魔法のせいだから許して?

ましろ

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ジーク。私の可愛いジークハルト。

兄のアルブレヒトが嫌いなわけではない。産まれたときは本当に嬉しかったもの。
でも、世継ぎだからと早くから私の手を離れた。会う度に子供らしさが無くなり、私を母としてではなく王妃として扱うようになった。
陛下にそっくり。あの人もそう。私を王妃として大切にしてくれる。でも女性として愛されることはないのだ。
政略結婚だもの。大切にしてくれるだけで感謝しなくては。王族だもの。身内であっても隙を見せてはいけないのよね?
だからあの二人は間違っていない。でも、正しいからといって私の寂しさが消えることはないのよ。
そんな私を救ってくれたのはジークハルトだった。
アルブレヒトはとても優秀で、皆が王太子として期待し、あの子もそれに応えている。だから5歳離れたジークというスペアは、本当に形だけのものだった。
「かぁさま」と舌っ足らずな呼び方で私に抱きついてくる。私の求めていた愛がそこにあった。だから大切に育てたの。あなたは愛を失わないで……


「ジーク、そんなに強く抱きしめたら猫さんが苦しそうよ?」

「かあさま?だってぎゅってしないとにげちゃう。ぼくがこ~んなにあいしてるのに」


愛を忘れない子でいてほしい。そう思って育ててきた。アルブレヒトと同じで優秀な子。勉強も運動も得意だし。人にも優しくできる自慢の息子。

でも……愛する気持ちが少し強い。


「でも、ジークも痛いことは嫌いでしょう?猫さんも痛いことをされるとジークを怖がってしまうわ。優しくしてあげないとね」

「やさしく?ちゃんとあいしてるよ?」


天使の様な微笑みで強過ぎる力にグッタリとした子猫に頬擦りをしている。
そのままでは死んでしまうから、となんとか子猫は手放させた。これは子供だからなの?子供とは少し残酷な所がある……ものよね?


「ねぇ、ジーク。愛するものを見つけたら、愛される努力をしましょう。力で無理矢理押さえつけると嫌がって逃げてしまうわ」

「どりょく?」

「そうよ、まずは優しくしてあげるの。そして相手の喜ぶことをしてあげて?そうしたらきっとあなたを好きになってくれる。ずっと側にいてくれるわ」

「すきになったらずっといっしょなの?わかった!ぼくがんばるね」


よかった。分かってくれたのね。まだ小さいもの。失敗があって当たり前なのよ。

それからはおかしな執着は見せなくなった。力加減も覚え、動物の扱いも普通になった。

そんなあの子が目をキラキラさせながら、「見つけた!」と大騒ぎしたのがリーゼロッテ。お人形のように可愛らしく、少し貴族らしさのない、自然な笑顔。なるほど。こういう素朴な雰囲気が好きなのね。いい子そうでよかった。
陛下とも相談し、程よい家柄でもあり、すんなりと婚約が結ばれた。

とても仲のいい二人だった。最初はリーゼも遠慮がちだったけれど、婚約者として交流するうちに、いつの間にか恋人になっていた。
私が得られなかった愛。大切なジークが手にする事ができて本当によかったわ。




「ジークがリーゼを蔑ろにしてる?!そんな、ありえないわ!詳しく教えてちょうだい」


ジークの側近から信じられない話を聞いた。あの子が浮気をしてる?リーゼを傷付けて平気でいるの?
ありえないわ。あの子が心変わりをするなんて。あの子の愛はそんなに軽くない!
そして、学園の様子も少しおかしいそうだ。皆がマルティナ公女を応援してるだなんて……


「ジーク、リーゼと喧嘩でもしたの?」

「母上、彼女はただの政略的な婚約者ですよ」

「何を言っているの?あなたが一目惚れをして婚約者になってもらったんじゃない!」

「私には愛するマルティナがいます。王族が婚約破棄などできないでしょうからこのまま婚約者としておいているだけです」


何?何が起きてるの?


「私はマルティナを手放す気はありません。もし、引き離そうとするなら偽りの婚約者など殺してやる!」


あぁ!どうしよう!なぜだろう、この子が本気だと分かる。これが本性だと分かってしまう!
愛する者の為なら、他を傷つけるのも厭わないのだろう。でも、こんなに重い愛のジークがあったばかりの公女に心奪われる何てありえるの?


「この件は陛下にも報告しますよ」

「どうぞ、母上のご自由になさって下さい」


私一人ではどうにもできない。これは異常事態だわ。陛下に報告し、学園への調査を始めた。だが、中々糸口が見つからない。調査員からは本当に心変わりではないのか、という意見も出始める。でも、私には分かる。あの子の心を狂わせた何かがあるはず!
しかし、無情にも時間だけが過ぎた。リーゼにも説明するべきだろう。でも何と説明したらいい?実はあれもあの子の本当の姿だと伝えるの?愛する者を傷付けるなら、その者を殺しかねない子だと?
結局何も説明出来ないまま待っててほしいとしか言えなかった。

そしてとうとう事件が起きた。ジークがリーゼに傷を負わせたのだ。恐れていた事が起きてしまった。


「ジーク、あなたは自分が何をしたか分かっているの?リーゼの傷は残るかもしれないのよ!」


頭ごなしに叱りつけると、ジークの反応がおかしい。虚ろな目で自分の手を見つめている。


「あなたとリーゼの婚約は白紙になったわ。二度と会うことはないかもね」

「……え?」


なぜそんなに驚くの?あなたが望んだことでしょう。まさかもとに戻ったの?

「……そんな……だめだ、だってリーゼは私のものだ、なんで勝手にそんなっ!いやだいやだいやだっ!リーゼはずっとずっと私と一緒にいるんだ!返せっ!私のリーゼを返せっ!!」


それから半狂乱になり、騒ぎを聞きつけた護衛が3人がかりで止めた。


魅了の解けたジークは大切なリーゼを自らの手で傷付けたことに死を選びそうなほど憔悴していた。いえ、このままでは本当に死ぬかもしれない。愛する者を傷付けた人間は許さないのだから。たとえ自分でも殺すかもしれない。

ごめんなさい、リーゼ。この子が大切なの。


「全部魔法のせいよ、だから大丈夫」







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