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1.熊でウサギなご主人様
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私はクロエ。コンテスティ伯爵家のメイドだ。
メイドといっても職務は細かく分かれている。私はその中のパーラーメイド。接客を主に担当している。
だから一般のメイドより少し制服がおしゃれなのが嬉しいのよね。
「クロエ、少しいいかしら」
「はい!」
大奥様に呼ばれ、部屋に入る。
「とうとう一週間後にあの子の婚約者が来るわ」
大奥様、すっごく嫌そうですね。
あの子というのは言い方は可愛いけど既に32歳、大奥様のご子息で現伯爵のレイナルド様のことだ。
「はい。準備は抜かりなく」
「いえ、その心配はしていないのよ。実は別件でお願いがあるの。急で申し訳ないのだけど、彼女の専属メイドになってもらえないかしら」
「はい?ですが、私はレディースメイドではありません」
何度も言うが、接客担当。身の周りのお世話をするレディースメイドとは役割が違うのですが?
「……担当するはずだったファティマが身篭ってしまったのよ」
えっ?!あの子、まだ結婚してないわよね?
「悪阻が始まって分かったみたいなの。さすがにいつ吐くか分からない子を専属には出来ないでしょう」
うわ……やらかしてるわ。よりにもよってこの時期に。
「貴方ならすでに彼女のことは勉強済みでしょう?」
「それは……ですが、私が把握していますのはお食事やお茶の好みなどで、お召し物や髪型等は把握しておりません。やはり、別の方に任せた方が」
「……知っているでしょう?気難しい方なの」
知ってますよ。だから今回接客担当にされたんです。
「うちの子達のレベルが低いとは思っていないわ。ただねぇ、あの王女様の相手は荷が重いわ」
「私だって同じですよ?」
「何を言ってるの!あのレイナルドを攻略したくせに!」
あのって。貴方様のご子息ですが。
「伯爵様はとっても心のお優しい方ですよ?ただ、少し感情表現が下手くそなだけで」
「そこよ!問題なのはっ!見た目が極悪な熊の中身がか弱いウサギだなんて誰も思わないでしょうっ?!
そもそも熊とお姫様が合うわけないのよ。それなのに、あの馬鹿陛下が……」
馬鹿陛下とは、国王であり、旦那様の友人……自称友人のマルティン国王陛下のことだ。
「いつもいつもレイナルドに迷惑ばかり!」
「大奥様。何処に影が潜んでいるか分かりません。そのような発言はお止めになった方が」
「やっとあの妹姫を手放せるのよ。今更影なんて仕込んでいるはずがないわ。本当に忌々しいこと」
本当に嫌なのね。でも、ほぼ王命だったもの。断れるはずないわ。
「お願いよ、貴方にしか頼めないの。レイナルドを助けると思って引き受けてくれないかしら?」
「……分かりました。ファティマから引き継ぎます」
所詮私は使用人。主に頼まれたらその職務をこなすしかないのです。
「クロエ」
「旦那様、どうされましたか?」
「いや……」
だからどうしてそこで言葉を濁す。言い切ってしまえばいいのに。
「王女様の専属の件ですか?」
「ああ、その……」
「そんなに申し訳無さそうにしていただかなくても大丈夫ですよ」
「だが……」
「お陰様でお給金を上げて頂けるそうです。ありがとうございます」
「うん……」
旦那様は本当に女性とお話をするのが苦手で、すぐに『……』のみで終わらせようとする困ったお方だ。
お体が大きくてとっても強面でいらっしゃるのに、中身はシャイで傷付きやすいウサギちゃんなのだ。
男性とは普通に話せるのに何故なのかしら。……いえ、やっぱり男性相手でも寡黙な質ではあるわね。
それでも、お仕事はきちんと熟されるし、私達使用人にも優しい素敵な方だ。
もう少し上手く生きられると良いのだけど。
「だが、君が担当してくれるなら……」
「はい、大切な婚約者様です。誠心誠意お世話をさせて頂きますね」
「……ありがとう」
ふふ、このほっこりした空気が可愛らしい。
思わず頭を撫でたくなってしまう。もちろんやらないけれど。
メイドといっても職務は細かく分かれている。私はその中のパーラーメイド。接客を主に担当している。
だから一般のメイドより少し制服がおしゃれなのが嬉しいのよね。
「クロエ、少しいいかしら」
「はい!」
大奥様に呼ばれ、部屋に入る。
「とうとう一週間後にあの子の婚約者が来るわ」
大奥様、すっごく嫌そうですね。
あの子というのは言い方は可愛いけど既に32歳、大奥様のご子息で現伯爵のレイナルド様のことだ。
「はい。準備は抜かりなく」
「いえ、その心配はしていないのよ。実は別件でお願いがあるの。急で申し訳ないのだけど、彼女の専属メイドになってもらえないかしら」
「はい?ですが、私はレディースメイドではありません」
何度も言うが、接客担当。身の周りのお世話をするレディースメイドとは役割が違うのですが?
「……担当するはずだったファティマが身篭ってしまったのよ」
えっ?!あの子、まだ結婚してないわよね?
「悪阻が始まって分かったみたいなの。さすがにいつ吐くか分からない子を専属には出来ないでしょう」
うわ……やらかしてるわ。よりにもよってこの時期に。
「貴方ならすでに彼女のことは勉強済みでしょう?」
「それは……ですが、私が把握していますのはお食事やお茶の好みなどで、お召し物や髪型等は把握しておりません。やはり、別の方に任せた方が」
「……知っているでしょう?気難しい方なの」
知ってますよ。だから今回接客担当にされたんです。
「うちの子達のレベルが低いとは思っていないわ。ただねぇ、あの王女様の相手は荷が重いわ」
「私だって同じですよ?」
「何を言ってるの!あのレイナルドを攻略したくせに!」
あのって。貴方様のご子息ですが。
「伯爵様はとっても心のお優しい方ですよ?ただ、少し感情表現が下手くそなだけで」
「そこよ!問題なのはっ!見た目が極悪な熊の中身がか弱いウサギだなんて誰も思わないでしょうっ?!
そもそも熊とお姫様が合うわけないのよ。それなのに、あの馬鹿陛下が……」
馬鹿陛下とは、国王であり、旦那様の友人……自称友人のマルティン国王陛下のことだ。
「いつもいつもレイナルドに迷惑ばかり!」
「大奥様。何処に影が潜んでいるか分かりません。そのような発言はお止めになった方が」
「やっとあの妹姫を手放せるのよ。今更影なんて仕込んでいるはずがないわ。本当に忌々しいこと」
本当に嫌なのね。でも、ほぼ王命だったもの。断れるはずないわ。
「お願いよ、貴方にしか頼めないの。レイナルドを助けると思って引き受けてくれないかしら?」
「……分かりました。ファティマから引き継ぎます」
所詮私は使用人。主に頼まれたらその職務をこなすしかないのです。
「クロエ」
「旦那様、どうされましたか?」
「いや……」
だからどうしてそこで言葉を濁す。言い切ってしまえばいいのに。
「王女様の専属の件ですか?」
「ああ、その……」
「そんなに申し訳無さそうにしていただかなくても大丈夫ですよ」
「だが……」
「お陰様でお給金を上げて頂けるそうです。ありがとうございます」
「うん……」
旦那様は本当に女性とお話をするのが苦手で、すぐに『……』のみで終わらせようとする困ったお方だ。
お体が大きくてとっても強面でいらっしゃるのに、中身はシャイで傷付きやすいウサギちゃんなのだ。
男性とは普通に話せるのに何故なのかしら。……いえ、やっぱり男性相手でも寡黙な質ではあるわね。
それでも、お仕事はきちんと熟されるし、私達使用人にも優しい素敵な方だ。
もう少し上手く生きられると良いのだけど。
「だが、君が担当してくれるなら……」
「はい、大切な婚約者様です。誠心誠意お世話をさせて頂きますね」
「……ありがとう」
ふふ、このほっこりした空気が可愛らしい。
思わず頭を撫でたくなってしまう。もちろんやらないけれど。
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