ごめんなさい、お淑やかじゃないんです。

ましろ

文字の大きさ
上 下
13 / 38

12.狼の飼い方 (初遠征)

しおりを挟む
どうしよう……

今日もエミディオ様が私を強く抱きしめる。
その手に性的な動きはない。ただ、私がいるかどうかを確かめ、私の形をたどり、自分に引き寄せるだけ。
私の髪に顔を埋め、匂いを嗅ぐのはやめてほしいです!

最初はモニカさんと勘違いしているのかと思って、思わず拳を握りしめた。
殴ろうと思ったその時、


「……アリーチェ……」


彼が呟いた。目を覚ましたのかと思ったが寝言のようだ。そして……人間違いはしていないらしい。
思わずホッとする。
彼も私がいることに安心したのか、寝息が穏やかになる。
確かにね。くっついてると温かいし、抱きしめられると嬉しくもある。
問題は、17歳の娘を抱き枕にして眠る父は如何なものか。ということだ。やらないわよね、普通は。

どうしようか。

好きだな、と思う。けど……

家族愛。でも、どんどん娘から逸脱しているように思う。では、その先は何だろう。

よく分からないわ。
こうやって私に甘える姿は嫌ではない。むしろ……嬉しく思っている。今まで泰然と佇んでいた狼が私だけに懐いているような……なるほど、これか!
私を守る強い狼。色合いも似ているわ。
目付きも狼だと思えば納得する。

思わず頭を撫でてみる。思ったよりも柔らかい髪が気持ちいい。彼が私を撫でたがる理由が分かった。しばらく撫でているといい感じに眠くなってくる。
……なるほど、これが癒やし……
アニマルセラピー……だ……







あれから数日が経った。
エミディオ様もだいぶ元気が戻った気がする。
この人は自分が傷ついている時でも私の体調を気にする困ったさんだ。だから、私にご飯を食べさせる為なら自分も食べるし、私を睡眠不足にしない為なら一緒に眠りにつく。領民の為なら仕事も頑張るし、助けを求められると王宮にも向かう。
……心配になるほど、自分を後回しにする。

だから私が甘やかす事に決めました!


「エミディオ様、こっちのカフスにしましょう。その方が私とお揃いっぽいわ」
「そうか?ではそれにしよう」
「はい、手」


すると、まるでワンちゃんがお手をするように素直に手を出してくる。最近すっかり躾のいき届いた飼い狼だわ。


目が合うとエミディオ様が優しく微笑む。
うわ、眉間にシワも凶悪だったけど、笑顔も存外凶悪だ……顔がいい。こんなに格好良かったっけ。

お母様も美女だもの。本来なら彼はもっとモテていたのでは?


「どうした?」


彼がこうやって、どうした?と聞いてくるのが案外好きだわ。お人好しめ。


「いえ、私の旦那様は素敵だなと思って」
「君もね。とても綺麗だ。絶対ひとりでフラフラしないように」
「あなたのお友達のパーティーでしょう?」
「アイツは顔が広いし、娘自慢でかなり盛大に人を集めている。アイツにとって親しい者が私達にとって味方だとは限らないからな」
「なるほど?どっちにしても私は知り合いなんてほとんどいないもの。あなたにくっついてるわ」
「ああ、そうしてくれ」


今日も過保護モード発動中。

ガヴィーノ様は本当に追い出された。と言っても平民落ちとかではない。伯爵家が所有するタウンハウスに移されただけだ。
罵詈雑言をがなり立てていたが、エミディオ様が無表情で近付くと……思い切りぶん殴った。人が吹っ飛ぶのを初めて見たわ。
鼻血を出して蹲っている彼を無造作に馬車に放り込み、「アリーチェの前に姿を見せたら埋める」とお別れの言葉を伝え送り出した。
ヤバイわ。私は愛されているようだ。うちの狼さんは最高に強かった。


そんな感じで私の守りは固い。彼がいれば、誰が近づいて来ても倒してくれそうだ。
つい隣に座るエミディオ様の頭を撫でてしまう。サラサラした髪の毛がクセになる。


「エミディオ様も私を放って遊びに行かないで下さいね。私の味方はあなただけなんだから」


妻になって初めて二人で大勢の人に会うのだ。どんな反応をされるのか少し不安なんだから。


「心配ならずっと手を繋いでいればいい」
「ん、そうするわ」







馬車が止まった。どうやら子爵邸に到着したようだ。


「……ねぇ、本当に子爵なの?」
「ん?そうだよ」


同じ子爵でここまで差があるなんてっ!
思わず涙が出そうよ。

伯爵家も最初は立派過ぎて驚いたけど、同じくらい凄くない?


「だから言っただろう。ひとりでフラフラしないようにと。連れ去られても分かりづらいからな」
「……絶対に離れないから」
「ああ、それじゃあ行こうか」



館の中は本当に大勢の人がいた。
これははぐれたら大変なやつ!娘の誕生日にここまでするの?王族なの?

私の疑問は顔に出ていたらしい。


「王族に縁のある公爵家の三男だ。
王宮で仕事をしているから、管理が楽な子爵になっただけで、思考回路と行動は裕福なおぼっちゃまだ」


公爵家……王族に縁……凄い人と友達なのね。


「エミディオ!来てたんだな」
「グイド。今日はおめでとう」
「ありがとう!後でマリベルにも会ってやってくれ。で、そちらが?」
「ああ、妻のアリーチェだ」


妻!初めてそう紹介されてしまった!


「はじめまして。グイド・セフェリノだ。エミディオとは学生の頃からの付き合いなんだ。これから仲良くしてくれると嬉しいな」


よかった。優しそうな人だ。


「はじめまして、アリーチェと申します。
私は知り合いがあまりいないので、そのように言っていただけるとありがたいですわ」
「よかった。後で妻と娘を紹介するよ。今日は楽しんでいってくれ。じゃあ、また後でな」
「ああ」


これだけ人がいると挨拶でまわるのも大変そう。


「大丈夫か?」
「もちろん。優しそうな方でよかったわ」
「そうだな。人柄は保証する。
何か飲むか?」
「そうね」




「アリーチェか?」



え、





しおりを挟む
感想 157

あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

処理中です...