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第一章 ヴァレリー編

12.変わりゆく関係(3)

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「フィリス嬢、少しいいだろうか」
「はい?」
「ヴァレリー、君も一緒に」

またです。彼は度々フィリス様との会話に私を同席させようとします。ですが、貴方達の会話に無意味に混ざらなくてはいけない私の気持ちをどうして考えて下さらないの?

「いえ、私は遠慮させていただきますわ」
「え?だが、」
「前回の試験で少し成績が下がってしまったでしょう?次は挽回したいの。だから図書室に行きたいと思って」

これは残念ながら事実です。お恥ずかしながら、A組20名の中で10位。学園に通い始めたばかりのフィリス様は12位でした。このままでは追いつかれてしまいそうで、かなり焦っているのですよ。

「それは……明日では駄目だろうか」
「ですが、」

私は貴方達の会話に付き合いたくないんです!

「ディーン様、ではエミル様に付き合っていただきましょう」
「……分かった。無理を言って悪かったな」

ディーン様が軽くため息をついて離れて行きました。フィリス様が申し訳無さそうに会釈して後について行きます。
……ため息をつきたいのは私の方ですが。

二人を見送り、図書室に向かおうとした時です。

「ねぇ、よかったんですの?」

そう話しかけてきたのはヴェラ様でした。
ヴェラ様のお父様と私のお父様は同級生だったそうですが、私とはさほど仲良くないので、この様に声を掛けられるのは珍しいことです。
辺りを見渡し、会話が聞かれそうにないことを確認してから返事をしました。

「何がでしょうか」
「ディーン様よ。フィリス様との噂があるから、二人きりにならない様に気を付けていたのではなくて?」
「あ……」

そうでした。つい、疎外感を感じたくなくて断わってしまったけれど……。

「他に気が行っていたみたいですね」
「…お恥ずかしい限りですわ。指摘して下さってありがとうございます」
「貴方を呼んで話そうとするくらいですもの。大切なお話だったのでは?学園でしか話せないこともあるでしょうし」

そうですわね。王宮に招けばすぐに情報が回りますし、王子がムーア家を訪れてもすぐに知れてしまいます。私を使うのは当然のことでした。

「最近の貴方達、空気が微妙よ。本当に大丈夫?せっかく同じ学園に通えているのにどうしてそんなにも空々しいの?」
「そんなつもりは、」
「いくら心で思っていても、相手に正しく伝わらなかったら意味が無いのですよ。
いい?これはクラスメイトとしての忠告です。ちゃんと今の言葉を心に留めておいて」

こうやって話してくれるのはヴェラ様の優しさなのでしょう。ですが、以前の彼女ならこんなことは言わなかったと思います。

「……ヴェラ様は変わられましたね」
「そうかしら。……いいえ、やっぱりそうかも。フィリス様の素直さを見ていたら色々と考えさせられたわ。
貴方は?何か思うところは無いの?」
「……分からないわ」

いいえ。思うところならたくさんあります。
でも、彼女のようになりたいかと言われたら違うと答えるでしょう。だって、やはり貴族として許されないと思ってしまうもの。

「あの子はああ見えてしたたかよ」
「え?」
「悪い意味じゃないわ。ちゃんと素直さの出し方を周りを見て調整してる」
「……演技しているということですか?」
「そうじゃなくて。この人ならここまで見せても大丈夫って相手を見極めているのよ。
だからこの高位貴族が多いクラスでも浮いていないでしょう?」

確かにそうです。気難しいヴェラ様にすらここまで言わせるのですもの。

「それから、ディーン様にも必要以上に気持ちを見せないようにしているじゃない。案外健気よね」
「……それは……ディーン様に心を寄せているということですか?」
「というより、寄せないように気を付けているように見えるわ。これでも人間観察が趣味なの。
貴方の自尊心の高さと不器用さが見てられないから忠告はしたから。では、ごきげんよう」
「……ごきげんよう」

人に爆弾だけ投げ付けてヴェラ様は帰って行きました。

自尊心の高さと不器用さって。
悪口としか思えないのですが?

でも結局、今更ディーン様達のもとに向かう勇気は無く、言い訳にした通り、図書室で勉強をしてから家に帰りました。

王妃様から呼び出しがあったのは、それから3日後のことでした。




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