俺様暴君のしつけかた

ましろ

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1.走馬灯は役に立つか

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これが走馬灯か──


あ、違う。走馬灯体験だっけ?

そういえば昔、死に際とか危機的状況の回避の為に見る過去の映像のことを走馬灯って言うんだと思ってたけど違うんだよね。
死ぬ間際とかに、これまでの人生の記憶がよみがえることを言い表した比喩表現なだけ。
本当の走馬灯は影絵を投射したカラクリのことだと知って恥ずかしかった覚えがある。影絵って何。

でも、単なるカラクリなら役に立たなくても仕方がないなぁ……



湖に沈みながら蘇った前世の記憶を見てそう思った。






そんなことを言いながらも何とか命は助かった。優秀な護衛を付けてくれてありがとう、パパ。違う、お父様だ。
とりあえず、走馬灯体験は役に立たなかった。
だって。おかしくない?どうして今世の方が文化が衰退してるいるの?


私はツェツィーリア。アイスラー伯爵の次女。
はい、すでにおかしい!何よ、伯爵って。
どうやらここは中世のヨーロッパ風?国名とかまったく聞いたことがないから過去ではない。
口に出すと恥ずかしいけど異世界転生的な?
でも何かの小説に転生したみたいな、魔物とか聖女とかそんな感じではない。命の危険はなさそうだからそこだけは感謝するわ。
でも魔法くらいは欲しかった。だってすべてが不便!これに尽きるわ。スマホもネットもコンビニも無い世界……日本の記憶を思い出したせいで日々が地獄です。






「……つまんない」


溺れてから2日程高熱に苦しんだせいで、熱が下がって3日も経つのにまだベッドから出ることが許されない。過保護が辛い……
どうやらツェツィーリアは本当に体が弱いみたい。だけど、過保護が原因では?と言いたい。大事にし過ぎて体力無いし日に当たらな過ぎてお肌は真っ白を通り越して青白い。不健康極まりないわ。少しずつ改善しないと早死しそう。



「お嬢様、お客様がお見えです」
「そんな予定は無かったわよね?」


分かってたら支度してるもの。こんな寝間着姿でどうしろと?


「……それが、エルツベルガー公爵令息様がお見舞いだと仰って、すでに応接室でお待ちです」


なぜ勝手に来るのよ。貴族でしょう?ちゃんと事前に手紙を寄越しなさい、何様なの!


「……リタ、支度を手伝って」
「かしこまりました、急ぎますね!」
「いえ?せっかく婚約者殿が来てくださったのですもの。いつも以上に綺麗にしてちょうだい?」
「ですがお待たせしておりますのに」
「大丈夫よ。待つのは分かっていて来ているはずよ?お怒りになるわけないわ」


そうよね?アポ無しで来たのだもの。待つのは仕方がないことでしょう。


「では、湯浴みからお願いね」








「遅い!何時間待たせるんだっ!!」


開口一番コレか。貴方は私と同じ17歳よね?腹が立っても内に隠すことも出来ないなんて恥ずかしいこと。
アレクシス・エルツベルガー。金髪碧眼のいかにも王子様(公爵令息だけど)な風貌。背も高く適度に筋肉も付いていて好みでは無いけど鑑賞的にはとてもいい男だ。
でも中身がねぇ。俺様貴族という残念さ。
今までは諦めていたけど、前世の記憶のせいで我慢出来そうも無くて困ったわ。


「ごきげんよう、アレクシス様。突然いらっしゃるから驚きましたわ。何せ溺れて高熱を出してしまったでしょう?両親が心配して今朝までベッドから出ることが許されませんでしたの。
ですが、アレクシス様にみっともない姿を見せるわけにはいけませんもの。婚約者として恥ずかしくない様に支度させていただきました。もちろんお許しいただけますわよね?」


悪いのはそっちでしょう?反論できるならどうぞ。


「……相変わらず可愛げのない女だな」


反論できないと悪態をつくのか。みっともない男だ。


「何かおっしゃいましたか?」


その程度は笑顔で躱す。


「それでご用件は?こんな急な来訪ですもの。よっぽどの事がお有りなのでしょう?」
「……見舞いだ。だが大した事無かったようだな。母上が大袈裟に騒ぐから来てやっただけだ。とりあえずその花は受け取れ」


殴っていいかな?


「そうですわね。どこかの愚か者が突然ボートの上で立ち上がって騒いだせいで冷たい湖に落ちましたけど?
幸い優秀な護衛のおかけで命は助かりましたわ。あの者がいなければわたしは死んでいたでしょうねぇ。
その後は2日も高熱に苦しみましたが今ではこうしてお茶も飲めていますから。貴方の言う様に大した事無かったのでしょう」
「なっ!愚か者とは俺の事か?!」


引っかかるのはそこなの?


「ボートの上で立ち上がったり騒いだりするのは危険だなんてこと、幼子でも知っておりますわ。それなのに17歳にもなってやるのですもの。それは愚行でしょう?愚かな行いをするものは愚か者であっていると思いますよ。
それにお見舞いの意味もご存知では無いようですし。色々お勉強が不足しているようで心配になりますわね」


口喧嘩で女に勝てると思うなよ?これだけは前世も今世も変わらないと思うわ。女性は力が無い変わりに言葉の暴力は得意なんだから。罵詈雑言しか取り柄の無い貴方に負ける気はしないわ。


「~っ、お前!たかだか伯爵家の分際でっ!」
「ふふっ、だから?」
「何だとっ?!」
「だってあまりにみっともなくて。貴方の武器は公爵家に産まれたことだけなのね。でもそれって貴方の努力じゃないじゃない?ただ運が良かっただけ。いつまでもその幸運に胡座をかいていると困った事になると思いますよ」


わ~、顔が真っ赤。本気で怒ると顔って赤くなるんだ。あ、手をあげる気?


「まさか暴力ですか?」


ビクッと動きが止まる。自分の行動に気付いていなかったのか。
とりあえず止めてくれてよかった。つい煽っちゃったけど、か弱いツェツィーリアは殴られたら死にそうだもの。


「貴方には弟君がいらっしゃいます。その意味をよく考えて行動なさいませ」
「!」


でも言いたいことは言う!ざまぁ!!


「……帰る」


あら、急に大人しくなった。
さすがに傷付いたかな?でも鉄は熱いうちに打てというし。


「このまま帰って後悔しませんか?変わりたいと思ったら明日からと言わず即実行した方がいいですよ?」









……無言タイムが長いな。急には無理かしら。


「…………わるかった…………」


おう、暴君が謝罪の言葉を!
やれば出来るじゃない!グッジョブ私!


「はい。謝罪は受け入れます。お見舞いのお花をありがとうございます。部屋に飾らせていただきますね」
「……お前、変わったな。なぜだ?」


そうね。ツェツィーリアは貴族らしく微笑むだけで、貴方に意見などしなかったもの。


「走馬灯のおかげですよ」


思い出したらもう無理。黙って微笑んでなんかいられない。


「……意味が分からん」


それ以上何も言わずアレクシス様は帰って行った。
アレといずれは結婚するのかと思うと前途多難だ。あのまま変わらなければ本当に廃嫡されそうな俺様馬鹿坊ちゃんだもの。顔だけじゃねぇ。金髪王子顔より、黒髪とかのワイルド系とかもう少し年上の落ち着いた男性が良かった。
政略結婚なんて本当に最低っ!前世の記憶の馬鹿っ!平穏な生活は無理な気がするわ……





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