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第一章 ヴァレリー編
1.時期外れの転入生
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懐かしい夢を見ました。
私が13歳になった頃、王宮で成人前の子供達を集めたガーデンパーティーが催されました。
パーティーというのは建前で、第三王子の婚約者探しだったのでしょう。
第三王子であられるディーン様は、私と同じ13歳。とても優秀な方だと噂されております。
殿下が登場すると、辺りが色めきました。
王妃様譲りのプラチナブロンドに、紫の瞳は王族の証。
少し線の細いそのお姿は、大変お美しかったのです。
「ミュアヘッド侯爵令嬢は、今、気になることはありますか?」
朝から支度に追われ、パーティーもずっと立ちっぱなしであった為、少しぼうっとしていた私は、
「……チョコケーキと梨のタルト、どちらが美味しいでしょうか」
つい、テーブルに乗っているケーキを見ながら阿呆なことを口走ってしまいました。
「ふっ」
「……あっ」
笑われてしまいました!……いえ、笑ってくれてありがとうございます。
だって!今日と言う日のために、ひと月も前から体調と体型の管理のために食事は草食動物が如く温野菜攻めで、デザートはもちろん無し、このまま修道院に行けるのでは?(嘘です)と、思う程の食生活だったのですよ。
朝だってコルセットで気持ち悪くなるといけないからと小鳥の餌程しか食べさせて貰えなかったのです!
「少し待っていて」
殿下はそう言うと、近くにいた使用人を呼び、チョコケーキと梨のタルトを半分ずつにカットして持って来させたのです。
「さあ、どうぞ。私もいただこう」
私だけでなく、ご自分も召し上がってくださったおかげで、私も恥をかく事はありませんでした。
「…ありがとうございます」
「いいえ、とても美味しいですね」
「はい!」
すっかりと打ち解け、その後は他の令嬢も交えて談笑し、パーティーは終了しました。
後日、当家に婚約の打診が来ました。
先日のパーティーの中で一番高位であり、派閥的にも中立であった我が家門はもともと候補に上がっていたのでしょう。
私の食いしん坊が表に出てしまったおかげで話も弾みましたし。これも怪我の功名と言うのでしょうか?
「ヴァレリー、異存はないか」
「…はい。殿下は大変お優しい方でしたわ」
あの方とならきっと幸せになれる。そう思いました。
正式に婚約が結ばれ、私は第三王子の婚約者になりました。
「ミュアヘッド侯爵令嬢、これからよろしくね」
「はい、まだ未熟ではありますが、精一杯頑張る所存です。どうぞ私のことはヴァレリーとお呼び下さい」
「ありがとう、ヴァレリー嬢。私のこともディーンと呼んでくれ。王子と言っても三番目だからね。そんなにも畏まらないで欲しいな」
え、無理。だって王子は王子ですよ?
「……善処します」
「ふふ、仲良くやっていこう」
「あ……」
ふと目を開けると、外はまだ薄暗い。夜明けまではもう少し時間がありそうです。
…変な時間に目が覚めてしまったわ。
「13歳のディーン様は可愛らしかったわね」
懐かしい姿を夢に見たせいで、何となくくすぐったい気持ちになる。
あれからもう少しで4年。
今では同じ学園のクラスメイトであり、生徒会の仲間でもあります。
ディーン様はすっかりと背も伸び、美少年から美青年になりました。やや細身なのは体質なのでしょう。
剣も使えるけれど彼は頭脳派です。卒業後は王太子殿下の補佐を務めることになっています。
私とディーン様は特に問題なく。というか、私はすっかりと殿下に恋をしてしまったけれど、彼はどうなのだろう。最近それが気になってしまうの。
婚約者として大切にしてもらっている。デビュタントを終えてから、公式行事はすべてエスコートしてもらっているし、学園でも共にいることが多いけど。
「でも、恋はしてくれてないわ……」
彼の瞳にそんな熱は無い。王族ですもの。愛や恋だけで相手を選びはしない。大切にしてもらえているだけで感謝するべきなのだろうけど……
これでもたくさん努力はしてきたつもりです。
王子妃教育もほぼ終わったし、学園でも婚約者として恥ずかしくない態度を心掛けている。生徒会の仕事だって……駄目ね。どうしてこんなにも自信が持てないのかしら。
……どうしたら彼に愛されるの?
「嫌ね、早く朝が来たらいいのに」
♢♢♢
「おはよう、ヴァレリー」
「おはようございます、ディーン様」
今日も美しいお顔ですこと。
「あれ、寝不足かい?少し目が赤いよ」
「……少し懐かしい夢を見て……変な時間に目が覚めてしまいましたの。つい、その後、本を読み始めてしまって」
「へえ、懐かしい夢って?」
「初めてディーン様にお会いした時の夢ですわ」
「ああ、チョコケーキと梨のタルト?」
「……それはもう忘れて下さいまし」
「どうして?とても可愛らしかったのに」
「黒歴史でございますから」
クスクスと笑うお姿は眼福ですが、内容がいただけません。でも、今の私は内面を顔になど出しませんよ?
「ところで今日ですよね?転入生が来るのは」
この学園で転入生が来ることは珍しいことです。
他国からの留学ならまだしも、今回はこの国の貴族なのです。それも訳有りの。
「ああ。先生からも話があったように、生徒会としてもフォローを頼まれている。学年も同じだしね」
「そうですわね。どのようなお方なのかしら」
転入生はムーア伯爵の令嬢だ。10年前に誘拐され、すでに死んだと思われていたのに、半年前に奇跡の生還を果たしたのだ。
当時はかなりの話題となった。彼女は孤児院に拾われ、そこから裕福な家庭に引き取られたそうだ。
裕福とはいえ平民として約10年。今更貴族として生きられるのでしょうか。
「職員室に向かうけど君はどうする?」
「私も行きますわ。女性がいた方が安心なさるかもしれませんし」
「そうだね、よろしく頼むよ」
「畏まりました」
「……ヴァレリーは固いなぁ。もっと気安くしてくれていいのに」
「親しき仲にも礼儀あり、ですよ?」
「はいはい」
職員室に向かうと、すでに令嬢が到着していたようで、先生と話をしていました。
「殿下、朝早くにありがとうございます」
「おはようございます。先生、いい加減殿下は止めませんか。ここではただの生徒ですよ」
「殿下こそ諦めましょう。そういうのはご友人となさって下さいね」
ディーン様は相変わらずシェリダン先生がお好きよね。
「ムーアさん、こちらへ」
先生は基本的に生徒はすべて苗字にさん付けで呼んでいます。
「こちらが生徒会長のディーン第三王子殿下。お隣が副会長で殿下の婚約者、ミュアヘッド侯爵令嬢だ」
……まあ、可愛らしい。
ピンクゴールドの髪にシアンの瞳。まるでお人形のようだわ。
「はじめまして、ムーア嬢。生徒会長のディーン・マクナイトだ。学年も同じだからね、分からないことや困ったことがあったら何でも相談してくれ」
ディーン様の挨拶に、
「まあっ!王子様は本当に王子様なお顔立ちなのですね!」
と、感嘆の声を上げた。
「あ!違うんです!馬鹿にしたとかではなく、あの、とてもキラキラしているからっ!」
真っ赤になって否定する姿を可愛いと見ればいいのか、無礼と取ればいいのか、それとも……あざとい?
チラリと横を見れば、ディーン様は微笑ましそうにクスクスと笑っていた。
今の顔……
それは、今朝見た夢の、13歳の彼の笑顔にとてもよく似ていました。
私が13歳になった頃、王宮で成人前の子供達を集めたガーデンパーティーが催されました。
パーティーというのは建前で、第三王子の婚約者探しだったのでしょう。
第三王子であられるディーン様は、私と同じ13歳。とても優秀な方だと噂されております。
殿下が登場すると、辺りが色めきました。
王妃様譲りのプラチナブロンドに、紫の瞳は王族の証。
少し線の細いそのお姿は、大変お美しかったのです。
「ミュアヘッド侯爵令嬢は、今、気になることはありますか?」
朝から支度に追われ、パーティーもずっと立ちっぱなしであった為、少しぼうっとしていた私は、
「……チョコケーキと梨のタルト、どちらが美味しいでしょうか」
つい、テーブルに乗っているケーキを見ながら阿呆なことを口走ってしまいました。
「ふっ」
「……あっ」
笑われてしまいました!……いえ、笑ってくれてありがとうございます。
だって!今日と言う日のために、ひと月も前から体調と体型の管理のために食事は草食動物が如く温野菜攻めで、デザートはもちろん無し、このまま修道院に行けるのでは?(嘘です)と、思う程の食生活だったのですよ。
朝だってコルセットで気持ち悪くなるといけないからと小鳥の餌程しか食べさせて貰えなかったのです!
「少し待っていて」
殿下はそう言うと、近くにいた使用人を呼び、チョコケーキと梨のタルトを半分ずつにカットして持って来させたのです。
「さあ、どうぞ。私もいただこう」
私だけでなく、ご自分も召し上がってくださったおかげで、私も恥をかく事はありませんでした。
「…ありがとうございます」
「いいえ、とても美味しいですね」
「はい!」
すっかりと打ち解け、その後は他の令嬢も交えて談笑し、パーティーは終了しました。
後日、当家に婚約の打診が来ました。
先日のパーティーの中で一番高位であり、派閥的にも中立であった我が家門はもともと候補に上がっていたのでしょう。
私の食いしん坊が表に出てしまったおかげで話も弾みましたし。これも怪我の功名と言うのでしょうか?
「ヴァレリー、異存はないか」
「…はい。殿下は大変お優しい方でしたわ」
あの方とならきっと幸せになれる。そう思いました。
正式に婚約が結ばれ、私は第三王子の婚約者になりました。
「ミュアヘッド侯爵令嬢、これからよろしくね」
「はい、まだ未熟ではありますが、精一杯頑張る所存です。どうぞ私のことはヴァレリーとお呼び下さい」
「ありがとう、ヴァレリー嬢。私のこともディーンと呼んでくれ。王子と言っても三番目だからね。そんなにも畏まらないで欲しいな」
え、無理。だって王子は王子ですよ?
「……善処します」
「ふふ、仲良くやっていこう」
「あ……」
ふと目を開けると、外はまだ薄暗い。夜明けまではもう少し時間がありそうです。
…変な時間に目が覚めてしまったわ。
「13歳のディーン様は可愛らしかったわね」
懐かしい姿を夢に見たせいで、何となくくすぐったい気持ちになる。
あれからもう少しで4年。
今では同じ学園のクラスメイトであり、生徒会の仲間でもあります。
ディーン様はすっかりと背も伸び、美少年から美青年になりました。やや細身なのは体質なのでしょう。
剣も使えるけれど彼は頭脳派です。卒業後は王太子殿下の補佐を務めることになっています。
私とディーン様は特に問題なく。というか、私はすっかりと殿下に恋をしてしまったけれど、彼はどうなのだろう。最近それが気になってしまうの。
婚約者として大切にしてもらっている。デビュタントを終えてから、公式行事はすべてエスコートしてもらっているし、学園でも共にいることが多いけど。
「でも、恋はしてくれてないわ……」
彼の瞳にそんな熱は無い。王族ですもの。愛や恋だけで相手を選びはしない。大切にしてもらえているだけで感謝するべきなのだろうけど……
これでもたくさん努力はしてきたつもりです。
王子妃教育もほぼ終わったし、学園でも婚約者として恥ずかしくない態度を心掛けている。生徒会の仕事だって……駄目ね。どうしてこんなにも自信が持てないのかしら。
……どうしたら彼に愛されるの?
「嫌ね、早く朝が来たらいいのに」
♢♢♢
「おはよう、ヴァレリー」
「おはようございます、ディーン様」
今日も美しいお顔ですこと。
「あれ、寝不足かい?少し目が赤いよ」
「……少し懐かしい夢を見て……変な時間に目が覚めてしまいましたの。つい、その後、本を読み始めてしまって」
「へえ、懐かしい夢って?」
「初めてディーン様にお会いした時の夢ですわ」
「ああ、チョコケーキと梨のタルト?」
「……それはもう忘れて下さいまし」
「どうして?とても可愛らしかったのに」
「黒歴史でございますから」
クスクスと笑うお姿は眼福ですが、内容がいただけません。でも、今の私は内面を顔になど出しませんよ?
「ところで今日ですよね?転入生が来るのは」
この学園で転入生が来ることは珍しいことです。
他国からの留学ならまだしも、今回はこの国の貴族なのです。それも訳有りの。
「ああ。先生からも話があったように、生徒会としてもフォローを頼まれている。学年も同じだしね」
「そうですわね。どのようなお方なのかしら」
転入生はムーア伯爵の令嬢だ。10年前に誘拐され、すでに死んだと思われていたのに、半年前に奇跡の生還を果たしたのだ。
当時はかなりの話題となった。彼女は孤児院に拾われ、そこから裕福な家庭に引き取られたそうだ。
裕福とはいえ平民として約10年。今更貴族として生きられるのでしょうか。
「職員室に向かうけど君はどうする?」
「私も行きますわ。女性がいた方が安心なさるかもしれませんし」
「そうだね、よろしく頼むよ」
「畏まりました」
「……ヴァレリーは固いなぁ。もっと気安くしてくれていいのに」
「親しき仲にも礼儀あり、ですよ?」
「はいはい」
職員室に向かうと、すでに令嬢が到着していたようで、先生と話をしていました。
「殿下、朝早くにありがとうございます」
「おはようございます。先生、いい加減殿下は止めませんか。ここではただの生徒ですよ」
「殿下こそ諦めましょう。そういうのはご友人となさって下さいね」
ディーン様は相変わらずシェリダン先生がお好きよね。
「ムーアさん、こちらへ」
先生は基本的に生徒はすべて苗字にさん付けで呼んでいます。
「こちらが生徒会長のディーン第三王子殿下。お隣が副会長で殿下の婚約者、ミュアヘッド侯爵令嬢だ」
……まあ、可愛らしい。
ピンクゴールドの髪にシアンの瞳。まるでお人形のようだわ。
「はじめまして、ムーア嬢。生徒会長のディーン・マクナイトだ。学年も同じだからね、分からないことや困ったことがあったら何でも相談してくれ」
ディーン様の挨拶に、
「まあっ!王子様は本当に王子様なお顔立ちなのですね!」
と、感嘆の声を上げた。
「あ!違うんです!馬鹿にしたとかではなく、あの、とてもキラキラしているからっ!」
真っ赤になって否定する姿を可愛いと見ればいいのか、無礼と取ればいいのか、それとも……あざとい?
チラリと横を見れば、ディーン様は微笑ましそうにクスクスと笑っていた。
今の顔……
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