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3章 3年目の結婚記念日。そして──
40. イヴォンヌside
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「私と結婚して」
たった一文だけの手紙をリシャールに送った。一週間後、宰相がやって来た。
「ごきけんよう、シモン宰相。こんなに早くに来るとは思わなかったわ。」
「……まったくご機嫌ではありません。ご無沙汰しております、イヴォンヌ様。お元気そうでなにより。」
「さっそくお話しましょう。どうぞ座って?」
お茶の準備が整うまでそっと彼を眺める。どうやら宰相はここに来るためにかなり無理をしたようだ。目の下にくまができてる。
「どうしました?」
私の視線に気付いた宰相がいぶかしげに尋ねてくる。
「そうね。私の夫になる覚悟はできたかしらと思って。」
「……本気なんですか。」
「私があなたをからかうために、わざわざ手紙を送ったとでも思った?そこまで暇じゃないわ。」
「一応理由をお聞きしてもいいですか?」
「カミーユの残したものを守りたいの。私にはもうそれしか残ってないもの。だから協力してほしい。」
「私はもう38歳ですよ。息子も16歳です。家督はあれに譲るつもりです。」
「知ってるわよ。ジョエルとの方が年が近いのだから。あ、もしかしてあの子を誘惑しないか心配しているの?残念ながら私はカミーユ以外いらないのよ。安心して?」
「それなのに私には結婚しろと?」
「えぇ、だってあなたも同じでしょう?亡くなった奥様以外愛することはないと言っていたもの。そして、あなたはカミーユを本当に大切にしてくれていた。彼の考えに賛同していたでしょう。だったら私とあなたは守りたいものは同じだわ。」
「……カミーユ様が王になられることを楽しみにしておりました。あんなに優秀な方がなぜと今でも悔やまれます。」
「本当にね。まさかあの女があそこまで愚かだとは思わなかったわ。」
カミーユを暗殺したのは側妃だった。自分の息子を王にしたいと望んでいたのは知っていたけれど、まさか暗殺を実行するとは思わなかった。
王妃との間に3年間子供ができなかったため、王は側妃を娶った。だが皮肉なことに同時期に子ができてしまった。そしてたったひと月の差で王妃の子カミーユが第一王子として生まれたのだ。あと少し早ければ我が子が王になれた。その想いがずっとあったのだろう。
彼女をそそのかした派閥もこの5年間で一掃されたことは知っている。
でも第三王子はまだ13歳。まだまだ心配だわ。だって11歳の王女がいるもの。私にできることなんて微々たるものかもしれない。それでも、彼の残したものを守れる立場がほしい。
「あなたはまだ若い。それなのに女性としての幸せを捨てるおつもりか?」
「失礼ね。女を捨てたりしないわよ!だから、愛する人を守るために行動したいと言ってるの。」
「……あなたは本当に見た目を裏切る方ですね。」
「私に目をつけられたと諦めて。ちゃんと家は守るわ。ジョエルとは親子は無理でも姉弟ならいけると思うの。あなたのことも愛ではないけど信頼しているわ。だから家族になれないかしら?
カミーユが、そしてあなたが守っているこの国を私にも守らせて。」
「諦めてとは素晴らしいプロポーズだ。
分かりました。昔から私はあなた達にはいつも勝てないんですよ。」
「そうね、カミーユと私にいつも負けてくれていたものね。懐かしいわ。こうやって思い出話ができることも嬉しいの。」
「そうですね。ですが私的には妻ができるというより問題児の娘が増える気分ですよ。」
「明るい家庭を築きましょうね、旦那様。」
「絶対にその呼び方はやめてください!鳥肌が立ちます。名前でいいですよ。」
「はいはい、失礼な男ね。ではクレマン、末永くよろしくね。」
その後も色々と談笑をしながら、ふと気づく。
「今更だけど、私が正気なのに驚かないのね。」
「えぇ、フォーレ侯爵から聞いていましたから。」
なるほど。やっぱり気付かれてたんだ。
「あなたこそ何か落ち込んでいるんですか?」
「やだ、パパったら!」
「ふざけるということは本当に落ち込んでるんですね。」
そこまで気付いたならごまかされてくれたらいいのに。
そう、先日父様に叱られた。心配されていると分かっていたのに狂ったフリを3年も続けていたから。
私の勝手な考えでキリアンとローズを離婚に追い込んだから。
後悔はしていない。式の一週間前に婚約者の友人に告白するような男と幸せになれるなんてどうしても思えないから。案の定、結婚してすぐの夜会でも少し微笑みかけるだけでフラフラしていたもの。相手が私だから何もおこらないけど、今後私以外にも好みの女性がいたら本当に不貞行為をする可能性が高いじゃない。
それにローズがフォーレ侯爵に惹かれていってるのにも気づいてしまった。それが両思いなことも。
たぶん気付いている人はいない。なんせ彼らが自分の気持ちに気付くのに2年以上もかかったのだから!なんでそんなに鈍いのよ。
でも……
「大切な友達を傷つけたわ。そして、今後もっと傷つけるかも。」
皆にフォーレ侯爵とのことが知れたら、下手をすればローズこそ浮気をしていたと言われるかもしれない。でもじゃあどうしたらよかったの?惚れっぽいキリアンに任せればよかった?
「あぁ、フォーレ侯爵のお相手ですか?なら大丈夫ですよ。彼はちゃんとその女性を守るでしょう。それが正しいことかは分かりません。全員が幸せになれるわけでもない。それでも、彼なりの最善は尽くすはずだ。」
「…うん」
「それに、私もすべてを知っているわけではありませんが、5年は本当に長いですよ。もし、それをひとりで戦っていたらその女性は壊れていたかもしれない。あなたと彼がいたから乗り越えられた。そう考えたらいかがかな。」
「……」
「過ぎたことはどんなに後悔しても変わらない。後悔したことがあるなら今後に活かしなさい。これからも友達でいるのでしょう?」
「…そうね、そうするわ。パパ。」
「その呼び方も却下です!」
ありがとう、クレマン。あなたがいてくれてよかった。昔もこうやって私達はお説教されたことがあったわね。後悔ばかりする暇があるなら次の幸せにの為に動けと叱られた。
だめだね、カミーユ。私はあんまり変われてないみたい。
でも見ててね。絶対に幸せになるから。
あなたの国を幸せにするためにがんばるからね。
たった一文だけの手紙をリシャールに送った。一週間後、宰相がやって来た。
「ごきけんよう、シモン宰相。こんなに早くに来るとは思わなかったわ。」
「……まったくご機嫌ではありません。ご無沙汰しております、イヴォンヌ様。お元気そうでなにより。」
「さっそくお話しましょう。どうぞ座って?」
お茶の準備が整うまでそっと彼を眺める。どうやら宰相はここに来るためにかなり無理をしたようだ。目の下にくまができてる。
「どうしました?」
私の視線に気付いた宰相がいぶかしげに尋ねてくる。
「そうね。私の夫になる覚悟はできたかしらと思って。」
「……本気なんですか。」
「私があなたをからかうために、わざわざ手紙を送ったとでも思った?そこまで暇じゃないわ。」
「一応理由をお聞きしてもいいですか?」
「カミーユの残したものを守りたいの。私にはもうそれしか残ってないもの。だから協力してほしい。」
「私はもう38歳ですよ。息子も16歳です。家督はあれに譲るつもりです。」
「知ってるわよ。ジョエルとの方が年が近いのだから。あ、もしかしてあの子を誘惑しないか心配しているの?残念ながら私はカミーユ以外いらないのよ。安心して?」
「それなのに私には結婚しろと?」
「えぇ、だってあなたも同じでしょう?亡くなった奥様以外愛することはないと言っていたもの。そして、あなたはカミーユを本当に大切にしてくれていた。彼の考えに賛同していたでしょう。だったら私とあなたは守りたいものは同じだわ。」
「……カミーユ様が王になられることを楽しみにしておりました。あんなに優秀な方がなぜと今でも悔やまれます。」
「本当にね。まさかあの女があそこまで愚かだとは思わなかったわ。」
カミーユを暗殺したのは側妃だった。自分の息子を王にしたいと望んでいたのは知っていたけれど、まさか暗殺を実行するとは思わなかった。
王妃との間に3年間子供ができなかったため、王は側妃を娶った。だが皮肉なことに同時期に子ができてしまった。そしてたったひと月の差で王妃の子カミーユが第一王子として生まれたのだ。あと少し早ければ我が子が王になれた。その想いがずっとあったのだろう。
彼女をそそのかした派閥もこの5年間で一掃されたことは知っている。
でも第三王子はまだ13歳。まだまだ心配だわ。だって11歳の王女がいるもの。私にできることなんて微々たるものかもしれない。それでも、彼の残したものを守れる立場がほしい。
「あなたはまだ若い。それなのに女性としての幸せを捨てるおつもりか?」
「失礼ね。女を捨てたりしないわよ!だから、愛する人を守るために行動したいと言ってるの。」
「……あなたは本当に見た目を裏切る方ですね。」
「私に目をつけられたと諦めて。ちゃんと家は守るわ。ジョエルとは親子は無理でも姉弟ならいけると思うの。あなたのことも愛ではないけど信頼しているわ。だから家族になれないかしら?
カミーユが、そしてあなたが守っているこの国を私にも守らせて。」
「諦めてとは素晴らしいプロポーズだ。
分かりました。昔から私はあなた達にはいつも勝てないんですよ。」
「そうね、カミーユと私にいつも負けてくれていたものね。懐かしいわ。こうやって思い出話ができることも嬉しいの。」
「そうですね。ですが私的には妻ができるというより問題児の娘が増える気分ですよ。」
「明るい家庭を築きましょうね、旦那様。」
「絶対にその呼び方はやめてください!鳥肌が立ちます。名前でいいですよ。」
「はいはい、失礼な男ね。ではクレマン、末永くよろしくね。」
その後も色々と談笑をしながら、ふと気づく。
「今更だけど、私が正気なのに驚かないのね。」
「えぇ、フォーレ侯爵から聞いていましたから。」
なるほど。やっぱり気付かれてたんだ。
「あなたこそ何か落ち込んでいるんですか?」
「やだ、パパったら!」
「ふざけるということは本当に落ち込んでるんですね。」
そこまで気付いたならごまかされてくれたらいいのに。
そう、先日父様に叱られた。心配されていると分かっていたのに狂ったフリを3年も続けていたから。
私の勝手な考えでキリアンとローズを離婚に追い込んだから。
後悔はしていない。式の一週間前に婚約者の友人に告白するような男と幸せになれるなんてどうしても思えないから。案の定、結婚してすぐの夜会でも少し微笑みかけるだけでフラフラしていたもの。相手が私だから何もおこらないけど、今後私以外にも好みの女性がいたら本当に不貞行為をする可能性が高いじゃない。
それにローズがフォーレ侯爵に惹かれていってるのにも気づいてしまった。それが両思いなことも。
たぶん気付いている人はいない。なんせ彼らが自分の気持ちに気付くのに2年以上もかかったのだから!なんでそんなに鈍いのよ。
でも……
「大切な友達を傷つけたわ。そして、今後もっと傷つけるかも。」
皆にフォーレ侯爵とのことが知れたら、下手をすればローズこそ浮気をしていたと言われるかもしれない。でもじゃあどうしたらよかったの?惚れっぽいキリアンに任せればよかった?
「あぁ、フォーレ侯爵のお相手ですか?なら大丈夫ですよ。彼はちゃんとその女性を守るでしょう。それが正しいことかは分かりません。全員が幸せになれるわけでもない。それでも、彼なりの最善は尽くすはずだ。」
「…うん」
「それに、私もすべてを知っているわけではありませんが、5年は本当に長いですよ。もし、それをひとりで戦っていたらその女性は壊れていたかもしれない。あなたと彼がいたから乗り越えられた。そう考えたらいかがかな。」
「……」
「過ぎたことはどんなに後悔しても変わらない。後悔したことがあるなら今後に活かしなさい。これからも友達でいるのでしょう?」
「…そうね、そうするわ。パパ。」
「その呼び方も却下です!」
ありがとう、クレマン。あなたがいてくれてよかった。昔もこうやって私達はお説教されたことがあったわね。後悔ばかりする暇があるなら次の幸せにの為に動けと叱られた。
だめだね、カミーユ。私はあんまり変われてないみたい。
でも見ててね。絶対に幸せになるから。
あなたの国を幸せにするためにがんばるからね。
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