旦那様、離婚してくださいませ!

ましろ

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番外編

残念公爵と悪役令嬢の恋 1.

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「オディール・ガルニエ伯爵令嬢!俺は君との婚約を破棄する!」


なんだ?何か芝居が始まったのか?そんな予定は聞いていないぞ。


「何を言ってらっしゃるの?パトリス様。このような場でふざけたことをおっしゃらないで。皆様のご迷惑になるでしょう」

「うるさい!その高慢な態度がもう我慢ならないのだ!だいたいお前は罪人だろう!」

「…私を侮辱するおつもりですか」


あそこか。あれはブラン侯爵令息?
なぜこのような場で婚約破棄などと叫んでいるのだ。そして、なぜ誰も止めない?


「すまない、通してくれ」

ブラン侯爵令息と婚約者か?では彼の側にいる女性は?


「オディール!お前はサラのことをずっと虐げてきたのだろう!なんて酷い女なのだ」

「そこまでだ」

「何?!あ、シュバリエ公爵閣下!」

「ここは王家主催の場だぞ。そのような私的な内容で騒ぎ立てるとは何事だ。彼女と話がしたいのなら、自分の屋敷でご両親を交えて話すべきだろう」

「な!他家の話に口を挟まないでいただきたい!」

「挟まれたくなければここでやるな。この会場は芝居小屋ではない。衛兵、連れて行け」

「おい、離せ!なぜ悪役令嬢の味方をするんだ!」


悪役令嬢?馬鹿なのか?


「ご令嬢、大丈夫ですか?」

「…シュバリエ公爵閣下、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。ガルニエ伯爵家オディールと申します」

「ああ、ガルニエ伯爵のご令嬢でしたか。」


あんな目にあったのに気丈に振舞って。だがやはり顔色が悪い。


「少し休まれた方が……だめだな。もう陛下が入場される」

「お気遣いありがとうございます。私はこのままで大丈夫ですわ」

「では、少し邪魔だろうが私も残ろう。盾だと思って気にしないでいてくれ。陛下の挨拶が終わったら移動しよう」

「そんな!私のことなど……」

「ほら、静かにしないとね」


落ち着かせる為に頭に軽くポンッと手で触れると、静かになった。怖がらせてしまったか?だがこれ以上騒がれると困るので許してほしい。





陛下の挨拶も終わり、ダンスが始まる。


「ガルニエ令嬢、彼と同じ馬車で来ましたか?」

「……いえ、迎えに来て下さらず、連絡もなかったのでギリギリまで待ってはいたのですが…
こちらには一人で参りましたので、当家の馬車があります。ご心配いただきありがとうございます」


エスコートも無しで一人で?


「……失礼だが、彼の側にいた女性が誰か分かりますか?」

「あの方は、サラ・ルーセル男爵令嬢です。彼の……真実の愛で結ばれたお方だそうです」


真実の愛?婚約者がいるのに?あんなに堂々と連れてきて不貞行為をしていますと言いふらしているのか?


「まったく意味が分からないのだが。今の若者達にはそのようなものが流行っているのか?」

「よかった。真実の愛なら仕方がないと言われたらどうしようかと……」

「まさか、誰かにそう言われたのか」

「…はい。いつの間にか学園では、彼らの真実の愛を悪役令嬢である私が引き裂こうとしている、とよく分からないことを言われていました」

「は?ずいぶん前に流行った小説のようだな」

「まぁ、そのような恋愛小説をお読みになったことがあるのですか?」

「……別れた妻が、女性の心を知る勉強になりますよと、大量の恋愛小説を置いていってくれた……」

「あ、えと、それは何というか、素敵な方?だったのですね?」

「ああ悪い、気を使わせたな。頑張って読んだがあまり勉強にはならなかったようだ」

「きっとその方が知ったら驚かれますよ。たぶん、ちょっとした意趣返しだったのでは?」

「あー、そういうことか。まったく気付かず読破してしまった。申し訳ないことをしたな」

「ふふふっ、あ、申し訳ありません。笑ったりなど」

「いや、笑い飛ばしてくれる方がありがたい」


年下の令嬢に笑われる私って。いつまで経っても情けないなぁ。意趣返し……そうだったのか。


「話を戻すが、その男爵令嬢のことはご両親に相談しなかったのか?」

「いえ、相談はしました。ですが、学生時代のお遊びだろうから心を広く持ちなさいと言われてしまって。でも、どうやら遊びではなく本気みたいですね。困りました」

「婚約解消はしたくなかったのですか?」

「お恥ずかしい話ですが、侯爵家から資金援助を受けています。ですが、婚約が無くなってしまうと今後の援助金は無くなりますし、今までの分も返済しなくてはいけなくなるかもしれません。……それに悪役令嬢として婚約破棄になったなんて、もうどこからもまともな縁談なんて無くなってしまうでしょう。
……申し訳ありません。閣下にこのような泣き言を言ってしまって。
聞いてくださってありがとうございます。お陰様で落ち着きました。私はそろそろ失礼致しますわ」


女性は本当に生きづらいのだな。いや、このままでいいはずがない。


「この話は私が預かろう。このままでは爵位が上の侯爵家が有利になってしまう。彼らの言い分はもちろん聞かなくてはいけないが、あのように別の女性を連れ歩く姿を見れば、どちらが正しいかは想像がつく。
私に任せてくれないだろうか?」

「そんな、お気持ちは大変ありがたいですが、その様なことをされたら、いらぬ噂を立てられるかもしれません!」

「……そうか、私などと関わっては醜聞になってしまうか。しかし、このまま見なかった振りなど……」


なんて頼りにならないのだ。過去の行いのせいで、彼女を助けることもできないなんて。


「……こいぬ……」

「犬?」

「あ、違います!そうじゃなくて、えっと、子犬は可愛いですよね!しょんぼりしてるところとか!いえ、そうじゃなくて!」


どうしたのだ?急に慌てて真っ赤になっている。


「そうだね、私も好きですよ」

「!!」


あれ?もっと赤くなってしまった。やはり体調が悪いのだろうか。早く帰らせた方がいいのか?


「あの、大丈夫かい?もう帰りますか?それとも1曲くらいは踊っていかれますか?」

「だ大丈夫です!それに、私と踊りたい方なんていませんから!」


こんなに綺麗な女性なのになんて悲しいことを言うんだ。


「ガルニエ伯爵令嬢、私と踊っていただけますか?」





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