ごめんなさい、お淑やかじゃないんです。

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10.恋だけでは (引退式)

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「モニカ、どうして!」
「分かっているはずよ、エミディオ」


別れ話をしているのに、モニカさんは聖母様みたい。どうしてそんなに優しい顔で別れを告げるの?


「……あの、私、外で待ってます……」


私はここにいてはいけないわ、部外者だもの。


「ううん、あなたにも聞いてほしいの」
「え、でも……」
「ごめんね、初めて会った人の別れ話なんて驚いたでしょう?でも、あなたは契約とはいえエミディオの妻。無関係ではいられないのよ」


確かにそうだけど。
エミディオ様がモニカさんとお別れしたら私は必要なくなる。だからって……


「……契約結婚を勧めた時から別れることを決めていたのか」
「ええ、そうよ。だって……もう無理だったでしょう?私達はずっと前から駄目になってた。
それを認めたくなかっただけ。
恋心だけでは生きていけないわ」
「……それならなぜ契約結婚を?」
「だってあなたは貴族であることを捨てられないじゃない。領民が不幸になってでも私との愛を取るなんでできないでしょう?
それなら貴族の義務として結婚をするべきだった。
あなたのお父様は正しいのよ。
でも、あなたは今更私を捨てることもできない。
だから契約結婚を勧めたの。あなたは優しいから、たとえ最初は愛が無くても、一度縁を結べば大切にするはずだから。
アリーチェさん、エミディオは優しいでしょう?」


うん、優しいよ。さっきも結婚できてよかったって言ってしまった。でも、こんな未来は望んでいないのに。


「でも、エミディオ様が伯爵になれたら」
「アリーチェさん、私ね、もう28歳なの。
あと何年待てばいい?本当に3年経ったら妻になれる?
……無理よ。これ以上は待てない。日陰者として生きていくのは辛いの」


エミディオ様が両手で顔を覆って俯いた。
泣いているのだろうか。


「ただ……ごめんなさい、あなたの事は聞いていた方とずいぶん違うから、本当に申し訳なかったわ。もっと、貴族としてわきまえている女性だと思っていたの。
それなのに、こんなに可愛らしい子だったから驚いているわ」 


わきまえている子とは。何をかしら?


「……すまない。これは私が悪い」


エミディオ様が顔を覆ったまま説明してくれた。


「彼女の父親としか話をしなかった私が悪いんだ。
ヤツの説明だと、アリーチェは性交渉は絶対に嫌だと言って白い結婚を喜んでいると言われた。私が他に好きな女性がいるのは大歓迎だと。
構われるのは鬱陶しいらしいから勝手に式の準備をしてくれと言われていたのだ」


あ、の、クソ親父っ!
初夜でエミディオ様が憤ったのは間違いじゃないんじゃない!!


「……エミディオ様、父が申し訳ありません」
「なぜあの屑の為にお前が謝るのだ。いつかアイツをぶっ潰すから待っていてくれ」
「え、そこまでは望んでいないわ。ぶん殴るくらいにしておいて」


でも潰しておいた方が平和かも。


「本当に仲良しね。

……あなた達に会うまではまだ悩んでいたの。
嫌いになったわけじゃないから。

でも、二人の楽しそうな姿を見てすごく懐かしかった。私達も昔はそんなふうに笑ってたよね。

……いつの間にか、ずっと遠くに来ちゃってたみたい。今はあの頃みたいに私達の楽しい未来なんて見えなくなっちゃったわ。

だから……お別れしましょう?」


ふぅ、と息をついてエミディオ様が顔を上げた。


「……私と別れたら……幸せになれるのか?」
「そうね。このままだとあなたを嫌いになっちゃいそうだし。それだけは嫌だわ。

ずっと好きだったの、嫌いにさせないで?」


そんな言われ方をしたらエミディオ様は受け入れるしかない。この人は本当によく分かってる。


 「これからどうするつもりだ?」
「そうね、真っ当に生きるから安心して。
はい、これ。読んでくれると嬉しいわ」
「……この本は?」
「私が書いたの。そこそこ売れてるから。驚いた?」


エミディオ様が驚いてる。知らなかったみたい。モニカさんは作家さんだったのね。


「子供ができなくて……それでも何かを残したかった。あなたの愛人で終わりたくなかったわ。


……一年前に検査したの。
子供が出来ないのは……私のせいだった。
言うのが遅くなってごめんなさい」
「なぜ……検査は」
「うん。しないでおこうって約束したのに破ってごめんなさい。でも、あなたに可能性があるかを知りたかった。
だから結婚を勧めたのよ」


ちょっと待って。話の流れがおかしいわ。モニカさん?
もしもし?


「アリーチェさん、がんばってね!
お父様に騙されたということは、普通の結婚だと納得して嫁いで来たのよね?」
「えっ?!」
「……何を言っている?」


エミディオ様の声が低!怖い!


「大丈夫、あなたには聞いてないわ。アリーチェさんに女性としての覚悟を聞いてるのよ」
「えっと、あの、確かに最初はそうだったけど!」
「よかった!エミディオはあなたが大切みたいだから。離婚して手放す気は無いと思うの。家族になってあげて?」
「いえ、だから!家族はいいですよ、嬉しいですし!でもですね、今更困る!」
「そう?だって貴族ですもの」
「強引だ!酷い!」
「ごめんなさい、あなた達が仲良しで安心しちゃったの。そうよね、夫婦のことに私が口を出すべきじゃないわ」


違うんです、そういうことじゃない!


「というわけで、さよなら。で、いいわよね?」
「……ああ。この家はこのまま君が住んでくれ。他に必要なものは無いか」
「大丈夫よ。私はひとりでも生きていけるし、独り立ちしたいの。誰かに依存して生きたくない」


私を無視して別れ話に戻ってしまったわ……
モニカさん、ふんわりしてるのに格好良いな。
依存か……それって私も?


「……分かった。いままでありがとう」
「よかった。慰謝料を払うとか言ったら殴るところだったわ。私もありがとう。楽しかった」
「……そうだな。じゃあ、またな」
「そうね、またいつか」


そう言って二人は別れを告げた。
私に巨大な爆弾を投下したまま!




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