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アデルバートが不機嫌さを隠しもせずに、王との謁見の場に訪れた。


「ずいぶんな顔だな?」

「兄上!伝令を送ったでしょう?
なぜ番と引き離そうとするんだ!」

「その伝令があまりに端的過ぎて理解できなかったからだろう?」


じっと睨み合う。


兄ウィリアムとアデルバートは3歳差。
共に優秀であったが、竜の血が濃く出ているアデルバートこそ王にふさわしいと、一部の貴族達が王へと進言し擁立しようとしていた時期があった。
しかし、肝心のアデルバート自身は、兄こそが次期王にふさわしいとウィリアムを立て続けた。
仕舞にはこれ以上兄上の邪魔をするなら自分は王位継承権を放棄する!とまで言ったほどだった。
兄を尊敬し、いつも側で支え、今まで諍いなど全く無かった。


番を得た途端これか…


「視察はどうなった。報告がまだだな?」

「…申し訳ありません。途中魔物に襲われ馬車が破損。護衛に負傷者も出たため中止致しました。
アッカー侯爵にはその旨連絡済です」

「なるほど。魔物が出た場所はどこだ?」

「ノアの森の手前です。はぐれのようでした。
念の為、その近辺を巡回するよう第三騎士団に通達しました」


やるべきことはやってあるか。


「わかった。ごくろうだった。
しかしな、王への報告が後回しというのはどうなんだ?」

「…兄上に捕まるのが面倒だったからですよ!」

「なんでだよ!というか番の子は?
連れてくるよう言っただろ?」

「絶対に嫌です。
私以外会わせたくありません。
屋敷に置いてくるのも嫌だったんだ!」

「お前なぁ、見せたくないって式はどうするつもりなんだ?
顔見せしないなんて不可能だろうが。
というかどこの令嬢なんだ?」


恐ろしい程の独占欲に引いたが、一度冷静にさせるため矛先を変える。


「…ボネット男爵令嬢です」

「あぁ、2年前の水害でかなりの損害が出ていた家だな。
しかし、あそこにそんな妙齢の令嬢などいたか?」

「まだデビュタントを迎えておりませんので兄上はご存知ないかと」


デビュタント前だと?
この国では16歳になるとデビュタントとして社交界に参加できるようになる。
ということは16歳以下?まさか幼女では…


「先月16歳になったばかりです。ただ水害被害の影響でデビュタントにかける資金がなく、来年に繰り越そうかと考えていたようです」


よかった。犯罪的な年齢ではない。女性は16歳なら結婚も出産も認められている。


「ならばお前との婚約披露とデビュタントと同時に行えばいい。どうせドレスからアクセサリーまですべてお前の好みで選んでやりたいんだろう?」

「お断りします」

「は?」

「彼女をお披露目する気はない」

「何を言っているんだ!
王弟であるコンラート公爵が婚約者を迎えるのに、お披露目も婚約式もしないつもりか?
そんなことをしたら妾だと馬鹿にされるぞ!」

「彼女は私の番です。もし、彼女を侮辱するものがいたら生かしてはおかない」

「だったら!お前がそんな隙を与えるような愚かなことをするな。
それじゃなくても男爵家と地位も低い。
本来なら公爵家に嫁ぐなどふさわしくないと言われるところだ。
侮られるようなことはするべきじゃない」

「……」


番とはこんなにも執着が酷いものなのか?
まだ出会って何日もたっていないだろうに。


「…ベールを最後まで外さず、ドレスも露出が控えめな清楚で貞淑なデザインで。
宝石も大振りなものではなく、華奢で、でも華やかさは出しましょう。いっそのこと聖女のような、神秘的な番であることをアピールするような衣装でどうかしら?」


それまで無言で私達の会話を聞いていた王妃が提案をしてきた。
なるほど。神秘的か…
何せ王族に番が現れるのは久しぶりのことだ。
そういったアピールは有効だろう。


「…婚約式ではなく婚姻式でお願いします」

「~~分かった!
それでいい。一度でいいからお披露目はするぞ。
これは譲れない。
あと、ドレス選びのため王宮から採寸などのための侍女を行かせる。きちんと採寸し、よく似合うドレスを作ることが絶対条件だ」

「…わかりました」

「それと、必ず式の前に私達との顔合わせはするぞ。
初めて会うのが婚姻式など許さないからな」


すごい不満そうな顔だな。
番殿はこんなに重い男を受け入れられているのか?
不安しかない…




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