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第一章 ヴァレリー編
18.婚約解消(2)
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「ヴァレリー、おかえりなさい」
「お母様っ!?如何されたのです?領地で何かあったのですか?」
お母様は普段、領地にいることがほとんどです。
あまりお体が丈夫ではないのに、二人目の子供を早産し、その際に出血が止まらず一時は命の危険すらあったのです。お母様は何とか命を取り留めましたが、あまりにも小さかった赤ちゃんは、そのまま天国に旅立ってしまいました。弟でした。
それ以降、すっかりと床につくことが増え、領地で療養を続けているのです。
「何かあったのは貴方でしょう?娘の一大事に駆けつけないわけ無いでしょうに。
側にいてあげられなくてごめんなさい。大変だったわね。でも、貴方はよく頑張ったわ」
そう言って抱きしめてくれるお母様はとてもか細くて。
「もう、お母様に何かあった方が辛いわ。ご無理をなさらないで。……でも、ありがとうございます」
それからは久し振りに家族三人で楽しく食事をし、今はお母様に甘えながら、やっぱり三人で寛いでいます。
せっかくの幸せな時間だけど。
「お父様にお聞きしたいことがあるの」
「ん?なんだい?」
「お父様は、今回の私の婚約解消に至る内情を何処までご存知だったのですか?」
私の質問に、お父様の表情が変わりました。
「……それは何のことを聞いているのかな」
「あの時の王宮でのやり取りは演技ですか?」
そうならば、何故その様なことをする必要があったか。
「ヴァレリー。もう終わったことだよ」
「ですが!」
「お前はあの時、ディーン殿下の手を離した。重荷だと諦めた。それが全てだ。
お前はこの侯爵家をサージェント殿と二人で守っていくと決めたのだろう。違うのか」
「……それはそうです。ですが、」
「一度は許された。それは王家にとっても得があるからだ。だが、2度目の心変わりは認められないぞ」
「違います!私はただ、自分が何を知らなかったかを理解したいだけで!」
「お前はすでにそれを知っていい立場ではなくなった」
「!」
「今更知ってもどうにもならないし、誰もお前には教えない。お前は王家とは関わりのない、ただの令嬢だ。
そんなお前が探偵ごっこを初めて誰が喜ぶ?何が出来る?
お前が今しなくてはいけないことは、今度こそサージェント殿と向き合い、絆を深めることだろう。
……お前は王家とは少し距離を置いた方がいい。サージェント殿とて、お前がいつまでもディーン殿下に思いを残していれば傷付くんだ。
自分の失敗を悔いるのはいいが、まずは今、自分の側にいる人との繋がりを大切にしなさい。わかったね?」
「……はい、申し訳ありませんでした」
お父様は私の頭をぽんっと撫でると、そのまま部屋を出ていってしまいました。
だめだわ。私はまた自分のことばかり。
「お父様は貴方が心配なのよ」
「…お母様」
「それにね、あの人は本当は嬉しいのよ。貴方が家を出ることなく、ずっと側に残ってくれるのですもの」
そんなものだろうか?
「でもどうして今更知りたくなったのかしら」
「それは……」
それから私は、王女様から聞いたお話をお母様に伝えました。
「そう。ふふ、やっぱり女の子ね。きっと貴方の初恋が綺麗なまま残るようにしてくれたのね」
「……そうなのでしょうか」
「では、殿下がムーア嬢を好きになって貴方を裏切った最低男だと憎み続けたかった?」
「…それは嫌です」
「でしょう?それと、王家から離れて、新たな道を行く貴方への餞かもしれないわね」
餞。それは、別れを意味するのでしょう。
自分で選んだ道なのに、悲しくなるなんて馬鹿みたい。
でも、お父様もお母様もこうして私を心配して下さっている。
私はもう、忘れるべき。
いいえ。もう、忘れなくてはいけないのね。
私は部屋に戻り、ディーン様との思い出の品々を整理しました。
初めて貰ったプレゼントは髪飾りでした。
小花が散りばめられた繊細なそれは私のお気に入りで。
メッセージカードには、ヴァレリーに似ている、と書かれています。こんなにも可憐な花々が似ているだなんて。そう思っていましたが、気の小さい臆病者の私に気付いていたのかもしれません。
他にもネックレスや万年筆など、どれも淡く優しい、繊細なデザインのものばかり。
彼の中で私は気の強い侯爵令嬢ではなく、傷付きやすい幼い少女のままだったのかもしれません。
「……ディーン様は、私をちゃんと見てくれていたのね」
弱い私を知っていた。だから何も言えなかったの?
ごめんなさい。私は何も分からなかった。ただ、愛されることを望むばかりだった。
ポロポロと涙が溢れる。
もうどうしようもないのに。
私は思い出をすべて箱に閉じ込める。箱は一つでは足りなくて、もう一つ。もう一つと増えていく。
手紙もすべて箱に詰める。もう、読み返してはいけない。彼の思いにこれ以上気付いてはいけないの。
これからはサージェント様だけを見つめなくては。だって私は愛されない苦しみを知っているもの。
だから。
さようなら。大好きだった王子様。
私はこれからの未来を、貴方と歩むことはない。
「お母様っ!?如何されたのです?領地で何かあったのですか?」
お母様は普段、領地にいることがほとんどです。
あまりお体が丈夫ではないのに、二人目の子供を早産し、その際に出血が止まらず一時は命の危険すらあったのです。お母様は何とか命を取り留めましたが、あまりにも小さかった赤ちゃんは、そのまま天国に旅立ってしまいました。弟でした。
それ以降、すっかりと床につくことが増え、領地で療養を続けているのです。
「何かあったのは貴方でしょう?娘の一大事に駆けつけないわけ無いでしょうに。
側にいてあげられなくてごめんなさい。大変だったわね。でも、貴方はよく頑張ったわ」
そう言って抱きしめてくれるお母様はとてもか細くて。
「もう、お母様に何かあった方が辛いわ。ご無理をなさらないで。……でも、ありがとうございます」
それからは久し振りに家族三人で楽しく食事をし、今はお母様に甘えながら、やっぱり三人で寛いでいます。
せっかくの幸せな時間だけど。
「お父様にお聞きしたいことがあるの」
「ん?なんだい?」
「お父様は、今回の私の婚約解消に至る内情を何処までご存知だったのですか?」
私の質問に、お父様の表情が変わりました。
「……それは何のことを聞いているのかな」
「あの時の王宮でのやり取りは演技ですか?」
そうならば、何故その様なことをする必要があったか。
「ヴァレリー。もう終わったことだよ」
「ですが!」
「お前はあの時、ディーン殿下の手を離した。重荷だと諦めた。それが全てだ。
お前はこの侯爵家をサージェント殿と二人で守っていくと決めたのだろう。違うのか」
「……それはそうです。ですが、」
「一度は許された。それは王家にとっても得があるからだ。だが、2度目の心変わりは認められないぞ」
「違います!私はただ、自分が何を知らなかったかを理解したいだけで!」
「お前はすでにそれを知っていい立場ではなくなった」
「!」
「今更知ってもどうにもならないし、誰もお前には教えない。お前は王家とは関わりのない、ただの令嬢だ。
そんなお前が探偵ごっこを初めて誰が喜ぶ?何が出来る?
お前が今しなくてはいけないことは、今度こそサージェント殿と向き合い、絆を深めることだろう。
……お前は王家とは少し距離を置いた方がいい。サージェント殿とて、お前がいつまでもディーン殿下に思いを残していれば傷付くんだ。
自分の失敗を悔いるのはいいが、まずは今、自分の側にいる人との繋がりを大切にしなさい。わかったね?」
「……はい、申し訳ありませんでした」
お父様は私の頭をぽんっと撫でると、そのまま部屋を出ていってしまいました。
だめだわ。私はまた自分のことばかり。
「お父様は貴方が心配なのよ」
「…お母様」
「それにね、あの人は本当は嬉しいのよ。貴方が家を出ることなく、ずっと側に残ってくれるのですもの」
そんなものだろうか?
「でもどうして今更知りたくなったのかしら」
「それは……」
それから私は、王女様から聞いたお話をお母様に伝えました。
「そう。ふふ、やっぱり女の子ね。きっと貴方の初恋が綺麗なまま残るようにしてくれたのね」
「……そうなのでしょうか」
「では、殿下がムーア嬢を好きになって貴方を裏切った最低男だと憎み続けたかった?」
「…それは嫌です」
「でしょう?それと、王家から離れて、新たな道を行く貴方への餞かもしれないわね」
餞。それは、別れを意味するのでしょう。
自分で選んだ道なのに、悲しくなるなんて馬鹿みたい。
でも、お父様もお母様もこうして私を心配して下さっている。
私はもう、忘れるべき。
いいえ。もう、忘れなくてはいけないのね。
私は部屋に戻り、ディーン様との思い出の品々を整理しました。
初めて貰ったプレゼントは髪飾りでした。
小花が散りばめられた繊細なそれは私のお気に入りで。
メッセージカードには、ヴァレリーに似ている、と書かれています。こんなにも可憐な花々が似ているだなんて。そう思っていましたが、気の小さい臆病者の私に気付いていたのかもしれません。
他にもネックレスや万年筆など、どれも淡く優しい、繊細なデザインのものばかり。
彼の中で私は気の強い侯爵令嬢ではなく、傷付きやすい幼い少女のままだったのかもしれません。
「……ディーン様は、私をちゃんと見てくれていたのね」
弱い私を知っていた。だから何も言えなかったの?
ごめんなさい。私は何も分からなかった。ただ、愛されることを望むばかりだった。
ポロポロと涙が溢れる。
もうどうしようもないのに。
私は思い出をすべて箱に閉じ込める。箱は一つでは足りなくて、もう一つ。もう一つと増えていく。
手紙もすべて箱に詰める。もう、読み返してはいけない。彼の思いにこれ以上気付いてはいけないの。
これからはサージェント様だけを見つめなくては。だって私は愛されない苦しみを知っているもの。
だから。
さようなら。大好きだった王子様。
私はこれからの未来を、貴方と歩むことはない。
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