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公女に一目惚れしたわけではなかった。
そのことを知ることができて嬉しかった。
「殿下、私はあなたを─
「リーゼロッテ!ちょっと待った!!」
バンッ!と勢い良く扉が開き、息を切らせた先輩が飛び込んで来た。
「え、先輩どうして……」
「リーゼロッテ!俺は君が好きだ!!」
何?!どうして先輩が来たの?どうして突然告白してくるの?お父様も殿下もいるのに!!
ふたりの姿が目に入っていないのか、そのまま気にせず話し始める。
「入学式の時、殿下に笑いかける君の笑顔に一目惚れしました!婚約者がいるから泣く泣く諦めようとしたけど諦められなくて!そのうち殿下が君を裏切って公女と浮気してるのを知ってチャンスだと思いました!でも話し掛ける勇気が無くて、こっそり図書室で顔が見える席にさり気なく座って眺めるのが精一杯で!声を掛けられた時、本当は飛び上がるくらい嬉しかった!本好き仲間になれて毎日が楽しくて。殿下に君が傷付けられた時は本当に腹が立った。どうしてもっと早く俺は行動しなかったんだろうって。ムカつくからどさくさに紛れて殿下を殴るくらいしかできなくて、そんな自分が惨めだった。それでも、君は俺の事は怖がらないのが泣きたいくらい嬉しかった。殿下が再婚約を望んでるのを知った時、絶対に嫌だと思った。だから、できるだけ殿下と関わらないように仕向けたし、話し合えば変わるかもしれないのが嫌で、駄犬は無視しろって言った!君の幸せより自分の気持ちを優先して、ずるい助言もしてきた。ビアンカの言う通りだ。ずるくてごめん!でも、リーゼロッテを好きな気持ちは本当だ!好きです!俺と付き合ってください!!」
「……はい?」
怒涛の告白に頭がついていかない。
「オッケーってこと?!」
「違うから。ちょっと待ってください、先輩。今はあなたの番ではありません!周りを見て!」
お父様も殿下も呆然としている。
先輩は殿下が王族だということを忘れているのだろうか。学園では同級生でも、失礼なことをしていいわけではない。
たぶん先輩は執事を無視して走ってきたのだろう。執事も慌てて追いかけて来たが、いきなりの告白劇にこちらも固まっている。
「……先輩を別室に案内して」
「そんな!」
「先輩、ステイ!」
思わずワンちゃんへのコマンドを出してしまう。面白いことに先輩がピタッと止まった。
「私は殿下との話がまだ終わっていません。こちらの話は私自身がするべきことです。だから終わるまでは別室で待っててください。必ず行きますから」
「……分かった」
やっと気持ちが落ち着いたのか、お父様と殿下に謝罪をして退室した。
ふぅ、えっと何を話していたんだっけ。
さっきまでの気持ちが霧散してしまった。いえ、言う内容も気持ちも変える気はまったくないのだけど、感情だだ漏れの告白から、事務報告くらいの差が出そうだ。
「お騒がせして大変申し訳ありません。先程の続きから話させてもらってもよいでしょうか」
なんだか格好がつかないけど仕方がない。
先輩のバカ!
「私は殿下を許しません。あの時、魔法のせいにしないで真摯に謝って下されば許していたかもしれません。でもあなたはすべてを魔法のせいだからと上辺だけの謝罪で終わらせました。あの瞬間、私達の関係は終わったのです。
あなたは確かに被害者だわ。でも加害者でもあったの。どんな理由があったとしてもです。
ですから私は再婚約はいたしません」
「……そうか。魔法に掛かったからではなく、魔法のせいにして逃げたから駄目だったんだね」
「はい」
そのまま殿下を見つめる。
可哀想な人。魔法に掛からなければあのまま穏やかな人でいられたのだろう。だって婚約してから5年間、一度も暴力的な姿など見なかった。
王妃様はなぜ魔法のせいだからと慰めてしまったのだろう。そんな慰めがなければ、また違う未来があったのだろうか。
「先程もいいましたが、殿下は治療が必要だと思います。本当はまだお辛いのでしょう?」
「そうだね、君を失ったんだと思うと余計に駄目かな」
虚ろな目で眺める殿下の手のひらは微かに震えている。でも、ここで私が助けてはいけない。助けるのは私では無く、医師や魔法の研究者だ。
「殿下、私が城までお送りしましょう。たぶん一人にならないほうがいいと思います」
そう父が促すと、殿下はゆっくりと立ち上がる。私を見つめ、そっと手を出してくる。
「最後に」
お別れの握手くらいなら大丈夫よね?
そう思って手を伸ばすと、ぐいっ!と引き寄せられる。
「ちょっ、殿下?!」
いきなり抱き締められた!
「大好きだよ、リーゼ。今までありがとう」
「……私も大好きでした」
伝える言葉は過去形。そっと体を押して離れる。
「君は意外と迂闊だから気をつけたほうがいい」
「……ご忠告感謝いたします」
最後は小憎たらしい笑顔。
さようなら、殿下。
そのことを知ることができて嬉しかった。
「殿下、私はあなたを─
「リーゼロッテ!ちょっと待った!!」
バンッ!と勢い良く扉が開き、息を切らせた先輩が飛び込んで来た。
「え、先輩どうして……」
「リーゼロッテ!俺は君が好きだ!!」
何?!どうして先輩が来たの?どうして突然告白してくるの?お父様も殿下もいるのに!!
ふたりの姿が目に入っていないのか、そのまま気にせず話し始める。
「入学式の時、殿下に笑いかける君の笑顔に一目惚れしました!婚約者がいるから泣く泣く諦めようとしたけど諦められなくて!そのうち殿下が君を裏切って公女と浮気してるのを知ってチャンスだと思いました!でも話し掛ける勇気が無くて、こっそり図書室で顔が見える席にさり気なく座って眺めるのが精一杯で!声を掛けられた時、本当は飛び上がるくらい嬉しかった!本好き仲間になれて毎日が楽しくて。殿下に君が傷付けられた時は本当に腹が立った。どうしてもっと早く俺は行動しなかったんだろうって。ムカつくからどさくさに紛れて殿下を殴るくらいしかできなくて、そんな自分が惨めだった。それでも、君は俺の事は怖がらないのが泣きたいくらい嬉しかった。殿下が再婚約を望んでるのを知った時、絶対に嫌だと思った。だから、できるだけ殿下と関わらないように仕向けたし、話し合えば変わるかもしれないのが嫌で、駄犬は無視しろって言った!君の幸せより自分の気持ちを優先して、ずるい助言もしてきた。ビアンカの言う通りだ。ずるくてごめん!でも、リーゼロッテを好きな気持ちは本当だ!好きです!俺と付き合ってください!!」
「……はい?」
怒涛の告白に頭がついていかない。
「オッケーってこと?!」
「違うから。ちょっと待ってください、先輩。今はあなたの番ではありません!周りを見て!」
お父様も殿下も呆然としている。
先輩は殿下が王族だということを忘れているのだろうか。学園では同級生でも、失礼なことをしていいわけではない。
たぶん先輩は執事を無視して走ってきたのだろう。執事も慌てて追いかけて来たが、いきなりの告白劇にこちらも固まっている。
「……先輩を別室に案内して」
「そんな!」
「先輩、ステイ!」
思わずワンちゃんへのコマンドを出してしまう。面白いことに先輩がピタッと止まった。
「私は殿下との話がまだ終わっていません。こちらの話は私自身がするべきことです。だから終わるまでは別室で待っててください。必ず行きますから」
「……分かった」
やっと気持ちが落ち着いたのか、お父様と殿下に謝罪をして退室した。
ふぅ、えっと何を話していたんだっけ。
さっきまでの気持ちが霧散してしまった。いえ、言う内容も気持ちも変える気はまったくないのだけど、感情だだ漏れの告白から、事務報告くらいの差が出そうだ。
「お騒がせして大変申し訳ありません。先程の続きから話させてもらってもよいでしょうか」
なんだか格好がつかないけど仕方がない。
先輩のバカ!
「私は殿下を許しません。あの時、魔法のせいにしないで真摯に謝って下されば許していたかもしれません。でもあなたはすべてを魔法のせいだからと上辺だけの謝罪で終わらせました。あの瞬間、私達の関係は終わったのです。
あなたは確かに被害者だわ。でも加害者でもあったの。どんな理由があったとしてもです。
ですから私は再婚約はいたしません」
「……そうか。魔法に掛かったからではなく、魔法のせいにして逃げたから駄目だったんだね」
「はい」
そのまま殿下を見つめる。
可哀想な人。魔法に掛からなければあのまま穏やかな人でいられたのだろう。だって婚約してから5年間、一度も暴力的な姿など見なかった。
王妃様はなぜ魔法のせいだからと慰めてしまったのだろう。そんな慰めがなければ、また違う未来があったのだろうか。
「先程もいいましたが、殿下は治療が必要だと思います。本当はまだお辛いのでしょう?」
「そうだね、君を失ったんだと思うと余計に駄目かな」
虚ろな目で眺める殿下の手のひらは微かに震えている。でも、ここで私が助けてはいけない。助けるのは私では無く、医師や魔法の研究者だ。
「殿下、私が城までお送りしましょう。たぶん一人にならないほうがいいと思います」
そう父が促すと、殿下はゆっくりと立ち上がる。私を見つめ、そっと手を出してくる。
「最後に」
お別れの握手くらいなら大丈夫よね?
そう思って手を伸ばすと、ぐいっ!と引き寄せられる。
「ちょっ、殿下?!」
いきなり抱き締められた!
「大好きだよ、リーゼ。今までありがとう」
「……私も大好きでした」
伝える言葉は過去形。そっと体を押して離れる。
「君は意外と迂闊だから気をつけたほうがいい」
「……ご忠告感謝いたします」
最後は小憎たらしい笑顔。
さようなら、殿下。
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