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14.王女と勇者

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「ねぇ、ミッチェは?」
「気持ちは分かるけど、先に言うことがあるわよね?」
「姉さま、おはようございます。それでミッチェは?」
「風邪をひいたのですって」
「おねつあるの?おみまい行こうよ」

コニーが心配そう。もちろん私だって心配よ。

だって昨日はメイド長に呼ばれてから戻って来てくれなかった。今までは、ちゃんとお休みの挨拶までしてくれていたのに。

急に不安になる。まさか、お母様みたいにどこかへ行ってしまったとか?
ううん、そんなはずない。だってミッチェは私達のことが大好きだもの。黙っていなくなったりしない。
だったら何?……閉じ込められてるとか?

「姉さま、いこ?ね?」

風邪が伝染るといけないから、部屋には行かないようにって言われたわ。ということは、ミッチェは絶対にお部屋にいる。

「そうね、行きましょう。でも、内緒で行くのよ。行っては駄目だと言われたから」
「……だっておかしい。ミッチェならおかぜでもそんなことしないもん」

やっぱりコニーも気付いてる。ミッチェに何かあったのかもしれないって。

「作戦会議よ。どうやったら見つからずに行けるかしら」

今はお部屋の中でこしょこしょとナイショ話ししてるけど、お部屋から出たら絶対に誰かが付いて来そうなのよね。

「かくれんぼ!」
「あ、いいかも。最初は警戒されそうだから、5回目に行きましょう。分かった?」
「うん!」
「じゃあ、ちゃんとごはん食べて、お勉強して、午後のお遊びの時間まで我慢よ?その方が油断するから」
「わかった!おべんきょがんばるね」

それからは、コニーと一緒にご飯を残さず食べて、勉強も真面目にやったわ。ミッチェがいないけど、授業のお話しもメイドのベッキーに教えて上げた。

「ねぇ、かくれんぼしましょう?」
「私達もですか?」
「だって、コニーと二人きりじゃつまらないもの」

少し困っているメイドや侍従も巻き込んでかくれんぼをした。やっぱり凄く警戒しているのが分かる。私達二人をずっと見ているもの。
でも、数をこなすうちにただの遊びだと思ったみたい。

(コニー、次よ)
(うん。もしね、ぼくがつかまっても姉さまだけいってね。ぼくにはコレがあるから)
(わかった、気を付けてね)

「次はベンが探す番よ!」
「任せてください!すぐに見つけちゃいますよ」
「さあ、みんな隠れましょ!」

隠れる場所を探すフリをしながら階段に近付く。

「行こう!」

急いで階段を駆け上がる。ミッチェのお部屋は2階。階段を登ったら右に曲がって、

「お嬢様!?ミッシェル様のお見舞いは駄目だと言ったじゃないですか!」

やだ!あと少しなのに!

「でたな、悪者め!勇者コニーがあいてだ!」

大切な木の枝の剣で私を守ってくれるコニーは本当に勇者だわ!

「ありがとう、コニー!」
「えっ、ちょっと、痛い痛い!本気で痛いですって!」
「とじこめられたおひめさまをたすけるんだ!」

ノックしないけどごめんね、ミッチェ!

バンッ!

勢い良くドアを開けた。
……どうしてお父様がいるのよ。

「おい、この部屋には来るなと伝えたはずだ!」

ベッドで眠っているミッチェが見えた。

父様なんか無視して近付くと、眠っているミッチェの顔にはガーゼがあてられて、左手はグルグルと包帯が巻かれている。

「……どうしてミッチェが怪我しているの」
「いいから早く部屋から出なさい」

なぜこの人がミッチェのことで命令するの?
ミッチェは私達の一等大切な人なのに!

「グレン・ミューア伯爵!誰がミッチェに怪我を負わせたのか答えなさいっ!!」
「っな!おまえ、父親に向かってっ」
「姉さま!」

コニーが慌てて部屋に入って来た。私の怒鳴り声が聞こえたのだろう。でも、コニーに視線を向けることが出来ない。だって、

「伯爵、やったのは貴方かっ!」
「!!」

やっぱり!ミッチェを傷付けて私達に隠して!

「勇者コニー!魔王を討てっ!!」
「はい!」

コニーもミッチェの怪我に気が付いたのだろう。泣きながら魔王に攻撃を仕掛けた。

「はっ!?ちょ、痛っ!」

たとえ4歳の力でも、木の枝でスネを叩かれるのは痛いでしょ?
これもミッチェが教えてくれたことよ。もしも悪い人に襲われたらスネを狙ってダッシュで逃げろって!

「コニー、避けてっ!」

ぱっちーんっ!!

コニーを止めようと屈んでくれてありがとう。おかげで魔王にビンタが出来たわ。

「出て行きなさい」
「………は?」
「私はミッチェを傷付けた貴方を許さないわ、伯爵。今すぐこの部屋から出て行きなさいっ!」
「いや、伯爵って」
「でてけ、でてけっ、でていけ~っ!!」

ペシパシとコニーが木の枝で叩きまくる。勇者コニーはボロ泣きだ。

「………何かしら、この状況は」

「「ミッチェッ!!」」

よかった!目が覚めた!!

「ミッチェ、安心して。伯爵は今すぐ追い出すから」
「え、伯爵って」
「何時までレディーの寝室にいるおつもりですか、伯爵。早く出て行きなさい。貴方の入室をミッチェは許していないはずよ!」

もう。呆然として何なの?

「あっちよっ、はやくおそといってっ!」

コニーが泣きながらぐいぐいと部屋の外に押し出そうと頑張っている。

「あの、旦那様。とりあえずは部屋から出て下さいませ」
「……分かった」

さすがはミッチェね。一言で追い出すことに成功したわ。

「……ミッチェ……ごめんなさい」
「ミッチェいたい?いたいよね?ごめんねぇ!」

そこからは二人で号泣した。私達の父親がミッチェに怪我をさせただなんて許せなかった。

「王女フェミィに勇者コニー。私を救いに来てくれてありがとう」

……そんなに酷い怪我なのにどうして笑えるの?

「大失敗ですわ。お薬を飲んだせいで眠気に勝てなくて。お二人の勇姿を見損ねました」

怒っていないの?恨んでいないの?

「ミッチェ、ぼくがんばったの」
「はい!ちゃんと魔王を倒すところは見ましたよ。とても格好良かったです」
「……ミッチェ。私達を嫌いにならないで」
「何故です?眠っていても聞こえてきました。フェミィ様の勇ましい口上。とても素敵でドキドキしてしまいましたわ。こんなにもお二人に大切に守られて、嫌いになるはずありません。
私を助けに来てくれてありがとうございます。大好きですよ、フェミィ様、コニー様!」

違うわ。いつも私達を救ってくれるのは貴方よ、ミッチェ。でも、これからは本当に守るから。

お願いだからどこにもいかないで──




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