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「まさか初日からあのような問題を起こすとは思いませんでした。協会での研修は先方から断られましたよ。
あなたの今後の選択肢は3つです。
1つ、ウルタードに戻る。
2つ、クルス卿の同伴者として暮らす。
3つ、辺境伯の元で医療魔法士として働く。
以上です。さあ、どうなさいますか?」
すごい3択が来たわ。少しやり過ぎたみたい。
「クルス卿と話をさせて下さい」
「彼の同伴者になるのですか?」
「話がしたいと言っているのです」
「今、王宮は婚礼の準備に追われています。このような些事で警備体制を崩すわけにはいきません」
本当に腹が立つわ。どうしてこの男に決定権があるのよ。私はエルディア人ではないのに!
どうせ、初めにこちらの規定に従うと約束しましたよね?とか嫌味っぽく言うのよ。こんな扱いだと分かっていたら署名なんてしなかった。
「ではあなたに質問します。なぜ医療魔法士として働くのが辺境になるのですか?」
「かの地は今グラセスとの問題で医療魔法士を必要としています。男女問わず受け入れているのは我が国ではバレリアノだけですよ」
グラセスは本当に攻めてくるの?
戦地になるかもしれない場所。でも、もし戦になれば医療魔法士は絶対に必要だわ。
「何人くらい人員を送る予定なのですか?」
「今は婚礼を控えております。それらの決定は無事挙式が終わってからになります」
そんな!そんなものを相手が待つわけがない。エルディアはウルタードとのこの結婚で力を示したいのかもしれないけど、どうなるかは分からないわ。
どうしよう。どうしたらいい?セシリオに会いたい。でも……これからも困る度に彼を頼るの?私の人生を彼に決めてもらうの?
「……分かりました。バレリアノで働きます。馬車をお借りすることはできますか?」
あ、驚いてる。よし、この情けない顔を見たら少し気分が落ち着いたわ。
「……そうですか。では、任命書と馬車の準備をしておきます。1時間後には出発できるように致しましょう。バレリアノには鳥を飛ばしておきます。ご安心を」
前言撤回!1時間って!絶対に私をセシリオに会わせないつもりね。なんなのこの男は。セシリオのファンなの!?
「ごめんなさい、今頃ですがお名前をお聞きしても?」
「……カハールと申します」
「そう、カハール。ずいぶんお疲れのようね」
「いえ、そのようなことは」
「まあ、隠さなくても大丈夫よ。だってほら、髪の毛が抜けてるわ」
彼の肩をポンッと払ってニッコリ。
「ストレスはダメよ?あ、また抜けたわ」
「あ、あなたまさか!」
何も答えずクスッと微笑む。
「お大事にね」
ふん、何もしてないわよ。でも不安でしょう?しばらくは枕に付いた抜け毛の本数でも数えていればいいわ。
「ボロッ」
カハールめ。馬車のランクを下げたわね。髪への魔法は掛けていないのに!
でもこれくらいの方が襲われなくてすむかも。
仕方なく回復魔法を掛けていく。
辺境ではくだらない差別などありませんように。そう祈りながら。
「着いた……」
体はもうボロボロだ。ウルタードからエルディアまで移動し、到着した日の夕方には辺境に旅立ったのだ。一体何日馬車に揺られたの……
いくら治癒魔法を掛けても疲労が続けば限界を迎える。
もう1日たりとも馬車には乗りたくない。よろよろと馬車から降りようとすると、スッと手を出された。
誰?そう思いつつも疲労感が勝り、思わずその手に掴まる。
「ありがとうございます。助かりました」
「いや、医療魔法士と聞いていたが、あなたの方が治療が必要なのでは?」
だったら同じくらい馬車に揺られ続けてみなさいよ。ちょっとカチンときて声の主を見る。
あら、ずいぶん男前。立派な体躯に精悍な顔立ち。黒髪に金眼。もしかして──
「バレリアノ辺境伯閣下でしょうか。わざわざお出迎え下さり感謝申し上げます。私はウルタード国医療魔法士のルシア・オルティスと申します」
「本当にウルタードから来たのか。それは疲れただろう。からかって悪かったな。だがなぜあなたがここに?」
「エルディアでは女性の医療魔法士はいないそうですね。こちら以外では働く場がないと言われました」
「協会には?あちらならば受け入れてくれたのでは?」
「……少々手違いにより揉めてしまいまして。お断りされました」
そっと目をそらす。私は悪くないもん。
「分かりました。その楽しそうな話は後で聞くとしよう。食事と入浴と睡眠。どれがいい?」
「お言葉に甘えて全部お願いします」
嬉しすぎる。辺境伯が普通の人でよかった!
あ、そうだ。
「あの!また王宮に戻りますよね。この手紙をウルタードの人に渡してほしいのですがお願いできますか?」
慌てて馬車の馭者に声をかける。本当はセシリオに渡して欲しいがきっと無理だろう。誰でもいい。ウルタードの人に渡してくれたらきっとセシリオに伝えてくれるはず。
セシリオごめんね、こんなことになって。
あなたは今どうしているだろう。
あなたの今後の選択肢は3つです。
1つ、ウルタードに戻る。
2つ、クルス卿の同伴者として暮らす。
3つ、辺境伯の元で医療魔法士として働く。
以上です。さあ、どうなさいますか?」
すごい3択が来たわ。少しやり過ぎたみたい。
「クルス卿と話をさせて下さい」
「彼の同伴者になるのですか?」
「話がしたいと言っているのです」
「今、王宮は婚礼の準備に追われています。このような些事で警備体制を崩すわけにはいきません」
本当に腹が立つわ。どうしてこの男に決定権があるのよ。私はエルディア人ではないのに!
どうせ、初めにこちらの規定に従うと約束しましたよね?とか嫌味っぽく言うのよ。こんな扱いだと分かっていたら署名なんてしなかった。
「ではあなたに質問します。なぜ医療魔法士として働くのが辺境になるのですか?」
「かの地は今グラセスとの問題で医療魔法士を必要としています。男女問わず受け入れているのは我が国ではバレリアノだけですよ」
グラセスは本当に攻めてくるの?
戦地になるかもしれない場所。でも、もし戦になれば医療魔法士は絶対に必要だわ。
「何人くらい人員を送る予定なのですか?」
「今は婚礼を控えております。それらの決定は無事挙式が終わってからになります」
そんな!そんなものを相手が待つわけがない。エルディアはウルタードとのこの結婚で力を示したいのかもしれないけど、どうなるかは分からないわ。
どうしよう。どうしたらいい?セシリオに会いたい。でも……これからも困る度に彼を頼るの?私の人生を彼に決めてもらうの?
「……分かりました。バレリアノで働きます。馬車をお借りすることはできますか?」
あ、驚いてる。よし、この情けない顔を見たら少し気分が落ち着いたわ。
「……そうですか。では、任命書と馬車の準備をしておきます。1時間後には出発できるように致しましょう。バレリアノには鳥を飛ばしておきます。ご安心を」
前言撤回!1時間って!絶対に私をセシリオに会わせないつもりね。なんなのこの男は。セシリオのファンなの!?
「ごめんなさい、今頃ですがお名前をお聞きしても?」
「……カハールと申します」
「そう、カハール。ずいぶんお疲れのようね」
「いえ、そのようなことは」
「まあ、隠さなくても大丈夫よ。だってほら、髪の毛が抜けてるわ」
彼の肩をポンッと払ってニッコリ。
「ストレスはダメよ?あ、また抜けたわ」
「あ、あなたまさか!」
何も答えずクスッと微笑む。
「お大事にね」
ふん、何もしてないわよ。でも不安でしょう?しばらくは枕に付いた抜け毛の本数でも数えていればいいわ。
「ボロッ」
カハールめ。馬車のランクを下げたわね。髪への魔法は掛けていないのに!
でもこれくらいの方が襲われなくてすむかも。
仕方なく回復魔法を掛けていく。
辺境ではくだらない差別などありませんように。そう祈りながら。
「着いた……」
体はもうボロボロだ。ウルタードからエルディアまで移動し、到着した日の夕方には辺境に旅立ったのだ。一体何日馬車に揺られたの……
いくら治癒魔法を掛けても疲労が続けば限界を迎える。
もう1日たりとも馬車には乗りたくない。よろよろと馬車から降りようとすると、スッと手を出された。
誰?そう思いつつも疲労感が勝り、思わずその手に掴まる。
「ありがとうございます。助かりました」
「いや、医療魔法士と聞いていたが、あなたの方が治療が必要なのでは?」
だったら同じくらい馬車に揺られ続けてみなさいよ。ちょっとカチンときて声の主を見る。
あら、ずいぶん男前。立派な体躯に精悍な顔立ち。黒髪に金眼。もしかして──
「バレリアノ辺境伯閣下でしょうか。わざわざお出迎え下さり感謝申し上げます。私はウルタード国医療魔法士のルシア・オルティスと申します」
「本当にウルタードから来たのか。それは疲れただろう。からかって悪かったな。だがなぜあなたがここに?」
「エルディアでは女性の医療魔法士はいないそうですね。こちら以外では働く場がないと言われました」
「協会には?あちらならば受け入れてくれたのでは?」
「……少々手違いにより揉めてしまいまして。お断りされました」
そっと目をそらす。私は悪くないもん。
「分かりました。その楽しそうな話は後で聞くとしよう。食事と入浴と睡眠。どれがいい?」
「お言葉に甘えて全部お願いします」
嬉しすぎる。辺境伯が普通の人でよかった!
あ、そうだ。
「あの!また王宮に戻りますよね。この手紙をウルタードの人に渡してほしいのですがお願いできますか?」
慌てて馬車の馭者に声をかける。本当はセシリオに渡して欲しいがきっと無理だろう。誰でもいい。ウルタードの人に渡してくれたらきっとセシリオに伝えてくれるはず。
セシリオごめんね、こんなことになって。
あなたは今どうしているだろう。
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