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第二章 フィリス編
3.何も持たない少女(3)
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ムーア家での生活は、ティナを演じていた時と近いものがある。
ご家族の中のフィリス嬢を探りながら演じればいい。
『フィリスは明るくて感動屋さんなの。』
『それから家族は仲良しで。』
だからいつも笑顔でいることを心掛ける。
でも、兄嫁が私の存在を疎ましく思っていることに気付いてしまった。
「……ここも既に居場所がないみたいね」
両親は喜んでくれたけれど、既に兄夫婦と赤ちゃんがいるのだ。今更半端な妹が現れても迷惑なのだろう。
……たぶん、私の悪い噂が流れているから。
孤児院育ち、その後も平民として暮らしていた私は貴族として異質なのでしょう。
「恨むわ誘拐犯」
いつまでも根無し草のような自分が虚しい。
王女に間違われて誘拐されて、間違いに気付いて捨てられました。めでたしめでたし。
馬鹿じゃないかしら。
そんなに無能なら誘拐などしないで欲しいわ。
やさぐれ全開で今日も勉強をする。学園への編入試験で恥をかかないために。ただの平民ではなく、せめて優秀な平民にならなくちゃ。
でも、誰の為に頑張るのかな。
…私は、誰なのかな。
「フィリス…フィリス。私はフィリス。明るくて皆に好かれる女の子。王女様や王子様ともお友達だったの」
毎日自分に言い聞かせる。
父からその話を聞いた時には驚いた。
私は王女様のお友達で、王子様とも仲良しだったなんて。
特にお二人は私の誘拐事件に心を痛め……というか、王女様のせいかもしれないらしい。このあたりは機密事項なのですって。誘拐されたのは私なのに。
「…お二人に会えたら、何かが変わるかな」
ああ、諦めが悪いなあ。
私を見つけてくれる人なんかいないのに。
♢♢♢
編入試験は中々の出来だったみたい。
Aクラスに入ることが決まった。両親は喜びながらも、噂の王子様がいることが心配なようだった。
「今更何も起きないわよ」
「……いや。殿下には私達も酷いことを言ってしまったから」
え。そのあたりは教えてもらわないと困るのですけど。
そこからは説得に説得を重ねて、ようやく聞き出すことが出来ました。
ようするに、殿下は私が見つかったら必ず責任を取って娶ると約束したらしい。すごい7歳児だ。
だが、その後も見つかることはなく、いつまでも王子が婚約者を持たないのは良くないと議論が起きたそう。
それはそうでしょうね。
だけど、お父様達はそうしたら本当に見つからなくなりそうで怖いと抵抗した。
だからとりあえずは婚約者を持たせる。ただし、結婚は20歳まで待つことを約束したそうだ。
お相手の女性もさぞ迷惑だったことでしょう。
「……要するに、その王子様と婚約者のお二人が同じクラスなのですね?」
「ああ、そうだ」
「それなら、もう必要ありませんと契約を解除したら宜しいではありませんか」
私は王子様を覚えていないし、すでに10年近くも縛り付けているのだ。早く解放して差し上げるべきでしょう。
「……お前の記憶が戻ったらそうもいかないんだ」
「え?」
私の記憶?……まさか。
「犯人に心当たりがあるのですね?」
心当たりはあれど証拠は無い。といったところかしら。
ではただの貴族では無く、もっと力を持った人物。家。もしくは……国?
「記憶が戻っても上手く誤魔化せるかしら」
下手をしたら王家に囲い込まれるわ。
「出来るならばそうしてほしい。たぶん、殿下は君の友人になるよう接してくるだろう」
「……とりあえずは仲良くします。害にならない程度に」
「そうだな。そうしてくれ」
「誘拐に時効はありますか?」
「ただの貴族なら5~10年だが、王女の誘拐未遂だからな。もう少し長くなるだろう」
「だから20歳?なるほど。この件を利用して、捕まえられるなら捕まえてしまいたい相手ということですか」
今の王家にそんな敵になる貴族はいないはず。
ということは国かなぁ。近隣で怪しい国といったら一つしかない。
「サイクス国」
「フィリスッ、記憶が!?」
「いえ。ただの推理です。国の脅威になって、この件で捕まえたい相手というとそこしかないかなって。でも、足りないですよね」
結局はただの伯爵令嬢を誘拐しただけだ。
証拠があっても大したことは出来ないのに……ああ。そういうこと?だから王子と…
「……フィリス。それ以上は駄目だ」
「最後に。お父様はどこまで関わってますか」
「…関わっていないから困っているんだ」
よかった。国絡みなんて面倒なだけだもの。
「お前の知恵が回り過ぎて驚いたよ…」
生き延びる為に色々と知識を身に着けましたから。
「ふふっ、褒められてしまいました」
「学園……大丈夫かい?」
「はい。大人しくするつもりですわ」
そう思ったのに。
「まあっ!王子様は本当に王子様なお顔立ちなのですね!」
あまりにもお綺麗な王子様に大はしゃぎしてしまいました……。
お父様ごめんなさい。
王子様も婚約者様も、顔面偏差値が高過ぎました。
ご家族の中のフィリス嬢を探りながら演じればいい。
『フィリスは明るくて感動屋さんなの。』
『それから家族は仲良しで。』
だからいつも笑顔でいることを心掛ける。
でも、兄嫁が私の存在を疎ましく思っていることに気付いてしまった。
「……ここも既に居場所がないみたいね」
両親は喜んでくれたけれど、既に兄夫婦と赤ちゃんがいるのだ。今更半端な妹が現れても迷惑なのだろう。
……たぶん、私の悪い噂が流れているから。
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「恨むわ誘拐犯」
いつまでも根無し草のような自分が虚しい。
王女に間違われて誘拐されて、間違いに気付いて捨てられました。めでたしめでたし。
馬鹿じゃないかしら。
そんなに無能なら誘拐などしないで欲しいわ。
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でも、誰の為に頑張るのかな。
…私は、誰なのかな。
「フィリス…フィリス。私はフィリス。明るくて皆に好かれる女の子。王女様や王子様ともお友達だったの」
毎日自分に言い聞かせる。
父からその話を聞いた時には驚いた。
私は王女様のお友達で、王子様とも仲良しだったなんて。
特にお二人は私の誘拐事件に心を痛め……というか、王女様のせいかもしれないらしい。このあたりは機密事項なのですって。誘拐されたのは私なのに。
「…お二人に会えたら、何かが変わるかな」
ああ、諦めが悪いなあ。
私を見つけてくれる人なんかいないのに。
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「今更何も起きないわよ」
「……いや。殿下には私達も酷いことを言ってしまったから」
え。そのあたりは教えてもらわないと困るのですけど。
そこからは説得に説得を重ねて、ようやく聞き出すことが出来ました。
ようするに、殿下は私が見つかったら必ず責任を取って娶ると約束したらしい。すごい7歳児だ。
だが、その後も見つかることはなく、いつまでも王子が婚約者を持たないのは良くないと議論が起きたそう。
それはそうでしょうね。
だけど、お父様達はそうしたら本当に見つからなくなりそうで怖いと抵抗した。
だからとりあえずは婚約者を持たせる。ただし、結婚は20歳まで待つことを約束したそうだ。
お相手の女性もさぞ迷惑だったことでしょう。
「……要するに、その王子様と婚約者のお二人が同じクラスなのですね?」
「ああ、そうだ」
「それなら、もう必要ありませんと契約を解除したら宜しいではありませんか」
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「……お前の記憶が戻ったらそうもいかないんだ」
「え?」
私の記憶?……まさか。
「犯人に心当たりがあるのですね?」
心当たりはあれど証拠は無い。といったところかしら。
ではただの貴族では無く、もっと力を持った人物。家。もしくは……国?
「記憶が戻っても上手く誤魔化せるかしら」
下手をしたら王家に囲い込まれるわ。
「出来るならばそうしてほしい。たぶん、殿下は君の友人になるよう接してくるだろう」
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「そうだな。そうしてくれ」
「誘拐に時効はありますか?」
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証拠があっても大したことは出来ないのに……ああ。そういうこと?だから王子と…
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