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第二章 フィリス編

7.懐かしい思い出(2)

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「たくさん怒ってごめん。僕のために頑張ってくれたのに」
「ううん。私もやる前に聞けばよかったわ」
「次はそうして」
「臨機応変!覚えたわ」
「もう一回言うよ。父上には絶対にやらないで。あの方は情が優先ではないから」
「…わかった。というか、さすがに怖くて無理よ」

国王陛下は何だか恐ろしいもの。笑っていても威圧的というか、少しでも隙を見せたら食べられそう。

「でもどう?王妃様、魔女じゃなくなる?」
「……そうなるといいな」
「うん!」
「そう言えばさっきサージェント様を見かけたわ。結局貴方のお友達になるの?」
「本当は気が乗らないけどね」
「どうして?」
「彼は家臣として来ているから。友達になる気はなさそうだ」
「…でも気が変わるかも」
「ん、なんて言ったらいいかな。人の性格や資質ってこのくらいの年齢でだいたい決まるらしいんだ。
だからあんまり期待は出来ないかな。どちらかというと、いつか裏切るかもしれない方を気を付けた方がいい気がする」

…なんというか、王族思考というか。
でも、彼等は家臣に裏切られる事も念頭に置く必要があるのね。

「でも変われるよ?私はエディのおかげで変われたもの。兄様もね、今では優しくなったんだよ」

エディが教えてくれた対策は、私が兄を大切にすることだった。
あの日、エディはお菓子を用意してくれた。
『お茶会のことを聞かれたら、このお菓子が美味しかったからお兄様にお土産ね、と笑顔で渡してごらん』
何とも恐ろしいミッションが下された。
絶対に叱られると思ったのに、兄様は変な顔をしながらも受け取ってくれた。
それからは毎日自分から笑顔で挨拶をし、勉強を教えてほしいとお願いしたり、何かひとつ、兄様に感謝の気持ちを伝えるようにした。
そうしていたら、気が付けば普通に仲の良い兄弟になっていたのだ。

「彼は寂しかっただけだから」
「でも変わったでしょう?私のこの笑顔だってね、例え最初は演技だったとしても、いつかは本当になるんだよ」
「…演技だったの?」
「王妃様の前でいきなり心からの笑顔なんて出来るわけないでしょう!?気持ちは本当だったけど、笑顔はもうね、『笑え!頑張れ私っ!』と、自分を鼓舞しながら必死に笑顔を作ったわよ。女優になれたと思うわ」
「ふふっ、パトリシアが知ったら泣くよ」
「パティには内緒ね?今は心から笑っているから」

エディの周りにもっと彼を思ってくれる人が集まったらいいのに。

「エディも笑って?せっかく綺麗なお顔だもの。それだけで皆メロメロよ」
「メロメロはやだ」
「とか言って、いつか可愛い女の子にメロメロになったりして」
「僕が?」
「貴方が」
「う~ん、想像できない」
「エディはどんな子がいいかな」
「ん~、ギラギラしてない子?」
「なにそれ」
「一緒にいて安心できる子がいい」
「ああ、なるほど。出会えるといいね。でも、好きな子が出来ても友達よ?」
「もちろん。でも今はメイといるのが楽しいからまだ見つからなくていいかな」
「私も。今はエディといるのが楽しいからね」

馬鹿なことを言って笑い合って。
こんな幸せな日々が続くと思っていた。

湖に遊びに行く日、エディは剣術の先生と約束があって一緒に行けなかった。
何かおみやげを持ってくるね。
そんな約束をして──

ああ、思い出した。確かに私はフィリスだ。
エディとパティは私の親友。

それなのに私は10年も戻ることが出来なかった。

エディは私に対して初対面を装ったわ。
あれは国王陛下の命令だったのよね?
国王陛下は誘拐が人違いであることに気が付いていたはず。
私が戻って来て事件の犯人が明らかになるか。これが鍵だったはずなのに、私は全て忘れてしまっていた。だからまずは婚約者ヴァレリー様はそのままに、友人という位置にエディを置いたのだ。

私が記憶を取り戻した今、王家は私を囲い込もうとするだろう。一番簡単なのは結婚だ。

『陛下は情が優先ではないよ』

何度も言われた言葉。きっと今の状態がそうなのね。息子への情では無く、国の為に動くのだろう。
このままではヴァレリー様が婚約者から外されてしまう。あんなにもエディを恋い慕っているのに。
……今の私はお荷物だ。
私は、エディの足枷になってしまった。

「……何か手はあるかしら」

陛下を思いとどまらせる方法。
侯爵に連絡……いいえ、無理だわ。彼は可愛い娘が王家の災いに巻き込まれない道を選ぶだろう。
恋などよりも、彼女の身の安全を取るはず。

「ヴァレリー様。貴方の恋の敵は私じゃないよ」






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