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28.五年後(3)
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……思い出したら胃が痛くなってきた。
あの後はもう彼の独壇場であった。
スペンサー家の顧問弁護士にも協力してもらったが、如何せんクィントン伯爵家と結んだ契約書が存在していた。そして、その契約通りに子供も出来てしまった。どう考えても離婚をすることを私自身が望んでいるとしか思えない状況なのだ。
更に、これ以上抵抗するならば、ウィリアムの親権争いも辞さないと言われ、顧問弁護士も大慌てだ。
契約書にはウィリアムを後継者とする旨が書かれている為、負けることはないと思うが、このまま裁判になればとんだ醜聞だ。
それこそウィリアムの将来にも傷が付く。
建設的な考えが円満離婚というのは本当の事だった。
アシュリーの要望は少なかった。
ウィリアムを守ること。
覚書の通り、母上からの全権限の剥奪。
そして、契約通りにコーデリアを妻に迎え、お腹の子供を婚外子にしないことだった。
但し、今後はクィントン伯爵家からの手出しは一切許さないようにと付け加えられた。
「……なぜコーデリアを許すんだ」
私はどうしてもそれが納得出来なかった。
「許すも何も、貴族令嬢が親の決定に逆らえないことを知っているから。幼い頃から婚外子として虐げられてきた彼女に何が出来たと言うの?
子供だからと逃げていた貴方にだけは言って欲しくありません。
それに、貴方は必ず妻が必要な人でしょう。
貴方を愛し慰める女性という存在が無ければ駄目になるタイプだと思うのよ。
だから、一生再婚しないなんてきっと出来ないわ。なんなら離婚の辛さからお酒に逃げて酔った挙句に行きずりの女性に手を出すかもって考えたら」
「そんなことしない!」
「信じられるわけ無いでしょう?私が辛い時に自分可愛さでコーデリア様を抱き続けてきたくせに」
そう言われると……でも、そんな……。
「だから、変な女の人に引っかかってウィリアムが虐げられる心配をするくらいならコーデリア様がいいと思ったの。
だって彼女は親に愛されない子どもの気持ちが誰よりも分かる人だから。きっとウィリアムを愛する努力をしてくれると信じられる」
……コーデリアだって君を傷付けたのに。
自分の罪を棚上げに、コーデリアを罪の中に引きずり込もうとする自分の汚さに泣きたくなる。
私はアシュリーを愛していると言いながら、ただ慰めが欲しくて抱いていたのだろうか?
「彼女を舐めない方がいいわよ?貴方よりよっぽと根性があるもの。それに冷静で頭もいい。きっと貴方より早く、伯爵夫人としての手腕を振るえるようになると思うわ。
それでも、何度でも言うわね。
本当に後悔しているのなら、ウィリアムの父として恥ずかしくない人になって。そして家族を幸せにしてあげて?私の願いはそれだけよ」
離婚に合意してからはあっという間だった。
慰謝料の金額が決まり、商会の権利などの話し合いも済むと、アシュリーはあっさりとこの家を出て行ってしまった。
その後の住まいの話などは一切教えてもらえず、彼女の無事を知ることが出来るのはウィリアム宛の手紙だけだった。
……何だか緊張する。
じわりと手のひらが汗ばむ。
それは、まったく敵わなかった男に会うせいなのか。
「お久しぶりですね、マクレガーさん」
泰然とした姿は5年前と然程変わっていない。
「5年ぶりですか。お元気でいらっしゃいましたか?」
「そうですね。まあ、元気でやっております」
そんな当たり障りの無い言葉を交わすが、彼が何の為にここに来たのかが分からない。
「……あの、今日はどういったご用件で来られたのでしょうか」
「ああ、突然申し訳ありません。どうしようかずっと悩んでいたのですが、ようやく決心が付いてここまで来た次第です」
そう言うと、何やら箱を取り出した。
「……これは?」
「預かりものです。本来であれば伯爵宛の物では無いのですが、貴方に渡すのが一番良いように思いましたので」
そう言って渡された箱はずしりと重く感じた。
「…何が入っているのですか?」
「どうぞ。開けてくださって結構ですよ」
……なんだ?その異様な雰囲気にのまれつつも、中が気になってしまう。
でも、開けてはいけない気もして──。
「間違っても動物の死骸なんかは入っていませんよ」
「……そんなことは考えもしませんでした」
余計に不安になりながらも蓋に手を掛ける。
恐る恐る開けた箱の中には、同じような物が沢山入っていた。
白であったり水色であったりと、多少色や形に違いはあるが危険な物ではなく、ふわりと優しい香りすらする。
その中から一つだけ取り出して愕然とした。
「……何故、貴方がこれを?」
「妻に託された大切な物ですから」
そこには、見覚えのある美しい文字が記されていた。
それはウィリアムに宛てた、アシュリーからの手紙だった。
あの後はもう彼の独壇場であった。
スペンサー家の顧問弁護士にも協力してもらったが、如何せんクィントン伯爵家と結んだ契約書が存在していた。そして、その契約通りに子供も出来てしまった。どう考えても離婚をすることを私自身が望んでいるとしか思えない状況なのだ。
更に、これ以上抵抗するならば、ウィリアムの親権争いも辞さないと言われ、顧問弁護士も大慌てだ。
契約書にはウィリアムを後継者とする旨が書かれている為、負けることはないと思うが、このまま裁判になればとんだ醜聞だ。
それこそウィリアムの将来にも傷が付く。
建設的な考えが円満離婚というのは本当の事だった。
アシュリーの要望は少なかった。
ウィリアムを守ること。
覚書の通り、母上からの全権限の剥奪。
そして、契約通りにコーデリアを妻に迎え、お腹の子供を婚外子にしないことだった。
但し、今後はクィントン伯爵家からの手出しは一切許さないようにと付け加えられた。
「……なぜコーデリアを許すんだ」
私はどうしてもそれが納得出来なかった。
「許すも何も、貴族令嬢が親の決定に逆らえないことを知っているから。幼い頃から婚外子として虐げられてきた彼女に何が出来たと言うの?
子供だからと逃げていた貴方にだけは言って欲しくありません。
それに、貴方は必ず妻が必要な人でしょう。
貴方を愛し慰める女性という存在が無ければ駄目になるタイプだと思うのよ。
だから、一生再婚しないなんてきっと出来ないわ。なんなら離婚の辛さからお酒に逃げて酔った挙句に行きずりの女性に手を出すかもって考えたら」
「そんなことしない!」
「信じられるわけ無いでしょう?私が辛い時に自分可愛さでコーデリア様を抱き続けてきたくせに」
そう言われると……でも、そんな……。
「だから、変な女の人に引っかかってウィリアムが虐げられる心配をするくらいならコーデリア様がいいと思ったの。
だって彼女は親に愛されない子どもの気持ちが誰よりも分かる人だから。きっとウィリアムを愛する努力をしてくれると信じられる」
……コーデリアだって君を傷付けたのに。
自分の罪を棚上げに、コーデリアを罪の中に引きずり込もうとする自分の汚さに泣きたくなる。
私はアシュリーを愛していると言いながら、ただ慰めが欲しくて抱いていたのだろうか?
「彼女を舐めない方がいいわよ?貴方よりよっぽと根性があるもの。それに冷静で頭もいい。きっと貴方より早く、伯爵夫人としての手腕を振るえるようになると思うわ。
それでも、何度でも言うわね。
本当に後悔しているのなら、ウィリアムの父として恥ずかしくない人になって。そして家族を幸せにしてあげて?私の願いはそれだけよ」
離婚に合意してからはあっという間だった。
慰謝料の金額が決まり、商会の権利などの話し合いも済むと、アシュリーはあっさりとこの家を出て行ってしまった。
その後の住まいの話などは一切教えてもらえず、彼女の無事を知ることが出来るのはウィリアム宛の手紙だけだった。
……何だか緊張する。
じわりと手のひらが汗ばむ。
それは、まったく敵わなかった男に会うせいなのか。
「お久しぶりですね、マクレガーさん」
泰然とした姿は5年前と然程変わっていない。
「5年ぶりですか。お元気でいらっしゃいましたか?」
「そうですね。まあ、元気でやっております」
そんな当たり障りの無い言葉を交わすが、彼が何の為にここに来たのかが分からない。
「……あの、今日はどういったご用件で来られたのでしょうか」
「ああ、突然申し訳ありません。どうしようかずっと悩んでいたのですが、ようやく決心が付いてここまで来た次第です」
そう言うと、何やら箱を取り出した。
「……これは?」
「預かりものです。本来であれば伯爵宛の物では無いのですが、貴方に渡すのが一番良いように思いましたので」
そう言って渡された箱はずしりと重く感じた。
「…何が入っているのですか?」
「どうぞ。開けてくださって結構ですよ」
……なんだ?その異様な雰囲気にのまれつつも、中が気になってしまう。
でも、開けてはいけない気もして──。
「間違っても動物の死骸なんかは入っていませんよ」
「……そんなことは考えもしませんでした」
余計に不安になりながらも蓋に手を掛ける。
恐る恐る開けた箱の中には、同じような物が沢山入っていた。
白であったり水色であったりと、多少色や形に違いはあるが危険な物ではなく、ふわりと優しい香りすらする。
その中から一つだけ取り出して愕然とした。
「……何故、貴方がこれを?」
「妻に託された大切な物ですから」
そこには、見覚えのある美しい文字が記されていた。
それはウィリアムに宛てた、アシュリーからの手紙だった。
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