私はあなたの何番目ですか?

ましろ

文字の大きさ
上 下
4 / 88

4.

しおりを挟む
「まさか初日からあのような問題を起こすとは思いませんでした。協会での研修は先方から断られましたよ。
あなたの今後の選択肢は3つです。
1つ、ウルタードに戻る。
2つ、クルス卿の同伴者として暮らす。
3つ、辺境伯の元で医療魔法士として働く。
以上です。さあ、どうなさいますか?」


すごい3択が来たわ。少しやり過ぎたみたい。


「クルス卿と話をさせて下さい」

「彼の同伴者になるのですか?」

「話がしたいと言っているのです」

「今、王宮は婚礼の準備に追われています。このような些事で警備体制を崩すわけにはいきません」


本当に腹が立つわ。どうしてこの男に決定権があるのよ。私はエルディア人ではないのに!
どうせ、初めにこちらの規定に従うと約束しましたよね?とか嫌味っぽく言うのよ。こんな扱いだと分かっていたら署名なんてしなかった。


「ではあなたに質問します。なぜ医療魔法士として働くのが辺境になるのですか?」

「かの地は今グラセスとの問題で医療魔法士を必要としています。男女問わず受け入れているのは我が国ではバレリアノだけですよ」


グラセスは本当に攻めてくるの?
戦地になるかもしれない場所。でも、もし戦になれば医療魔法士は絶対に必要だわ。


「何人くらい人員を送る予定なのですか?」

「今は婚礼を控えております。それらの決定は無事挙式が終わってからになります」


そんな!そんなものを相手が待つわけがない。エルディアはウルタードとのこの結婚で力を示したいのかもしれないけど、どうなるかは分からないわ。
どうしよう。どうしたらいい?セシリオに会いたい。でも……これからも困る度に彼を頼るの?私の人生を彼に決めてもらうの?


「……分かりました。バレリアノで働きます。馬車をお借りすることはできますか?」


あ、驚いてる。よし、この情けない顔を見たら少し気分が落ち着いたわ。


「……そうですか。では、任命書と馬車の準備をしておきます。1時間後には出発できるように致しましょう。バレリアノには鳥を飛ばしておきます。ご安心を」


前言撤回!1時間って!絶対に私をセシリオに会わせないつもりね。なんなのこの男は。セシリオのファンなの!?


「ごめんなさい、今頃ですがお名前をお聞きしても?」

「……カハールと申します」

「そう、カハール。ずいぶんお疲れのようね」

「いえ、そのようなことは」

「まあ、隠さなくても大丈夫よ。だってほら、髪の毛が抜けてるわ」


彼の肩をポンッと払ってニッコリ。


「ストレスはダメよ?あ、また抜けたわ」

「あ、あなたまさか!」


何も答えずクスッと微笑む。


「お大事にね」


ふん、何もしてないわよ。でも不安でしょう?しばらくは枕に付いた抜け毛の本数でも数えていればいいわ。




「ボロッ」


カハールめ。馬車のランクを下げたわね。髪への魔法は掛けていないのに!
でもこれくらいの方が襲われなくてすむかも。
仕方なく回復魔法を掛けていく。
辺境ではくだらない差別などありませんように。そう祈りながら。









「着いた……」


体はもうボロボロだ。ウルタードからエルディアまで移動し、到着した日の夕方には辺境に旅立ったのだ。一体何日馬車に揺られたの……
いくら治癒魔法を掛けても疲労が続けば限界を迎える。
もう1日たりとも馬車には乗りたくない。よろよろと馬車から降りようとすると、スッと手を出された。
誰?そう思いつつも疲労感が勝り、思わずその手に掴まる。


「ありがとうございます。助かりました」

「いや、医療魔法士と聞いていたが、あなたの方が治療が必要なのでは?」


だったら同じくらい馬車に揺られ続けてみなさいよ。ちょっとカチンときて声の主を見る。
あら、ずいぶん男前。立派な体躯に精悍な顔立ち。黒髪に金眼。もしかして──


「バレリアノ辺境伯閣下でしょうか。わざわざお出迎え下さり感謝申し上げます。私はウルタード国医療魔法士のルシア・オルティスと申します」

「本当にウルタードから来たのか。それは疲れただろう。からかって悪かったな。だがなぜあなたがここに?」

「エルディアでは女性の医療魔法士はいないそうですね。こちら以外では働く場がないと言われました」

「協会には?あちらならば受け入れてくれたのでは?」

「……少々手違いにより揉めてしまいまして。お断りされました」


そっと目をそらす。私は悪くないもん。


「分かりました。その楽しそうな話は後で聞くとしよう。食事と入浴と睡眠。どれがいい?」

「お言葉に甘えて全部お願いします」


嬉しすぎる。辺境伯が普通の人でよかった!
あ、そうだ。


「あの!また王宮に戻りますよね。この手紙をウルタードの人に渡してほしいのですがお願いできますか?」

慌てて馬車の馭者に声をかける。本当はセシリオに渡して欲しいがきっと無理だろう。誰でもいい。ウルタードの人に渡してくれたらきっとセシリオに伝えてくれるはず。

セシリオごめんね、こんなことになって。
あなたは今どうしているだろう。



しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

処理中です...