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「ちょっと!部長も主任もこんな所で寝ないでくださいよ!」
「…へ?」
眠い目を擦りながらキョロキョロとあたりを見渡す。あ、研究室だ。
どうしても上手くいかない所があって、みんなで研究室に篭っていた。でも二徹目は可哀想だから一度帰宅を促して。でもあと少しだけとハルと二人で残っていたのよね。椅子が辛くなって、ソファーであーだこーだと検討しているうちにとうとうハルが死んだ。なんとなく勝ったと思いつつも仮眠用の毛布を引っ張ってきて、わたしも限界で一緒に寝てしまったのだ。
「猫の子じゃないんですから!未婚の男女がくっついて寝るんじゃありません!」
また叱られてしまった。これで何回目かしら。
「おはよ、エーファ。聞いて!昨日閃いたのよ、聞きたい?聞きたいわよね?」
「はいはい、とりあえず主任は部長を起こして、二人共顔洗って来てくださいよ。美形二人のくたびれた姿は見るに耐えません」
酷いことを言われたわ。ちらりとハルを見る。くたびれてても綺麗だと思うけどね。
「ハル、ハルト部長~。朝よ起きて、昨日の話を皆にしなきゃ!」
「……おはよ。ロッテは元気だね……昨日……なんだっけ。ロッテが私のお肉を食べた……?」
いや、どんな夢よ。
「違うわよ。とにかく起きてください。顔を洗いにいきましょう」
「おはようございます、部長。ご飯用意しておきますから身支度してくださいね」
「あれ、エーファだ。そっか、昨日ね。うん、やっと分かったんだよね、あれはさ」
「だから!早く顔を洗ってきてください!」
この研究所で働き出してもう7年。私は25歳になった。それなのに勤務歴2年目、20歳のエーファに叱られる毎日なのよね。ここにいるとどんどん貴族子女から離脱していってるみたい。人間は年齢を重ねるだけでは立派な大人にはなれないらしい。
「エーファ、いつもありがとう」
「二人のようにお美しくて優秀な先輩に囲まれて仕事ができるなんて光栄だわ!と、胸を高鳴らせて入社した、18歳の女の子の純情を返してほしいですね」
あら、怒ってるわ。とっても怒っているのね。
「ごめんね?でも感謝してるわ」
「……あざといわ。小首かしげないでくださいよ。結局その可愛らしさに私は負けるんです!
仕事できるし!可愛いし!大好きです主任!」
「朝から告白?エーファは本当にロッテが大好きだね。あ、ご飯ありがとう」
「もちろん麗しい部長も尊敬しております!」
元気だな。若いって素晴らしいよね。
「おはようございます。朝からうるさいね。アンタ達はまた馬鹿やらかしたの?」
「ギル主任、おはよう。少し寝ちゃっただけだよ。騒がしくてごめんね」
「ギルベルト主任からも注意してくださいよ。二人がくっついて寝てる姿は眼福ですけど、未婚の男女としてはよろしくないです」
そう。信じられないことに、先輩ことギルベルト・アーベルさんは私達の同僚なんです。いまではハルと仲良く喧嘩する仲になりました。人生どう変わるか分からないものね。
ハルは開発部部長、私は開発部主任。ギルは研究部主任。部は違うけど、同じ所内なので仲良くしてます。
「お前達何歳だよ。その年でまだ常識がないの?同郷の人間として恥ずかしいから止めてくれますか」
仲良く……してるはず。
「ごめんね。でもさ、やっと次の段階に進めそうなんだよ。嬉しくってそのまま気持ち良く寝ちゃった」
「そうなの、急いでこれ食べちゃうわね!昨日分かったことを纏めてみんなに伝えなきゃ」
「私がやるからいいよ。ロッテは一度戻って着替えておいで」
「ん、じゃあお言葉に甘えようかな」
寝癖が付いててもなんかキラキラしててズルいなぁ。ちょちょいと手櫛で直してあげる。
「あれ、直ってなかった?」
「ふふ、後ろがはねてたわ」
「だから!そういうのを止めなさい!」
どうも私とハルの距離感がおかしいらしい。変だな。いつからだろう。
仕事が楽しくて、恋人なんか作る気にならなかった。ううん、仕事は言い訳だな。恋をしたいと思わなかった。性的な触れ合いも少し嫌悪感を持っていたし。
それはハルも同じで。だからかな?性的な意味を持たないハルの温もりは心地いい。ちょっと疲れた時、少し寂しい時。そっと寄り添ってくれる体温を手放し難くなってしまったのだ。
一人は寂しい。そんな年頃なのだろうか。
ギル先輩は2年前に結婚した。同じ研究部でギレッセン国の子爵令嬢だ。もうすぐ出産予定なのよね。
結婚か。実家は妹夫婦が継いでくれるし、お父様は自由にしていいと言ってくれた。結婚だけが幸せではないからと。
そうね、結婚がしたいかと言われるとよく分からない。フィデルとビアンカは結婚して二人の子供に恵まれている。アンナも一人子供を産んで、いまではバリバリ働いてるわ。
私は?私はどうしたいのかな。結婚したいわけじゃない。でも、ずっと一人なのかと思うと……少し寂しい。
そっか。赤ちゃん。恋も結婚もなくても困らない。でも赤ちゃんは……だんだん子供を産むには難しい年になっていく。タイムリミットがあるのだ。
本当にこのまま一人で10年後、20年後、後悔しないでいられるのだろうか……
「…へ?」
眠い目を擦りながらキョロキョロとあたりを見渡す。あ、研究室だ。
どうしても上手くいかない所があって、みんなで研究室に篭っていた。でも二徹目は可哀想だから一度帰宅を促して。でもあと少しだけとハルと二人で残っていたのよね。椅子が辛くなって、ソファーであーだこーだと検討しているうちにとうとうハルが死んだ。なんとなく勝ったと思いつつも仮眠用の毛布を引っ張ってきて、わたしも限界で一緒に寝てしまったのだ。
「猫の子じゃないんですから!未婚の男女がくっついて寝るんじゃありません!」
また叱られてしまった。これで何回目かしら。
「おはよ、エーファ。聞いて!昨日閃いたのよ、聞きたい?聞きたいわよね?」
「はいはい、とりあえず主任は部長を起こして、二人共顔洗って来てくださいよ。美形二人のくたびれた姿は見るに耐えません」
酷いことを言われたわ。ちらりとハルを見る。くたびれてても綺麗だと思うけどね。
「ハル、ハルト部長~。朝よ起きて、昨日の話を皆にしなきゃ!」
「……おはよ。ロッテは元気だね……昨日……なんだっけ。ロッテが私のお肉を食べた……?」
いや、どんな夢よ。
「違うわよ。とにかく起きてください。顔を洗いにいきましょう」
「おはようございます、部長。ご飯用意しておきますから身支度してくださいね」
「あれ、エーファだ。そっか、昨日ね。うん、やっと分かったんだよね、あれはさ」
「だから!早く顔を洗ってきてください!」
この研究所で働き出してもう7年。私は25歳になった。それなのに勤務歴2年目、20歳のエーファに叱られる毎日なのよね。ここにいるとどんどん貴族子女から離脱していってるみたい。人間は年齢を重ねるだけでは立派な大人にはなれないらしい。
「エーファ、いつもありがとう」
「二人のようにお美しくて優秀な先輩に囲まれて仕事ができるなんて光栄だわ!と、胸を高鳴らせて入社した、18歳の女の子の純情を返してほしいですね」
あら、怒ってるわ。とっても怒っているのね。
「ごめんね?でも感謝してるわ」
「……あざといわ。小首かしげないでくださいよ。結局その可愛らしさに私は負けるんです!
仕事できるし!可愛いし!大好きです主任!」
「朝から告白?エーファは本当にロッテが大好きだね。あ、ご飯ありがとう」
「もちろん麗しい部長も尊敬しております!」
元気だな。若いって素晴らしいよね。
「おはようございます。朝からうるさいね。アンタ達はまた馬鹿やらかしたの?」
「ギル主任、おはよう。少し寝ちゃっただけだよ。騒がしくてごめんね」
「ギルベルト主任からも注意してくださいよ。二人がくっついて寝てる姿は眼福ですけど、未婚の男女としてはよろしくないです」
そう。信じられないことに、先輩ことギルベルト・アーベルさんは私達の同僚なんです。いまではハルと仲良く喧嘩する仲になりました。人生どう変わるか分からないものね。
ハルは開発部部長、私は開発部主任。ギルは研究部主任。部は違うけど、同じ所内なので仲良くしてます。
「お前達何歳だよ。その年でまだ常識がないの?同郷の人間として恥ずかしいから止めてくれますか」
仲良く……してるはず。
「ごめんね。でもさ、やっと次の段階に進めそうなんだよ。嬉しくってそのまま気持ち良く寝ちゃった」
「そうなの、急いでこれ食べちゃうわね!昨日分かったことを纏めてみんなに伝えなきゃ」
「私がやるからいいよ。ロッテは一度戻って着替えておいで」
「ん、じゃあお言葉に甘えようかな」
寝癖が付いててもなんかキラキラしててズルいなぁ。ちょちょいと手櫛で直してあげる。
「あれ、直ってなかった?」
「ふふ、後ろがはねてたわ」
「だから!そういうのを止めなさい!」
どうも私とハルの距離感がおかしいらしい。変だな。いつからだろう。
仕事が楽しくて、恋人なんか作る気にならなかった。ううん、仕事は言い訳だな。恋をしたいと思わなかった。性的な触れ合いも少し嫌悪感を持っていたし。
それはハルも同じで。だからかな?性的な意味を持たないハルの温もりは心地いい。ちょっと疲れた時、少し寂しい時。そっと寄り添ってくれる体温を手放し難くなってしまったのだ。
一人は寂しい。そんな年頃なのだろうか。
ギル先輩は2年前に結婚した。同じ研究部でギレッセン国の子爵令嬢だ。もうすぐ出産予定なのよね。
結婚か。実家は妹夫婦が継いでくれるし、お父様は自由にしていいと言ってくれた。結婚だけが幸せではないからと。
そうね、結婚がしたいかと言われるとよく分からない。フィデルとビアンカは結婚して二人の子供に恵まれている。アンナも一人子供を産んで、いまではバリバリ働いてるわ。
私は?私はどうしたいのかな。結婚したいわけじゃない。でも、ずっと一人なのかと思うと……少し寂しい。
そっか。赤ちゃん。恋も結婚もなくても困らない。でも赤ちゃんは……だんだん子供を産むには難しい年になっていく。タイムリミットがあるのだ。
本当にこのまま一人で10年後、20年後、後悔しないでいられるのだろうか……
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