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ラフィーネ王国はかつて竜が治める国であった。
竜が人間の番を得て、愛する者の為に国を護った。
長い年月を経て竜としての姿や能力は失われていったが、愛する「番」への本能は未だ残っていた。
特に王族は番への本能を強く持っているものが生まれることがある。
逆に爵位の低いものや平民などは番を認識することはほぼできなかった。
現在の国王と王妃は番同士ではない。
少なからず番を求める思いはあったが国内では見つからず、王族としての責務を放棄してまで他国へ番を探しに行くことはできなかったからだ。
それでも賢王賢妃として賞され、仲睦まじく国をまとめている。
こうやって竜としての本能は薄れ、いずれは完全に消えていくのだろうと思われていた。
王弟であるコンラート公爵もいまだ番を見つけられずにいた。
しかし、30歳を超えてもいまだ諦めることができず、兄である国王にはもう少しだけ待ってほしいと結婚を拒んでいた。
血を絶えさせてはいけないことは分かっている。
それでも…
どうしても番への夢が消えなかった。
その館を訪れたのは本当に偶然だった。
水害対策の視察に向かう道中、普段であれば魔物のでないはずの街道に、はぐれの魔物であろうか。大型の熊型が一体現れたのだ。
なんとか倒すことは出来たが、馬車の車輪が外れ、怪我人も出たことから近くの男爵家に助けを求めた。
男爵といっても王都の裕福な平民の方がもっと豪華な屋敷に住んでいるのではないか?
そう思われるほど鄙びた館であった。
突然の王族の訪問に男爵は狼狽え青褪めていた。
多少申し訳なく思ったが、緊急事態だ。悪く思わないでほしい。
なるべく早く出立する旨を伝えようと思った。
しかし…何かを感じる?なんだ?
まるで見えない何かに導かれるように、館の主の制止を無視して建物の奥に駆け出す。
そして…
バンっ!
扉を開け放つとそこには驚きに声も出ずにいる一人の少女がいた。
柔らかいミルクティーブラウンの髪に空を写したような澄んだ瞳。
目があった瞬間心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
(見つけた!私の番!)
心が歓喜に満ち溢れた!
そのまま室内に入り少女を力いっぱい抱きしめた。
「ひっ!」
あぁ、なんて可愛らしい声なんだ。小さくて柔らかい体。甘い香り。
「は、はっ離して下さい!」
カタカタと震えている。まるで子猫のようだ。
「怯えないで、私の番」
「っ、番?なに言って…」
「おまえを愛し守る者だよ」
信じられないというような顔で私を見つめてくる。
あぁ、そんなに美しい瞳で見つめられたら…
「っんぅ⁉」
思わず口づけてしまう。
心が震える。これが番との初めての口づけ…
「~~っ!」
可愛らしい手でこぶしを握りポスポスと胸を叩いてくる。もしかして抵抗しているのか?
可愛すぎるだろう!
チュッと下唇を吸い名残惜しいが離れる。
大きな瞳に涙を浮かべて息苦しかったのか喘ぐ姿に欲望が膨れ上がる。
早く連れて帰らなければ…
「公爵様何を!」
バタバタと男爵と護衛の者が駆けつけてくる。
断りもなく屋敷に侵入し、大事な娘に手を出したんだ。
たとえ相手が公爵でも許せるものではないのだろう。
「彼女は私の探し求めていた番だ。
まさか出会えるとは思わなかった。本当に嬉しいよ!
必ず大切にすると約束する」
私の言葉に護衛達は驚き、歓声を上げた。
男爵と娘は信じられないのか呆然としている。
「あ、あの少々お待ちください!
娘は、ラウラはまだデビュタントも迎えていない子供です!
いきなりそのようなことを言われましてもっ」
「あぁ、だから出会うことができなかったのだな。
本当に幸運だったよ。
魔物に襲われなければこちらを訪れることはなかった。
きっと神の導きだったのだろう、感謝しかないな」
番を抱き上げ近くのソファーに座る。
まだ慣れないのだろうか?体を固くしている。
早く連れて帰って心も体も癒やしてあげねば。
「応急処置が済み次第王都に戻ろう。
番を連れて帰らねば。荷物は本当に大切なものだけ持っておいで。
後のことは私に任せるといい」
「そんな!まさかこのまま娘を連れて行くおつもりですか!?」
「?当たり前だろう。番だぞ?
本当は護衛の目にも触れさせたくはないのだ」
こんなに美しい娘だ。離れがたいのは分かるが、番であれば仕方のないことだろう?
田舎からあまり出ていないようだから、そういった常識を理解していないのか。
「…公爵様…
私はこのままお父様と離されるということですか?
突然のことで、…番と言われましても私には申し訳ありませんが分かりません!
何かの間違いです!」
…残念なことだ。下位のものは本当に番が分からないのだな。
あの時の衝撃を感じることができれば一瞬で理解できるのに。
「大丈夫だ。私の番で間違いない。
おまえは自信を持って愛されればいい」
大きく見開いた瞳からホロホロと涙が溢れる。
まるで宝石のようだ。
歓喜の涙か?
「ふふっ、泣く姿も美しいが他のものがいるところではダメだよ、愛しい番」
優しく涙をついばみながら、そっと抱きしめて幸せを噛みしめる。
これで兄上も安心されるだろう。
しばらくは登城も難しくなるかもしれないが、それは許してもらおう。
愛しい番のためだ…
竜が人間の番を得て、愛する者の為に国を護った。
長い年月を経て竜としての姿や能力は失われていったが、愛する「番」への本能は未だ残っていた。
特に王族は番への本能を強く持っているものが生まれることがある。
逆に爵位の低いものや平民などは番を認識することはほぼできなかった。
現在の国王と王妃は番同士ではない。
少なからず番を求める思いはあったが国内では見つからず、王族としての責務を放棄してまで他国へ番を探しに行くことはできなかったからだ。
それでも賢王賢妃として賞され、仲睦まじく国をまとめている。
こうやって竜としての本能は薄れ、いずれは完全に消えていくのだろうと思われていた。
王弟であるコンラート公爵もいまだ番を見つけられずにいた。
しかし、30歳を超えてもいまだ諦めることができず、兄である国王にはもう少しだけ待ってほしいと結婚を拒んでいた。
血を絶えさせてはいけないことは分かっている。
それでも…
どうしても番への夢が消えなかった。
その館を訪れたのは本当に偶然だった。
水害対策の視察に向かう道中、普段であれば魔物のでないはずの街道に、はぐれの魔物であろうか。大型の熊型が一体現れたのだ。
なんとか倒すことは出来たが、馬車の車輪が外れ、怪我人も出たことから近くの男爵家に助けを求めた。
男爵といっても王都の裕福な平民の方がもっと豪華な屋敷に住んでいるのではないか?
そう思われるほど鄙びた館であった。
突然の王族の訪問に男爵は狼狽え青褪めていた。
多少申し訳なく思ったが、緊急事態だ。悪く思わないでほしい。
なるべく早く出立する旨を伝えようと思った。
しかし…何かを感じる?なんだ?
まるで見えない何かに導かれるように、館の主の制止を無視して建物の奥に駆け出す。
そして…
バンっ!
扉を開け放つとそこには驚きに声も出ずにいる一人の少女がいた。
柔らかいミルクティーブラウンの髪に空を写したような澄んだ瞳。
目があった瞬間心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
(見つけた!私の番!)
心が歓喜に満ち溢れた!
そのまま室内に入り少女を力いっぱい抱きしめた。
「ひっ!」
あぁ、なんて可愛らしい声なんだ。小さくて柔らかい体。甘い香り。
「は、はっ離して下さい!」
カタカタと震えている。まるで子猫のようだ。
「怯えないで、私の番」
「っ、番?なに言って…」
「おまえを愛し守る者だよ」
信じられないというような顔で私を見つめてくる。
あぁ、そんなに美しい瞳で見つめられたら…
「っんぅ⁉」
思わず口づけてしまう。
心が震える。これが番との初めての口づけ…
「~~っ!」
可愛らしい手でこぶしを握りポスポスと胸を叩いてくる。もしかして抵抗しているのか?
可愛すぎるだろう!
チュッと下唇を吸い名残惜しいが離れる。
大きな瞳に涙を浮かべて息苦しかったのか喘ぐ姿に欲望が膨れ上がる。
早く連れて帰らなければ…
「公爵様何を!」
バタバタと男爵と護衛の者が駆けつけてくる。
断りもなく屋敷に侵入し、大事な娘に手を出したんだ。
たとえ相手が公爵でも許せるものではないのだろう。
「彼女は私の探し求めていた番だ。
まさか出会えるとは思わなかった。本当に嬉しいよ!
必ず大切にすると約束する」
私の言葉に護衛達は驚き、歓声を上げた。
男爵と娘は信じられないのか呆然としている。
「あ、あの少々お待ちください!
娘は、ラウラはまだデビュタントも迎えていない子供です!
いきなりそのようなことを言われましてもっ」
「あぁ、だから出会うことができなかったのだな。
本当に幸運だったよ。
魔物に襲われなければこちらを訪れることはなかった。
きっと神の導きだったのだろう、感謝しかないな」
番を抱き上げ近くのソファーに座る。
まだ慣れないのだろうか?体を固くしている。
早く連れて帰って心も体も癒やしてあげねば。
「応急処置が済み次第王都に戻ろう。
番を連れて帰らねば。荷物は本当に大切なものだけ持っておいで。
後のことは私に任せるといい」
「そんな!まさかこのまま娘を連れて行くおつもりですか!?」
「?当たり前だろう。番だぞ?
本当は護衛の目にも触れさせたくはないのだ」
こんなに美しい娘だ。離れがたいのは分かるが、番であれば仕方のないことだろう?
田舎からあまり出ていないようだから、そういった常識を理解していないのか。
「…公爵様…
私はこのままお父様と離されるということですか?
突然のことで、…番と言われましても私には申し訳ありませんが分かりません!
何かの間違いです!」
…残念なことだ。下位のものは本当に番が分からないのだな。
あの時の衝撃を感じることができれば一瞬で理解できるのに。
「大丈夫だ。私の番で間違いない。
おまえは自信を持って愛されればいい」
大きく見開いた瞳からホロホロと涙が溢れる。
まるで宝石のようだ。
歓喜の涙か?
「ふふっ、泣く姿も美しいが他のものがいるところではダメだよ、愛しい番」
優しく涙をついばみながら、そっと抱きしめて幸せを噛みしめる。
これで兄上も安心されるだろう。
しばらくは登城も難しくなるかもしれないが、それは許してもらおう。
愛しい番のためだ…
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