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第一章 ヴァレリー編

17.婚約解消

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「婚約破棄ではなく解消?」
「はい。残念ながら娘の希望です」

その場には陛下とディーン様。そして何故かフィリス様までいらっしゃいます。

「だがそれでは」
「そのかわり。いつ、新たな婚約を結ぼうとも関与しないで頂きたい。もちろん、その相手が咎められることのないようお願いします」
「…分かった。ではそのように書面を交わそう」

それからは淡々と書類に記入していく。

「ヴァレリー嬢。この様なことになり本当に申し訳なかったと思っている」

陛下がそう言って頭を下げられました。
ですが、私は否定も肯定も出来ません。だって傷付いたもの。謝罪くらいでは何も変わらないわ。

「…そちらのお嬢さんはずいぶんと楽しそうだ。すべてが君の思い通りになって満足かな」

突然お父様がフィリス嬢を睨み付けながらそんなことを言った。
見ていなかったけど、もしかして笑ったの?

「いえ。ムーア嬢に非は一切ありません。すべては私の不徳の致すところ」

フィリス様が口を開きかけたところで、ディーン様が庇うような発言をなさいました。

「……その謝罪がヴァレリーをどれだけ傷付けるか分かっておられますか!」
「はい。どれだけ謝っても許されることでは無いと理解しています」

やめてよ……どうして最後までそんな姿を見せつけるの!

「違います、私は「私がムーア嬢を手放せなかった。それが全てです」
「……貴方が王子でよかったです。暴力沙汰になるところでした」
「申し訳ありません」

お父様がディーン様を殴ろうとした手を下げてくれてホッとする。もうサインは済んだのだから帰った方がいいわね。

「待ってよ、ディーン様!あの、ヴァレリー様。私の話を聞いて下さいませんか!?」

今更?まさか祝福しろとでも言いたいのかしら。

「……残念ですが、貴方と話すことは何もありません」
「どうして!?何故貴方は何も聞こうとしないの!何故知ったかぶりをして何も確認をしないまま、私達を無視し続けるよっ!」

……何故こんな事を言われなくてはいけないの。って何?

「…不愉快だからに決まっているでしょう」
「ヴァレリー様っ!」
「……いいのか?」
「もう終わったことです。帰りましょう、お父様」

もう振り返ることはない。

「ヴァレリー様の弱虫っ!」

……フェリス様は的確な罵り方を心得ているわ。そうよ。弱虫で悪かったわね。
だけど、今更貴方達の話を聞いても婚約解消は変わらないの。それなのにどうしてこれ以上傷付かなくてはいけないの?

部屋を出てお父様と馬車留まりまで歩く。

「ヴァレリー様、話し合いは終ったの?」
「……王女様」

会いたくない人ばかり出てくるものね。

「侯爵、少しだけヴァレリー様と話をさせて下さい」
「…ヴァレリー、どうする?」
「畏まりました、少しだけなら」

二人で庭園まで歩く。美しい花々は私の立場が変わっても、何も変わらないままそこにあり続ける。

「私、婚姻が決まったわ」
「……おめでとうございます」
「お相手はラッカム国王よ」

……ラッカム国王って……、確か王妃と、既に側室も1人いらっしゃるし、お年ももう35歳くらい。王女より20歳近くも年上だわ。

「あの方はお子が生まれないから。その為に嫁ぐのよ。勿論その分の見返りは貰うけれどね」
「……そうですか」
「様を見ろと、そう思うかしら」
「そんな!」
「貴方達の……いえ、兄様の不幸は私が始まりだものね」
「……え?」

ディーン様の不幸の始まりってどういうこと?

「…まさか、貴方は何も聞いていないの!?」
「何のことでしょうか」
「酷い…、お父様も兄様も、フィリスだって!どうして貴方に伝えなかったの?侯爵だって知っているはずなのに」

お父様が?……もしや、さっきフィリス様が伝えようとしていたこと?

「……あの、フィリス様は何かを伝えようとはして下さいました。ですが、私がお断りしたのです」
「…ああ。貴方はそういう人よね」

その一言に、さすがにカチンときました。

「そういう、とは?」
「あら珍しい。怒ったの?そういう顔をもっと出せばよかったのに」
「そのようなはしたない真似」
「違うでしょう、臆病者のヴァレリー。貴方は誰よりも自分が大切なの。自分が傷付きたくないから、だから本心を見せられない。好きだといいながら兄様を信じない。そして傷つく前に捨てたのだわ」
「違います!」
「どこが?貴方は一度でも兄様とお話をした?」
「それならディーン様だって同じじゃないですか!」

あの方だって私には何も話してくれなかった!それなのにどうして私ばかり責められるの!?

「言えない兄様と、言わない貴方。同じでは無いでしょう」

……言えない?それは……まさか、王命?

「でも…私は婚約者で…」
「そうね。貴方がもっと協力的なら違ったでしょう。でも、貴方はフィリスのことを敵視するだけで、今の情勢を何も見ようとしなかった。
そんな短慮な方に、何を伝えられるの?
だから陛下は許さなかった。だから侯爵も貴方に何も伝えなかった。そういうことなのかもね」

今の情勢って?フィリス様…ということは、犯人が捕まっていない誘拐のこと?それは、まだ何かが続いていたというの?

「……違うわ、こんな事が言いたかったんじゃないのに…。まあ、いいわ。貴方は愛されて守られてばかりだもの。私くらいしかこんな事言わないでしょ」
「私が愛されてる?」

そんなはずない。いえ、お父様は愛して下さっていた。でも、

「兄様は貴方を大切に思っていた。フィリスとは恋仲では無かった。それが真実よ」

……何それ。では、私は何の為に……

「たぶん、貴方と話すのはこれで最後よ。
私はもうこの国に戻ることは無いでしょう。それでも、この国の王女であったことを誇りに生き続けるわ。
私にできる事なんて微々たるものだけど、少しでも幸せに出来るように頑張るつもりよ。
……ごめんね、ヴァレリー様。貴方もどうか幸せになって」

それだけ言うと、私の返事など待たずに踵を返してしまいました。
どこまでも傲慢で……でも、強い人。
貴方が幸せにしたいのは誰なの?

「私は…何を知らなかったの」

今更だと耳を塞ぎ続けた。
でも私は、一度もディーン様の気持ちを聞かなかったのだと、ようやく気が付いたのです。





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