上 下
63 / 67

62.家族の特権

しおりを挟む
「ミッチェ母さま?」

小首を傾げて頬を染め、嬉しそうにそう呼ばれると何ともむず痒いものがあります。

「どうされました?コニー様」
「ブブーッ!まちがいよっ、もう一回!」

間違い?何が?

「えっ…と、コニー様」
「ち~が~う~の~っ!」

コニー様がぷりぷりと怒っています。怒り方すら可愛いけれど、違うって……

「ミッチェ母様、もう本当のお母様なのだから、私達を様付けで呼ぶのはおかしいでしょう?」
「えっ!?」

そういうもの?でも、確かにそうね?

「……フェミィ、コニー」
「「なぁに?母さま!」」

やだ、満面の笑顔が可愛過ぎます!

「慣れるまで時間が掛かりそうですわ」
「ダメよ?まちがったら」
「そうね。間違ったら罰があります!」
「まあ、怖いですね?どんな罰なのでしょう」
「5回。一日5回間違えたら、その日の夜に罰がくだるでしょう!」

何故かしら。フェミィ様が言うと少し怖いです。

「……努力致します」
「敬語も駄目よ」
「旦那様にも敬語を使っていますよ?」
「ブブーッ、だんな様ちがうよ、グレンさまって呼ぶのきめたでしょ?」
「ああっ!」

これは、かなり大変なのでは!?

そして一時間後。

「ミッチェ母さま、ダメダメだね?」
「一日どころか1時間ももたないなんて」
「面目ございません」

私はそこそこ器用な方だと思っていたのに、ただ、呼び方を変えるというだけのことが、こんなにも難しいだなんて!

「…一週間…いえ、せめて3日程いただけると幸いなのですが」
「敬語も駄目よね?」
「え~ん、フェミィさま~っ」
「ミッチェ母さま、だ~めだめ!」

今日のお二人は天使では無く小悪魔っ!可愛らしいけれども小悪魔でいらっしゃいますっ。

「こら、二人とも。ミッシェルを虐めては駄目だろう」
「旦那様!」

まさかの助け手が!

「「グレンさま」」
「あ~っ……」

確かに私はダメダメかもしれません……

「ユーフェミア、そんなに慌てることはないだろう?」

そうです、もっと言ってください!

「フェミィって呼んで?お父様」
「えっ」
「ぼくも!コニーってよんでほしいな」
「っ、……私まで……その、いいのか?」

あら?

「もちろん!家族の特権です」
「とっけん、とっけん!」

旦那様?何ですか、その締りの無いお顔は。

「……確かに嬉しいな。お前達が早くに呼ばれたい気持ちも…、うん、分かる」

チョロい……やっぱり旦那様はチョロいわ!
心を開くと甘々のチョロ子さんでいらっしゃるっ!!
熊のくせに。とってもビッグで強面の熊さんのくせに!

「フッ」

え……旦那様が声を出して笑った?

「……いや、すまない」

そう言いつつも、顔をそらしてまだ笑いを収められないのを誤魔化しています。

「父さま、なにがたのしいの?」
「……ミッチェ母様じゃないかしら」
「えっ、私ですか?」

……どの辺りがそんなにも楽しかったと?

「すまない。その、いつも冷静で穏やかで……本当に10代なのかと疑わしいくらいの君が、何だかとっても年相応に見えて……何というか、その、……微笑ましかったんだ」

何故そんなにもしどろもどろ?
というか、微笑ましいって……恥ずかしいっ。

「グレン様、女性の年齢のことを話題にするのは良くありませんよ」
「ああ、すまない。気を付けよう」

む、まだ笑いが残ってますよ。

「ミッチェ母様。罰として、今日の夜は皆でお泊り会ね!」
「お泊り会ですか?いいです…?……え、みんな……とは?」
「もちろん家族四人のことよ?」

フェミィ様!?どうしてそんなにも爆速なのですか?私はまったくついていけません!

「そんなはしたないこと……」
「家族で寝るのってはしたないの?」
「うっ」

そんなにもキラキラした目で見ないで下さい!
どうしましょう。でも、子供達も一緒なら大丈夫かしら。

「……分かりました」
「ミッシェル!?」
「グレン様、ミッチェですよ」

もういいです。習うより慣れろといいますもの。呼び名も旦那様の存在も、ようするに慣れですわ。
グレン様は黒くて大きいただの熊さん。ちょっとお話もお仕事も出来る優れ者。中身は少しネガティブなお子様なだけ。
よし、いける。いけるはずです!



♢♢♢


たぶん、私は判断を間違えましたね。

だん……ではなく、グレン様の私室では無く、ベッドが大きいからと何故か夫婦の寝室に通されました。
ポーラ?楽しんでいるわね?
確かにベッドは大きいですよ。ああ、もちろんベッドも内装もすべて変えてあるそうです。お気遣いありがとう。でも、そうじゃないのよ。

「ベッド、おっきい!」
「綺麗なお部屋ね。初めて入るわ」

だって夫婦の……いえ。今日からここは家族の部屋です。今、私が決めました。

「ここは家族のお部屋です」
「そうなの?」
「ええ。だから、お泊りの時に使うことにしましょう」
「やったーっ!」

もうそれでいいです。だって夫婦で使うことはないもの。それならば、たまには利用出来るようにした方がいいでしょう。
チラリとだ……じゃくてグレン様を見たけど無反応です。ということは異議無しということですのね。

ベッドは左から、グレン様、コニー、フェミィ、そして私です。

「……コニー。お前が端の方がいいかもしれない」
「そうね。貴方の隣は嫌よ」
「えーっ!どして?どーして~っ!!」
「コニーキックが最強だからだ。私なら何とかなるが、フェミィやミッチェは可哀想だろう」
「ぼく、父さまや姉さまはやっつけないよ?」

なるほど。コニーは寝相が悪いのね?
仕方なく、グレン様とコニーが場所を変わりました。

それからは、お話をしたり、本を読んだり。最後には私が子守唄を歌っているうちに、お二人は眠ってしまいました。

「二人とも寝ちゃいましたね。もう、灯りを消しますか?」
「いや、少し話をしてもいいだろうか」
「いいですよ。あちらで座って話しますか?」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...