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「え、王妃様?!」
「オフェリア様よ。説明は後にさせてください。急いでオフェリア様に掛けられている縛りの魔法を解呪して欲しいのです」
いきなり王妃様を連れて戻って来た私達に目を白黒させながらも、縛りの魔法と聞いてガラン達の表情が引き締まった。
「なんという魔法か分かるか?」
「オフェリア様が書かれた魔法書があるわ。どれくらい時間がかかりそうですか?」
「……すぐには無理だ。読み解くまで少し時間が欲しい」
「このままエスカランテの元に向かおう。彼の部屋に無断で入ってくる者はまずいない。私達も彼の使いとして動いているからその方が怪しまれないだろう」
「分かりました。オフェリア様、髪色を変えさせていただいてもよろしいですか?」
「もちろんよ」
目立たない様に美しいプラチナブロンドを無難な栗色に変化させる。これだけでも印象がずいぶんと変わるわ。
「よし、行こう」
「王妃様!よくぞご無事で!まさか脱出されるとは思いませんでした」
エスカランテ様が驚きながらも出迎えてくれた。
「私のことはどうぞオフェリアと呼んでちょうだい。今まで苦労をかけて悪かったわね、エスカランテ」
「とんでもございません。元気なお姿を見れて本当によかった」
「エスカランテ、母上は縛りの魔法が掛けられている。ガランが解呪する為の場を借りたいんだ」
「なんですって?!あの糞野郎……さっさと死ねばいい!」
わぉ、宰相閣下が呪詛を吐いていらっしゃる。
皆さんの国王への憎悪が大変なことになってるわ。ここまで恨まれる人もそういないでしょう。それ程の悪人ということだけど。
……やはり弑するつもりなのだろうか。
医療に携わる者としては殺人を許すことは難しい。でもこれ程の罪を犯した人間を生かしておくのは……
ううん、これはすべてが終わってからでいい。どちらにしても私に決定権などないのだから。
「この部屋の隣が仮眠室として使っている部屋です。この執務室からしか入ることができないので、そちらを使ってください」
「ありがとう、助かる」
「アルフォンソ様、私はバレリアノに戻ります。魔法書を届けなくてはいけないわ!」
オフェリア様の魔法書があれば治癒できるはずだもの。急いで戻らないと大変なことになってしまう。
「ルシア嬢、その治療はあなた以外の人では無理なのでしょうか?今、あなただけをバレリアノに帰すのは危険ですよ」
「……エンリケ様にお任せできれば可能かと。兄も力を貸してくれることになっています」
「では伝達鳥を飛ばしましょう。我が家の鳥は緊急事態用の魔法が掛けられているので、馬を走らせるよりよっぽど早くに着きますよ。
リカルド達辺境貴族にもこの事態を知らせましょう。
王妃様が脱出した今、反逆の意志を隠す必要はありません。辺境騎士団の出番ですよ」
戦が始まってしまう?
命を懸けた戦いが始まるのかと思うと躊躇してしまう。本当にこのまま進めていいの?私は後悔しないだろうか……
「ルシア、怖い?」
「……はい。命が失われるかと思うと……怖いです。戦うことになるのでしょうか」
「スピード勝負かな。国王が気付く前にことを進めたい。辺境騎士団は強いよ。お飾りの近衛兵では勝てないだろうね。
騎士団を呼ぶのは戦う為では無く、戦欲を奪う為だ。
国王はクローンさえ成功すればすべてが上手くいくと思っている。そんなはずはないのにね。油断している今がチャンスだ。
皆ね、薄々気が付いているはずなんだ。この国がおかしいことを。だから命懸けの忠誠心なんて持っていないだろう。
たぶん、リカルドはもう動いていると思うよ。あいつは戦局を見誤ったりしない。優秀な男だから信じて」
相変わらず辺境&リカルド様が大好きなんだから。でも、そうね。戦に関しては皆を信じるしかない。
どうか、誰の命も奪われることがありませんように──
「あ」
「どうした?」
「いえ、リカルド様に会えたら謝罪しないといけないなと……」
「謝罪?」
「はい。先程オフェリア様に、その、ラファの話を勝手にしてしまいましたので」
いくらオフェリア様に分かってほしかったとはいえ、病気の内容を伝えるべきではなかったわ。
ご自分の罪を知ってほしかった。でもこれは私の勝手な考えだ。
「あぁ、リカルドは本当に君を信頼しているのだと思ったよ。だから君が必要だと思って人に話したのならアイツは絶対に怒らない。ラファの為を思って伝えたのだろう?」
「……でも」
「では、すべてが終わったら一緒に謝ろう。一人より二人で叱られたほうが怒りが分散されるよ、きっと」
なんだそのイタズラが見つかった時の子供みたいな理論は。
「分かりました。じゃあ一緒に叱られて下さいね。ゲンコツもらっても知りませんよ?」
「リカルドが?」
「うちの兄は本当にやりますからね。めちゃめちゃ痛いんですよ!」
「ミゲルはすごいな。リカルドなら私にしかやらないと思うよ。女性に手を上げるわけがない」
「やった!身代わりよろしくお願いしますね」
「いや、アイツのゲンコツは回避しないと。一緒に作戦を練ろう」
戦を怖がる私の為にふざけてくれているのかな。
リカルド様が怒ってゲンコツしようとして、私達が慌てて謝りながらも逃げちゃったりして。
そんなくだらない、楽しい未来が早く来るといい。
「オフェリア様よ。説明は後にさせてください。急いでオフェリア様に掛けられている縛りの魔法を解呪して欲しいのです」
いきなり王妃様を連れて戻って来た私達に目を白黒させながらも、縛りの魔法と聞いてガラン達の表情が引き締まった。
「なんという魔法か分かるか?」
「オフェリア様が書かれた魔法書があるわ。どれくらい時間がかかりそうですか?」
「……すぐには無理だ。読み解くまで少し時間が欲しい」
「このままエスカランテの元に向かおう。彼の部屋に無断で入ってくる者はまずいない。私達も彼の使いとして動いているからその方が怪しまれないだろう」
「分かりました。オフェリア様、髪色を変えさせていただいてもよろしいですか?」
「もちろんよ」
目立たない様に美しいプラチナブロンドを無難な栗色に変化させる。これだけでも印象がずいぶんと変わるわ。
「よし、行こう」
「王妃様!よくぞご無事で!まさか脱出されるとは思いませんでした」
エスカランテ様が驚きながらも出迎えてくれた。
「私のことはどうぞオフェリアと呼んでちょうだい。今まで苦労をかけて悪かったわね、エスカランテ」
「とんでもございません。元気なお姿を見れて本当によかった」
「エスカランテ、母上は縛りの魔法が掛けられている。ガランが解呪する為の場を借りたいんだ」
「なんですって?!あの糞野郎……さっさと死ねばいい!」
わぉ、宰相閣下が呪詛を吐いていらっしゃる。
皆さんの国王への憎悪が大変なことになってるわ。ここまで恨まれる人もそういないでしょう。それ程の悪人ということだけど。
……やはり弑するつもりなのだろうか。
医療に携わる者としては殺人を許すことは難しい。でもこれ程の罪を犯した人間を生かしておくのは……
ううん、これはすべてが終わってからでいい。どちらにしても私に決定権などないのだから。
「この部屋の隣が仮眠室として使っている部屋です。この執務室からしか入ることができないので、そちらを使ってください」
「ありがとう、助かる」
「アルフォンソ様、私はバレリアノに戻ります。魔法書を届けなくてはいけないわ!」
オフェリア様の魔法書があれば治癒できるはずだもの。急いで戻らないと大変なことになってしまう。
「ルシア嬢、その治療はあなた以外の人では無理なのでしょうか?今、あなただけをバレリアノに帰すのは危険ですよ」
「……エンリケ様にお任せできれば可能かと。兄も力を貸してくれることになっています」
「では伝達鳥を飛ばしましょう。我が家の鳥は緊急事態用の魔法が掛けられているので、馬を走らせるよりよっぽど早くに着きますよ。
リカルド達辺境貴族にもこの事態を知らせましょう。
王妃様が脱出した今、反逆の意志を隠す必要はありません。辺境騎士団の出番ですよ」
戦が始まってしまう?
命を懸けた戦いが始まるのかと思うと躊躇してしまう。本当にこのまま進めていいの?私は後悔しないだろうか……
「ルシア、怖い?」
「……はい。命が失われるかと思うと……怖いです。戦うことになるのでしょうか」
「スピード勝負かな。国王が気付く前にことを進めたい。辺境騎士団は強いよ。お飾りの近衛兵では勝てないだろうね。
騎士団を呼ぶのは戦う為では無く、戦欲を奪う為だ。
国王はクローンさえ成功すればすべてが上手くいくと思っている。そんなはずはないのにね。油断している今がチャンスだ。
皆ね、薄々気が付いているはずなんだ。この国がおかしいことを。だから命懸けの忠誠心なんて持っていないだろう。
たぶん、リカルドはもう動いていると思うよ。あいつは戦局を見誤ったりしない。優秀な男だから信じて」
相変わらず辺境&リカルド様が大好きなんだから。でも、そうね。戦に関しては皆を信じるしかない。
どうか、誰の命も奪われることがありませんように──
「あ」
「どうした?」
「いえ、リカルド様に会えたら謝罪しないといけないなと……」
「謝罪?」
「はい。先程オフェリア様に、その、ラファの話を勝手にしてしまいましたので」
いくらオフェリア様に分かってほしかったとはいえ、病気の内容を伝えるべきではなかったわ。
ご自分の罪を知ってほしかった。でもこれは私の勝手な考えだ。
「あぁ、リカルドは本当に君を信頼しているのだと思ったよ。だから君が必要だと思って人に話したのならアイツは絶対に怒らない。ラファの為を思って伝えたのだろう?」
「……でも」
「では、すべてが終わったら一緒に謝ろう。一人より二人で叱られたほうが怒りが分散されるよ、きっと」
なんだそのイタズラが見つかった時の子供みたいな理論は。
「分かりました。じゃあ一緒に叱られて下さいね。ゲンコツもらっても知りませんよ?」
「リカルドが?」
「うちの兄は本当にやりますからね。めちゃめちゃ痛いんですよ!」
「ミゲルはすごいな。リカルドなら私にしかやらないと思うよ。女性に手を上げるわけがない」
「やった!身代わりよろしくお願いしますね」
「いや、アイツのゲンコツは回避しないと。一緒に作戦を練ろう」
戦を怖がる私の為にふざけてくれているのかな。
リカルド様が怒ってゲンコツしようとして、私達が慌てて謝りながらも逃げちゃったりして。
そんなくだらない、楽しい未来が早く来るといい。
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