上 下
31 / 60
3章 3年目の結婚記念日。そして──

31. イヴォンヌside

しおりを挟む
こわいことがあった
つらい かなしい かなしい

だから 

わすれて なにも みないで



ずっと夢を見てるよう。
お母様達が心配そうにしてる。なぜ?悲しいことなんてないのに。私を傷つけるものはない。
そう。夢だ。ここは怖い事のない夢の世界。
ずっと幸せな子供でいられるの。

そんな夢の世界に、ある日とても綺麗な女の子が現れた。薔薇色の美しい髪に、猫のようなグリーンアイズ。
──ローズ。初めてのお友達。
なぜこんなに心惹かれるのだろう。
彼女は真っ直ぐ私を見つめる。その瞳が心地いい。

彼女が馬車に乗ると聞いた時は怖かった。
馬車はダメよ。私の大切なものを奪うもの。大切なもの……なんだったかしら。
とっても大切なはずなのに思い出せない。



思い出しては駄目よ

どこかから声がする。夢の世界の足元には、薄い氷。その下にはドロドロの闇がある。思い出したら逃げられない。
だから思い出さないで──




ローズといるととても幸せ。少しずつ夢の世界のベールが外されていく。以前まで見えなかったものが少しずつ見えてくる。
怖い。でもローズが嬉しそう。


ローズが結婚する。
幸せになる。それならお祝いが言いたいわ。

今なら馬車くらい乗れるのではないかしら。
だって、大切なローズのためだもの。


「お兄様、ローズの結婚式に行きたいわ。」


渋るお兄様を説得して、まずはお兄様の宮まで行くことにした。

馬車に乗る。平気よ、怖くないでしょう?
だってもう・・・・はいないもの。
・・・・は・んだもの

なに?なにがもういないのだったかしら
いない、いない、誰が?

頭が痛い、お兄様の声がする

「イヴォンヌが倒れた。熱が出てきてる。このまま移動は難しいから母上に指示を仰いでくる。戻るまで任せていいか?」

誰に話しているの?

誰、私は誰を探しているのだった?

探して──違うもういない
違う消えるはずがない

こんなに愛しているのに!


「…探さなきゃ…」

「イヴォンヌ様、気が付かれましたか?」


だれ?男の人?

あぁ、そうだわ、カミーユ!!


「こんなところにいたの、探していたのに!
ひどいひどいっ、ずっと待っていたのよ!」

「えっ、あ、イヴォンヌ様?!」


駄目よ逃げないで、手を離したら今度こそ消えてしまう!ぎゅっと強く抱きつくように縋る。


「違うわ、ちゃんと呼んで、イヴって、いつもみたいにイヴって呼んで。もう二度と離さないで、愛してるの、愛してる。
会えなくて寂しかったっ……」

「──イヴ?……イヴ、イヴッ」


あ……?
ちがう……彼はこんな声じゃなかった。こんな香りじゃなかった。こんな───だれ?

彼じゃない でも懐かしいかお


「……きりあん?」

「はい、愛しています。イヴ。」


なぜあなたが私に愛を告げるの

あなたは、あなたはローズと結婚するのでしょう!


「、あ、、いや、いや!」

「イヴ?どうし「やめて、その名で呼ばないで!!」」

「え、だって今」

「違う、そう呼んでいいのはカミーユだけよ!!なんで!違うって分かっていたはずでしょう?!」


イヴと呼ぶのはカミーユだけだわ!

あぁ、どうしよう!ローズになんて言えばいいの?
ローズ、ローズ!私はただあなたを祝福したかっただけなのに!どうしてこんな…
だめ、吐きそう、体が支えられない……


「イヴォンヌ様!」

「わたしに、触れ、ないで…、」


その後のことは覚えていない。何度か目覚めた気がする。ローズが来てくれた?いえ、謝りたい私の願望かもしれない。


ようやく熱も下がり意識がハッキリしてきた。
そして愕然とした。


──キリアンとローズが結婚した


なぜ結婚してしまったの!あんな、私に愛を告げたくせに!ローズを裏切ったくせに!


私が夢に逃げていたせいだ。
もっと早くに気が付いていればこんなことにはならなかったのに。


カミーユとの思い出も穢された

イヴ。彼だけが呼ぶ大切な呼び名。
今はローズを裏切った証になってしまった。
なぜ彼なんかと間違えてしまったの……


すべてを思い出して死にたくなった。私が逃げていたせいでカミーユとの思い出は穢され、友達の不幸を止められなかった。

ローズだけは幸せにしないと!

お父様に言ったらなんとかできる?
でも、あの場には他に誰もいなかった。頭のおかしくなっていた私の言葉なんていくらでもごまかせる。そもそも最初に抱きついたのは私だわ。


証人がいればいい。
そう、皆の前で仕掛ければいいわ。
あの人が私に愛を示すならば必ずローズと別れさせる。もし、私にはなびかず、ローズを守り抜くならば、そしてローズが彼のもとにいることを望むなら、私は全てに蓋をする。死ぬまで誰にも話さない。


ローズに会いたい。会って謝りたい。
でも、お人好しのローズはきっと私を許すわ。
そんなの駄目。私を許さないで。





カミーユ、もう一度イヴって呼んで──









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。 王子が主人公のお話です。 番外編『使える主をみつけた男の話』の更新はじめました。 本編を読まなくてもわかるお話です。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

処理中です...