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17.挙動不審 (決意表明)

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ビクッ


「あ」
「アリーチェ?」


やってしまった。
どうしよう、いままでどうしてたっけ?


「えと、行ってらっしゃい?」
「……あぁ、行ってくる」


……絶対におかしいと思ってる、よね。
だって分からなくなってしまった。
私は今までどうやってエミディオ様に触れていたのかしら。どうやって触れられて……触れ……

だって!だっておかしいのよ!
エミディオ様が近付くと、心臓がバクバクするし!キスされたら呼吸が止まるっ!
なんなのこの挙動不審な体は!!


「若奥様、何かありましたか?」
「……何か……あった、ような、無かったような」


ただ、男の人だと思っただけ。

優しくて、大人で。あんな人今までいなかった。
私が言い過ぎると殴る人や怒る人。たまに泣く人?あんなふうに優しく気持ちの方向転換をさせてくれる人はいなかった。
本当に大人だよね。おかげでエリアスとは仲直り出来たけど、一欠片も嫉妬しないし……
嫉妬……私がエリアスを異性として見てなかったから。そう言ってたけど、本当は私が子供っぽいから?

思わず体を見る。食生活が貧しかったせいか、元々なのか。とってもスレンダーな体。伯爵家の食事はとっても美味しいから、これでもお肉は付いたんだけどな。
私がくっついてもまったく気にしないし。

……私だけが意識してる……


「私でよかったら相談して下さいね」
「ありがと。ん~、ただもう少しお胸が欲しいかなって」


あ、馬鹿なことを言ってしまったわ。


「あらあら!そんなのはぼっちゃまに手伝ってもらえばいいんですよ!」
「え、エミディオ様にそんな特技が?!」


知らなかった。本当に有能な人なのね。
でもエミディオ様の為にもう少し大きいといいなと思っているのに、彼に大きくしてもらうのはどうなのだろう。
……違うわ。お胸の問題じゃなかった。
私がドキドキし過ぎて固まるのが問題なの!


「うふふ、恋する若奥様は可愛らしいですわ」
「……こい……恋?!」
「あら、気付いてなかったのですか?だって少し前までは平気でいらっしゃったのに、今はキスや頭を撫でるのすら恥ずかしそうですし、お胸を気になさるのは魅力的に見られたいということでしょう?
若奥様は聡くていらっしゃるのに、恋心は不得手なようですわね。大変美味しゅうございます!」


美味しいの?何が?私の恋が?

恋……これが、恋……


「……やってしまったわ……」
「あら?何故そんな犯罪を犯したみたいな反応なのですか。さすが若奥様ですわね、まったく読めません」
「だって、嘘をついてしまったもの」


モニカさんに、エミディオ様を好きにならないと言ったのになぁ。


「それなら謝ればいいのでは?」
「へ?」
「悪いことをしたと思うなら、ですけどね」


悪いこと、なのかしら。
少し違うわね。でも──


「ノーラ、手紙を急ぎで出したいのだけど」
「おまかせください。大至急お届け致します」


モニカさんに会いに行こう。





ここ数日、エミディオ様を傷付けてると思う。
分かっているのにどうしても固まる。
伝えようにも、何と言っていいか分からない。
好きだから恥ずかしくて?
娘だと思っている私にそんなことを言われてどう思うだろう。
エミディオ様は優しいから。
屑の性悪娘(仮)にすら優しさを見せる人だもの。きっと、内心困っていても優しく対応してくれるだろう。
でも、それは嫌だ。同情じゃ嫌だわ。寂しい。

恋をするとこんなにウジウジするとは思わなかった。今まで恋なんて、と軽く見ていた私は馬鹿だ。
こんなにも自分が変わるなんて。


「それにしても若奥様は本当にビックリ箱みたいですわ。まさかモニカに会いに行くとは思いませんでした」
「私もノーラがモニカさんと知り合いだとは思わなかったわ」
「もと同僚なんです。モニカは学園を辞めてから、しばらくは伯爵家で働いていましたから」


そういえばそんな話を聞いたわね。


「私は馬車で待機しておりますので、お気になさらずしっかりとお話しなさって下さいね」
「……ありがとう」


伯爵家の人は皆いい人ばかりだわ。
いや、ガヴィーノという例外はいたけど。
元気にしているのかしら。





「アリーチェ様、いらっしゃい」
「突然お手紙を出してすみません」
「いいのよ。可愛いお客様は大歓迎だわ」


やっぱりモニカさんは綺麗だわ。……お胸もあるし。これは自前なのか、それともエミディオ様製なのか。


「どうかした?」
「いえ、エミディオ様の技術なら凄いなって」


ついポロッと口に出してしまう。視線の先にあるモノに気がついたのだろう。モニカさんが爆笑した。


「やだわ、アリーチェ様ったら!こんなに大きな声を出して笑ったのなんて子供の時以来よ!」
「……やっぱり子供っぽいですよね」
「あら、今日は自信無さ気ね。何かあった?」
「いえ、エミディオ様がすごく大人だから」
「そうね、彼は伯爵家の当主になる為にたくさん努力してきた人だから。
でも、あなたは子供っぽいわけじゃないわ。素直で正直。とても素敵なことよ。
人は歳を重ねるごとに、本音で話さなくなる。貴族は特にね。だから、あなたの素直さが眩しいくらいなの。エミディオもそういうところに惹かれたのではないかしら」


エミディオ様が惹かれてる?私に?


「違います。私は娘だって言ってました」
「あら、お馬鹿さんだこと。もう、仕方がないわね。悩める女の子にアドバイスしてあげましょうか。
……私があの日に言ったことは全部真実よ。でもね、言わなかったことならあるの。何か分かる?」


モニカさんが言わなかったこと……何?


「エミディオがあなたを好きになるだろうなって気付いたことよ」
「……え?」


エミディオ様が私を?


「だから決断できた。だって悔しいじゃない?気持ちが離れてから別れるなんて」
「嘘です。エミディオ様はモニカさんが大好きでした」
「そうね。それは信じてる。
けど、私達は学生時代からの恋を諦めきれなくてここまで来てしまった。
あなたは……彼が大人になったからこそ始まった恋なのかもね。だってあなたが可愛くて仕方がないって顔をしてたもの」


本当に?本当にそんな事があるのだろうか。

……モニカさんは本当に素敵な女性だ。
優しくて、強くて、潔い。
私もこんな魅力的な女性になりたい。


「私、エミディオ様が好きです」
「……そう」
「絶対に幸せにしてみせますから!」


本気でそう伝えたのに、なぜかモニカさんはまた爆笑してしまった。


「ふはっ!あなたが幸せにする側なのね!
もうやだっ、どこまで面白いのよっ!

うん。あなたの決意はちゃんと受け取ったわ、頑張って」


私はモニカさんに伝えたかった。謝罪ではなく、彼を幸せにする覚悟を。
それなのに弱音を吐いて背中を押してもらってしまった。本当に……ありがとう。


「また遊びに来てね。いい報告を待ってるわ」
「はい、頑張ります!」


早くエミディオ様に会いたい。
傷つけたことを謝りたい。 
……好きだって伝えたい……


ガタンッ!!


「きゃっ!」
「若奥様、大丈夫ですか!」


何が起きたの?


突然馬車が止まった。急だったせいで車体が大きく揺れたのだ。


「なんだ、お前達は!」


御者の叫ぶ声が聞こえる。まさか、
襲われている?!




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