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「お招きに与り光栄です、リーゼ。これ、よかったら受け取って?」
差し出されたのは私の好きな鈴蘭の花束と料理長お手製のアップルパイ。
懐かしくて優しい笑顔。まるで時が戻ったみたい。
「…ありがとう。わざわざ料理長が作ってくれたの?久しぶりだわ」
「うん、とびきり美味しく作るようにお願いしたんだ」
「ふふ、いつだってとびきり美味しいわ。
さぁ、中へどうぞ。父も待ってるから」
どうして今日は昔のあなたみたいなの?今更そんな姿を見ると泣きたくなる。
「リーゼ、会う機会を作ってくれてありがとう」
「ううん、私こそちゃんと話そうとしなくてごめんなさい」
応接室までの通路をポツポツと話しながら進む。
「お父様、お連れしました」
「殿下、お久しぶりです。わざわざお越し下さりありがとうございます」
「いえ、ブリッチェ伯爵、この度は誠に申し訳ありませんでした」
父様は王族が簡単に頭を下げる事に驚きつつも、許すとは告げなかった。
「……どうぞお掛けください」
おかしい。どうして?おかしかった殿下はどこにいったの?
「今日は殿下ときちんとお話をしたいと思って来ていただいたの。いままで逃げててごめんなさい」
「いや、そうさせたのは私だろう」
「……そうね、あなたに会うのが怖かった。今ではだいぶ平気になったけど、最初は過呼吸を起こすほどに怖かったわ」
「……本当にすまない。でも、私は君を諦めたくないんだ。もう一度だけチャンスをくれないか」
あぁ、こんなに冷静に話が出来ると思わなかった。なぜ今なの、どうしてもっと早くに!
「……私が一番嫌だった事が何か分かりますか?」
「私が暴力的だったこと、かな」
どうしてどうしてどうして!
もっと早く今のあなたに会いたかった!!
「……そうです。あなたに掛かっていた魔法は本当に魅了だったの?」
「わからない。魅了であんなことできるのかなって自分でもおかしいと思ってるけど。
……君を傷つけた時、何も感じなかった。でも、爪の間に君の血が付いてて。それを見てる内にだんだん何も考えられなくなっていたんだ。
ぼうっとしてたら、君と婚約白紙になったと教えられた。……気が狂うかと思った。私は馬鹿みたいに泣き叫んで、目を覚まして絶望した。
魔法だというなら、記憶も消してほしいと思ったよ。消えないなら自分を消そうかとも思った。手に……いつまでも君の血がついてる気がする。髪を掴んだ感覚がずっと残ってるんだ」
そう言って、殿下は顔を覆い俯いた。
「なぜすぐに謝ってくれなかったの?」
「目が覚めたとき、母上が「全部魔法のせいだから大丈夫」って言ってた。私は……その言葉に縋ったんだ。あんな酷いことしたのは自分じゃない。いままで魔法のせいで君を傷付けたから、今度は愛で守ろうって。そうしたら元に戻れるはずだ。愛があれば絶対に幸せにできるはずだ。魔法のせいで起きたことは忘れたかった。だってそれが正しいって言ってる。
頭の中でずっと声がしてるんだ。素直になれって。綺麗事だけだと君は手に入らないって。愛が……愛がないといけない、優しくしないと力を弱めないと駄目なのに。愛されたら、そうしたらずっと側にいてくれるんだ。でも、傷付けてでも手に入れなきゃ。脅してでも攫ってでも……こんなの愛じゃない。私は狂ってるかもしれない。ごめん、ごめんなさい、リーゼ」
だんだん会話じゃなくなっていく。やはり他の魔法が残ってるの?でも、伝えなきゃ。
「殿下。綺麗事は言葉の通り綺麗なことなの。それは守らないといけないことだわ。
私はちゃんと謝ってほしかった。おかしな声がするならどうしてそう教えて下さらなかったの。あんな強引な会話じゃなくて、助けてってそう口に出してくれてたらよかったのに!
魔法のせいだから?だって今はちゃんと会話できてるじゃない!
私は!私は殿下が好きだったわ。でもね、一方的な気持ちだけだとずっと愛するなんて無理なの!
好きならすべてを許せるなんて嘘だわ!絶対に許せないことってあるの!
私は人も自分自身も傷つける人は大嫌いよ。たとえ魔法のせいでも!」
「……ごめん、リーゼごめんね、たくさん傷付けて、傷付けてでも手に入れたいと思ってごめん、でも、好きなのは本当だよ……」
殿下が泣いている。ずるい、そんな綺麗な泣き顔。
「私は魔法のせいでも許せません」
「……うん」
「許せないけど、嫌いたいわけじゃない。憎みたいわけじゃないの。お願い、治療を受けて。あなたは魔法の残滓が残ってると思う」
ふたりしてボロ泣きだ。
「殿下、私からも質問していいだろうか。リーゼから聞いていた殿下と今の殿下はずいぶん違うように思うが、何かあったのですか?」
「……リーゼが……私の知らない友人に守られて、楽しそうに私をすり抜けて逃げて行ったんだ……本当に離れて行くって感じた時に凄く胸が痛くて……でも、少し、頭の中の声が小さくなった」
あなたは本当に私が好きだったの?私を想って魔法を少しずつ解いてきたの?
「ねぇ、どうして魅了にかかったか分かる?」
「……分からない。別に好みの女性じゃないし、私はリーゼが好きだし。ただ一度だけ、彼女の歓迎会のクラスパーティーの時に、お菓子を食べて嬉しそうに笑った姿を見て……昔のリーゼを思い出した」
差し出されたのは私の好きな鈴蘭の花束と料理長お手製のアップルパイ。
懐かしくて優しい笑顔。まるで時が戻ったみたい。
「…ありがとう。わざわざ料理長が作ってくれたの?久しぶりだわ」
「うん、とびきり美味しく作るようにお願いしたんだ」
「ふふ、いつだってとびきり美味しいわ。
さぁ、中へどうぞ。父も待ってるから」
どうして今日は昔のあなたみたいなの?今更そんな姿を見ると泣きたくなる。
「リーゼ、会う機会を作ってくれてありがとう」
「ううん、私こそちゃんと話そうとしなくてごめんなさい」
応接室までの通路をポツポツと話しながら進む。
「お父様、お連れしました」
「殿下、お久しぶりです。わざわざお越し下さりありがとうございます」
「いえ、ブリッチェ伯爵、この度は誠に申し訳ありませんでした」
父様は王族が簡単に頭を下げる事に驚きつつも、許すとは告げなかった。
「……どうぞお掛けください」
おかしい。どうして?おかしかった殿下はどこにいったの?
「今日は殿下ときちんとお話をしたいと思って来ていただいたの。いままで逃げててごめんなさい」
「いや、そうさせたのは私だろう」
「……そうね、あなたに会うのが怖かった。今ではだいぶ平気になったけど、最初は過呼吸を起こすほどに怖かったわ」
「……本当にすまない。でも、私は君を諦めたくないんだ。もう一度だけチャンスをくれないか」
あぁ、こんなに冷静に話が出来ると思わなかった。なぜ今なの、どうしてもっと早くに!
「……私が一番嫌だった事が何か分かりますか?」
「私が暴力的だったこと、かな」
どうしてどうしてどうして!
もっと早く今のあなたに会いたかった!!
「……そうです。あなたに掛かっていた魔法は本当に魅了だったの?」
「わからない。魅了であんなことできるのかなって自分でもおかしいと思ってるけど。
……君を傷つけた時、何も感じなかった。でも、爪の間に君の血が付いてて。それを見てる内にだんだん何も考えられなくなっていたんだ。
ぼうっとしてたら、君と婚約白紙になったと教えられた。……気が狂うかと思った。私は馬鹿みたいに泣き叫んで、目を覚まして絶望した。
魔法だというなら、記憶も消してほしいと思ったよ。消えないなら自分を消そうかとも思った。手に……いつまでも君の血がついてる気がする。髪を掴んだ感覚がずっと残ってるんだ」
そう言って、殿下は顔を覆い俯いた。
「なぜすぐに謝ってくれなかったの?」
「目が覚めたとき、母上が「全部魔法のせいだから大丈夫」って言ってた。私は……その言葉に縋ったんだ。あんな酷いことしたのは自分じゃない。いままで魔法のせいで君を傷付けたから、今度は愛で守ろうって。そうしたら元に戻れるはずだ。愛があれば絶対に幸せにできるはずだ。魔法のせいで起きたことは忘れたかった。だってそれが正しいって言ってる。
頭の中でずっと声がしてるんだ。素直になれって。綺麗事だけだと君は手に入らないって。愛が……愛がないといけない、優しくしないと力を弱めないと駄目なのに。愛されたら、そうしたらずっと側にいてくれるんだ。でも、傷付けてでも手に入れなきゃ。脅してでも攫ってでも……こんなの愛じゃない。私は狂ってるかもしれない。ごめん、ごめんなさい、リーゼ」
だんだん会話じゃなくなっていく。やはり他の魔法が残ってるの?でも、伝えなきゃ。
「殿下。綺麗事は言葉の通り綺麗なことなの。それは守らないといけないことだわ。
私はちゃんと謝ってほしかった。おかしな声がするならどうしてそう教えて下さらなかったの。あんな強引な会話じゃなくて、助けてってそう口に出してくれてたらよかったのに!
魔法のせいだから?だって今はちゃんと会話できてるじゃない!
私は!私は殿下が好きだったわ。でもね、一方的な気持ちだけだとずっと愛するなんて無理なの!
好きならすべてを許せるなんて嘘だわ!絶対に許せないことってあるの!
私は人も自分自身も傷つける人は大嫌いよ。たとえ魔法のせいでも!」
「……ごめん、リーゼごめんね、たくさん傷付けて、傷付けてでも手に入れたいと思ってごめん、でも、好きなのは本当だよ……」
殿下が泣いている。ずるい、そんな綺麗な泣き顔。
「私は魔法のせいでも許せません」
「……うん」
「許せないけど、嫌いたいわけじゃない。憎みたいわけじゃないの。お願い、治療を受けて。あなたは魔法の残滓が残ってると思う」
ふたりしてボロ泣きだ。
「殿下、私からも質問していいだろうか。リーゼから聞いていた殿下と今の殿下はずいぶん違うように思うが、何かあったのですか?」
「……リーゼが……私の知らない友人に守られて、楽しそうに私をすり抜けて逃げて行ったんだ……本当に離れて行くって感じた時に凄く胸が痛くて……でも、少し、頭の中の声が小さくなった」
あなたは本当に私が好きだったの?私を想って魔法を少しずつ解いてきたの?
「ねぇ、どうして魅了にかかったか分かる?」
「……分からない。別に好みの女性じゃないし、私はリーゼが好きだし。ただ一度だけ、彼女の歓迎会のクラスパーティーの時に、お菓子を食べて嬉しそうに笑った姿を見て……昔のリーゼを思い出した」
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