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13.幸せのお裾分け

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まさかの本気で連れ出されてしまいました。

「町に出るのは何時ぶりだ?」
「……6年振りですわね」
「凄いな。筋金入りの引きこもりだ」

だってそれをやったとて、誰にも迷惑は掛けていなかったもの。別に構わないと思うのよ。

「では今日は私のおすすめのお店に行こう」
「すごい。ここに来てまだ日が浅いのに、もうおすすめの店があるのですね」
「料理長の料理はとても美味しいが、やはり町のお店も探すよ。町の様子を見たいし、意外な情報が手に入ったりするからね」

なるほど。騎士としての考えかしら。

連れてこられたのは、こじんまりとした隠れ家的なお店だ。

「おや、今日は美人を連れて来たね」
「だろ?今、口説いてるところなんだ」
「おー。青春だなぁ!よし、上手くいくように、いつもより気合い入れた食事を作ってやろう!」
「ありがとう」

すごい。本当に打ち解けているわ。というか変なことを言わないで欲しい。恥ずかしくて頬が熱くなってしまう。

「貴方は思っていたよりもクールではないのね?」
「今はプライベートだから」

そういうものなのか。ということは、普段はこういう口調なのかしら。何となく新鮮だわ。

「随分と店主の方と仲がいいのですね」
「凄くいい人だろう?クロエの楽園を教えてもらったからね。私も幸せのお裾分けだ」

それから。本当にたくさんの料理が出てきて、浮気するつもりは無いが、料理長に負けないくらいに美味しかった。

「このごった煮が美味しいんだよ」
「ごった煮?」
「本当は賄い飯だったらしいんだけど、たまたま食べた店主の友人が絶賛して、今では裏メニューとして食べられるようになったんだ」

まあ。裏メニューを知ってるなんて凄いわ。
どれどれ……

「ん!美味しいっ」

これは幸せなお味だわ。見た目は本当にごった煮なのに、凄く味が深くて、でも優しくて。

「幸せ……」

ほうっ。思わず声に出てしまう。

「嬉しいねぇ。そんなに幸せそうに食べられると料理人冥利に尽きる。このデザートは感謝のサービスだ」
「えっ!嬉しいですけどいいのですか?」
「もちろんさ!美人の飾らない感嘆の声をいただけたんだ!遠慮なく食べてくれっ」
「しまったな。おやっさんにいいところを持って行かれた。彼には奥さんがいるから惚れないで」

それを聞いて、店にいた皆が大笑いした。
ずっと避けていた屋敷の外がこんなにも楽しいだなんて。

「ご馳走様でした。本当に美味しかったです」
「おう、また来てくれ。ラウルも頑張れよ」
「はい、また来ますね」



それからは何となくお互いに無言で暫く歩いた。
そっと手を握られる。

「嫌?」
「……ううん」

二人で手を繋いで歩く。
こんなこと、元婚約者ともしたことがない。
両親とすらしたことがなかった。

「手を繋ぐって、温かいのね」
「そうだな」

何だかお腹がいっぱいで、心まで満ち足りて。

「どうして私を連れ出したの?」
「ん?言っただろう。幸せのお裾分けだ」
「うん。すごく幸せな気持ちよ。ありがとう」
「……私もだ」

うわっ。クールじゃない。全然クールじゃない。
そんな嬉しそうな顔をされると──

「クロエがイチゴになった」
「~~見ないでっ」

こんなふうに心が動くのは初めてだ。
どうしよう、ギャップが凄い、狡い。

「友達から昇格出来たかな」
「……黙秘します」

顔がいいって危険だと初めて知った。旦那様のギャップは平気なのに。
……ああ、あの人には私への特別な感情が無いからか。

特別?

「あ、更に」
「言わないでいただけますか!」

駄目よ落ち着いて。冷静に!

「あの、やっぱり手を」
「駄目」

あ───っっ!!どうして指を絡めるのっ!?

「この繋ぎ方は友達じゃないわ」
「恋人希望ですから」
「……私はもう貴族じゃないかもしれません」
「私は嫡男ではないから大丈夫だ。王女に付いてきた時点で見放されているし」

そうよ!それを聞くためにデ…、じゃなくて、外出したのだったわ。

「あ、思い出した?」
「もう。ズルいわ」
「そうしたら、またデート出来ると思ったのに。って、嘘だから怒らないでっ。
別にね、大した理由じゃないんだ。
死んだ妹と似てるなって。それだけだよ」
「……亡くなったの?」
「流行り病で呆気なくね」


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