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22.もう一つの家族の結末

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シャノン嬢に会えないまま、体調がまだ思わしくない為、夜会への参加を取りやめることになったと、殿下の侍従から連絡を貰った。

確かに殿下も関わっていたが……

あの方はここまで過保護だったか?

夜会でシャノン嬢のドレス姿が見られるだろうと密かに楽しみにしていたので少し残念だった。
だが、そこまで体調が悪いとは。

まさか、またあの男のせいか?

そう思っていたところ、宰相補佐官が大使として他国に渡るとの情報が入った。
外交官でも無いのに何故?と疑問の声が上がった。
彼が行くことになったヴァジェイラは、四方を海に囲まれた島国で、独自の宗教と文化を築き上げている。
織物は大変美しく、味わったことの無いスパイス等も存在するが、未だ我が国との貿易は結ばれていない。
そこで白羽の矢が当たったのが宰相補佐官らしい。
宰相閣下の嫡男が身一つで赴き、ヴァジェイラの宗教を学ぶ。それを申し出た時、かの国は大層喜んだそうだ。金銭等では無く、大切な子息を預ける重要性を理解してくれたのだ。

「宰相閣下っ!」
「おや、ラザフォード伯爵。どうされた?」

宰相を見かけて思わず声を掛けてしまった。

「ご子息のことですが……」
「ああ!あの時は失礼な質問をして申し訳なかった。だが、噂は聞いているだろう?アレは他国に渡ることになってね。どんなに早くても一年は帰れないんだ」
「……なぜ、彼なのです」

あの国は分からないことが多い。だが、こんなにも急に決まるだなんて可怪し過ぎる。
まさか、殿下が手を回したのか?

「私が陛下に進言して決まった」
「!」
「情報は以前から入っていたからね」

何の情報だ?

「あの国は変わった宗教観と法があるんだよ。
子を産み育てる母体を神聖視するのだ。
だから、身篭った母親はとても大切にされる」
「……それは素晴らしいことだが」
「だから、無事に子を産み、体調が良くなるまでは閨は絶対にしてはならないんだ。だが、不貞は母体に影響が出るからと絶対に許されない。妻が妊娠したら娼館には行けないのだよ」

それでは一年は男は禁欲するのか。耐えられない者も出そうな法だが、不満は出ないのか。

「解決策はある。妻の身代わりになる男を宛てがうんだ」
「はっ!?」
「男ならば子も産まれず、妻の座を奪われる心配もない。いや~、徹底してるよ。初めて聞いた時は君の様に驚いたものだ。
まあ、そんな考えだから男色は忌避されないらしいよ」

……その国に生まれなくてよかった。
さすがに後ろを使う気にはならんぞ。

「もうすぐ王太子殿下が婚姻される。だからそのお相手を探すことになったらしいのだが、中々難航しているらしい」
「……そうなのですか」

さっきから何故こんな話を?

「だって王太子殿下だぞ。身分の低い者では駄目。妃殿下の身代わりだから、見目麗しい者が望まれる。16歳以下の者も駄目。既婚者も駄目。以外と選定が難しい」

未婚で見目麗しい身分の高い者……まさか!

「貴方はご自分のご子息を!?」
「ふふ、とっても喜ばれたよ。そこまでヴァジェイラのことを考え、大切な子息を捧げてくれるとは。とね」

何故そこまで……確かに付き纏いを止めるように言ったが、ここまでのことは求めていなかったのに……

「さて。何人お子を授かるかな。アレが立派に役目を果たせることを祈っているよ」
「何故そこまで?」
「……君ならばよく分かるのではないかな。妹君の相手が見つかったら、君はどうしたい?」
「!」

知られていた……いや、それよりも!

「まさか彼が?」
「ああ、妹君は違う。もっとね、面倒な話なのだよ。君だからここまで話した。これ以上は駄目だけどね。
どうだい?少しは気が晴れるかな」

……もし、相手が見つかったら。

それは何度も何度も考えた。トレイシーと同じ目に合わせたい。その家族すらも幸せなままではいさせたくない。いっそ殺してくれと言い出すくらいに追い詰めてやりたい!
何度もそう考えたっ!!

「……でも、大切にされるのですよね。いつか帰ってくるんですよね?」
「そうだね。だが、戻って来ても元には戻れないだろうね。いつ、ヴァジェイラでの生活がバレるか分からないんだ。毎日不安だろう。
それに女を抱けるかどうかも怪しい。あちらではね、勃たないように道具をつけるそうだ。不貞の防止だね。怖い国だよ」
「ハッ、それはさぞ屈辱だろうな」

思わず、宰相閣下の気持ちも考えずに笑ってしまった。

「……申し訳ない」
「いや。当然なのだろう。息子がそんなことをしてしまったなんて、まったく気付かず、なんなら嫁探しなどしていたのだ。
本当に、何故と……何度問うても答えは無いのに、何故と考えてしまう。滑稽だろう?」

……結局。被害者家族も、加害者家族も。何故こんなことにと嘆きながら生きていくのか。

「私もずっと何故と考えてますよ」
「そうか……そうだよな。
謝罪も、お金も、妻の座も要らないと言われたら、出来る事は後悔しかないものだな」
「……それは誰が?」
「被害女性だ。生きていくには、すべて必要かと思ったが、見当違いらしいよ」

謝罪してほしいと思った。慰謝料を払えとも。いっそ責任を取って妻として迎え入れろとすら思った私は……

「どうやら私は女性の気持ちをまったく分かっていないようだ」
「お互いな。男は駄目だなぁ」
「……はい」

それ以上話す事はなく、宰相閣下と別れる。

私は、どれだけ間違ってきたのだ?
だが母上だって反対しなかったのに。

シャノン嬢に会えたら、偽りではなく本当に恋人になって欲しいと告白するつもりだった。
だが、トレイシーを自殺に追い込んだのは、間違い無く私達家族なのだ。

3年。たったの3年で、トレイシーの死を少し遠く、少し美しいものに誤魔化していたのかもしれない。




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