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突然どうして?そんな話をした事はない。
ラファのことは大好きだけど……


「アルフォンソ、何を言っているんだ!」
「そのままの意味だよ。
ラファ、助けてほしいのは夫人のことだけじゃない。君自身が辛いのだろう?」
「…僕は平気だよ?」
「夫人がいなくても?」
「どうして?イメルダも、またいなくなっちゃうの?どうしてっ?!」
「いなくなりはしないね。でも変わっていくよ。君だけが知っているイメルダでは無くなるんだ」
「あ……」


ラファが青褪める。
イメルダ様を助けたい一心でここまで来たのだろう。それが彼だけの彼女を失うことになると、どこかでは分かっていたのかもしれない。


「リカルド。お前の一番の間違いは夫人とラファが仲良くしていることに満足していたことだ。二人の近すぎる関係を止めなかった。
でもそれも責めることは出来ない。大切にしたい二人が寄り添っている。皆の目には美しいものに見えただろう。
だけど、ラファがもし夫人と2~3歳しか変わらなかったら?それでも許せたか?」
「いや、だがそれは絶対にないことだ」


ううん。ラファが急に成長する事はないけれど、そういう意味で言っているんじゃない。


「本来、夫人を支える役をラファがするはずは無かったんだ。仲良くなるのはいい。だけど、夫人は本来ラファの保護者だ。それなのに、お前は子供であれと守ってしまった。そしてエルディアの貴族らしく育てられた夫人は夫の望みに従ってしまった」


そうか。どうして3年間もイメルダ様は不満を口にしないのかと思ったら、エルディアが男尊女卑の国だから!


「もし、夫人だけなら誰かがお前に助言しただろう。彼女の立場を考えろと。だが、ラファといることで二人が幸せそうに見える。正しい姿に見えてしまったんだ。
でも中身は違う。周囲から子供だから役に立たないからと弾かれていると孤独に苦しむ二人の共依存だよ」
「共依存……」
「ラファの精神年齢が高かったのも要因の1つだ。夫人を支えることが出来てしまった。そして支える事で自分を保てたんだ。
でもこれからは?お前は自分の間違いに気付けたから、今度こそ夫人との仲を再構築するだろう。それによって夫人だって自分の過ちに気が付く。いや、本当は気付いていて、何とかしようとは思っているのかな。それなら余計に早く夫婦として頑張れる。赤ちゃんも生まれるしね。
でもラファは?今まで夫人を支える事で自分を確立してきた。今更ただ守られるだけの子供には戻れないよね」


リカルド様には守るものが多い。辺境にイメルダ様に新しい命。いずれ国王になることを望まれているから、その教育などもあるのだろう。そこに聞き分けが良くて、相手をよく見ているラファ。彼が我慢する事が目に見える。
それに大好きなイメルダ様との距離も気を付けなくてはいけない。だって彼はこれからもっと成長する。子供ではなく男になってしまう。
今まで一番近くで守ってきたのに。


「ラファ、前は置いて行ってごめんね?でも今度は助けてあげられる。
辛い時は逃げちゃってもいいんだよ。リカルド様はもう大丈夫。ラファが3年間頑張ってイメルダ様を守ってきたから、これからは幸せになれるわ。
だからね、ラファは少しだけここでお休みしない?」
「いや、だが!」
「ラファを必要以上に子供扱いするな。立派に男の子だろ?好きな人が他の人の手を取って幸せになるのを毎日見続けるのは酷だろう」


リカルド様にとってラファはいつまでも、お兄さん夫婦に託された大切な子供なのだろう。
でも、彼は一足飛びで大人になってしまった。
イメルダ様への恋とたくさんの別れが、彼を子供でいられなくした。


「……逃げていいの?」
「いいよ。だってね、リカルド様が子供だって言うのだもの。それならワガママだって言っていいはずでしょう?3年分よ?」


アルとラファはどこか似ている。幼い頃に親を失うことは子供にとって大きな心の傷だ。
ラファにはリカルド様がいるけれど、残念ながら親としては接していなかった。いずれ辺境伯を継ぐ後継者であって、彼自身が結婚していないこともあり、親子にはなれなかった。
無条件で甘えることが許される存在がいない寂しさをアルは知っているから。だから余計に放っておけないのだろう。


「リィ、僕……ここに残りたい」
「どうしても?これからはちゃんとやり直す。イメルダを大切にするが、ラファだって本当に大切なんだ」
「うん、僕もリィが大好きだよ。二人のことがね、本当に大好き。だからね……やだって思うのがね、悲しい。僕が悪い子になりそう」


それから、リカルド様は何度もラファに謝りながら抱きしめた。ラファは静かに泣いていた。昔みたいな大声で泣くことはなかった。



ラファは留学という形になった。
ウルタードには7歳から通える学園がある。ちなみにエルディアは10歳から。だからラファには同年代との関わりが少なかった。ラファは学園に通えることをとても喜んだ。
友達という対等な立場。そんな新しい人間関係がとても嬉しいみたい。帰ってくると学園での話をたくさん教えてくれる。
そしてマリアがあっという間に懐いた。
ラファもとても可愛がってくれるので、見ていてとても幸せだ。


「アル、もしかして狙ってる?」
「まさか。ただ、あの時は離すことが必要だと思っただけだよ。可愛いマリアはまだまだ嫁には出したくないしね」


そうね。これから先どうなるかなんて分からない。
でも、ラファならマリアを安心して任せられるな、とちょっと夢見てもいいよね。


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