ごめんなさい、お淑やかじゃないんです。

ましろ

文字の大きさ
上 下
9 / 38

8.初めてのデート (遠征準備)

しおりを挟む
「明日、一緒に出掛けないか」


エミディオ様からの突然のお誘いだった。


「明日ですか?私は特に予定がある訳では無いから大丈夫ですけど、エミディオ様の方が忙しいのでは?」
「実は財務局の同僚からパーティーの誘いを受けたのだ。娘の誕生日祝いだから、ぜひ君を連れて来てほしいと言われてね」
「私を……ですか?」
「ああ、君のこれからの為だよ。奥方が年若い君の事を心配してくれているそうだ。ディーナ夫人は24歳。君よりは年上だけど、せっかくの心遣いだ。参加した方がいいと思う。行けそうなら、それ用のドレスを見に行こう」


なるほど。同僚の誘いなら断れないわよね?


「分かりました。よろしくお願いします」
「よかった。あと……買い物の後にモニカの所へ行こうと思う。一緒に行かないか?」


おぉ?モニカさんとの対決?しまったわ、すっかり忘れていた!
幸せボケしてたかも。
私はモニカさんの為の存在だった。


「私が一緒に行って大丈夫ですかね」
「連絡は入れておく。気が乗らないなら断ってくれていいぞ」
「いえ、私はお会いしてみたいです」


だって、私達の始まりであり、終わりを告げる人だもの。私がいったいどんな人の為に契約結婚したのか。ちゃんとこの目で確かめたい。

……エミディオ様が騙されてる可能性もあるし。
お人好しの甘々だからね。








「ストップ!駄目ですよエミディオ様!」
「どうした?気に入らなかったか」
「気に入らないのは品質では無く量の方です!私は一人しかいないのに何十着買おうとしてるのですか!」
「だが、どれも捨てがたい」


確かに伯爵家は豊かだけれど!


「これでも私は結構稼いでいるぞ。自分のお金を好きに使って何が悪い」
「せっかく働いた対価なら、ご自分の為に使って下さいよ」
「自分の為に使っているだろう。かなり楽しいぞ。お、あれも似合いそうだ」


誰かこの男を止めて!


「……私はせっかくのプレゼントなら大切にしたいと思います。でもこんなに大量だと、着る機会が無いうちに流行を逃して衣装部屋で眠ったままになりかねません。
それに体重を増やせと言ったじゃないですか。着れなくなる可能性が出てきますよ!」
「なるほど。分かった、残念だが少し減らそう」


よし!この人がこんなにお買い物好きだとは思わなかった。人は見かけによらないものね。
でも確かに楽しかった。お財布を気にしないで買い物するなんて初めて。こんな高級なお店も来ることなんてなかったし。

あ、綺麗
これはサファイア?


「どうした?気に入ったか」
「え、ううん。綺麗だから見ていただけ」
「そうか。ではこれも貰っていこう」


いやいや、だからどうしてそうなるの!


「ネックレスなら体型が変わっても大丈夫だし、シンプルなデザインだからそんなに流行も関係ないだろう」


……確かにそうだけど。


「じゃあこれは17歳の誕生日プレゼントだ」
「え、誕生日なんてとっくに過ぎてるわ」
「いいじゃないか、なんなら0歳からの分を贈りたいくらいなんだが」
「いえ、17歳の分だけで!」
「嫌がられるのは悲しいからそうしよう。このまま付けていくか?」
「うん。……、あのね。ありがとう、誕生日プレゼント」
「どういたしまして。アリーチェも生まれて来てくれてありがとう」


そう言って頬にキスしてくれる。
誕生日もキスをするもの?
この人は将来子供を甘やかしまくって駄目にしそうで怖いわ。
……でも嬉しい。何年ぶりかな、誕生日プレゼントを貰うのは。


「どう?似合ってる?」
「ああ、うちの子は最高に可愛い」
「……馬鹿ね。恥ずかしいからやめて」


こんなに甘やかさてどうしよう。
嬉しいけど、この愛情に慣れてしまうのが怖い。だって私のものじゃない。本当の夫じゃないし、本当の親でもない。3年だけの家族ごっこだ。


「どうした、疲れたか?」
「……ううん、平気。行きましょう」
「いや、あそこの店で少し休もう。紅茶が上手いしケーキもあるぞ」





この人がこういうお店を知っているのは不思議だ。誰かと来たことがあるのかしら。


「まさかモニカさんと?」
「ん?この店のことか」


あ、声に出てた。


「ここはグイド……パーティーに誘ってくれた同僚と来たんだ。男二人で茶を飲むには不向きで、かなり恥ずかしかったよ。
あいつは愛妻家で、さっきの店もアイツに教えてもらった。妻のドレスと、ここは娘へのおみやげのケーキを買いに付き合わされた。どれが美味しいか食べてから買うとわがままを言いやがったんだ」
「仲がいいんですね」
「まぁな。学生の頃からの付き合いだ」


エミディオ様の学生時代か。頭良さそう。

お店の紅茶とケーキは本当に美味しかった。
なんとなく落ち込んでた気分が浮上した。


「もし、モニカに会うのが苦痛なら止めていいんだぞ。ずっと辛そうな顔をしている」
「え、違いますよ!」


ウソ、顔に出てた?そんなつもりなかったのに!


「じゃあ、どうした?……もしかして私と出掛けるのは恥ずかしかったか?」
「は?」
「いや、こんなおじさんと夫婦だと思われるのが恥ずかしいのかと」


そんなこと心配してたの?やだ、笑える!


「本当に違いますよ。エミディオ様って自信家だと思ってました。違うんですね」
「……人相の悪さと若さはどうしようもないだろう」
「アハハッ、人相!だから眉間のシワを減らしてって言ったじゃないですか」
「君が来てからはだいぶ減った筈だ。毎日が楽しいからな」
「……楽しいの?私がいて」
「ああ、娘がいる楽しさなんて一生味わえないと思っていた。毎日楽しいさ」


なんだ。笑えるじゃない。……これは、私だけの笑顔だよね?


「……私も楽しいですよ。優しいお父様なんて一生無理だと思ってたもの。
だから、慣れちゃうのが怖いなって思っただけです。3年間だけなのに、手放したく無くなりそうで」


言っちゃったわ。でも、嘘は付きたくなかった。


「私は君の事をずっと家族だと思うだろう。たとえ住む町が変わっても、もしかしてずっと会えなくなったとしても。家族であることは変わらない」
「離婚しても家族?」
「ああ、妻じゃなくなる。どうどうと娘扱いが出来るじゃないか」


それはどうだろう。妻が娘に変わるってあり?
でも、ずっと家族だと思っていいんだ……


「ありがとう。あなたと結婚出来てよかった」
「それはこちらの台詞だな」


この人は今、どれだけ私を幸せにしたかきっと分かっていない。でも、それでいい。


「よし!そろそろ行きましょうか」





しおりを挟む
感想 157

あなたにおすすめの小説

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...