王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ

文字の大きさ
上 下
9 / 17

9. ラウラ(1)

しおりを挟む
ボネット男爵家は貧しい。
たびたび起こる水害に頭を悩ませている。大規模な工事をするような資金はもちろんなく、なんとかぎりぎりでしのいでいる有様だ。


「ラウラ、すまない。せっかく16歳の誕生日を迎えたのに、デビュタントの準備ができないかもしれない…」

「こんな大変なときに私だけ着飾ってパーティーなんて無理よ。
少し遅らせても大丈夫!私はみんなにおめでとうって言ってもらえるほうがうれしいもの」


お父様が落ち込んでしまったがこればかりは仕方がない。
あと少しでお兄様が学院を卒業して戻ってくる。そうしたら領地のことももっと手が回るようになるだろう。
貧しいことはそうそう変わらないとは思うが。

もしデビュタントに参加できなくても大丈夫だという気持ちに嘘はない。もちろん幼い頃から憧れは持っている。しかし、現状を見ないようにはできない。
いつか王子様と……なんて夢を追う子供ではないもの。









「マリィ、なんだか嬉しそうね。いいことでもあったの?」


侍女のマリィは私が幼い頃からの側にいてくれる幼馴染のような存在だ。
今日は何度もソワソワと外を気にしているのが気になって声をかけた。


「すみません、お嬢様!」

「べつに叱ったわけじゃないわよ。ずっと外を気にしているから何かあるのかと思っただけよ」

「じつは昨日、お隣のブランディス領で働いてる子に合った時に聞いたんですが、近々水害対策の視察で公爵様がいらっしゃるそうなんです!番探しで噂の方ですよ!
ふだんこの辺りに王都から人が来ることって少ないじゃないですか。
まさかの有名な方ですし。
だから気になってしまって。すみません」

「そうなの?知らなかったわ。
でも私もその話は聞いていないし、我が家には来られないわ。まっすぐ素通りして行かれるはずよ。残念だったわね」

「ですよねぇ。めったにお目にかかれない都会の方だから、もしかして見られるかも!と思ったんですが」

「ふふ、もし公爵様が来られたら、お父様が腰を抜かしてしまうわ」

「残念です。もしかしたらお嬢様を見初めてくださるかもしれないのに!」

「マリィったら不敬よ。それに公爵様は数多の女性を袖にされてきたと言うじゃない。私のような田舎の小娘なんて歯牙にもかけないわよ」

「私の自慢のお嬢様ですよ!どんな殿方だって一目惚れしちゃいます。公爵様以外の殿方だっていらっしゃると思うのに、お会い出来ないなんて勿体無いです~」

「ありがとう。身内贔屓でも嬉しいわ」

「もう!信じてくださらないんだから!」



優しいマリィ。あなたの言うことをまったく信じていないわけでわないわ。自分でもそれなりに可愛いのでは?と思いはする。でもそれなりに、だ。外見も中身も田舎の小娘にしてはそれなりに、なのだ。



”番探しの王弟殿下“
こんな田舎にすら噂が回ってくるほど有名な公爵様。
妖精姫と噂される程の美しさの隣国の王女、美しさだけでなく博識で有名な公爵令嬢、清貧の心を持ち民に寄り添い、その心の美しさから聖女と称えられた令嬢など、外見のみならず、聡明さ、謙虚さ、愛国心、どんなに優れた女性でも番ではないと一蹴されてきた、それが許されてきた方だ。
正直羨ましいとは思う。愛される方ではなく公爵様自身が。
私は番だとか愛する方だとかそんなことは考えていられない。どうしたら少しでも我が男爵家に利益をもたらせるか。それが第一条件だ。それも持参金が乏しいにも関わらず、との悪条件付。
暴力をふるう方は避けたい。できれば危ない性癖の方も。浮気癖や愛人を持ちたい方は、散財しないのであればいっそのこと白い結婚で乗り切れるのではないか。年配の方の後妻くらいならば上々といった所だろう。

人生ままならないな、とため息をつきたいところだ。

“番”探しをのんびりできるなんてうらやましいわね……




まさか数日後、自分がその番に選ばれるとは思いもしなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆
恋愛
 その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。  焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。  どこかから注がれる――番からのその視線。  俺は猫の獣人だ。  そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。  だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。  なのに。  ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。  しかし、感じるのは常に視線のみ。  コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。  ……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

処理中です...