38 / 39
第38話 最終回
しおりを挟む時は流れて……ディッテニィダンジョン転移事件から約半年後。
王国は新たな女王の誕生発表に沸いていた。
女王に就いてから初めて国民の前に、レリアが姿を見せることなっておりに国民はお祭り騒ぎになっていた。
そのお披露目のための準備をしているレリアだが、どうも準備された衣装に違和感を感じていた。
「……この衣装……これで本当に良いのか?」
女王らしい威厳に満ちた服……と思っていたが、何処か違う。
女王戴冠のお披露目ならば、もう少し装飾に凝ったものだと思っていたのだが、白基調の、宝石など控えめな服装だった。
疑問を持ちつつもレリアは衣装係に請われるままに用意された手袋をしてヘアアクセサリを身につけ、全体を見て崩れていないか等を確認、細かく整えてもらう。
化粧を施され、鏡で自分の姿を確認したレリアは、その仕上がりに不満はないものの、方向性の違いに戸惑っていた。
「威厳に満ちた、というよりも可愛らしい仕上がりになっているのは……これで本当に良いのだろうか」
彼女の記憶の中の先代女王は立派で威厳に満ちていた。
数多くの武官、文官を従えて立派に勤めを果たしていた。
それに比べて、あきらかに鏡の中の自分は、そういう厳しさよりも可愛らしさが強調されていた。
「レリア女王陛下、準備が出来たようで何よりです」
ずっと控えていたのだろうか、準備が終わったタイミングで老将軍が入ってくる。
「ルエル将軍か……」
代理として、そして後見人として世話になっているルエル将軍を前にレリアは笑顔を見せる。
「……ふむ」
レリアの振る舞いに、女王になるという緊張のためか、すこしぎこちないという印象をルエルは感じる。それも仕方に事ではあるので特に指摘したりしない。
「今日はよき日でありますな。女王としてのお披露目、そして同時に陛下の王配のお披露目も出来るのですから」
「……」
レリアの身体がびくりと震える。覚悟していたことだが、王配に関して意見を挟むことも叶わず、決定されていたようだ。
とはいえ、意見を挟む権利があったとしても彼の名前を出すことは出来ない。何より彼がそれを望む訳もないのだ。
「ご不満とあらば、拒否することも出来ますぞ。そのような計らいも出来ますが……ですが王配候補たる彼……私の養子なのですが、彼はなかなか有望かつ有能でかならずや姫様も気に入られると思うのですが……」
「……ルエル、気持ちはありがたいが、私は……その、女王としての役割で手一杯で今はそのようなことは考えもおよばなく……」
拒否も構わないとルエルの意外な提案に、レリアは助かったとばかりに断りを入れる。
「お姉様!」
「サーラ……どうしたというのだ、その格好は……」
ルエルとレリアの間に割り込んできたレリアの妹、サーラ。彼女の衣装は、レリアと同じような印象の白基調の衣裳だった。
彼女の衣装を見て、自分が身につけているものが花嫁衣裳なのだな、とレリアは気付く。
つまり、ルエルの提案は、断られる想定ではなく、了承することが前提ということだ。だから自分も同じような方向で化粧や衣装を選びだされていたのか、と心の中で嘆く。
英雄王の剣を持ち帰ったとて、所詮は小娘。貴族間のバランサーとして彼らの思惑と共にこの身は自由にはならない、ということなのだろう。
「お姉様が、ルエル様のご提案を断るというのなら、わたくしがルエル様の養子……セイ様のお嫁さんになりますの。もしお姉様がルエル様のご提案を受け入れるというのならわたくしはセイ様の二番目のお嫁さんになりますの」
「……は? サーラ、今何と……確か、セイと……」
目を丸くして、茫然自失となるレリア。
「それにサーラもセイのお嫁……になる?」
衝撃の言葉に処理が追いつかない。一体何処でそんなことになっていたのか。
彼、セイと別れてから、レリアは忙しく動き回っていた。そのため、妹姫と頻繁に会うこともままならぬまま今日という日を迎えたのだ。
「そうですの。セイ様はサーラの王子様ですの。アルセルの街で悪い人たちに誘拐されそうになったところを助けていただきまして……わたくしを守ってくださって、御礼も十分に出来なかったというのにいいよいいよと許してくださり、そのルエル様のお屋敷で偶然再会いたしまして、これは運命に違いないとわたくし感じました。何よりセイ様とお話しましてわたくしの胸がこう、凄く熱くなるのです……。ですので、この素晴らしいお姉様の女王戴冠お披露目の日に、わたくしもセイ様と結ばれたく思いまして……」
はしたないと思いつつ少し早口でまくし立てるサーラ。その顔は完全に恋する乙女の表情で、セイのことを想っているのが見て理解できるくらいだった。
「待て、待て、待て……色々知らなかったことを大量に言われて私の心も頭も激しく混乱しているのだが……将軍、どういうことだ!」
妹姫の見せる乙女の表情に戸惑い、彼女の口にする告白に混乱し、レリアが叫ぶ。
ルエル将軍は、少しだけ困った表情で笑う。
「どういうことも、そのままでございます。レリア様の王配としてわが息子セイを推しますが、望まぬのなら致し方ないかと。ただ、妹姫様ともご縁があったようで、それならばとサーラ姫様がおっしゃるものですから、はい」
「それは解っている、解っているが、そうでは……そうではないのだ!」
「レリア、そんなに叫ぶとせっかく綺麗に施した化粧が崩れてしまうぞ。もっと落ち着いて」
穏やかな声が滑り込むように間に入ってくる。
「これが、落ち着いてられるか! ……セイ? お前、どうしてここに……」
半年振りに顔を合わせる。しっかりと礼装を着つつも将軍の横で困り顔の彼が立っていた。
もう会わないと思って別れたあの男が今目の前に居る、それだけで胸が熱くなり、涙が零れる。
「ほら、泣かないで、女王陛下。せっかくの化粧が崩れてしまいますよ」
「そんなことばかり気にして……お前という奴は……」
レリアの身体を包むように抱き締めるセイ。
「……君みたいないい女は絶対に離すべきではないって怒られてね、ライに。結ばれない言い訳を探すんじゃなくて、やってみないと、ってね」
ライの言葉も無茶な話ではあるのだが、セイが本気でレリアと結ばれたいと考えるなら、と協力をしてくれたのも彼だった。
高ランク冒険者としての伝手を使って、ルエル将軍と面会することが出来、こうして王配候補として今この場に立つことが出来たのだ。
「君が言っていただろうガルム古戦場で……いつか慰霊碑を建てたいと。だから色々と頼ってあの土地まで王国騎士団を進めて白の聖女さまにガルム古戦場で慰霊と浄化をしていただいたんだ。銀の鎧の騎士団……リビングアーマー達にも協力してもらって、安心して彼らも旅立っていったよ。だから、今すぐは無理だろうけど、いずれあの土地も再び王国の街として復興できると思う」
砦跡に残された遺品は今の武官派、文官派問わずの貴族家の家宝や貴重品が数多くあり、それを持ち帰った実績が彼の爵位授与と、王配として推される力となったのだ。
「まあ、その辺りはまた今度じっくりと話すとして……女王陛下……私の手を取ってはいただけないでしょうか」
「嫌でしたら遠慮なさらずに、お姉様。お姉様が駄目でしたら、わたくしがセイ様のお嫁さんになりますので大丈夫ですわ」
「……まったく、困った奴だ」
そういいながらセイの手を取る。
「それにしても将軍、何故もっと早く言ってくれなかったのだ」
「サプライズですわ、お姉様」
「……どうしても言われてな。それに俺も君の驚く顔が見たかったし」
「だ、そうです。わしは止めたのですがな……」
視線を逸らすルエル将軍。止めたのは止めたけれど、最終的にはこれは賛成して協力してるな、とレリアは思った。
何より、これだけ重要な情報を自分に届かないようにするなど容易なことではない。
「驚いてくれて何よりだよ、レリア女王陛下」
「……」
セイの顔を見て、レリアの胸が熱くなる。意地悪で、隠し事が多くて臆病で、でも自分の隣に立つ為に奔走してくれて、自分をこんなにも喜ばせて驚かせる男なんて彼以外居ない。
微笑むセイの頬に口付けをする。
「…………本当に、本当に……本当に……そういうところだぞ……ぐすん」
「あー、お姉様ずるいですの。わたくしもしますの」
そういって反対側の頬に口付けをするサーラ。
「本当に、酷い男だ。妹まで誑かして」
レリアはそういうものの、妹の幸せそうな表情を見るに、とりあえずはいいかと思う。後々面倒なことになるかもしれないが……今は彼が隣に居る幸せを享受しようと考える。
その日、新たな女王陛下の誕生と、王配たる男子のお披露目、そして妹姫とも王配たる男子が結婚するという発表に目出度いと民衆は喜ぶと共に混乱して戸惑うことになるのだった。
― 姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……これにて、おしまい ―
49
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる