することだって出来た。
あの医師との仲を嫉妬するから距離を置いてくれと素直に相談することも出来た。
アシュリーを妬まず、仕事を教えて欲しいと言うことだって出来た。
媚薬を飲まされて不貞を犯したことを謝罪することだって……
「……どうしてお前も悪いくせにと言わなかったのですか」
母上を執務から外すと告げた時、母上は信じられないものを見たかのように目を見開き………その後は何も弁明はせず、粛々と裁きを受けた。
「もうねえ、分からなかったの」
「……何がです?」
「私が何を守りたかったのか。
あの人を喪って、大切な我が子を喪って。
悲しくて如何しようもないのに債権者からの取り立てやなんやと大騒ぎで。何とかこの家を……貴方を守らなくてはと……ずっとそう思っていたはずなのに。
私はどこで道を過ってしまったの?
守りたかったはずの貴方に憎まれて……
……あの人が死んだ時、私も儚くなってしまえばよかったのかしら」
私はなんということをっ!
「母上はちゃんと私を守って下さいました。
アシュリーを娶らせて下さってありがとうございます。彼女は本当に素晴らしい女性でした。
ただ、私が子供過ぎて大切に出来なかっただけです。
それでも、ウィリアムという可愛い息子を得ることが出来ました。
コーデリアだって。こんな碌でもない男に嫁いでくれて、自分の子供でもないウィリアムを誰よりも大切に育ててくれましたし、フェリックスとエリサという宝物も増えました。
まあ、そちらも私のせいで怒らせてしまったのですが」
「……ふふ、貴方は本当に困った子ねぇ」
はい。本当にそうなのです。
どこまでも馬鹿で甘えたで鈍い。救いようの無い駄目男なのですよ。
「それでも、今度は私が母上を守りますから」
こんなにもみっともないのに、それでも見ていてくれるとウィリアムが言ってくれたのだ。
今度こそ本当に変わってみせるから。
「だから母上はもう心配しないで下さい」
「……コーデリアを怒らせたと聞いた時点でまったく安心できないけれど?」
あ、あれ?そこは嬉しいと言う所では!?
「いや、本当です!これ以上馬鹿なことをするとマクレガー氏に子供達を奪われてしまいますから本気で頑張ります!」
「ああ、マクギニス侯爵の弟君ね」
「え!?」
「あらやだ。知らないで怯えていたの?」
どうりで威圧的だと……
「とにかく!本当に頑張りますから!」
ああ、まったく格好が悪くて仕方がない。でも、これが私なのだから。
母上はあまり信じていないようだ。
もうすぐ父上達に会えるのを一番の楽しみにしていると言われてしまった。
期待されるのが辛い思っていたはずなのに、期待されないことはもっと辛いのだと、これもようやく分かったことだ。
ここまで堕ちてしまったのだと笑うしかないが、まだすべてを失ってはいない。
「ここで頑張らなかったら正真正銘のど阿呆だ」
ウィリアムが見ていてくれる。
諦めるな。前を向け!
「出来る、頑張れる」
言霊というものが本当にあるのなら。
「今度こそ家族を守る」
1,595
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務
ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。
婚約者が、王女に愛を囁くところを。
だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。
貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。
それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる