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【番外編】
胸の痛みを消す方法・モニカ 【中編】
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結局。あの日はどちらも譲らずお開きとなった。
このまま会わなければ……そう思っていたけれど、同じ領地にいれば会いますよね。
お仕事中ならこのまま逃げられるわ。
憲兵の副隊長だと言っていたけど、年齢から考えると意外と出世株?やっぱり私とは合わないわよ。
「お仕事ご苦労様です」
「ありがとう。仕事が終わったらそっちに行く」
「……なぜかしら?」
「婚約者だから」
困ったわ。いつの間にか婚約者ポジ。
「……なった覚えがありません」
「結婚しようと言ってくれた。サインもある」
私の馬鹿。何をやってるの。
「本当に来たのね」
「俺は嘘は言わないが」
「……それは何?」
「ん?晩飯の材料を持ってきた」
何それ。食材は提供するからさっさと作れと?
少しイラッとすると、
「台所を借りるぞ」
「えっ、……あなたが作るの?」
「?だから材料を持ってきた。苦手なモノはあるか?」
「……無いケド」
「分かった。調味料は勝手に使うぞ」
「……どうぞ」
驚いた。手際もいいわね。平民だと男性でも料理をするの?
エミディオはさすがに料理はしなかった。
……誰かと比べるのは失礼だったわ。
「どの皿を使えばいい?」
「あ、今出すわ」
あっという間にスープやおかずが出来上がる。
ちょっと感動かも。
「簡単なものばかりですまん」
「とんでもないわ!手際がよくて驚いたもの」
「口に合うといいが」
「うん、いただきます」
まずはスープをひとくち。う~、悔しいけど美味しい。トマトの酸味が程よい。
「美味しいわ。これって何が入ってるの?」
そうやって料理の感想や質問をしながら食事をする。意外と楽しい時間になった。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「よかった」
さっさとお皿を片付けようと動き出すので、慌てて止める。
「作ってくれたんだから片付けは私がするわ」
「じゃあ一緒にやろう。その方が早い」
アベルは口数は少ないが、こちらが困らない程度には話してくれるし、押し付けがましくない所が……悔しいけど心地よい。
「そう?じゃあ洗った食器を拭いてくれる?」
「了解」
いい人よね。これならいい人がすぐに見つかるでしょう。
「ありがと。お茶を入れるから座ってて」
長引かせないで終わらせなきゃ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
よし、がんばりますか。
「今日はありがとう。でも、私は貴方とは結婚できないわ」
「なぜ?」
「言ったでしょう。子供が出来ないからよ」
「それで?」
「え、それでって、大問題でしょう」
なぜそんなに不思議そうな顔をするのかしら。
「モニカは貴族?」
「元、ね」
「だからか。思考が貴族的だ。家の為に子供が必要な貴族と違って、俺は継いでもらわなきゃいけない家も職業もない。子供は結婚の条件にならないな」
「でも!自分の子供は欲しいでしょう?」
それは貴族も平民も同じはず。
私だって……出来るなら今だってこの手に抱きたいと思うわ。
「授かれたらラッキー過ぎる」
「は?」
「だってさ、まずは好きになれる人と出会えたら奇跡1つ。両思いになれたら奇跡2つ。結婚まで出来たら奇跡3つ。もう十分じゃないか。
だから、その先はもしも手に入れば絶対に大切にするけど、手に入らないことを後悔したりはしない。だってその前に奇跡はたくさん起きてるだろ?」
……何、その考え方は……
今まで子供が出来ないことをずっと悩んできたのに。そんなにアッサリと?え、本当に?
「いえ、でも……そう、確率!確率がゼロより50ある方が良くない?」
「その確率に行く前の奇跡が足りないな。俺が好きになって、その女性が未婚で、俺に不快感を持たない。
奇跡を3つクリアして初めて確率の話になる。
26年生きてきて、ここまでの奇跡に出会えたのは初めてなんだけど?」
奇跡……ですか……
「それに授かれなかったら養子を取ることもできる。もし、俺達が結婚して子供を引き取ったら寂しい孤児が一人、幸せな子供になれる。最高じゃないか」
孤児が幸せになる……それは素敵だけど
「……あなたは良くてもご両親は?」
「俺は幸せになれた孤児だ」
「!」
「だから両親は絶対に反対しない」
だから……
「あなたの、その奇跡だという考えはご両親から?」
「ああ、俺はこの考え方に救われた。子供の頃、近所のガキにいじめられたんだ。捨て子だとか拾われ子だとか。でも母さんが、俺と出会えたのは奇跡だっていつも言ってくれた」
「……素敵なご両親ね」
「それに今では似た者親子だって言われてる。
父さんもマイペースであんまり顔に出さない人で俺と似てるらしい。毎日同じご飯を食べて一緒に生活していけば自然と家族になるものだってよく笑ってる」
「そうなの」
なんだか胸がいっぱいだ。子供の事も結婚もすべて諦めていたのに。
「ごめん、泣かせたか?」
そう言って目元にキスをする。
「ストップ。まだそこまで許してないわ」
「最後までしたのに?」
「酔っ払いはノーカウントです」
感動したし、心は揺れたけど、さすがにすぐに結婚まではいけないわ。
「ねぇ、あの日のこと、ちゃんと教えて?」
このまま会わなければ……そう思っていたけれど、同じ領地にいれば会いますよね。
お仕事中ならこのまま逃げられるわ。
憲兵の副隊長だと言っていたけど、年齢から考えると意外と出世株?やっぱり私とは合わないわよ。
「お仕事ご苦労様です」
「ありがとう。仕事が終わったらそっちに行く」
「……なぜかしら?」
「婚約者だから」
困ったわ。いつの間にか婚約者ポジ。
「……なった覚えがありません」
「結婚しようと言ってくれた。サインもある」
私の馬鹿。何をやってるの。
「本当に来たのね」
「俺は嘘は言わないが」
「……それは何?」
「ん?晩飯の材料を持ってきた」
何それ。食材は提供するからさっさと作れと?
少しイラッとすると、
「台所を借りるぞ」
「えっ、……あなたが作るの?」
「?だから材料を持ってきた。苦手なモノはあるか?」
「……無いケド」
「分かった。調味料は勝手に使うぞ」
「……どうぞ」
驚いた。手際もいいわね。平民だと男性でも料理をするの?
エミディオはさすがに料理はしなかった。
……誰かと比べるのは失礼だったわ。
「どの皿を使えばいい?」
「あ、今出すわ」
あっという間にスープやおかずが出来上がる。
ちょっと感動かも。
「簡単なものばかりですまん」
「とんでもないわ!手際がよくて驚いたもの」
「口に合うといいが」
「うん、いただきます」
まずはスープをひとくち。う~、悔しいけど美味しい。トマトの酸味が程よい。
「美味しいわ。これって何が入ってるの?」
そうやって料理の感想や質問をしながら食事をする。意外と楽しい時間になった。
「ごちそうさま。美味しかったわ」
「よかった」
さっさとお皿を片付けようと動き出すので、慌てて止める。
「作ってくれたんだから片付けは私がするわ」
「じゃあ一緒にやろう。その方が早い」
アベルは口数は少ないが、こちらが困らない程度には話してくれるし、押し付けがましくない所が……悔しいけど心地よい。
「そう?じゃあ洗った食器を拭いてくれる?」
「了解」
いい人よね。これならいい人がすぐに見つかるでしょう。
「ありがと。お茶を入れるから座ってて」
長引かせないで終わらせなきゃ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
よし、がんばりますか。
「今日はありがとう。でも、私は貴方とは結婚できないわ」
「なぜ?」
「言ったでしょう。子供が出来ないからよ」
「それで?」
「え、それでって、大問題でしょう」
なぜそんなに不思議そうな顔をするのかしら。
「モニカは貴族?」
「元、ね」
「だからか。思考が貴族的だ。家の為に子供が必要な貴族と違って、俺は継いでもらわなきゃいけない家も職業もない。子供は結婚の条件にならないな」
「でも!自分の子供は欲しいでしょう?」
それは貴族も平民も同じはず。
私だって……出来るなら今だってこの手に抱きたいと思うわ。
「授かれたらラッキー過ぎる」
「は?」
「だってさ、まずは好きになれる人と出会えたら奇跡1つ。両思いになれたら奇跡2つ。結婚まで出来たら奇跡3つ。もう十分じゃないか。
だから、その先はもしも手に入れば絶対に大切にするけど、手に入らないことを後悔したりはしない。だってその前に奇跡はたくさん起きてるだろ?」
……何、その考え方は……
今まで子供が出来ないことをずっと悩んできたのに。そんなにアッサリと?え、本当に?
「いえ、でも……そう、確率!確率がゼロより50ある方が良くない?」
「その確率に行く前の奇跡が足りないな。俺が好きになって、その女性が未婚で、俺に不快感を持たない。
奇跡を3つクリアして初めて確率の話になる。
26年生きてきて、ここまでの奇跡に出会えたのは初めてなんだけど?」
奇跡……ですか……
「それに授かれなかったら養子を取ることもできる。もし、俺達が結婚して子供を引き取ったら寂しい孤児が一人、幸せな子供になれる。最高じゃないか」
孤児が幸せになる……それは素敵だけど
「……あなたは良くてもご両親は?」
「俺は幸せになれた孤児だ」
「!」
「だから両親は絶対に反対しない」
だから……
「あなたの、その奇跡だという考えはご両親から?」
「ああ、俺はこの考え方に救われた。子供の頃、近所のガキにいじめられたんだ。捨て子だとか拾われ子だとか。でも母さんが、俺と出会えたのは奇跡だっていつも言ってくれた」
「……素敵なご両親ね」
「それに今では似た者親子だって言われてる。
父さんもマイペースであんまり顔に出さない人で俺と似てるらしい。毎日同じご飯を食べて一緒に生活していけば自然と家族になるものだってよく笑ってる」
「そうなの」
なんだか胸がいっぱいだ。子供の事も結婚もすべて諦めていたのに。
「ごめん、泣かせたか?」
そう言って目元にキスをする。
「ストップ。まだそこまで許してないわ」
「最後までしたのに?」
「酔っ払いはノーカウントです」
感動したし、心は揺れたけど、さすがにすぐに結婚まではいけないわ。
「ねぇ、あの日のこと、ちゃんと教えて?」
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