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「………はっ?」

「聞こえませんでしたか?
あなたのことが大嫌いだと言ったんです」

「な、なぜだ!?何があったんだ!
もしかして今日誰かに何か言われたのか?
くそっ、やはり人前になんて出すべきではなかった!」

「そういうところですよ」

「なに?」

「そういう訳のわからない執着が気持ち悪いです」


なんだ?何が起こっている?
気持ち悪いと言われた…大嫌いとも……
わからない…吐きそうだっ


「なぜなんだ…」

「なぜ?私が知りたいです。
なぜ?どうして、私はこんな目にあっているのかしら。

アデルバート様は私と初めて会った時のことを覚えていますか?」

「もちろんだ」


あの時の衝撃はいまでも忘れられない。


「部屋に突然見ず知らずの男性が入ってきました。
最初は強盗かと恐怖しました。でも、それにしては身なりが良すぎる。
どう対応したらいいのかと思っていたら……いきなり口付けをされました。
その時の怖さがあなたに分かりますか?
強い力で体を抑えられ身動きもできない。
このまま強姦されるのではないかと…」


違うんだ、番を見つけてうれしくて!


「お父様が来てくれてホッとしたけれど離してもらえなくて。
番だなんて…本当に?
そんな感覚私にはまったく感じられないのに、このまま連れて行くって!
怖くて…でも公爵様に逆らうなんて、家が潰されてしまうかもって思ったら何も言えなくて」


…そんなふうに考えていたのか


「国王陛下への謁見は、本当は希望を持っていました。
この異常事態を止めてくれるのではと。
ふふ、でも浮かれてるだけだから許してあげてって。
何もしなくていいから愛だけ捧げてって。

そうね、陛下にとってあなたは可愛い弟さんなのね。
兄弟の仲がよくてよかったわ。

王妃様もあなたの味方。

私だって貧乏だったけど、デビュタントも結婚式も夢に見ていたわ。
どんなドレスを着よう。
アクセサリーは?髪型は?
少し大人っぽいメイクをする?

そんな女性としての夢は何一つ聞いてもらえなかった」

「すまない…でも、それならあの時そう言ってくれれば…」

「あなたが嫌がるから許してねって王妃様に言われて、イヤです、なんて言えるとでも?」

「っ、……」

「それでも、本当に私が番なら、すぐには無理でも私も愛せるはず、いい夫婦になれるはずって思うことにしました。
でも、私は……
私はまるで番という名のお人形でしたわ」

「ちがう!そんなはずないだろう!?」

「綺麗な服を着せて部屋に飾って、たまに庭に持ち歩いて、口にお菓子を運んで、夜はベッドで抱きしめて眠る。まるでおままごとのよう。
私がいくら嫌だとお願いしてもまるで響かない。

お人形扱いじゃないなら、あれは軟禁だし、拘束されての移動だし、同意のない夜のあれこれは陵辱、もしくは調教というんです」


そんなつもりではなかったのに、何も言い返せない



「何よりも……
あなたは、あなた達は、一度も私を名前で呼ばないじゃない……

番、番殿、番様、つがいつがいつがい!

誰一人私を呼んでくれない!!

私は! “つがい” なんて名前じゃない!
番である前に、ラウラというひとりの人間なの!!
自分で考えることのできる、自分で行動することのできる、れっきとした人間なのよ……」

「違う、ラウラ、違うんだ本当にお前を愛しているんだ…」

「愛?どんな私を愛しているの?
私のことを何か知っているの?

私の話なんか一度も聞いてくれないじゃない。
私がどう育ったとか、何が好きとか、どう感じたとか。
興味がなかったでしょう。
あなたは番が側にいればいいのよ。
何を考えてようが気にしない。ううん、何か考えているなんて思いもしない。
愛でて感触を楽しんで遊びたいだけの子供だわ」


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