12 / 50
12.
しおりを挟む
ビアンカの屋敷で保護された。
でも、これは正しいのだろうか。結局は時間稼ぎでしかない。湯船に浸かりながら考える。
─私はどうしたいの?
私は……殿下を許したくない。
だって、なぜ簡単に許せると思うの?
辛かった、悲しかった、悔しかった、怖かった。色々な思いが混ざり合う。魔法のせいなんて呪文は私には無い。
殿下はきっと箍が外れたまま。いままで隠していたものが、それこそ魔法のせいで顕になってしまったのだろう。
私はあの姿を許せる?
最初からそうならよかった。綺麗な王子様じゃなくて、独占欲丸出しの悪魔王子。はじまりがソレなら……私は受け入れたかもしれない。だって。それは私を好きだと、大切だということだもの。夢見がちな幼い頃ならそれすらも受け入れた。かもしれない。
でも、今は?愛の為に何かを傷付ける行為は悪だと理解している。けして許せはしないのだ。
「リーゼロッテ様、大丈夫ですか?」
こんなことに巻き込んでしまったのに、ビアンカは一言も文句を言わない。優しい友達。
その友達を害するかもしれない殿下。
「……今日はありがとう。怖かったでしょう?」
私は答えを未だに出せない。
婚約白紙にできて嬉しかったの。先輩に好意を示されて嬉しかったの。それなのに……殿下の執着が、死ぬ程怖かったのに……ほんの少しだけ、嬉しかったのだ。
私はおかしい。あの頃のように絵に描いたような理想の王子様じゃないのに、その狂った姿を見てどこかでホッとした。あぁ、この人も完璧なんかじゃない。私と同じで、完璧には程遠い、歪で足りない、半端な人。
「いいえ、私はやっとリーゼロッテ様の友だと自信を持って言えるかなって。誇らしい気持ちです!」
「……駄目よ。私にそんな価値など無いわ」
あなた達の助けが死ぬ程嬉しかったのに、殿下の執着にほんのりと喜びを感じる腐った心。私はあなたの友情に値しない愚かな女だ。
「そんなこと言わないでください!」
なんて綺麗な心だろう。私への友情の為に危険をかえりみない、可愛いビアンカ。
「……私ね、わからないの。殿下のことが許せないし、気持ち悪いし、あなた達を傷つけるなら殴りたいって思うの。……それなのに、そこまで私を思ってくれているのかと思うと……少しだけ嬉しいの」
あぁ、やっぱり傷付いたよね。信じられないという表情。私も自分が信じられない。
ビアンカは俯いたまま沈黙してしまった。私達の友情は……私の愚かさで終わってしまった。
「迷惑をかけてごめんなさい。あなたには被害が無いようにがするから!」
これで終わり!短い友情だったな……
もう、寝ようと部屋を出ようとすると、
「ちょっと待ってください!言い逃げなんて許さないから!」
突然の叫び声に驚く。そんなに怒らせてしまった?
「どうして一方的に話して終わりにするんですか!私はまだ何も答えてないですよ」
怒りに満ちた声。そうよね、あなたの罵倒を聞く義務があるわね。
「そうよね、ごめんなさい」
「私は!あんなヤンデレ王子なんてまっっったく魅力を感じません!怖いしキショいし!」
あぁ、不敬罪!
「でも、リーゼロッテ様はずっとお慕いしていたのでしょう?だから、信じたい気持ちがあるのはしかたがないじゃないですか!ちょっと頭おかしいくらい許せるかも?って優しさが出るのは罪じゃないです!」
頭おかしいまで言ったわ、この子。
「リーゼロッテ様は優しいから迷っちゃうんです。でもいいんですよ、それで。
先輩は結局リーゼロッテ様を狙ってる男だから厳しく言うんです!あの人が正解じゃないですよ。
リーゼロッテ様はゆっくり自分の気持ちを確かめてください。キモい殿下とももっとお話ししたらいいんです。
あっちは惚れた弱みがあるんですから!
私は男共なんか知りません。リーゼロッテ様の幸せだけ願ってます!」
そんな言葉がもらえるとは思わなかった。
キモい殿下は悪だと思ってる。だってポンコツで人の話を聞かないし!私の事をかってに決めるし友達を脅すし!
でも、心のどこかで見捨てられない気持ちがあるの。それでもいいのかな。
「ありがと、ビアンカ。私ね、殿下が怖いの。気持ち悪いの。婚約白紙も嬉しいの。それに間違いはないのよ。でも、ずっとずっと大好きだったのよ。初恋の王子様だったの。
壊れるくらい私が好きなのが……ドン引きしてるのに、本当に本当に少しだけ、嬉しかったの。あれを受け止める自信はないのに。
どうしたら正解か分かんない」
その夜、モテる女は辛いねって笑いながらビアンカは私を慰めてくれた。
でも、これは正しいのだろうか。結局は時間稼ぎでしかない。湯船に浸かりながら考える。
─私はどうしたいの?
私は……殿下を許したくない。
だって、なぜ簡単に許せると思うの?
辛かった、悲しかった、悔しかった、怖かった。色々な思いが混ざり合う。魔法のせいなんて呪文は私には無い。
殿下はきっと箍が外れたまま。いままで隠していたものが、それこそ魔法のせいで顕になってしまったのだろう。
私はあの姿を許せる?
最初からそうならよかった。綺麗な王子様じゃなくて、独占欲丸出しの悪魔王子。はじまりがソレなら……私は受け入れたかもしれない。だって。それは私を好きだと、大切だということだもの。夢見がちな幼い頃ならそれすらも受け入れた。かもしれない。
でも、今は?愛の為に何かを傷付ける行為は悪だと理解している。けして許せはしないのだ。
「リーゼロッテ様、大丈夫ですか?」
こんなことに巻き込んでしまったのに、ビアンカは一言も文句を言わない。優しい友達。
その友達を害するかもしれない殿下。
「……今日はありがとう。怖かったでしょう?」
私は答えを未だに出せない。
婚約白紙にできて嬉しかったの。先輩に好意を示されて嬉しかったの。それなのに……殿下の執着が、死ぬ程怖かったのに……ほんの少しだけ、嬉しかったのだ。
私はおかしい。あの頃のように絵に描いたような理想の王子様じゃないのに、その狂った姿を見てどこかでホッとした。あぁ、この人も完璧なんかじゃない。私と同じで、完璧には程遠い、歪で足りない、半端な人。
「いいえ、私はやっとリーゼロッテ様の友だと自信を持って言えるかなって。誇らしい気持ちです!」
「……駄目よ。私にそんな価値など無いわ」
あなた達の助けが死ぬ程嬉しかったのに、殿下の執着にほんのりと喜びを感じる腐った心。私はあなたの友情に値しない愚かな女だ。
「そんなこと言わないでください!」
なんて綺麗な心だろう。私への友情の為に危険をかえりみない、可愛いビアンカ。
「……私ね、わからないの。殿下のことが許せないし、気持ち悪いし、あなた達を傷つけるなら殴りたいって思うの。……それなのに、そこまで私を思ってくれているのかと思うと……少しだけ嬉しいの」
あぁ、やっぱり傷付いたよね。信じられないという表情。私も自分が信じられない。
ビアンカは俯いたまま沈黙してしまった。私達の友情は……私の愚かさで終わってしまった。
「迷惑をかけてごめんなさい。あなたには被害が無いようにがするから!」
これで終わり!短い友情だったな……
もう、寝ようと部屋を出ようとすると、
「ちょっと待ってください!言い逃げなんて許さないから!」
突然の叫び声に驚く。そんなに怒らせてしまった?
「どうして一方的に話して終わりにするんですか!私はまだ何も答えてないですよ」
怒りに満ちた声。そうよね、あなたの罵倒を聞く義務があるわね。
「そうよね、ごめんなさい」
「私は!あんなヤンデレ王子なんてまっっったく魅力を感じません!怖いしキショいし!」
あぁ、不敬罪!
「でも、リーゼロッテ様はずっとお慕いしていたのでしょう?だから、信じたい気持ちがあるのはしかたがないじゃないですか!ちょっと頭おかしいくらい許せるかも?って優しさが出るのは罪じゃないです!」
頭おかしいまで言ったわ、この子。
「リーゼロッテ様は優しいから迷っちゃうんです。でもいいんですよ、それで。
先輩は結局リーゼロッテ様を狙ってる男だから厳しく言うんです!あの人が正解じゃないですよ。
リーゼロッテ様はゆっくり自分の気持ちを確かめてください。キモい殿下とももっとお話ししたらいいんです。
あっちは惚れた弱みがあるんですから!
私は男共なんか知りません。リーゼロッテ様の幸せだけ願ってます!」
そんな言葉がもらえるとは思わなかった。
キモい殿下は悪だと思ってる。だってポンコツで人の話を聞かないし!私の事をかってに決めるし友達を脅すし!
でも、心のどこかで見捨てられない気持ちがあるの。それでもいいのかな。
「ありがと、ビアンカ。私ね、殿下が怖いの。気持ち悪いの。婚約白紙も嬉しいの。それに間違いはないのよ。でも、ずっとずっと大好きだったのよ。初恋の王子様だったの。
壊れるくらい私が好きなのが……ドン引きしてるのに、本当に本当に少しだけ、嬉しかったの。あれを受け止める自信はないのに。
どうしたら正解か分かんない」
その夜、モテる女は辛いねって笑いながらビアンカは私を慰めてくれた。
243
お気に入りに追加
3,552
あなたにおすすめの小説
ボロボロに傷ついた令嬢は初恋の彼の心に刻まれた
ミカン♬
恋愛
10歳の時に初恋のセルリアン王子を暗殺者から庇って傷ついたアリシアは、王家が責任を持ってセルリアンの婚約者とする約束であったが、幼馴染を溺愛するセルリアンは承知しなかった。
やがて婚約の話は消えてアリシアに残ったのは傷物令嬢という不名誉な二つ名だけだった。
ボロボロに傷ついていくアリシアを同情しつつ何も出来ないセルリアンは冷酷王子とよばれ、幼馴染のナターシャと婚約を果たすが互いに憂いを隠せないのであった。
一方、王家の陰謀に気づいたアリシアは密かに復讐を決心したのだった。
2024.01.05 あけおめです!後日談を追加しました。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。
フワっと設定です。他サイトにも投稿中です。
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
どうして待ってると思った?
しゃーりん
恋愛
1人の男爵令嬢に4人の令息が公開プロポーズ。
しかし、その直後に令嬢は刺殺された。
まるで魅了魔法にかかったかのように令嬢に侍る4人。
しかし、魔法の痕跡は見当たらなかった。
原因がわかったのは、令嬢を刺殺した男爵令息の口から語られたから。
男爵令嬢、男爵令息、4人の令息の誰にも救いのないお話です。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
裏切りの公爵令嬢は処刑台で笑う
千 遊雲
恋愛
公爵家令嬢のセルディナ・マクバーレンは咎人である。
彼女は奴隷の魔物に唆され、国を裏切った。投獄された彼女は牢獄の中でも奴隷の男の名を呼んでいたが、処刑台に立たされた彼女を助けようとする者は居なかった。
哀れな彼女はそれでも笑った。英雄とも裏切り者とも呼ばれる彼女の笑みの理由とは?
【現在更新中の「毒殺未遂三昧だった私が王子様の婚約者? 申し訳ありませんが、その令嬢はもう死にました」の元ネタのようなものです】
眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる