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【番外編】

負け犬の遠吠え・ガヴィーノ 【前編】

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「モニカが結婚……」


どうして。だって結婚はしないって……


「せっかくのチャンスを逃したのはお前だ。諦めろ」
「チャンスなんて何処にあった?!」
「私が別れた時だ。あの時、本当にモニカが好きなら告白するなり待ってて欲しいと言うなり出来ただろう。
だが、お前は何もしなかった。結婚相手は頑張った。それだけのことだ」
「だって結婚しないって言ったじゃないか!」
「それを変えさせるだけの熱意も行動もなかったのだろう。だから今度こそ諦めろ。
次は心の中で叫んでばかりいないで、言葉と行動で示すように頑張りなさい」


兄さんはそれだけ言うと去って行った。

……じゃあ、俺なんかが何か言ったら好きになってくれたのか?絶対に無いだろ。それなのに何を言えばよかったんだ!
俺だってあれから真面目に仕事をする様にしたし、粗暴な態度だって改めるよう努力している……でも、それじゃあ足りないんだろ?だからっ!……だから、何も言えなかったんじゃないか……



すべてが虚しくなって酒を飲んで酔い潰れた。


「お兄さ~ん、ここで寝られると困るんですけど!起きて下さい、お家に帰りましょうよ!」
「……うるさい、どうせ俺なんか誰も相手にしないんだ……」
「そんなことないですよ!ベッドでぐっすり寝たら嫌なことも忘れますって!だから起きて帰りましょう!」
「…やだ…帰っても誰もいない…どうせ俺なんて…」


と言うか俺は誰と喋ってるんだ?


「もう、ぐだぐだと面倒臭いわね!いいから起きなさい!」


ちょっと待て。グラグラと頭を揺らすのは止めてくれ。


「っ、気持ち悪っ、吐く……」
「きゃーっ!待って待って!ここは駄目!」


無理矢理引っ張られ足がもつれる。
なんとかトイレにたどり着いて吐きまくる。

苦しい…苦しい…どうして俺ばかり……


「どう?大丈夫?」
「無理だ……俺はもうだめだ……」
「……困った人ね。仕方がないわ、上まで歩ける?」


支えられながら2階まで上がる。


「はい、水よ。飲んで」


冷たい水が喉を潤す。少しだけ気分が落ち着いた。


「ベッド。使っていいわよ。服を少しだけ緩めるわね。触るわよ?」


誰……どうして俺に……


「行かないで、俺を見捨てないでくれ」


優しい手に縋り付く。この人を離したらひとりぼっちになってしまう!


「ちょっ、やだ!離してよ!……泣いてるの?」
「お願いだ、俺のこと愛してよ…」
「え、困る!」


どうしてそんなことを言うんだ、さっきまであんなに優しくしてくれたのに……
このぬくもりを離したくなくて両腕で抱え込む。
ああ、温かい……








「……何処だ、ここは……」


見覚えのない景色に視線を彷徨さまよわせる。


「起きたならいい加減離してよ」


は?


「……誰だ、お前は」
「路上で酔い潰れてた貴方を介抱してあげた親切なレディですが何か?!内臓飛び出そうだから腕を離して!」


……信じられない。この俺が?こんな女と一晩を共にしたのか?


「……おかしな事をしなかっただろうな」
「どれだけ自惚れてるの?多少見目がいいからっていい気にならないで。
もう一度言うわよ?私は!親切に!貴方を!介抱して差し上げました‼
そんな優しい私に言うべき言葉は何?」


なんだコイツ。見た感じ平民だよな?どうしてこんなに偉そうなんだ。


「聞こえてるわよね?」
「……感謝する……」
「よし!最初からそう言えばいいのよ。
言えたのは偉いけど、次からは言われなくても感謝の言葉を伝えられるようにしなさいよね」


本当に偉そうだな?!


「……俺はガヴィーノ・バルディだ」
「私はダリアよ」


名前を聞いても怯まないっておかしくないか?
見た感じ特徴の無い女。不美人ではないけど、取り立てて綺麗ということもなく、よく見かける焦げ茶色の髪にこれまた無難な茶色の瞳。
……というか絶対に年下だよな?


「お前何歳だ?」
「え、23だけど。どうして?」
「……偉そうだから。俺の方が年上だ」
「あははっ、それがどうしたのよ!どう見たって酔っ払って路上で寝ちゃう人より、優しく助けてあげた私の方が偉いでしょ!
もしかして、俺は貴族だ~っ!とか言うつもり?恥の上塗りだからお勧めしないわよ」
「言ってないだろっ!」


言わなくてよかった!こいつはアレだ。兄さんの結婚相手と同種な気がする……言い返すと倍返ししてくるタイプだ。


「どう?頭痛とか吐き気はある?」
「……少しだけ……」
「仕方がないからお薬も恵んであげるわ。待ってて」


……俺が平民に恵まれるのか。

「かっこわる…、」


どうして俺は駄目なんだろう。
変わろうと思ったのに、変われると思ったのに。


「おまたせ。なぁに、まだ落ち込んでるの?
お酒なんか飲み過ぎるからよ!はい薬。あと、昨日の残りで悪いけど、スープもよかったら飲んで」
「……どうして」
「ん?」
「どうして俺なんかに優しくするんだ……」
「暗いなぁ。体が元気じゃないと心も元気が無くなるのよ?まずは二日酔いを治しちゃいなさいよ」
「……」


ノロノロとスプーンを手に取りスープを飲む。野菜がたくさん入っていて美味いけど……


「スープというより…、煮物?」
「うるさいなぁ、美味しいでしょ?」
「……悪くない」
「可愛くない!」


俺の態度は決していいとは言えないのに、ケラケラと楽しそうに笑っている。俺といてこんなに楽しそうにする奴は珍しい。


「女が大口開けて笑うなよ」
「男が細かいこと言うなよ!」


駄目だ。勝てる気がしない。


「どうする?もう少し休んでく?」


だからどうして俺に……


「……ここにいてもいいのか」
「拾っちゃったものは仕方がないわ。最後まで面倒みてあげるわよ」
「……なら、ここにいる」
「了解。寝てていいよ。私は下の店にいるから。何かあったら呼ぶか来てね」
「……店?」
「うん。私はこれでも薬師なの。さっきの飲み薬も私のお手製よ。たぶん寝て起きたら治ってるわ」


ただの生意気な平民女だと思ったのに。
薬師だなんて、結局は有能な奴なのか……

それ以上考えたくなくて、シーツを被ってふて寝した。






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