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32.感謝と祝福を君に【2】
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「パメラはカルヴァンの母上がご病気なのは知っていたか?」
「そうね。病名を知ったのは最近だけど」
そうか。まったく気が付いてないのは俺だけか。
「俺は本当に薄情な人間だったようだ」
「ああ、貴方は基本的に無関心だったものね。カルヴァンとだって彼が人懐こいから付き合いが続いていた様なものでしょ?あとはその顔と家柄に寄って来ているだけだったし」
「……真実は人を傷つけるんだよ、パメラ」
「己を知るって大事よ?」
あれから、パメラとはあまり気を遣わずに会話出来るようになった。かなり痛い言葉もサクサク飛んで来るけれど、そんな所も好ましいと思う。
そう。困ったことに好ましいのだ。
綺麗だけど、全く好みじゃなかったのに。
今の彼女はとても素敵だと思う。彼女が子供達に抱く感想に近いのかもしれない。顔の造作では無く、心からの笑みが愛しい。そんな感じで……
シェリーのときの様に、自分のものにしたいとかそういう独占欲とも違う。
そうだ。シェリー。彼女ともう一度やり直したくて頑張っていたはずなのに。
「お前はやっぱり馬鹿だな。少し安心したよ」
最近のお悩み相談所は班長だ。
シェリーのことをカルヴァンには相談し辛く、というか、母上がご病気で大変なのにこんな悩みは言えない。
どうやら俺は本当のことを話せる友達がいないということに、ようやく気が付いた。
「……どうして馬鹿扱い」
「シェリーさんは待たないって言ってたんだろ?それなのにどうしてやり直せるって思っているんだ?」
どうして……だって諦めたくなかった。ただそれだけ。でも、彼女も好きだって言ってくれた。キスだってそれ以上のことだって許してくれたのに。
「残念ね、ベン君。女はね、男ほど引きずらないわよ?待たないって言ったならそれが本音。貴方は待ちたい程の相手じゃなかったのよ」
……辛辣。女性って辛辣だよね!?
「だなあ。まあ、それを夢にみて勝手に頑張るくらいはヨシ!でも、もし花束でも持って会いに行ったらドン引かれて終わるな」
「……そんなにですか」
「「そんなに」」「だ」「よ」
仲良し夫婦にコテンパンにされた。
「あとね。そのパメラちゃん?もともと美人さんなんでしょう?1年とか呑気なこと言ってたら、あっという間に掻っ攫われるわよ?」
「だな。一人前になったら!なんて言ってる間に、誰かの奥さんになってるのが目に見える」
「えっ!」
「どうして驚くの?貴方が決断するまでどうして待っててくれると思っちゃうのかしら」
どうして……だってもともと俺の顔が好きで。孤児院にも誘ってくれて。俺が行くのを喜んでくれて……
「現実を見るようになった女の切り替えは早いぞ。ご両親の意向もあるし」
「そうね。親不孝した自覚があるなら、次は大人しく言う事を聞いて嫁ぐんじゃない?」
どうしよう……言われてみればそうだなって思う。
『どうして自分ばかり選ぶ側だと思っていたのかしら?』
そうだよ、そう言っていたじゃないかっ!
「でも、俺はまだ見習い騎士なだけで……」
「だけって言うな、失礼だな」
「そうね。職が決まっているってことじゃない。それに貴方は侯爵家子息のままでしょう?ご両親に相談しなさいよ」
「そうだぞ。まだ子供だって自覚しろよ。力が無いならある人間に頼れ。まあ、こうやって相談してくるだけ進歩だけどな!」
だから!一々叩くなよ!
「あの、アドバイスありがとうございます。今から父に会いに行ってきます!」
父を頼る。これは本当ならしたくないことだ。あれだけ反抗して勝手に落ちぶれて。婚約破棄して迷惑をかけ捲ったのにどの面下げて……
でも、自分勝手に決めていい事では無いし、自分だけで出来る事なんて殆ど無い。
シェリーの言う通り、二人だけの世界なんか無い。今まで疎かにしてきた人間関係がどれほど大切か、ここまでこないと分からない自分が本当に情けない。
「あら。おかえり、ベンジャミン」
「ベン、珍しいな。今日は孤児院の日じゃないだろう?」
こんなにも駄目な息子なのに、いつでも温かく迎えてくれる。孤児院に捨てられる子供だっているのに。
「……父上、シンディー。今まで本当に申し訳ありませんでした」
謝罪をしに来たはずでは無かったのに、どうしても謝りたいと思った。俺は一度もちゃんと謝っていなかったから。
二人に向かって、深く深く頭を下げた。
ようやく、頭を下げる事が出来た。
「……何があった?」
「自分がどれほど愚かで、恵まれているかを知ることが出来ました。今までの甘えた自分が恥ずかしい。
でも、俺はまだ貴方達に甘えようとしています。
……好きな人が出来ました」
「座ってちゃんと話そう。私達も伝えたい事があるんだ」
「はい……」
それから、俺は今までの事を話した。家を出る前からの話を全部。それは言葉にすると本当に恥ずかしい、子供の癇癪でしか無く、シェリーにしたことを話した時はシンディーにビンタされた。
「勝手に体に触るなっ!このエロガキがっ!!」
すっごく痛かった。でも一応断りは入れていたのに。
「婚約者という立場がある以上断りにくいでしょう!でも、彼女から求められたことが一度でもあった?無いならそういう事よ!それじゃなくても体のコンプレックスがあったのに!」
コンプレックス?あんなに綺麗なのに?
「ほら、そのキョトン顔!彼女をまったく理解出来てないくせに体だけ弄くり回すって変態か!ただのエロか!!」
「シンディー落ち着いて。子供が驚く」
「あ、ごめんね」
シンディーが慌ててお腹を撫でて……
「……え?」
「ああ、私達が話したかったのはこの子の事だ。シンディーが子を授かった」
「そうね。病名を知ったのは最近だけど」
そうか。まったく気が付いてないのは俺だけか。
「俺は本当に薄情な人間だったようだ」
「ああ、貴方は基本的に無関心だったものね。カルヴァンとだって彼が人懐こいから付き合いが続いていた様なものでしょ?あとはその顔と家柄に寄って来ているだけだったし」
「……真実は人を傷つけるんだよ、パメラ」
「己を知るって大事よ?」
あれから、パメラとはあまり気を遣わずに会話出来るようになった。かなり痛い言葉もサクサク飛んで来るけれど、そんな所も好ましいと思う。
そう。困ったことに好ましいのだ。
綺麗だけど、全く好みじゃなかったのに。
今の彼女はとても素敵だと思う。彼女が子供達に抱く感想に近いのかもしれない。顔の造作では無く、心からの笑みが愛しい。そんな感じで……
シェリーのときの様に、自分のものにしたいとかそういう独占欲とも違う。
そうだ。シェリー。彼女ともう一度やり直したくて頑張っていたはずなのに。
「お前はやっぱり馬鹿だな。少し安心したよ」
最近のお悩み相談所は班長だ。
シェリーのことをカルヴァンには相談し辛く、というか、母上がご病気で大変なのにこんな悩みは言えない。
どうやら俺は本当のことを話せる友達がいないということに、ようやく気が付いた。
「……どうして馬鹿扱い」
「シェリーさんは待たないって言ってたんだろ?それなのにどうしてやり直せるって思っているんだ?」
どうして……だって諦めたくなかった。ただそれだけ。でも、彼女も好きだって言ってくれた。キスだってそれ以上のことだって許してくれたのに。
「残念ね、ベン君。女はね、男ほど引きずらないわよ?待たないって言ったならそれが本音。貴方は待ちたい程の相手じゃなかったのよ」
……辛辣。女性って辛辣だよね!?
「だなあ。まあ、それを夢にみて勝手に頑張るくらいはヨシ!でも、もし花束でも持って会いに行ったらドン引かれて終わるな」
「……そんなにですか」
「「そんなに」」「だ」「よ」
仲良し夫婦にコテンパンにされた。
「あとね。そのパメラちゃん?もともと美人さんなんでしょう?1年とか呑気なこと言ってたら、あっという間に掻っ攫われるわよ?」
「だな。一人前になったら!なんて言ってる間に、誰かの奥さんになってるのが目に見える」
「えっ!」
「どうして驚くの?貴方が決断するまでどうして待っててくれると思っちゃうのかしら」
どうして……だってもともと俺の顔が好きで。孤児院にも誘ってくれて。俺が行くのを喜んでくれて……
「現実を見るようになった女の切り替えは早いぞ。ご両親の意向もあるし」
「そうね。親不孝した自覚があるなら、次は大人しく言う事を聞いて嫁ぐんじゃない?」
どうしよう……言われてみればそうだなって思う。
『どうして自分ばかり選ぶ側だと思っていたのかしら?』
そうだよ、そう言っていたじゃないかっ!
「でも、俺はまだ見習い騎士なだけで……」
「だけって言うな、失礼だな」
「そうね。職が決まっているってことじゃない。それに貴方は侯爵家子息のままでしょう?ご両親に相談しなさいよ」
「そうだぞ。まだ子供だって自覚しろよ。力が無いならある人間に頼れ。まあ、こうやって相談してくるだけ進歩だけどな!」
だから!一々叩くなよ!
「あの、アドバイスありがとうございます。今から父に会いに行ってきます!」
父を頼る。これは本当ならしたくないことだ。あれだけ反抗して勝手に落ちぶれて。婚約破棄して迷惑をかけ捲ったのにどの面下げて……
でも、自分勝手に決めていい事では無いし、自分だけで出来る事なんて殆ど無い。
シェリーの言う通り、二人だけの世界なんか無い。今まで疎かにしてきた人間関係がどれほど大切か、ここまでこないと分からない自分が本当に情けない。
「あら。おかえり、ベンジャミン」
「ベン、珍しいな。今日は孤児院の日じゃないだろう?」
こんなにも駄目な息子なのに、いつでも温かく迎えてくれる。孤児院に捨てられる子供だっているのに。
「……父上、シンディー。今まで本当に申し訳ありませんでした」
謝罪をしに来たはずでは無かったのに、どうしても謝りたいと思った。俺は一度もちゃんと謝っていなかったから。
二人に向かって、深く深く頭を下げた。
ようやく、頭を下げる事が出来た。
「……何があった?」
「自分がどれほど愚かで、恵まれているかを知ることが出来ました。今までの甘えた自分が恥ずかしい。
でも、俺はまだ貴方達に甘えようとしています。
……好きな人が出来ました」
「座ってちゃんと話そう。私達も伝えたい事があるんだ」
「はい……」
それから、俺は今までの事を話した。家を出る前からの話を全部。それは言葉にすると本当に恥ずかしい、子供の癇癪でしか無く、シェリーにしたことを話した時はシンディーにビンタされた。
「勝手に体に触るなっ!このエロガキがっ!!」
すっごく痛かった。でも一応断りは入れていたのに。
「婚約者という立場がある以上断りにくいでしょう!でも、彼女から求められたことが一度でもあった?無いならそういう事よ!それじゃなくても体のコンプレックスがあったのに!」
コンプレックス?あんなに綺麗なのに?
「ほら、そのキョトン顔!彼女をまったく理解出来てないくせに体だけ弄くり回すって変態か!ただのエロか!!」
「シンディー落ち着いて。子供が驚く」
「あ、ごめんね」
シンディーが慌ててお腹を撫でて……
「……え?」
「ああ、私達が話したかったのはこの子の事だ。シンディーが子を授かった」
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